紳也特急 254号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『「伝える」から「伝わる」へ』~

●『生徒の感想』
○『「正解依存症」が阻むリスクコミュニケーション』
●『戦時中と同じ!?!』
○『できていなかったことはすぐにはできない』
●『どこから、どこへ、どうやって』
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●生徒の感想
 久しぶりに中学3年生を対象に対面の講演をさせていただきました。最前列の生徒さんは私から2メートル以上離れていたため私はマスクなし。もちろん換気と空気の流れの創出はばっちり。生徒への質問をする時はマスクをした先生が生徒にマイクを向けてくださいました。「思春期講演会」という位置づけでしたが、HIV/AIDSだけではなく、新型コロナウイルスも盛り込んだところ、生徒さんの理解も深まったと思います。

 私はこの講演をきいて、ここまで本当のことをまっすぐに言って、教えてくれる人は今まで一度もないと思いました。

 今回の講演を聞いて、感染しないために何かをがむしゃらにするのではなくて、簡単なことを丁寧にやればいいと分かった。

 コロナウイルスのこともくわしく教えてもらいました。2m以上離れていればマスクをつけなくていいこと。水筒などを床においてはいけないことです。これらの新しく知ったことをいかしていけたらいいなと思います。

 講演を聞くまで、コロナは2m離れていてもうつると思っていました。ですが、人と人が向かい合わなくて、同じ方向に向いていればうつらないことを初めて知りました。

 志村さんの話も今はメッキリされませんが、ご家族の方々はけんさんの顔を一度も見ることなく、白骨化した状態でもどってきた。しかし、飛沫さえ防げれば顔を合わせることができたらしい。それを聞いて思ったことは、無知ということは恐ろしいなと、ただただ思いました。

 今、新型コロナウイルスの感染者を差別したり、過度に遠ざけたりすることが問題になっています。その話を聞いただけでは、私もきっとそれをする側になると思います。しかし、岩室先生は、しっかりとした知識から、マスクを外して講演をしました。どの社会問題にも言えることだと思いますが、私たちは知識、経験が少なすぎるから、人をそうやって差別したり、過度に隔離してしまうのだと思います。だからこそ私は「リアル」を知ること、考えること、大人になってもたくさんの人と関わりながら、していかなければならないと思いました。

 ビックリしたのが最後の感想でした。「差別」とか、「リアル」といった言葉は使っていないのですが、何かを感じてくれたようでうれしかったです。大人たちはよく「正しい知識」と言いますが、「正しい」には、「間違っていない」や「曖昧」も含まれています。さらに「伝わる」こともあれば「伝わらない」こともあります。多くの人は「伝える」ということを簡単に、自分目線で考えていますが、相手があることですので、「伝える」だけではなく「伝わる」という意識を持ちたいものです。そこで今月のテーマはずばり、『「伝える」から「伝わる」へ』としました

「伝える」から「伝わる」へ

○「正解依存症」が阻むリスクコミュニケーション
 今回、新型コロナウイルスのことでいろんな方と話をしていると、正解依存症に陥っている方が一定数いらっしゃることに気づかされます。岩室紳也が考える正解依存症とは以下のような状態です。

 自分なりの「正解」を見つけると、その「正解」を疑うことができないだけではなく、その「正解」を他の人にも押し付ける、自分なりの「正解」以外は受け付けない、考えられない病んだ状態。

 その一方で「リスクコミュニケーションが重要」という言葉が独り歩きしています。リスクコミュニケーションをわかりやすく解説していた階層図は、下段から「情報の伝達」→「意見の交換」→「相互の理解」→「責任の共有」→「信頼の構築」の順になっています。トップが「信頼の構築」ですが、正解依存症の人にその人の正解を押し付けられてもとても「信頼の構築」はおろか、「意見の交換」さえもできません。すなわち、正解依存症の人たちはリスクコミュニケーションが成立し得ない人たちということになります。

●戦時中と同じ!?!
 戦時中のこととこのコロナ禍の時代を経験値で比べることはできません。ただ、朝の連続テレビ小説「エール」でちょうど今、第2次世界大戦の真っただ中の日本を描いていて、そこに流れる重苦しい空気はまるで今の時代と同じだと感じています。
 戦時中、国が言っていたことを盲目的に信じた正解依存症の人たちは一切聞く耳を持たず、自分たちが信じた正解を周囲に押し付けていました。「どこか変?」と思ってもとても言える雰囲気ではなかったでしょう。今回のコロナ禍でのマスクがその典型で、今朝のテレビ番組でも「感染症の専門家」が「マスクが大事」と得意気に話し、「どのような場面でマスクが大事」ということは一切話していませんでした。

○できていなかったことはすぐにはできない
 閉塞感と言えば東日本大震災後、被災地では心がつらくなる人たちが増え、こころのケアチームが数多く支援に入ってくださいました。もちろん大変ありがたかったのですが、自ら「つらい」と言える人や、周囲が変調に気づいたり、スクリーニングでこころのケアチームにつながったりする人にとって大変ありがたい存在でした。しかし、こころがつらくなっていても、自分自身のこころの状況を上手く理解も処理もできず、突発的な行動に出ないとも限りません。そのような事態も想定し、陸前高田市ではハイリスク者対策に加え、「はまってけらいん、かだってけらいん運動」を推進してきました。気仙地域の言葉で、「はまって」は「集まって」、「か?だって」は「おしゃべりをする」という意味で、カールロジャーズの「人は話すことで癒される」を地域の中で実践し続け、「自殺を予防する」のではなく「気がつけば自殺が減っている」社会づくりを目指し続けています。
 このような思いになったのは、陸前高田市では震災前からHIV/AIDSのイベントを市役所と青年会議所が続ける中で、人と人がつながることの大切さを共有できていたからでした。逆に、このような土壌がなければ、早期発見、早期対応や相談しましょうといった通り一遍の発想しか生まれませんし受け入れられません。実際、竹内結子さんが亡くなられた後のニュースを見ても「官房長官は特定の事例には言及しなかったものの、新型コロナウイルスの影響下で悩みを抱えている人もいると述べ、自殺防止のためのホットラインや相談窓口などを利用するよう呼び掛けた」と繰り返し報道されています。官房長官は素人ですので致し方ないのですが、せめて、「この閉塞感でつらくなっているこころを癒すため、最大限の感染予防策を講じながら、リアルで、対面で、人と話す機会を増やし続けたいものです」という原稿を誰かに作っていただきたかったです。でも、できていなかったことはすぐにはできないのです。

●どこから、どこへ、どうやって
 性行為で感染するHIV/AIDSを伝えようとしたとき、「性感染症」という言葉はもちろんのこと、実は「セックス」という言葉でも伝わらないということを突き付けられていました。さらに言うと「コンドーム」も丁寧に、科学的に、わかりやすく伝えなければ予防方法になるということが伝わらなかったのです。今回の新型コロナ対策として、航空会社で、さらにはスーパーで手袋をして対応している人たちは「何のための手袋?」ということを考えないで「とにかく手袋」や「言われたから手袋」になっていないでしょうか。もっとびっくりは電車の中で床に荷物を置いている人のあまりにも多いことです。で、感染症の正確な情報が伝わるにはどうすればいいかを考え、試行錯誤し続けた結果たどり着いたのが「病原体(ウイルス)は、どこから、どこへ、どうやって」でした。
 「そんなの当たり前」と思った人も多いと思いますが、そもそもセックスの際にウイルスがどこにいるかの前に、「そもそもセックスって何?」という人もいれば、「射精って何?」という人もいます。新型コロナウイルスでも、「飛沫?」、「接触感染?」と聞いて頭の中に「?」が林立している人は、「接触アプリ」と聞いて「人と触れ合うのがいけない」と勝手に思い込んでいても不思議ではありません。
 結局、伝わる話は、伝える側がちゃんと伝えたい相手と繰り返しコミュニケーションを取り、双方が納得できる伝え方にたどり着くことが求められています。でもそのような話ができる専門家はまだまだ少ないようです。この閉塞感が和らぐのにはもう少し時間がかかりそうですね。皆さん、ぼちぼちやりましょう。
2020年10月1日

紳也特急253号

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~今月のテーマ『HIVに学ぶ新型コロナ対策』~

●『テレビに出て思ったこと』
○『性はまだまだタブーの日本』
●『5つのエチケット』
○『感染経路がつながっている人たちの間で流行』
●『スウェーデンに学ぶ』
○『日本の対策も選択肢の一つ』
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●テレビに出て思ったこと
 8月13日に65歳になりました。1981年、HIVが発見された年に医者になり、既に40年目に突入しています。それなりにいろんなことに関わって来たので、そろそろ後進に道を譲り・・・・・と思っていたところ、新型コロナウイルスが台頭。ま、いろんな人が関わってくれているからそれなりにまともな方向に向かうと思いきやとんでもありませんでした。
 いろんなお店がつぶれ、多くの人が苦しい思いをしているのに相変わらずマスコミから流れてくる情報は「???」が付くものばかり。本当に一人ひとりに必要な情報を誰が流してくれるのかと思っていたところにテレビ出演の依頼が舞い込んできました。公衆衛生医として、日本だけではなく世界を含めた新型コロナウイルスの動向を注視してきた立場で外国の先進事例に学ぶ立場でコメントをと声をかけられたので、誕生日だったのですが、出かける予定もなかったため出演させていただきました。
 新型コロナウイルスについては曖昧な情報と不安ばかりが広がり、海外の先進地や先進的な取り組みについても、正確に理解されていないという思いから、いま、大事な情報は何かを盛り込みながらの解説を試みました。その中で印象的だったのが「キスでうつる」という発言にスタジオがざわめいたことでした。HIVの感染予防の話をする際に「セックス」や「コンドーム」といった「過激」な言葉を言わないと正確な情報が伝わらないためいろんな苦労をしたのですが、「キス」という言葉も言えないということにびっくりでした。
 ということで今月のテーマを「HIVに学ぶ新型コロナ対策」としました。

