紳也特急 249

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
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~今月のテーマ『ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後』~

●『外出自粛要請の意味と副作用』
○『日本人はちゃんと衛生的な行動をしている』
●『「HIV感染予防に割礼」という欧米流公衆衛生』
○『日本人に合った対策を』
●『先生はマスクをしないのですか』
○『優先順位』
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●外出自粛要請の意味と副作用
 人と人の接触を80%減らせば終息へ。
 何も対策を講じなければ死者40万人。
 いろんなことが発信されていますが、皆さんはこれらの情報をどの程度信じていますか。仕事もなくなり、発表されるデータ、発信されるインターネットやSNS等の情報を拝見しながら、少し引いた立場で、客観的に今の状況をどう考えるべきなのか、日本はどこに行くのだろうかを考え続けています。その中で一番気になるのが外出規制、ステイホーム週間といった人と人の交流を遮断する対策の意味と副作用です。確かに人と人が接触しなければ、人が媒介物(fomites)となって広がる感染経路は断てます。しかし、人と人が接しないことで経済の疲弊どころか崩壊、DVや虐待の増加、教育の遅れ、等が現実の問題になってきています。
 元々中国で始まったロックダウンを欧米諸国が取り入れていく中で、日本も右に倣えをしたようにも見えますが、それほど厳しいものではなく、「外出自粛」にとどまっています。感染拡大がある程度コントロールされつつある今こそ「外出自粛」の意味、意義、成果と今後について考えるべきです。そこで今月のテーマを「ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後」としました。

ロックダウンではない「外出自粛」の意味と今後
 
○日本人はちゃんと衛生的な行動をしている
 先の専門家委員会の先生の「何も対策を講じなければ死者40万人」と言う発想は日本人を、日本の公衆衛生(ここでいう公衆衛生は専門家主導のではなく、日本人一人ひとりの衛生概念、衛生行動という意味です)を理解されていないから仕方がないと思います。おそらく海外で作られた、それこそ「衛生」という概念がない地域で作られたモデルで推計をされたのでしょう。それとも「日本人は脅さないとダメ」と敢えて40万人という数字を出されたのでしょうか。
 日本人は家に入る時は靴を脱ぎ、飲食店だけではなく、夜の繁華街でこそお手拭き、おしぼりが当たり前、手洗いの時に蛇口の栓をひねらないように多額のお金を払って自動水栓を広めるだけではなく、トイレの扉も自動。他人に感染させないため自らの感染リスクを無視してマスクをつけている日本人に対して本当に失礼です(笑)。今回、政府がロックダウンではなく外出自粛にとどめたのも、一応国民の衛生行動を理解しているからだと考えています。

●「HIV感染予防に割礼」という欧米流公衆衛生
 では、海外での公衆衛生の視点はどのようになっているのでしょうか。私自身、1994年に横浜で開催された第10回国際エイズ会議での議論が忘れられません。オーストラリアの医者が「アフリカでのHIV感染拡大を防ぐために割礼、包茎の手術が有用である」という発表をしました。確かに統計学的には有用だと証明されているのですが、私は「ほかに手段があるだろう」という思いでした。何より「コンドームが普及すればいい」と思っていましたが、「そんなコンドームを誰が提供し、誰が使い方を教えるのか」と言われてしまうと「ごめんなさい」となってしまいました。「割礼をしなくても剥いて洗っていれば包皮内の炎症は予防でき、感染リスクも下げられます」と話をしたら、やはり「それを、誰が、どう伝えるのか。風呂もないぞ」と反論されました。すなわち、「理屈や理想より現実を」ということでした。それが移民を含め多くの貧困層、教育が浸透していない国民を抱えている、あるいはそのような地域を支えている欧米の公衆衛生関係者の立ち位置です。だから欧米の多くの地域ではロックダウンという選択肢になったと考えています。
 もう一つは欧米人が変えたくない「文化」が背景にあるように思います。欧米の公衆衛生関係者も家の中に土足で入ることのリスクは承知しています。しかし、そこに踏み込むと、それこそ「文化」を相手に喧嘩を売っているようなものなのでそれは避けるでしょう。さらに欧米人は大好きなハンバーガー、フライドポテト、ビザ、サンドイッチ、タコス、ベーグルを素手で食べます。ハンバーガーショップでお手拭きが付くのは日本発のお店です。このように「文化」の差が「公衆衛生」の差になっています。