HIVに学ぶ新型コロナ対策

〇性はまだまだタブーの日本
 新型コロナウイルスが咳などに含まれる飛沫で感染することや、唾液をつかったPCR検査、抗原検査が行われていることからもわかるように、新型コロナウイルスが唾液の交換が起こるキスで感染します。というか、キスで交換する唾液の量は飛沫と比べれば膨大な量なので感染リスクは非常に高いです。しかし、このことが日本人の常識にならないのは何故でしょうか。
 ・誰もはっきりと「キス感染」と言わないから。
 ・想像力がないから。
 ・性にまつわることは考えないようにしているから
 HIVの感染経路の普及啓発で苦労をしたのは、そもそも「セックス」や「コンドーム」といった言葉を使うことがご法度だったことです。しかし、「キスではうつりません」というのは言ってもOKでした。すなわち、真実がより過激な言葉にある時は、その手前の言葉は使ってもOKですが、新型コロナウイルスでは「キス」が一番過激な性にまつわる言葉になるので、それを言うことがはばかられるのでしょう。日本では性に関する話題はまだまだタブーなようです。

●5つのエチケット
 とは言え、「キス」を避けて通ることができないのでどうすればいいか。HIVの時は「コンドームの達人」という言い方で「コンドーム」の市民権の確立に一役買ったつもりですが、今回は「キス」を入れるため、シンプルに、やんわりと「5つのエチケット」として紹介しています。

・咳・会話エチケット
  人に、料理に飛沫をかけない(意外な落とし穴が大皿料理です。大皿で出てきたらすぐ取り分けることが大事)
  マスク(必須ではありません)
  肘で咳を受ける(手で受けると、手についた大量の飛沫をあちこちに付着させることになります)
  横を向いて咳や会話をする(飛沫はまっすぐしか飛ばない)
・換気エチケット
  可能な範囲での換気の励行(エアロゾル対策はこれしかない)
  空気の流れの創出(換気が十分でなくても、空気の流れでエアロゾルは拡散される)
・手洗いエチケット
  飲食直前の手洗いの徹底(よく「こまめに」と言いますが、素手で食器や料理を触る直前にきちんと洗わないと意味はありません)
・会食・サービス・接待エチケット
  料理・食器に飛沫をかけない(調理する人がマスクをするのはこのため)
  食器・手指衛生の徹底(自動水栓がベスト)
・キスエチケット
  ディープは避ける(軽い「(*´ε`*)」であればうつらない)
  パートナーとだけ(笑)
  キスの前後に何かを飲む(ウイルス量低減効果を期待)
  覚悟のキス

 このように「できること」を常に確認することが大事ではないでしょうか。

〇感染経路がつながっている人たちの間で流行
 新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから半年以上が経過しました。その間、世界中で様々な取り組みが行われてきましたが、どれが正解で、どれが間違いとは言えません。いかんせん相手はウイルスですので。大事なことは「感染経路」を共有していない人ではうつらないということです。HIVはセックスでうつりますが、セックスをしない人、コンドームを最初から最後までする人はうつりません。すなわち、感染経路がつながらなければ感染しないのです。
 Johns Hopkins University (JHU)のCOVID-19の国別統計サイトは今見ると非常に勉強になります。このウイルスは完全には消えないものの、収束をする場合は感染拡大が起こったスピードよりややゆっくりですが、同じような曲線で収束する傾向があります。このことからウイルスが入り込んだ集団、すなわち感染経路がつながっている人たちのグループに一気に広がると、収束もスピーディーです。収束しない国や地域は感染経路が次から次へといろんな人とつながり続けているということになります。アメリカは現在のところ2峰性になっていますが、これはニューヨーク州を中心とした北東部は収束に向かっているのに、流行が他の地域に広がった証と考えられます。

●スウェーデンに学ぶ
 スウェーデンは流行の初期からロックダウンを含めた人と人の交流を遮断することを行わなかったため、いろんな批判がありました。しかし、現状を見ると、人口1,000万人の国で感染者数は87,000人、死者5,800人です。注目すべきは感染者数が緩やかに増え、緩やかに収束に向かいつつあるのに対して、死者はかなり前から急速に減少し、最近は一桁台になっています。新型コロナウイルスは高齢者で合併症がある方が重症化したり、亡くなったりしているといっても、「高齢」「合併症あり」の人が全員亡くなっているわけではありません。おそらく「高齢」「合併症あり」の人たちの中でよりハイリスクな人たちが亡くなっているのではないでしょうか。もしかしたら新型コロナウイルスが流行しなかったとしたら、年間3,000人が亡くなるインフルエンザの流行で命を落とされていた可能性も否定できません。実はスペインやイタリアと言った感染爆発が起こったところでも、その後再流行があっても死者はそれほど増えていないことともつながります。

〇日本の対策も選択肢の一つ
 日本とオーストラリアを比べると興味深いことがわかります。オーストラリアは行政府主導で、日本は行政の声かけに住民しっかり反応してほぼロックダウンのような状況を作りました。その結果、第1波と言われた状況も、感染者数も死者数もいったんは収束しましたが、自粛をもう一段緩めたらそれまで感染経路がつながっていなかった人たちがつながり、感染者数も死者数も増え、第2波を形成しました。人と人の交流の遮断は医療崩壊の予防という点では意味がありますが、感染の収束にはならない、その場しのぎの対処法だということが明らかになっています。
 もちろんず~~~っとロックダウンを続ければ感染経路がつながっていない人たちは新型コロナウイルスには感染しませんので、自分のことだけを考えれば選択肢の一つです。これまでロックダウンに近い自粛を求めてきた政治家、専門家の方々は今後難しい選択を迫られていることになります。なぜなら、自粛を緩めればそれまで感染経路がつながっていなかった人たちがつながり、感染者も死者も増え、第3波になることは必至です。
 もしかしたら世界の多くの国は意外とこのまま収束の方向に行くのに、日本だけがロックダウンを繰り返して、この後だらだらと何波も来るようだと、世界各国はオリンピックに行けるのに主催国が受け入れられないと言ったことにならないのでしょうか。ふとそのようなことが気になりました。
 だからこそ、「5つのエチケット」が大事です!

紳也特急252号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
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~今月のテーマ『新型コロナウイルスとの共生はおかしい』~
●『2020 AIDS文化フォーラム in 横浜』
○『「共生(ウィズ・コロナ)」は意味のないスローガン』
●『共生のための条件』
○『共生しているのは「誤解」や「差別」と』
●『差別を経験していないから差別をする』
○『できることを積み重ねるだけ』
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●文化フォーラム in 横浜
 2020年8月7日(金)~9日(日)、オンラインではありますが、予定通りの日程で第27回AIDS文化フォーラム in 横浜を開催します。
 https://abf-yokohama.org/ 
 全体のテーマは「リアルにふれる ~一人ひとり大切なことを探してみよう!~」です。このコロナの時代に一人ひとりにとって何が大切なのでしょうか。ぜひオンラインプログラムにご参加いただき、思いを伝えていただければ幸いです。
 オープニングは「相変わらず感染症に振り回される日本 ~「いいエイズ、悪いエイズ」に学べず「いいコロナ、悪いコロナ」に!?!~」と題してトークを展開します。結局、そうなってしまうのは、HIV/AIDSの歴史だけではなく、多くの人は過去の人たちの経験に学ぶことなく、いま、自分が感じているがままに生きているからではないでしょうか。
 2016年のAIDS文化フォーラム in 横浜のオープニングでも取り上げた津久井やまゆり園事件も、4年が経った今、犯人の植松聖の死刑が確定しましたが、世の中では「障がい者との共生」というスローガンを掲げ続けるだけです。
 そこで今月のテーマを「新型コロナウイルスとの共生はおかしい」としました。

新型コロナウイルスとの共生はおかしい

○「共生(ウィズ・コロナ)」は意味のないスローガン
 津久井やまゆり園の事件のその後を見ても、「共生」という言葉はスローガン、絵空事、他人ごとだということが明らかです。「共生」という言葉を使うことなく、当たり前のように共生している人たちは大勢います。一方で、多くの人が「共生」という言葉を使う背景には、現実には「共生」どころか差別や偏見が暴走し、結果として津久井やまゆり園のような事件を起こしてしまうからです。
 
 人は経験に学び、経験していないことは他人ごと。
 
 この言葉を繰り返し使っていますが、人は自分自身が経験するまでは他人ごとです。新型コロナウイルスも報道で何人が感染した、何人が亡くなられたと聞いても、ほとんどの人にとってやはり他人ごとではないでしょうか。そのような状況の中で「共生(ウィズ・コロナ)」というスローガンを声高に話している人たちを見聞きすると、その人たちこそ新型コロナウイルスを他人ごとと考え、事の本質を深掘りしていないのではと思ってしまいます。

●共生のための条件
 「いやいや、毎日自粛しているし、ソーシャルディスタンスには気を付け、3密を避けるようにしているから決して他人ごとではない」と反論する人もいるでしょう。しかし、そのように行動している人は新型コロナウイルスを正しく理解しているかと言えばそうではなく、ただただ自分が感染しないように、自分なりの理解のもとで対策をしているだけではないでしょうか。
 何を隠そう、私自身、今や自分自身の専門と言ってもいいHIV/AIDSについて「共生」という視点に立てるようになったのはここ10年ぐらいです。本当の「共生」とは、例えばHIVを持っている人が目の前に現れたら、その人も、私自身もHIVを持っていることを特別意識することなくお互いが関われることだと思います。もちろん医者ですのでHIVに関連した医療行為を求められたらそれを当たり前のように提供すればいいだけです。
 新型コロナウイルスだからと言ってこれまでと異なる対応を取るのではなく、不足している知識や情報を整理し、感染する人が周囲にいたら「ついうっかりもあるよね」とか、「そもそも3密やソーシャルディスタンスは感染している人のウイルスがどうやって感染していない人にうつるかをぼかして理解されているのでこの状況では感染する人は減らないよね」といった冷静な対応ができることこそが本当の「共生」ではないでしょうか。

○共生しているのは「誤解」や「差別」と
 科学的な情報が共有されないばかりか、誤解、誤った情報が独り歩きしています。「夜の街」といった差別が当たり前のように受け入れられています。なぜ感染症の分野で誤解や差別、偏見が繰り返されるのでしょうか。
 HIV/AIDSの場合は、実際に感染拡大が起こったのが男性同性間の性的接触だったので、私を筆頭に、ゲイ、男性同性愛に慣れていなかった人たちの間で誤解や差別、偏見が広まりました。しかし、新型コロナウイルスは誰でも感染するので誤解や差別はもっと少ないのかと思いきやそうではありませんでした。考えてみれば誤解や差別、偏見というのはすべて他人ごと意識の人たちがまき散らすことです。世の中の大半が「新型コロナウイルスに感染するかもしれない」という恐怖を感じているという意味では一見自分ごとですが、「感染した自分」はやはり他人ごとなのです。「感染したら周囲の人に言えますか?」と聞けば多くの人は「言えない」と回答するのではないでしょうか。すなわち、誤解や差別は歴然とこの世の中に存在し、われわれは誤解や差別を受容し、誤解や差別と共生しているのです。

●差別を経験していないから差別をする
 ご自身が差別される経験をしたことはありますか。「差別」された経験がないと「差別」がどのようなものかわからないのではないでしょうか。私は小学生の時にアフリカのケニアで「yellow」と言われたりしてきた経験から、欧米の人たちから差別的な目で見られているという経験を繰り返ししてきました。当時は「差別」や「discrimination」という言葉も知りませんでしたが「嫌な気持ち」だけは覚えていました。今思うと、このような経験をしていたからこそ、日本に帰ってから部落問題や父が結核だったことに対する根深い差別に気づかされた時に「何で差別をするんだろう」と思っていました。裏を返せば、差別を経験していないから差別ということをしてしまうのが人間なのかもしれません。

○できることを積み重ねるだけ
 「共生」や「差別の解消」を訴え続ける限り、結局はスローガンを言っている人の自己満足で終わります。新型コロナウイルスは実は共生の相手ではなく、そこにいるだけの存在です。そのことをただただ認識し、できる予防を心掛け、感染したらできることをすればいいだけです。私は新型コロナウイルス関連の事実をただ淡々と伝えることで、聞き手もウイルスを過剰に意識しなくなる雰囲気を作れたらと考えています。
 なぜ手洗いをするのか?それは新型コロナウイルスがいるからだけではなく、いろんな病原体がいる地球の中で自分を守る術だからです。それだけのことですよね。

紳也特急251号

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~今月のテーマ『新型コロナは性感染症』~
●『夜の街』
○『性を語れない日本』
●『キスでうつる新型コロナ』
○『夫婦間感染は仲がいい証拠』
●『正確に伝える意味』
○『キスをしてもうつらないために』
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●夜の街
 街の灯りがとてもきれいねヨコハマ、ブルーライト・ヨコハマ。
 東京で一つ、銀座で一つ、若い二人がはじめて逢った、ほんとの恋の物語。

 ちょっと古いですが、夜の街はこれらの歌を生んだ日本の財産ではないでしょうか。
 ところが都知事だけではなく、マスコミも新型コロナウイルス感染で「夜の街」、「接待を伴う飲食」、「ホストクラブ」、「キャバクラ」といったことを盛んに叩いています。まるでそれらがなければ日本から新型コロナウイルスを除去することができるかのような勢いです。その一方で、なぜそれらの環境の中で新型コロナウイルスが広がっているのかについての詳細なコメントや情報提供が行われていません。では一番の感染経路は何でしょうか。

 3密(密閉空間で換気が悪い、近距離での会話や発声、手の届く距離に多くの人がいる)→No
 飛沫感染→No
 エアロゾル感染→No
 接触(媒介物)感染→No
 何を隠そう、「キス」だったのです!!!!!!

 そこで今月のテーマを、「新型コロナは性感染症」としました。もっとも、正確に言うと新型コロナウイルスは性感染もするウイルス、ということですが。

新型コロナは性感染症

○性を語れない日本
 「夜の街」、「接待を伴う飲食」、「ホストクラブ」、「キャバクラ」といった抽象的な表現ではなく、はっきりと「新型コロナウイルスはキスでうつるのです」と言えばいいのですが、それが言えないのが日本人、日本のマスコミのようです。まるで、エイズパニックの頃のように、いや今でもそうかもしれませんが、性に絡んだ話をするのが本当に苦手です。HIV/AIDSで世間がパニックだったころ、岩室はシンプルに「HIVに感染するのはセックス。だから感染を予防するにはノーセックスかコンドーム。このシンプルなメッセージでいいんです」と訴えていたら、ひどいバッシングに遭いました。「思いやりが大事」、「セックスを奨励しているのか」、「コンドームを使えば誰とでもセックスをしていいのか」とわけがわからない反論ばかりでした。でも、今回の新型コロナでも同じようなことが起きています。日本人はやはり性に関わる言葉を口にできない国民なのでしょう。

●キスでうつる新型コロナ
 ホストクラブでの感染拡大を機に「エレチュー」という言葉が一般の人に知れ渡りました。エレベーターの中でチュー(キス)をすることですが、大事なことは何故キスで新型コロナウイルスが感染するかということです。流行の初期の頃から、新型コロナウイルスはのどや鼻にいて、咳や大声で飛び出した飛沫やエアロゾルに含まれたウイルスが直接感染していない人の鼻やのどに入ったり、落下したウイルスが食べ物などを媒介としたりして、のどの奥に持ち込まれて感染が成立すると言われていました。一方で「唾液でPCR検査」というのを聞いたことがあると思いますが、唾液中にも多くの新型コロナウイルスが存在します。キスをするとお互いの唾液の交換が行われるので、感染している人の唾液の中のウイルスが感染源になるのです。

〇夫婦間感染は仲がいい証拠
 これまでも、都内在住者から帰省先の「友人」、「知人」が感染したということは繰り返し報道されていましたが、その際にキスでうつった可能性に関する報道はありませんでした。正直、私も新型コロナウイルスが広がり始めた当初からキス、唾液で感染するということをほとんど意識することも、発信することもありませんでした。しかし、発信しなければと思っていた矢先に「夜の街」報道が始まりました。
 「夜の街」の前に考えなければならないことは、夫婦や恋人のどちらかが新型コロナウイルスに感染してしまった場合、相手にうつしてしまう可能性が高いことです。皆さんは自分の大事なパートナーに感染させたいですか。冗談じゃないですよね。でも、「新型コロナウイルスはキスでうつる」ということを知らないと感染させてしまう可能性があります。もちろん知らない内に感染していて、無症状のため、自分自身の感染に気付くこともなくパートナーに感染させてしまうということは十分考えられます。でもパートナーがウイルスをもらってしまうというのは仲がいい証拠とも言えます。

●正確に伝える意味
 「新型コロナウイルスはキスでうつる」と知った人はどのような行動をとるでしょうか。

 キスをしない
 パートナー以外とキスをしない
 お客さんとキスをしない
 ホスト、ホステスとキスをしない
 キスをした後、2週間は他の人とキスはしない

 いろんなことを考えると思います。しかし、知らないと、ついパートナー以外の人とキスをしたり、「ま、いいか」と「夜の街」で遊んだり、罪滅ぼしとか言っていつもはしないチューをしたり、と感染拡大につながります。だからこそ、事実を、科学的に、正確に伝えることが必要です。

〇キスをしてもうつらないために
 では、どうしてもキスをしなければならない時に、でも感染予防はしたいと思った時にできることはないのでしょうか。キスでの感染を100%予防するにはキスをしないしかありません。でも、キスで感染するリスクを少しでも減らすためにできることはあります。考え方は至ってシンプルです。自分が感染していない場合で列挙しますが、逆は自分が感染している可能性がある時にできることになります。

1.口の中に入るウイルス量を減らす
   ディープキスを避ける
   キスの前に相手に水分を飲み込んでもらい、口の中のウイルス量を減らす
2.口の中に入ったウイルスを早く出す
   キスの後にうがいをする
3.口の中に入ったウイルスを早く胃の中に流し込む
   キスの後に水分を飲み込む

 どれも確実ではないですが、しない場合よりは感染するリスクを減らせるのではないでしょうか。さらに言うと、このような情報を伝えることで新型コロナウイルスが実は身近な問題なんだと感じてもらうことが重要だと思っています。皆様も気をつけましょう。

 

紳也特急250

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~今月のテーマ『エビデンスという幻想』~
●『今こそ緊急事態?』
○『なぜ「エビデンス」を求めてしまうのか』
●『「3密」にエビデンスはない』
○『「エビデンス」ではなく「ファクト」へ』
●『感染経路をめぐるファクト』
○『マスクのファクト』
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●今こそ緊急事態?
 なんと今号で250号です。よく書くことがあるなと思いますが、今月も新型コロナウイルスについて書いていました。もともとHIV/AIDSに取り組む中で、感染症対策についてはそれなりに考え続けてきたつもりなので、昨今の新型コロナウイルス狂騒曲は正直「またか」と同時に、「だよね」という印象です。
 緊急事態宣言が解除された今、皆さんはどのような思いでしょうか。私は3月1日から週1回の外来診療以外のほぼすべての仕事がストップし、持続化給付金を申請し早速受け取りました。いずれ振り込まれるであろう特別定額給付金と合わせて、お陰様でとりあえず食べることには不自由はしませんが、ストレスが溜まる毎日であることは間違いありません。何がストレスかというと、今行われている新型コロナウイルス対策があまりにも非論理的だということです。なぜそうなるのかを考えていた時に、私の発言に対して「エビデンスは?」と投げかけられました。
 エビデンスを広辞苑で調べると「証拠。特に、治療法の効果などについての根拠。」とありました。新型コロナウイルスをきっかけに取りざたされているエアロゾル感染がどれだけ新型コロナウイルスの感染拡大に寄与しているかのエビデンスはありません。そもそも飛沫、エアロゾル、接触(媒介物)感染が、何:何:何の割合というエビデンスはありません。なのにマスク、マスク、マスク狂騒曲になり、今の流行りはフェイスシールドです。今こそ緊急事態ではないでしょうか。そこで、今月のテーマを「エビデンスという幻想」としました。