○日本人に合った対策を
 今回、初期の流行を抑え、医療崩壊を回避するために「人と人の接触を80%減らそう」という呼びかけは理解できます。しかし、流行がある程度抑制されたら「手洗い」や「咳エチケット」といった基本的な情報提供を徹底する必要があるのではないでしょうか。いま一番危惧をしているのが3密という正解が浸透してしまった国民感情です。日本人は真面目なので、自粛解除になっても、「新型コロナウィルスが消えたわけではないので、3密を避け、永遠にテレワーク、宴会禁止、学校閉鎖、ソーシャルディスタンスが重要」と主張し続ける方が出てくるのではないでしょうか。
 スウェーデンが集団免疫を獲得する方向で、国民一人ひとりに考え、できることを実践してもらうようにしていることは大いに参考になります。完璧な終息は当分先の話になりますので、段階的な自粛解除後は前号で述べたように、大きな流行を起こさずに集団免疫を獲得することを目指すしかありません。一人ひとりができることは、結局のところ手洗いと咳エチケット、マスクです。
 
●先生はマスクをしないのですか
 マスクをしないで街中に出ると白い目で見られます。「無症状の人でも感染している可能性があるし、その人と話すだけでエアロゾル感染が、その人が咳をすれば飛沫感染がおこるので、他人に感染させないためにもマスクは当たり前」とされています。
 3週間ほど前、外来診察中にHIVに感染している患者さんが「岩室先生はマスクをしなくても大丈夫なのでしょうか」と真面目に心配してくれました。何を隠そう、この原稿を発信する2週間前から診療をする時にマスクをするようにしています。それまではしていませんでした。理由は簡単です。私がマスクをすることで、私が感染するリスクが高くなるからです。
 いま、医療機関で、それも感染症の指定医療機関で医者や看護師が感染しているのは何故だと思いますか。防御資材の使いまわしもあるでしょうし、現場での緊張感のあまり、マスクの表面をつい触ってしまったり、休憩時間や日常生活でつい油断してしまうからで、本当に気の毒だと思います。この状況こそ医療崩壊と言ってもいいと思います。

○優先順位
 私が感染していて、患者さんに感染させてしまうリスクはゼロとは言えません。ただ、飛沫を直接かけないように診察中は咳をしない。エアロゾル感染と言ったことも言われているので大きな声でしゃべらない。当然のことながら向き合って近距離で話さない。こういうことには気をつけています。
 一方で私が診療の場面で感染するとしたら、病院内に広がっている可能性があるウィルスを私が接触感染、媒介物感染(fomites infection)で取り入れることです。もちろん食事の前の手洗い等々は注意していますが、一番危ないと考えているのが付けなれないマスクの表面を素手で触ることとマスクの使いまわしです。厚木市立病院では職員に配給されるマスクは週1枚で医療崩壊状態です。私が感染したら私が診療しているHIV/AIDSの患者さんを診てくれる医者はいません。そのため、すごくわがままに聞こえるかもしれませんが、「私が感染しないためにマスクをしない」という選択をしていました。
 ただ、今の時代、それこそ外来患者さんが感染し、濃厚接触者として岩室の検査が行われ、実は岩室も感染していたとならないとも限りません。その時は病院の医者ですのでマスコミに公表されることとなります。「前述のような注意をしていました」と言っても通用しないと考え、「外来患者の診察時にはマスクを着用していました」というコメントが出せるよう、アリバイづくりのために、自分自身の感染リスクの優先順位を下げることにしました。
 さていつになったら終息するのでしょうか。皆様もお大事に。

新型コロナウィルスについての考え方
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紳也特急 248

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~今月のテーマ『新型コロナウィルスはどう終息するか』~

●『感染症と付き合ってきたからこそ』
○『感染経路の思い込みのリセットを』
●『「環境の中の総ウィルス量」という考え方』
○『感染した人が出すウィルス量』
●『集団免疫とは』
○『隔離政策の意味と弊害』
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●感染症と付き合ってきたからこそ
 新型コロナウィルスのおかげで、日本には本当に多くの「感染症の専門家」がいたのだと知りました(笑)。と同時に、そんなに感染症に詳しいのなら、どうしてこの人たちはHIV/AIDSが広がった時に診療に当たってくれなかったのか、今でも診療拒否をしているのだろうかと思いました。先日お会いした開業医の方も新型コロナウィルスについて熱く語っておられましたが、HIV/AIDSの話になると「あれは大変な病気ですよね」と、完全に逃げ腰でした。
 AIDS文化フォーラム in 横浜が始まった27年前、感染症の専門家でもない、一泌尿器科医の私がHIV/AIDSを診ざるを得ない状況でした。正直なところ、治療薬もない、接しているだけで感染するかもしれない、と考えながらも、「医師免許」をいただいている限り診療するのは当たり前という立場で、でも自分自身が感染しないために何ができるかを考え続けていました。だからこそ「感染症」ということをいろんな角度から考え続けることができました。
 いまの世の中はまるで30年近く前のエイズパニックのような状況です。ただ、当時と違うことは、志村けんさんが亡くなられたように、新型コロナウィルスを身近な問題と受け止めてくれている人が多いことです。新型コロナウィルスはいずれ終息します。なぜかと言うと、今感染されている方の多くは治癒されているからです。
 そこで今月のテーマを「新型コロナウィルスはどう終息するか」とし、終息に向かうということはどういうことか、そのためには何が必要か、一人ひとりができることは何かを考えてみました。