エビデンスという幻想

〇なぜ「エビデンス」を求めてしまうのか
 日本人は小学校からテストを受け続けてきました。テストでいい点数を取るには先生が意図した答えを、正解を書かなければなりません。その繰り返しの結果、世の中には「正解」が存在すると信じ込ませられてはいないでしょうか。
 学校の試験で忘れられない出来事があります。6年間住んでいたケニアから日本に帰って来た直後に受けた小学校6年生の社会のテストでした。答えが西アジアの国の「Turkey」だと分かったので、回答欄に「ターキー」と書いたら「×」でした。先生に「どうして?」と聞くと、正解は「トルコ」だ教えられました。
 ケニアの小学校では教師に「君はどう思う?」と言ったことを問われ続けてきたので、一刀両断の日本の学校にびっくりでした。今だったら「Wikipediaにこう書かれています。トルコ語による正式国名は、Türkiye Cumhuriyeti(テュルキイェ・ジュムフリイェティ)、通称 Türkiye(テュルキイェ)である。公式の英語表記は、Republic of Turkey。通称 Turkey(ターキー)。日本語名のトルコは、ポルトガル語で「トルコ人(男性単数)」もしくは「トルコの(形容詞)」を意味するturcoに由来する」と反論するところですが、当時はただただビックリでした。

●「3密」にエビデンスはない
 新しい生活様式が押し付けられていますが、びっくりしたのが5月28日のNHKニュースでした。視聴者からの質問として紹介されていたのが「緊急事態宣言解除後も手洗い必要?」でした。もちろん知識がない人もいるでしょうが、かのNHKが取り上げたのがブラックジョークでないとすれば事態は深刻です。
 流行語大賞を取りそうな勢いの「3密」ですが、どこにも3密で感染が広がるというエビデンスがないことをお気づきでしょうか。確かにクラスターが発生したところでは、「密閉空間」「密接した近距離での会話」「人の密集」はありますが、それがクラスターの発生につながったのは単なる結果、ファクトです。どの感染経路がこの3密で感染拡大につながったかというエビデンスはありません。見方を変えれば「手洗いがこまめにできない狭い空間」、「密集のため同じ環境を触ってしまう」「人気スポットなので多くの人が繰り返し利用するため、過去の利用者のウイルスが残っている」と言ったことも考えられます。すなわち感染を証明する「エビデンス」はないのですが、感染が広がったという「ファクト」があるだけです。

〇「エビデンス」ではなく「ファクト」へ
 ファクト【fact】は広辞苑で「事実。証拠。実説」とあります。感染経路にしても、飛沫、接触の二つの感染経路と思われていたのにエアロゾルが入ってきました。ただ、エアロゾルがどの程度感染拡大に寄与するかはわかっていませんし、そもそも飛沫と接触の二つの感染経路でもどちらが優位かというエビデンスはありません。
 で、何が起こったかというと「専門家会議」に対する妄信でした。まるで小学生が、先生の答えをただただ信じ、それに従い、それを自分から発せられるように勉強したのと同じです。いま、学校が始まり、分散登校、生徒間の教室での距離を取るようにしていますが、そうすることでどの感染経路の予防につながるのかの検討が一切ありません。
 そもそもソーシャルディスタンシングという考え方が出てきた背景に着目する必要があります。日本のようにほぼすべての国民が教育を受け、手洗いといった予防手段が入手できる国と、先進国であっても移民や貧困層の問題を抱え、教育も難しく、基本的な予防策が徹底できない国では自ずと対処方法が変わってきます。「話せば(感染予防方法が)解る」と、「離せば(感染が減るのが)判る」の違いです。

●感染経路をめぐるファクト
 フィリピンパブではアルコールによる手指消毒の結果、手を握り、隣でカラオケをしても飛沫、エアロゾル、接触のどの感染も起こらなかった一方で、アルコール消毒の前の時間差で同じ環境にいたというだけで接触感染がおこったというファクトがあります。屋形船もライブハウスでの感染も、接触感染で説明がつきます。接待を伴う飲食で広がった理由も接触感染で説明できます。しかし、そのファクトを汲んでいない専門家会議の判断について妄信しているのが今の世の中です。
 「正解」を研究社新和英大辞典で調べると次のように訳されています。

 〔正しい解釈〕 a correct interpretation
 〔正しい答え〕 a right answer; a correct response
 〔正しい解き方〕 a correct solution
 〔正しい判断〕 an appropriate judgement.

 「正解」を広辞苑で調べると次のように書かれています。
 ①正しい解釈。正しい解答。
 ②結果として、よい選択であること。

 どちらも、「答え」以外に「解釈」、「解き方」、「判断」、「選択」というのが含まれていますが、一般的な感覚として「正解」には個人の解釈、解き方、判断、選択と言った要素が含まれていないように思います。

〇マスクのファクト
 新型コロナウイルスのことを考え続けた結果、個人的にはマスクに対する自分自身の考え方が深まりました。これまでエアロゾル感染は念頭になかったので正直なところ最初は戸惑いました。しかし、エアロゾル感染を理解することでさらにマスク不要論の後押しになりました。
 マスクをすると息苦しさが増し、深呼吸になり、より多くのエアロゾルを周囲に流出させ、他の人のエアロゾル感染のリスクを増やす可能性が高まります。不織布のマスクは繊維の静電気で粒子を補足するので、呼気で繊維に水分が多く付着してしまうのとその効果が弱まります。布マスクやポリウレタンマスクはそもそも粒子を補足しづらいにもかかわらず、マスク装着で呼吸が深くなり、非装着時よりエアロゾルをより多く出してしまいます。
 結局、「マスクは他の人にうつさないため」といいつつ、マスクをすることでエアロゾル感染のリスクを高めているのです。咳やくしゃみをしそうな時、ひっかけられないよう、ひっかけないようにすればそれでいいと思いませんか。でも・・・・・・・・・・ですよね。難しいです。

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~今月のテーマ『ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後』~

●『外出自粛要請の意味と副作用』
○『日本人はちゃんと衛生的な行動をしている』
●『「HIV感染予防に割礼」という欧米流公衆衛生』
○『日本人に合った対策を』
●『先生はマスクをしないのですか』
○『優先順位』
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●外出自粛要請の意味と副作用
 人と人の接触を80%減らせば終息へ。
 何も対策を講じなければ死者40万人。
 いろんなことが発信されていますが、皆さんはこれらの情報をどの程度信じていますか。仕事もなくなり、発表されるデータ、発信されるインターネットやSNS等の情報を拝見しながら、少し引いた立場で、客観的に今の状況をどう考えるべきなのか、日本はどこに行くのだろうかを考え続けています。その中で一番気になるのが外出規制、ステイホーム週間といった人と人の交流を遮断する対策の意味と副作用です。確かに人と人が接触しなければ、人が媒介物(fomites)となって広がる感染経路は断てます。しかし、人と人が接しないことで経済の疲弊どころか崩壊、DVや虐待の増加、教育の遅れ、等が現実の問題になってきています。
 元々中国で始まったロックダウンを欧米諸国が取り入れていく中で、日本も右に倣えをしたようにも見えますが、それほど厳しいものではなく、「外出自粛」にとどまっています。感染拡大がある程度コントロールされつつある今こそ「外出自粛」の意味、意義、成果と今後について考えるべきです。そこで今月のテーマを「ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後」としました。

ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後
 
○日本人はちゃんと衛生的な行動をしている
 先の専門家委員会の先生の「何も対策を講じなければ死者40万人」と言う発想は日本人を、日本の公衆衛生(ここでいう公衆衛生は専門家主導のではなく、日本人一人ひとりの衛生概念、衛生行動という意味です)を理解されていないから仕方がないと思います。おそらく海外で作られた、それこそ「衛生」という概念がない地域で作られたモデルで推計をされたのでしょう。それとも「日本人は脅さないとダメ」と敢えて40万人という数字を出されたのでしょうか。
 日本人は家に入る時は靴を脱ぎ、飲食店だけではなく、夜の繁華街でこそお手拭き、おしぼりが当たり前、手洗いの時に蛇口の栓をひねらないように多額のお金を払って自動水栓を広めるだけではなく、トイレの扉も自動。他人に感染させないため自らの感染リスクを無視してマスクをつけている日本人に対して本当に失礼です(笑)。今回、政府がロックダウンではなく外出自粛にとどめたのも、一応国民の衛生行動を理解しているからだと考えています。

●「HIV感染予防に割礼」という欧米流公衆衛生
 では、海外での公衆衛生の視点はどのようになっているのでしょうか。私自身、1994年に横浜で開催された第10回国際エイズ会議での議論が忘れられません。オーストラリアの医者が「アフリカでのHIV感染拡大を防ぐために割礼、包茎の手術が有用である」という発表をしました。確かに統計学的には有用だと証明されているのですが、私は「ほかに手段があるだろう」という思いでした。何より「コンドームが普及すればいい」と思っていましたが、「そんなコンドームを誰が提供し、誰が使い方を教えるのか」と言われてしまうと「ごめんなさい」となってしまいました。「割礼をしなくても剥いて洗っていれば包皮内の炎症は予防でき、感染リスクも下げられます」と話をしたら、やはり「それを、誰が、どう伝えるのか。風呂もないぞ」と反論されました。すなわち、「理屈や理想より現実を」ということでした。それが移民を含め多くの貧困層、教育が浸透していない国民を抱えている、あるいはそのような地域を支えている欧米の公衆衛生関係者の立ち位置です。だから欧米の多くの地域ではロックダウンという選択肢になったと考えています。
 もう一つは欧米人が変えたくない「文化」が背景にあるように思います。欧米の公衆衛生関係者も家の中に土足で入ることのリスクは承知しています。しかし、そこに踏み込むと、それこそ「文化」を相手に喧嘩を売っているようなものなのでそれは避けるでしょう。さらに欧米人は大好きなハンバーガー、フライドポテト、ビザ、サンドイッチ、タコス、ベーグルを素手で食べます。ハンバーガーショップでお手拭きが付くのは日本発のお店です。このように「文化」の差が「公衆衛生」の差になっています。

○日本人に合った対策を
 今回、初期の流行を抑え、医療崩壊を回避するために「人と人の接触を80%減らそう」という呼びかけは理解できます。しかし、流行がある程度抑制されたら「手洗い」や「咳エチケット」といった基本的な情報提供を徹底する必要があるのではないでしょうか。いま一番危惧をしているのが3密という正解が浸透してしまった国民感情です。日本人は真面目なので、自粛解除になっても、「新型コロナウィルスが消えたわけではないので、3密を避け、永遠にテレワーク、宴会禁止、学校閉鎖、ソーシャルディスタンスが重要」と主張し続ける方が出てくるのではないでしょうか。
 スウェーデンが集団免疫を獲得する方向で、国民一人ひとりに考え、できることを実践してもらうようにしていることは大いに参考になります。完璧な終息は当分先の話になりますので、段階的な自粛解除後は前号で述べたように、大きな流行を起こさずに集団免疫を獲得することを目指すしかありません。一人ひとりができることは、結局のところ手洗いと咳エチケット、マスクです。
 
●先生はマスクをしないのですか
 マスクをしないで街中に出ると白い目で見られます。「無症状の人でも感染している可能性があるし、その人と話すだけでエアロゾル感染が、その人が咳をすれば飛沫感染がおこるので、他人に感染させないためにもマスクは当たり前」とされています。
 3週間ほど前、外来診察中にHIVに感染している患者さんが「岩室先生はマスクをしなくても大丈夫なのでしょうか」と真面目に心配してくれました。何を隠そう、この原稿を発信する2週間前から診療をする時にマスクをするようにしています。それまではしていませんでした。理由は簡単です。私がマスクをすることで、私が感染するリスクが高くなるからです。
 いま、医療機関で、それも感染症の指定医療機関で医者や看護師が感染しているのは何故だと思いますか。防御資材の使いまわしもあるでしょうし、現場での緊張感のあまり、マスクの表面をつい触ってしまったり、休憩時間や日常生活でつい油断してしまうからで、本当に気の毒だと思います。この状況こそ医療崩壊と言ってもいいと思います。

○優先順位
 私が感染していて、患者さんに感染させてしまうリスクはゼロとは言えません。ただ、飛沫を直接かけないように診察中は咳をしない。エアロゾル感染と言ったことも言われているので大きな声でしゃべらない。当然のことながら向き合って近距離で話さない。こういうことには気をつけています。
 一方で私が診療の場面で感染するとしたら、病院内に広がっている可能性があるウィルスを私が接触感染、媒介物感染(fomites infection)で取り入れることです。もちろん食事の前の手洗い等々は注意していますが、一番危ないと考えているのが付けなれないマスクの表面を素手で触ることとマスクの使いまわしです。厚木市立病院では職員に配給されるマスクは週1枚で医療崩壊状態です。私が感染したら私が診療しているHIV/AIDSの患者さんを診てくれる医者はいません。そのため、すごくわがままに聞こえるかもしれませんが、「私が感染しないためにマスクをしない」という選択をしていました。
 ただ、今の時代、それこそ外来患者さんが感染し、濃厚接触者として岩室の検査が行われ、実は岩室も感染していたとならないとも限りません。その時は病院の医者ですのでマスコミに公表されることとなります。「前述のような注意をしていました」と言っても通用しないと考え、「外来患者の診察時にはマスクを着用していました」というコメントが出せるよう、アリバイづくりのために、自分自身の感染リスクの優先順位を下げることにしました。
 さていつになったら終息するのでしょうか。皆様もお大事に。

新型コロナウィルスについての考え方
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~今月のテーマ『新型コロナウィルスはどう終息するか』~

●『感染症と付き合ってきたからこそ』
○『感染経路の思い込みのリセットを』
●『「環境の中の総ウィルス量」という考え方』
○『感染した人が出すウィルス量』
●『集団免疫とは』
○『隔離政策の意味と弊害』
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●感染症と付き合ってきたからこそ
 新型コロナウィルスのおかげで、日本には本当に多くの「感染症の専門家」がいたのだと知りました(笑)。と同時に、そんなに感染症に詳しいのなら、どうしてこの人たちはHIV/AIDSが広がった時に診療に当たってくれなかったのか、今でも診療拒否をしているのだろうかと思いました。先日お会いした開業医の方も新型コロナウィルスについて熱く語っておられましたが、HIV/AIDSの話になると「あれは大変な病気ですよね」と、完全に逃げ腰でした。
 AIDS文化フォーラム in 横浜が始まった27年前、感染症の専門家でもない、一泌尿器科医の私がHIV/AIDSを診ざるを得ない状況でした。正直なところ、治療薬もない、接しているだけで感染するかもしれない、と考えながらも、「医師免許」をいただいている限り診療するのは当たり前という立場で、でも自分自身が感染しないために何ができるかを考え続けていました。だからこそ「感染症」ということをいろんな角度から考え続けることができました。
 いまの世の中はまるで30年近く前のエイズパニックのような状況です。ただ、当時と違うことは、志村けんさんが亡くなられたように、新型コロナウィルスを身近な問題と受け止めてくれている人が多いことです。新型コロナウィルスはいずれ終息します。なぜかと言うと、今感染されている方の多くは治癒されているからです。
 そこで今月のテーマを「新型コロナウィルスはどう終息するか」とし、終息に向かうということはどういうことか、そのためには何が必要か、一人ひとりができることは何かを考えてみました。

新型コロナウィルスはどう終息するか

○感染経路の思い込みのリセットを
 様々な報道が誤解を生み、空気中に浮遊しているウィルスで感染すると思っている人が大勢います。しかし、満員電車での通勤を余儀なくされている首都圏のサラリーマンの中で感染爆発は起きていません。この事実こそが新型コロナウィルスの空気感染やエアロゾル感染を否定しています。もちろん医療機関での人工呼吸器等の使用時は別問題です。主な感染経路は、感染している人から飛び出した飛沫が落下、付着したところを触る接触感染です。ところが「感染経路がわからない人が増えている」と言った報道があると「やっぱり空気感染!!!」となっていないでしょうか。
 残念ながら亡くなってしまった志村けんさんを引き合いに、「3密」が危険。人に近づくな、人と近距離でしゃべるな、換気をしろと言われていますが、「3密」の状況での感染拡大も接触感染で十分説明ができます。
 「濃厚接触者」という言葉も誤解を与えていて、一緒にいた人の中に感染源となった人がいるような錯覚を与えています。しかし、感染源は実は「前の日にその人たちと同じ空間を利用した人」かもしれません。だからこそ「感染経路がわからない」ということになります。では、何に着目し、事態の終息を目指せばいいのでしょうか。

●「環境の中の総ウィルス量」という考え方
 新型コロナウィルスに感染しないために個人が感染予防に気を付けることが基本です。東京都も「接待を伴う飲食店などで感染した可能性があるので、当面行かないよう呼びかけ」と報道しています。しかし、終息を見据えた対応を考えるためには、「個人」ではなく「集団」としてどのような状態を目指すべきかという視点が重要です。
 人が暮らしている環境、空間に目を向け、そこに存在するウィルスの量をイメージしてください。無数のウィルスがあちらこちらに付着している場合と、ここに少し、あちらに少し、と少量のウィルスが、限られた環境にしかない場合では感染リスクが大きく異なります。すなわち、人が暮らす環境に、空間に存在するウィルスの総量が少なければ少ないほど接触感染のリスクは下がります。渋谷のスクランブル交差点を渡っていると必ずと言っていいほど他人に触れますが、田舎の田んぼ道だと、人と会うことの方が少ないです。感染拡大を終息に向かわせるために、どうやって環境の中に存在するウィルスの絶対量を減らせばいいのでしょうか。
 
○感染した人が出すウィルス量
 新型コロナウィルスに感染した人がたどる5つのパターンと、その際に排出されるウィルス量( )です。症状が少なければ排出するウィルス量は少なく、重症化すればするほど排出するウィルス量は多くなります。
 
 1 感染 →  発症 (中)→ 重症化(多)→ 死亡
 2 感染 →  発症 (中)→ 重症化(多)→ 治癒 → 免疫獲得
 3 感染 →  発症 (中)→ 治癒 → 免疫獲得
 4 感染 → 無症状(少)→ 免疫獲得
 5 感染 → 無症状(無)→ 免疫獲得
 
 シンプルに考えれば、免疫獲得を獲得している人はウィルスに暴露されても感染しませんので発症も、重症化もしません。免疫がなければもらうウィルス量が少ないほど軽症で済み、多いほど重症化するリスクが高まると考えられます(もちろんご本人の免疫力や基礎体力、持病、喫煙歴等々も影響しますが)。ちなみに、私は幼児期の予防接種の際、注射器の使いまわしが行われていた世代のため、B型肝炎ウィルスに感染しました。ただ、幸いなことに暴露されたウィルス量が少なかったからか、抗体はできたのですが、いわゆるB型肝炎ウィルスの持続感染者にならずに済んでいます。
 すなわち、感染する際に体内の取り入れるウィルス量を減らすことで感染した人が軽症で済み、その人が環境中に排出するウィルス量を減らすことになります。だから、手洗い等で体内に取り込むウィルス量を減らすことがその人からの感染拡大を減らすことにもつながります。