新型コロナウィルスはどう終息するか

○感染経路の思い込みのリセットを
 様々な報道が誤解を生み、空気中に浮遊しているウィルスで感染すると思っている人が大勢います。しかし、満員電車での通勤を余儀なくされている首都圏のサラリーマンの中で感染爆発は起きていません。この事実こそが新型コロナウィルスの空気感染やエアロゾル感染を否定しています。もちろん医療機関での人工呼吸器等の使用時は別問題です。主な感染経路は、感染している人から飛び出した飛沫が落下、付着したところを触る接触感染です。ところが「感染経路がわからない人が増えている」と言った報道があると「やっぱり空気感染!!!」となっていないでしょうか。
 残念ながら亡くなってしまった志村けんさんを引き合いに、「3密」が危険。人に近づくな、人と近距離でしゃべるな、換気をしろと言われていますが、「3密」の状況での感染拡大も接触感染で十分説明ができます。
 「濃厚接触者」という言葉も誤解を与えていて、一緒にいた人の中に感染源となった人がいるような錯覚を与えています。しかし、感染源は実は「前の日にその人たちと同じ空間を利用した人」かもしれません。だからこそ「感染経路がわからない」ということになります。では、何に着目し、事態の終息を目指せばいいのでしょうか。

●「環境の中の総ウィルス量」という考え方
 新型コロナウィルスに感染しないために個人が感染予防に気を付けることが基本です。東京都も「接待を伴う飲食店などで感染した可能性があるので、当面行かないよう呼びかけ」と報道しています。しかし、終息を見据えた対応を考えるためには、「個人」ではなく「集団」としてどのような状態を目指すべきかという視点が重要です。
 人が暮らしている環境、空間に目を向け、そこに存在するウィルスの量をイメージしてください。無数のウィルスがあちらこちらに付着している場合と、ここに少し、あちらに少し、と少量のウィルスが、限られた環境にしかない場合では感染リスクが大きく異なります。すなわち、人が暮らす環境に、空間に存在するウィルスの総量が少なければ少ないほど接触感染のリスクは下がります。渋谷のスクランブル交差点を渡っていると必ずと言っていいほど他人に触れますが、田舎の田んぼ道だと、人と会うことの方が少ないです。感染拡大を終息に向かわせるために、どうやって環境の中に存在するウィルスの絶対量を減らせばいいのでしょうか。
 
○感染した人が出すウィルス量
 新型コロナウィルスに感染した人がたどる5つのパターンと、その際に排出されるウィルス量( )です。症状が少なければ排出するウィルス量は少なく、重症化すればするほど排出するウィルス量は多くなります。
 
 1 感染 →  発症 (中)→ 重症化(多)→ 死亡
 2 感染 →  発症 (中)→ 重症化(多)→ 治癒 → 免疫獲得
 3 感染 →  発症 (中)→ 治癒 → 免疫獲得
 4 感染 → 無症状(少)→ 免疫獲得
 5 感染 → 無症状(無)→ 免疫獲得
 
 シンプルに考えれば、免疫獲得を獲得している人はウィルスに暴露されても感染しませんので発症も、重症化もしません。免疫がなければもらうウィルス量が少ないほど軽症で済み、多いほど重症化するリスクが高まると考えられます(もちろんご本人の免疫力や基礎体力、持病、喫煙歴等々も影響しますが)。ちなみに、私は幼児期の予防接種の際、注射器の使いまわしが行われていた世代のため、B型肝炎ウィルスに感染しました。ただ、幸いなことに暴露されたウィルス量が少なかったからか、抗体はできたのですが、いわゆるB型肝炎ウィルスの持続感染者にならずに済んでいます。
 すなわち、感染する際に体内の取り入れるウィルス量を減らすことで感染した人が軽症で済み、その人が環境中に排出するウィルス量を減らすことになります。だから、手洗い等で体内に取り込むウィルス量を減らすことがその人からの感染拡大を減らすことにもつながります。