●集団免疫とは
 新型コロナウィルスには今のところワクチンはありません。しかし、これまでにウィルスに感染し、治癒された方はその時点でワクチンを打ったと同じ免疫を獲得した状態になっています。
 例えば誰も免疫を持っていない10人が、ウィルスがあちらこちらに付着している環境(例えば、飲食やカラオケをした店のドアノブ、机、椅子、トイレのドアノブ、等々)を利用したとします。10人全員が手洗いに無頓着だと多くの人が感染して発症することでしょう。しかし、手洗いをとりあえずする人は発症を免れ無症状感染に、手洗いを丁寧にする人は免疫獲得だけにとどまる可能性があります。すなわち、手洗いを丁寧にする人を増やしておけば、感染暴露が続いたとしても、結果として重症者は減り、免疫を獲得する人が増え、集団自体が免疫を獲得していくことになります。

○隔離政策の意味と弊害
 いま、諸外国ではロックダウン、日本では首都圏封鎖と言ったことが言われています。人と人の交流を遮断する意味は唯一「感染する人を減らす」ことです。もちろん爆発的な患者増が起これば医療機関はパンクし、人工呼吸器やECMO(人工心肺)が不足し、助かるべき人も助けられない可能性が高まるので、ロックダウン自体は医療の確保といった目的が明確であれば大事な選択肢です。しかし、ロックダウンの弊害もあります。集団免疫の観点から考えると、集団免疫を獲得するまでの時間を先延ばしにすることになり、結果として感染拡大の終息時期が先送りになります。
 このように、何を優先事項として考え、何を目指すのかを明確にすれば、終息への歩みを着実に進められるのではないでしょうか。しかし、トピックスに飛びつくような対応を繰り返している限り、結果として終息への歩みを遅らせてしまいます。着実にできることは何か。私は丁寧に、食事の直前の手洗いを励行したいと思います。

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~今月のテーマ『いまからできる新型コロナウィルス対策』~

●『信じられない対応』
○『資格と専門と知識は一致しない』
●『手洗い』
○『マスクはしない』
●『入浴』
○『リスクゼロではなく、リスク軽減を』
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●信じられない対応
 いまさらですが、「クルーズ船下船の栃木の60代女性感染確認」というニュースを皆さんはどうとらえられたでしょうか。
 ただただあきれるばかりです。新型コロナウィルスについてはわかっていないことが多かったので断定的なことを発信することを少し控えてきました。しかし、日本中で感染者が確認される状況となっただけではなく、ウィルスを培養していると揶揄されたクルーズ船から、厚生労働省に許可もらって下船した人が、下船直後に発症し感染が確認されました。いま、日本は新型コロナウィルス感染列島になったという認識が必要です。
 そこで、本号を前倒しで発信し、「いまからできる新型コロナウィルス対策」を考えてみました。

いまからできる新型コロナウィルス対策

○資格と専門と知識は一致しない
 医師という資格を持っていても感染症が全く分かっていない人は大勢います。日本感染症学会の専門医であっても、感染症が専門と名乗っていても、感染症の治療をしていても、感染症のすべてがわかっているわけではありません。もっと困ったことに、感染症の専門家としてマスコミ等で発信している人たちの中で、データを集め、論文を多数書き、「教授」や「所長」になった方々の中には、このメルマガでお伝えする、小学生でもわかる内容を的確に説明できない方が大勢います。何より証拠に、世界が呆れた「14日間の健康観察期間後の下船」という厚生労働省関係の専門家たちの判断がなされ、現に下船後に発症する人が出ました。論より証拠です。批判はここまでにして、いまからできることを考えます。

●手洗い
 新型コロナウィルスに感染している人から他の人が感染するルート、感染経路は二つです。

1.感染している人の咳やくしゃみで、飛沫(しぶき)の中のウィルスを直接口、鼻、目の粘膜につける。

  できること
    口を開けた状態で人に合わない
    咳やくしゃみをかけられそうになったら2メートル離れる
    咳やくしゃみをかけられたら口と目を閉じ、息を20秒止めた後、顔と目を洗う
    
2.感染している人が咳やくしゃみで飛び出た飛沫の中のウィルスが落下して付着したところを触った手についたウィルスを、口の中に入れる。

  できること
    おにぎり、サンドイッチ、お菓子など、口にいれるものをつかむ前に手を洗う
    コップ、湯飲みなどのふちは触らない
    花粉症の人はマスクをする前に手を洗って装着する
    マスクを一度つけたら絶対に表面を触らない(不可能ならマスクはしない)
 
 1は「飛沫感染」の注意点です。顔の皮膚についても、そこからは感染しません。
 2は飛沫として飛び散っていろんなところに落下した飛沫の中のウィルスを手に付けて口の中に運ぶ「接触感染」の注意点です。だから感染につながる行為を行う前の手洗いが重要です。一方で、無意識の内にそれらの行為をしてしまうこともあるので、手洗いは頻回に行いたいものです。

○マスクはしない
 マスクをしている人は空気中に浮遊しているウィルスを吸い込まないためと思っていないでしょうか。とんでもない誤解です。新型コロナウィルスは空気中に浮遊しません。すなわち空気感染(飛沫核感染)ではありません。飛沫(しぶき)はすぐに落下しますので、一番の感染経路は正確に言うと飛沫として飛び散って各所に付着したウィルスとの「接触感染」です。
 手についた飛沫の中のウィルスをマスクの表面につけると、呼吸をしている内に口の中に吸い込んで感染します。だから私は「マスクはするな」と言っています。実際、マスクをしている人をよく観察してください。皆さん、無意識の内に表面を触っていますよね。子どもにマスクをつけさせる親の気がしれません。
 「咳やくしゃみをかけられたらどうするのか」と反論する人が必ずいます。では「咳やくしゃみをかけられて感染する」確率と、「無意識に手でマスクの表面を触って感染する」確率とどちらが高いかを考え、ご自分で選択してください。

●入浴
 新型コロナウィルスに限らず、世の中には様々な病原体が各所に付着しています。体外に出た新型コロナウィルスがどれだけの期間、感染力を持ち続けるかはわかっていません。しかし、いろんな状況から考えると、10日間、感染力を持ち続けている可能性が否定できません。
 そのため、外出したら手だけではなく、顔にも、衣服にも新型コロナウィルスが付着していると考えてください。でも大丈夫です、それだけでは感染しません。口や鼻を通して体内に入れなければいいのです。朝は顔を、手を洗ってから食事をします。夕食の時もそうしているでしょうが、私はいろんな患者さんが来る病院から帰った時はもちろんのこと、毎晩、入浴し、体だけではなく髪も洗い、いろんな病原体を洗い流します。その後、毎日洗ってもらっているバスタオルで体をふき、毎日洗ってもらっているパジャマに着替えてから夕食にしています。これも常識的な感染症予防対策です。

〇リスクゼロではなく、リスク軽減を
 人間が行うことなのでリスクをゼロにはできません。しかし、頻回に手洗いをすることで、100個のウィルスを10個に、1個に減らすことができれば、例えそのウィルスが体内に入ったとしても、重症化せず、もしかしたら上手に抗体だけを作って、発症も予防できるかもしれません。
 とかく日本人は「完璧」を求めますが、いまできることはリスクを一つずつ減らしていくことです。中国で、韓国で、そして日本でどうしてこんなに患者さんが増えているのでしょうか。私は「マスク」というリスクについて、多くの専門家だけではなく、市民も考えていないからだと思っています。
 「マスクをしない」リスクと、「マスクをする」リスクについて改めて考えてみてください。でも、習慣化されたことを変えることはすごく難しいのです。だから新型コロナウィルスの感染拡大が止まらないのではないでしょうか。

付録:新型コロナウィルス対策のためのYouTube

マスクで広がる!?新型コロナウィルス、インフルエンザウィルス

今からできる新型コロナウィルス対策

 

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~今月のテーマ『マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス』~

●『生徒の感想』
○『自分勝手に解釈』
●『感染経路を正確に知ろう』
○『空気感染』
●『飛沫感染』
○『接触感染』
●『コロナウィルス報道から読み解く感染予防』
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●生徒の感想
 自分自身、インターネットやテレビなどの情報を見て、それをすぐに正しいと思ってしまうところがあるので、様々な危険を避けるためにも、見ただけで情報を受け取るのではなく、他の誰かに聞いたり、話したりしてすぐにその情報が正しいと思わないようにしたいと思います。(中3女子)

 はじめは知っていることを言われるだけだと思ったけど、想像以上に学べたからよかった。(高1男子)

 今まで私は人に頼るということをあまりしてきませんでした。今はネットで検索すればいくらでも対処法は出てくるので、そういうものの力を借りて解決するか、自分で考えるか、それでも無理だったらあきらめるというような手段ばかり選んでいました。それが普通だと思っていたし、他人に悩みを打ち分けたところで、自分の弱みを見せびらかして、恥ずかしくなって相手にはただ迷惑なだけだろうと思っていました。
ですが今回岩室先生のお話の中で、誰かに迷惑をかけるのは悪いことではなく、話すだけでも癒されることを教えていただき、自分の中でため込んでしまうと、そのうち犯罪に手を出してしまったり、自殺してしまう人もいるというのも知りました。
私は幸いお互いに迷惑をかけあうことができる友達はいるので、せめてそういう人には勇気を出して相談するように心がけていきたいです。(高1女子)

 岩室先生のお話で最も印象に残っているのは「人は経験からしか学べない。経験してないことは他人ごと」というお言葉です。先生は私たちを「高校生」と一くくりにせず、多様性を認め、対等にお話をして下さいました。話の仕方も聞く側があきずに楽しめる方法でした。本当に貴重な経験になりました。ありがとうございました。(高1女子)