●集団免疫とは
 新型コロナウィルスには今のところワクチンはありません。しかし、これまでにウィルスに感染し、治癒された方はその時点でワクチンを打ったと同じ免疫を獲得した状態になっています。
 例えば誰も免疫を持っていない10人が、ウィルスがあちらこちらに付着している環境(例えば、飲食やカラオケをした店のドアノブ、机、椅子、トイレのドアノブ、等々)を利用したとします。10人全員が手洗いに無頓着だと多くの人が感染して発症することでしょう。しかし、手洗いをとりあえずする人は発症を免れ無症状感染に、手洗いを丁寧にする人は免疫獲得だけにとどまる可能性があります。すなわち、手洗いを丁寧にする人を増やしておけば、感染暴露が続いたとしても、結果として重症者は減り、免疫を獲得する人が増え、集団自体が免疫を獲得していくことになります。

○隔離政策の意味と弊害
 いま、諸外国ではロックダウン、日本では首都圏封鎖と言ったことが言われています。人と人の交流を遮断する意味は唯一「感染する人を減らす」ことです。もちろん爆発的な患者増が起これば医療機関はパンクし、人工呼吸器やECMO(人工心肺)が不足し、助かるべき人も助けられない可能性が高まるので、ロックダウン自体は医療の確保といった目的が明確であれば大事な選択肢です。しかし、ロックダウンの弊害もあります。集団免疫の観点から考えると、集団免疫を獲得するまでの時間を先延ばしにすることになり、結果として感染拡大の終息時期が先送りになります。
 このように、何を優先事項として考え、何を目指すのかを明確にすれば、終息への歩みを着実に進められるのではないでしょうか。しかし、トピックスに飛びつくような対応を繰り返している限り、結果として終息への歩みを遅らせてしまいます。着実にできることは何か。私は丁寧に、食事の直前の手洗いを励行したいと思います。

新型コロナウィルスについての考え方
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紳也特急 247

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~今月のテーマ『いまからできる新型コロナウィルス対策』~

●『信じられない対応』
○『資格と専門と知識は一致しない』
●『手洗い』
○『マスクはしない』
●『入浴』
○『リスクゼロではなく、リスク軽減を』
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●信じられない対応
 いまさらですが、「クルーズ船下船の栃木の60代女性感染確認」というニュースを皆さんはどうとらえられたでしょうか。
 ただただあきれるばかりです。新型コロナウィルスについてはわかっていないことが多かったので断定的なことを発信することを少し控えてきました。しかし、日本中で感染者が確認される状況となっただけではなく、ウィルスを培養していると揶揄されたクルーズ船から、厚生労働省に許可もらって下船した人が、下船直後に発症し感染が確認されました。いま、日本は新型コロナウィルス感染列島になったという認識が必要です。
 そこで、本号を前倒しで発信し、「いまからできる新型コロナウィルス対策」を考えてみました。

いまからできる新型コロナウィルス対策

○資格と専門と知識は一致しない
 医師という資格を持っていても感染症が全く分かっていない人は大勢います。日本感染症学会の専門医であっても、感染症が専門と名乗っていても、感染症の治療をしていても、感染症のすべてがわかっているわけではありません。もっと困ったことに、感染症の専門家としてマスコミ等で発信している人たちの中で、データを集め、論文を多数書き、「教授」や「所長」になった方々の中には、このメルマガでお伝えする、小学生でもわかる内容を的確に説明できない方が大勢います。何より証拠に、世界が呆れた「14日間の健康観察期間後の下船」という厚生労働省関係の専門家たちの判断がなされ、現に下船後に発症する人が出ました。論より証拠です。批判はここまでにして、いまからできることを考えます。

●手洗い
 新型コロナウィルスに感染している人から他の人が感染するルート、感染経路は二つです。

1.感染している人の咳やくしゃみで、飛沫(しぶき)の中のウィルスを直接口、鼻、目の粘膜につける。

  できること
    口を開けた状態で人に合わない
    咳やくしゃみをかけられそうになったら2メートル離れる
    咳やくしゃみをかけられたら口と目を閉じ、息を20秒止めた後、顔と目を洗う
    
2.感染している人が咳やくしゃみで飛び出た飛沫の中のウィルスが落下して付着したところを触った手についたウィルスを、口の中に入れる。

  できること
    おにぎり、サンドイッチ、お菓子など、口にいれるものをつかむ前に手を洗う
    コップ、湯飲みなどのふちは触らない
    花粉症の人はマスクをする前に手を洗って装着する
    マスクを一度つけたら絶対に表面を触らない(不可能ならマスクはしない)
 