 若い世代はこれらの感想のように、彼らとちゃんと向き合い、分かりやすく、論理立てて話すと、こちらの思いをちゃんと受け止めてくれます。というか、ちゃんと受け止める力があります。ところが、どうも大人になると自分はおろか、周囲も気づかない認知障害が徐々に進行し、情報を断片的に、しかも自分に都合がいいようにしか受け取れないのではないでしょうか。いま、新型コロナウィルス騒動のため、巷からマスクが消えてしまった日本は異常としか言いようがありません。そこで今月のテーマを敢えて、大胆に「マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス」としました。

マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス

〇自分勝手に解釈
 いま、新型コロナウィルスで世間は大騒ぎで、このパニック騒動でマスクが売り切れています。テレビ、ラジオ、ネットでもいろんな情報が発信されています。NHKや、公衆衛生の専門家から見てまともな医者はちゃんと適切な情報を流しています。しかし、認知障害が進んでいる日本の大人たちは自分にとって都合がいい「マスク」という言葉だけを受け取っています。

 自分が新型コロナウィルスに感染しないために、自分がマスクを装着することが大事

と解釈するのですね。ところが、発信されている正確な情報は次のような内容です。

 あなたが咳、くしゃみなどの症状があれば、他の人に感染させないため、あなたがマスクを装着してください

と言っています。このような内容の動画はHPにもアップしていますが、YouTubeでも「マスクで広がるインフルエンザ」といった内容のものもアップする予定です。「えっ、どうして?」と思った方はしっかりこのメルマガを読んでください。そして、疑問、反論、意見はぜひ送ってください。

●感染経路を正確に知ろう
 中学校の教科書にも病原体がどのような経路で人から人、動物から人に移るかを正確に知る必要があることが書かれています。しかし、残念ながらHIV/AIDSでもそうですが、日本では医者でさえも正確に理解している人が少ないのが現状です。今回の新型コロナウィルス問題で感染経路として理解しておきたいのが、空気感染、飛沫感染、接触感染の3つです。

〇空気感染
 「空気感染」というのは字のごとく空気中に病原体が浮遊している状態にあり続け、その病原体を吸い込むことで同じ空間にいる人が感染します。ウィルスはもちろんのこと、細菌も目に見えないので素人的にはインフルエンザも、結核も、新型コロナウィルスも全部同じ感染経路に思えてしまうでしょうが、ここの整理と理解がすごく重要です。この「空気感染」は正確には「飛沫核感染」といい、飛沫の核が感染するという意味です。空気感染する代表的な感染症は結核、水痘(水ぼうそう)、麻疹(はしか)です。例えば咳で肺から結核菌を排菌している人がいた場合、同じ空間にいるだけで周囲の人に感染させる可能性があるため、隔離した上での治療ということが行われます。
 では、医療者は排菌している結核患者さんを診察する際にどのような注意をするのでしょうか。一番重要かつ簡単な予防法は風上に立つことです。結核菌は風下に運ばれるため感染することを予防することができます。患者さんを搬送する場合、車の後部座席に座っていただき、窓を開け、前から後ろに空気の流れをつくることで運転手の感染予防効果が高まります。一般的なマスクだと結核菌は素通りしてしまうので、結核菌を通さないN95というタイプのマスクが使われます。ただ、このマスクは顔に密着させなければ効果がなく、密着させると装着している人が呼吸することが難しいほどで、装着できるのはせいぜい20分程度です。

●飛沫感染
 「飛沫感染」は字のごとく飛沫(しぶき)で感染が起こります。先の空気(飛沫核)感染と字の違いが重要です。「沫」とは泡(あわ)を指し、広辞苑には「液体が空気を含んで、まるくふくれたもの。気泡。あぶく」とあります。誰かのくしゃみを浴びたことはありますか。あるいは自分自身のくしゃみを感じたことはありますか。水分が飛び散りますよね。すなわち、飛沫感染とは病原体に水分が付着した状態で飛び出したあわによる感染です。もちろん1メートル以内の近距離にいる人のくしゃみを浴びれば感染する可能性があります。逆に言うと2メートル以上離れていれば、飛沫は飛んでこないで途中で落ちてしまうので感染は起こりません。これが空気感染、飛沫核感染との大きな違いです。
 空気中を浮遊しない飛沫はどうなるでしょうか。重力により、落下し、周囲の家具、ドアノブ、蛇口等々に付着します。咳エチケットということが言われていますが、一番の基本は自分の手で、特に手のひらで咳やくしゃみを受け止めないことです。手のひらで咳を受け止めると手のひらに飛沫、病原体をつけることになります。飛沫感染は実は接触感染とのセットで考える必要があります。自然に落下した病原体だけではなく、手のひらに着いた病原体は手が触れたすべての場所に広がってしまうのです。ぜひ肘で咳を受け止めてください。
 一般的なマスクが有効なのは、既に感染し、かつ咳やくしゃみと言った病原体を体外に出すことにつながる症状がある人は、マスクを着用することで飛沫が周囲に飛び散らないようにするのです。でも、一番良いのは外出をしないことです。

〇接触感染
 「接触感染」は字のごとく接触で感染が起こることです。皆さんが出かけるところには当然のことながら既に病原体がまき散らかされている可能性があります。病原体にあることに気づかずに、というか気づかないのが普通ですが、病原体が付着した場所を触ってしまい、その手を自分がしているマスクに当てたとします。飛沫付きの病原体がマスクに付着します。呼吸で飛沫が乾燥すると病原体がマスクを素通りして吸い込まれます。予防のためにしているつもりのマスクが実は感染源になってしまうのです。

●コロナウィルス報道から読み解く感染予防
1.インフルエンザとの違い
 新型コロナウィルスの感染者数が10,000人を超え、死者が259人という報道は「怖い」というイメージを植え付けています。しかし、2019年1月に、日本で、インフルエンザで亡くなった方は1,685人です。インフルエンザにはワクチンがあり、症状を抑える薬があってもこれだけの方が亡くなっています。中国の報道からも免疫力が衰えている高齢者や持病がある方が多いというのはある意味インフルエンザと同じ状況です。

2.事実から紐解く感染経路
 日本でバスの運転手さんとバスガイドさんが感染したという事実は次のように考えるべきです。もちろん空気感染の可能性は否定できません。だとすると、このバスに乗っていた他の乗客の中での感染状況をぜひとも中国に確認し、公表してもらいたいです。
 「ほとんどの客が感染していた」となれば、今のバスは密閉性が高いので空気感染が強く疑われ、しかも感染力がすごく強いということになります。
 飛沫感染だとすると、ガイドさんがマスクをしないで接していたとすると、近くの乗客が感染し、バスの後方の座席の乗客は感染していないという結果になっているはずです。
 乗務員は感染していたが、バスの客はあまり感染していなかったということになるとどうでしょうか。乗務員の方の行動様式が感染につながったと考えられます。報道によれば、最初に感染した運転手の方は関西と関東を往復する際に、行きはマスクをせず、帰りはマスクをしていたということです。空気感染が否定されれば、やはりマスクが接触感染のリスクになったとして考えられます。
 バスガイドさんは運転手さんからの感染とされていますが、運転手さんがマスクをされていたということであれば、やはり接触感染が疑われます。バス内の清掃をする際に、ウィルスを手からマスクに付けた可能性も考えられます。
 過去のコロナウィルス感染が飛沫感染と言われているので、今回もインフルエンザ同様の感染経路と考えていいのではないでしょうか。

3.全員が発症しない
 武漢から帰ってこられた日本人の方の中に無症状にもかかわらず新型コロナウィルスに感染している人が確認されています。これはインフルエンザも同じですが、感染しても発症しない人がいる可能性を示唆しています。この方々がその後どのような経過をたどるかをぜひ公表してもらいたいのですが、感染しても自分の免疫力で抑えられる人がいるウィルスということになります。

4.治療法
現時点で新型コロナウィルスを体内から駆逐できる確実な抗ウィルス剤が存在しない以上、また、免疫力で発症しない人がいる可能性を考えれば、日頃から体力をつけておくことしか治療法はないと言えます。もちろん、様々な合併症も考えられますので、症状が出た時は感染症の専門機関にかかることが大事ですが、ただの風邪の人が、免疫力が落ちた状態で、必要がないマスクをいじりながら、実際に新型コロナウィルスの患者が実はウィルスを病院内にばらまいているところに行くと・・・・・。自分でよく考えてください。

5.で、どうする?
 新型コロナウィルスについて現時点で確定的なことはもちろん言えません。
 空気感染なら「同じ空気を共有しない」という対策しかないのです。バス等の密閉環境で働く方は少なくとも「症状がある方はこのご時世ですので、この空間を共有することをご遠慮いただければ幸いです」としたいものです。タクシーの方はほんの少しだけ前と後ろの窓を開け、空気の流れを作ってください。
 飛沫感染、接触感染対策を取るのであれば、とにかくいろんなところを触ってしまう手を顔に近づけないことです。マスクを装着するなんて言語道断です。この原稿を読んだにもかかわらず子どもにマスクをつけさせている保護者の読解力を疑います。もっともそのような人でも読みたくなる、理解できるような原稿が書けない岩室の表現力も未熟と反省です(苦笑)。

紳也特急 245

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行) 
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~今月のテーマ『HIV対策のブレイクスルー』~

●『生徒の感想』
○『薬の劇的な進歩』
●『U=U』
○『90-90-90』
●『どこでも検査を』
〇『HIV感染症の医療費』
●『PrEP』
〇『教科書にゲイを!』
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新年、明けましておめでとうございます。
 昨年も相も変わらずいろんなことに首を突っ込み、いろいろと考え続けさせていただきました。本年も試行錯誤を続けたいと思います。
 新年早々、FMで「THINK ABOUT AIDS」に出演します。
 1月1日18:00-18:55 FMとやま
 1月3日19:00-19:55 広島FM	
 ぜひ聞いてください。

●生徒の感想
 本日は講演会をしていただき、ありがとうございました。前からどんな話が聞けるのか楽しみにしていました。思ったより数倍楽しくて、とても良いことを聞いたなあと思いました。包茎友の会会長に任命していただきありがとうございました。AVについて質問できたのでうれしかったです。依存について良く知れてよかったです。覚せい剤を使う人は、おかしい、バカだなと思っていましたが、先生の話を聞いて、そういう人に対してかわいそうと思いました。ちゃんと話を聞いてあげないといけないと思いました。(中3男子)

 私は今までにもこういった「講演会」を聞いてきました。でも、どの講演会も性に関するワードがにごされていて、自分の中でどこか「大人ってそんなもんだよな」、「大切な話って言ってるだけで、本当は自分で言うのもはずかしいんでしょ」、「今の世の中、そういうことを言ったらダメだもんね」と思っていたところがありました。でも岩室先生は私の中のイメージを思いっきりぶち壊していきました。ためらうこともなく、ありのままの言葉で私たちに教えてくださったり、笑う人に向けて「それは違う!」と言っていた姿に、すごい人が来たな!と思いました。(中3女子)

 岩室先生はとても広い視点を持っている人でした。一つの物事に対して、世間の意見や社会の風潮に独自の意見と考え方で見ることができていました。僕も一つのことには様々な視点で考えるようにはしていますが、岩室先生の視点は初めてでした。それはなぜかと講演後考えていました。僕の結論としては、岩室先生はそのような視点で考えさせられる経験をしていた。僕はしていなかったというものでした。まさに「経験していないことは他人ごと」だったわけです(高1男子)
 
 私は岩室先生に「二次元しか好きになれないのですが、なにか具体的な解決法などありますでしょうか?」という質問をしました。先生の答えは「画面の女の子に触れていると虚しく感じられるのではないだろうか」というお答えをいただきました。帰ってから実践してみたのですが、虚しく感じるどころか、更に推しがかわいく思えてしまったという結果で終わりました。ですが、先生の話を聞いて、リアルにも少し希望を持てたので良かったです。(高1男子)

 今後の“性活”に活かしたい話でした。(中3男子)

 バーチャルYouTuberの由宇霧さんのチャンネルでコラボされていた動画を見ていて、この講習の前にもいろいろ勉強させていただいていました。(高1男子)

 生徒さんの反応はいつも勉強になります。一方で大人たちは頭が固いのか、こちらの伝え方が悪いのか、なかなかこちらの発信に対して反応してくれません。ところが、HIV/AIDS対策について医療費の観点から指摘をしたところ、非常に興味を示していただきました。また、ちょうど同時期に医学書院の「公衆衛生」という雑誌でHIV/AIDS対策の特集を企画する機会をいただきましたので、改めて2020年以降のHIV/AIDS対策について考えたいと思いました。そこで新年のテーマを「HIV対策のブレイクスルー」としました。

HIV対策のブレイクスルー

〇薬の劇的な進歩
 今回のテーマをHIV/AIDS対策ではなくHIV対策としたのも、AIDSという状態になった人への対応方法はほぼ確立されているのですが、HIVとの向き合い方についてはまだまだ多くの議論が必要と思ったからです。
 今年で27回目を迎えるAIDS文化フォーラム in 横浜(2020年8月7日(金)~8月9日(日))ですが、この四半世紀の間に大きな変化が起こっていました。ところが、人間は不思議と過去に強烈な印象を叩き込まれると、その呪縛からなかなか抜け出せないものです。1994年に第1回のAIDS文化フォーラム in 横浜が開催された時は、HIVを今のようにコントロールする薬がありませんでした。後に主流になった3剤併用療法ができるようになったのが1997年のインジナビルからでしたが、1日1500㏄以上の水分を摂取する必要があったり、1999年から使えるようになったエファビレンツは変な夢を見たりするなど、副作用が強く、服用し続けられない人も少なからずいました。ところが、今では一日一回食事に関係なく一錠飲めばいい、副作用の少ない薬も開発され、多くの方がそれほど苦痛なく薬を服用し続けられる状況になりました。

●U=U
 一般的にどのような治療薬であっても、その役割は使っている患者さんのためと考えてしまいます。しかし、最近はU=U、すなわち薬を服用することで、患者さんの血液検査でHIVが検出限界以下(undetectable)の状態になっていれば、その人がコンドームなしでパートナーとセックスをしても相手に感染させない(untransmittable)ということが明らかになっています。
 抗HIV薬で血液中のウィルス量が検出できない程度まで抑えられるということは、当然のことながら他の体液中のHIVも抑えられていることは予想できます。かなり前の話ですが、残念ながら亡くなってしまったパトリックの協力を得て、精液中のHIVを検査したところ、血液同様検出限界以下でした。ただ、検出限界以下と言っても「ゼロ」ではないため、当然のことながら「感染しない」とは言えないというのが常識でした。ところが、海外の複数の報告からHIVが継続的に検出限界以下に抑えられているHIVに感染している人からは、約130,000回のコンドームなしのセックスでパートナーのHIV感染がおこりませんでした。
 検出限界以下であってもゼロではないのになぜ感染がおこらないのかについて、クリアカットな説明はできません。ただ、感染している人が治療中ということは体液中にも服用している薬剤が含まれていることで、相手の体内に入ったかもしれないHIVが相手に感染することを防いでいる可能性が考えられます。いずれにせよ、U=Uは以前だったら考えられない感染予防の視点です。T as P(Treatment as Prevention:治療で予防)の時代になったのです。

〇90-90-90
 U=Uが確立されたことで、HIV対策で重要になるのが、感染している人が本人のためだけではなく、社会のためにも治療を受けることです。例えば咳をすることで結核菌を出し続けている肺結核の患者さんは他の人に感染させる可能性がありますので、入院勧告という形で入院治療の対象となります。
 90-90-90というのはHIVに感染している人の90%が検査を受け、その内の90%の人が治療を受け、治療を受けている人の90%が血液検査でHIVが検出限界以下にコントロールされていることを目指しましょうということです。日本では最新の副作用が少ない薬が使えるだけではなく、様々な制度のおかげで患者さんの負担が少ないため感染が判明した人のほとんどが治療を受けています。また、治療を、すなわち抗HIV薬の服薬をきちんとしていればほとんどの人のHIVが検出限界以下になりますので、日本で一番大事なことは感染している人が検査を受ける環境をどう整備するかということです。ちなみに、日本の状況は最悪でも80-95-95と考えています。

●どこでも検査を
 自治体が実施する保健所等でのHIV抗体検査件数は2018年が13万件でしたが、ピーク時の2008年は17.7万件でした。単純計算で27%落ち込んでいるということになりますが、その間に20~59歳の人口は8%減少しています。この数字を見せると、「検査を受ける人が落ち込んでいるのは担当者の普及啓発が足らないからだ」という指摘になりがちですが、少なくとも「心配な人は、心当たりがある人は検査を受けましょう」という旧態依然とした啓発活動ではだめです。
 そもそもなぜ残りの20%の人が検査を受けないのでしょうか。検査というと初期の頃のいろんな呪縛から、プライバシー、匿名、公的機関(保健所)が実施、と言った思い込みが強くないでしょうか。誰もががんになる可能性があるのに、検診を受けない人が多いですよね。健康診断を受けている多くの人は「職場検診」といった半強制的なものだからです。であれば、HIV検査も半強制的でいいと思います。検査件数が増えれば検査の価格も下がります。もちろん、陽性になった場合、未だにある偏見や誤解から解雇といった事態にならないよう、検査会社が陽性を確認した段階で保健所に連絡を入れ、職場の適切な対応を後押しする制度を構築することも重要です。その際、すべての保健所で人材を確保できないでしょうから、その都度、私のようなHIV診療経験を持つ地域の医師を派遣すればいいと思います。
 
〇HIV感染症の医療費
 これまでの累積HIV感染者数は30,149人。死亡報告数は1,003人。現在治療中の患者は約25,000人。1日に服用する抗HIV薬の値段は約7千円。1年で255万円。検査等々を含めると年間約300万円。年間の総医療費が750億円。国民医療費42.6兆円の0.17%です。昨今の日本の医療費削減はジェネリック医薬品の使用が大きな柱になっていますが、抗HIV薬は日進月歩のため、ジェネリック医薬品が出てきたときには日本ではその薬剤が使われていないことが多く、従来の医療費削減方法での効果は期待できません。
 今は、HIV感染が明らかになるとすぐに抗HIV療法が開始されます。2018年の新規感染者数は1,317人ですので、2018年と同程度の感染者の増加があれば、毎年40億円医療費が増えます。逆に予防活動で年に100人の感染が予防できたら、年間3億円、10年累積で165億円の医療費削減です。

●PrEP
 このようなことをFacebookに書いたら「3億円で100人減らせる方法を示せ」と指摘されました(笑)。もちろん「これ」という特効薬はありませんが、これまでのように、「コンドームを使おう」、「検査を受けよう」と正解を発信するだけではなく、いろんな発想の組み合わせを考える必要があります。その最初が先に述べたように「検査」を受ける人を増やすことです。
 PrEP(Pre-Exposure Prophylaxis:暴露前予防投与)という方法もあります。これはHIV感染のリスクがある性行為を行う前に抗HIV薬を服用することで、万が一HIVが体内に入っても感染を予防することを可能にする対策です。海外では2つの成分が入っているツルバダ配合錠という薬が使われ、1回5,000円でPrEPを実施すると感染するリスクを86%下げられるとされています。

〇教科書にゲイを!
 これら以上に強調したいのが「教科書に男性同性愛の記述を!」ということです。敢えて「LGBTQ等の記述を!」と言いません。あくまでもHIV対策という意味で男性同性愛の人が自分のセクシュアリティときちんと向き合える社会をつくることが何より急務です。しかもこの対策は何と予算を増やさずにすぐ出来ます。
 自民党の皆様。教科書の記述を変えるだけで、マスコミがこのことを取り上げ、確実に毎年100人以上の新規HIV感染者数を、毎年3億円、10年累積で165億円の医療費を減らすことができます。ぜひそのような夢が見られる2020年になることを祈念しています。
 
 本年もよろしくお願いします。