 1は「飛沫感染」の注意点です。顔の皮膚についても、そこからは感染しません。
 2は飛沫として飛び散っていろんなところに落下した飛沫の中のウィルスを手に付けて口の中に運ぶ「接触感染」の注意点です。だから感染につながる行為を行う前の手洗いが重要です。一方で、無意識の内にそれらの行為をしてしまうこともあるので、手洗いは頻回に行いたいものです。

○マスクはしない
 マスクをしている人は空気中に浮遊しているウィルスを吸い込まないためと思っていないでしょうか。とんでもない誤解です。新型コロナウィルスは空気中に浮遊しません。すなわち空気感染(飛沫核感染)ではありません。飛沫(しぶき)はすぐに落下しますので、一番の感染経路は正確に言うと飛沫として飛び散って各所に付着したウィルスとの「接触感染」です。
 手についた飛沫の中のウィルスをマスクの表面につけると、呼吸をしている内に口の中に吸い込んで感染します。だから私は「マスクはするな」と言っています。実際、マスクをしている人をよく観察してください。皆さん、無意識の内に表面を触っていますよね。子どもにマスクをつけさせる親の気がしれません。
 「咳やくしゃみをかけられたらどうするのか」と反論する人が必ずいます。では「咳やくしゃみをかけられて感染する」確率と、「無意識に手でマスクの表面を触って感染する」確率とどちらが高いかを考え、ご自分で選択してください。

●入浴
 新型コロナウィルスに限らず、世の中には様々な病原体が各所に付着しています。体外に出た新型コロナウィルスがどれだけの期間、感染力を持ち続けるかはわかっていません。しかし、いろんな状況から考えると、10日間、感染力を持ち続けている可能性が否定できません。
 そのため、外出したら手だけではなく、顔にも、衣服にも新型コロナウィルスが付着していると考えてください。でも大丈夫です、それだけでは感染しません。口や鼻を通して体内に入れなければいいのです。朝は顔を、手を洗ってから食事をします。夕食の時もそうしているでしょうが、私はいろんな患者さんが来る病院から帰った時はもちろんのこと、毎晩、入浴し、体だけではなく髪も洗い、いろんな病原体を洗い流します。その後、毎日洗ってもらっているバスタオルで体をふき、毎日洗ってもらっているパジャマに着替えてから夕食にしています。これも常識的な感染症予防対策です。

〇リスクゼロではなく、リスク軽減を
 人間が行うことなのでリスクをゼロにはできません。しかし、頻回に手洗いをすることで、100個のウィルスを10個に、1個に減らすことができれば、例えそのウィルスが体内に入ったとしても、重症化せず、もしかしたら上手に抗体だけを作って、発症も予防できるかもしれません。
 とかく日本人は「完璧」を求めますが、いまできることはリスクを一つずつ減らしていくことです。中国で、韓国で、そして日本でどうしてこんなに患者さんが増えているのでしょうか。私は「マスク」というリスクについて、多くの専門家だけではなく、市民も考えていないからだと思っています。
 「マスクをしない」リスクと、「マスクをする」リスクについて改めて考えてみてください。でも、習慣化されたことを変えることはすごく難しいのです。だから新型コロナウィルスの感染拡大が止まらないのではないでしょうか。

付録:新型コロナウィルス対策のためのYouTube

マスクで広がる!?新型コロナウィルス、インフルエンザウィルス

今からできる新型コロナウィルス対策

 

紳也特急 246

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~今月のテーマ『マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス』~

●『生徒の感想』
○『自分勝手に解釈』
●『感染経路を正確に知ろう』
○『空気感染』
●『飛沫感染』
○『接触感染』
●『コロナウィルス報道から読み解く感染予防』
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●生徒の感想
 自分自身、インターネットやテレビなどの情報を見て、それをすぐに正しいと思ってしまうところがあるので、様々な危険を避けるためにも、見ただけで情報を受け取るのではなく、他の誰かに聞いたり、話したりしてすぐにその情報が正しいと思わないようにしたいと思います。(中3女子)

 はじめは知っていることを言われるだけだと思ったけど、想像以上に学べたからよかった。(高1男子)

 今まで私は人に頼るということをあまりしてきませんでした。今はネットで検索すればいくらでも対処法は出てくるので、そういうものの力を借りて解決するか、自分で考えるか、それでも無理だったらあきらめるというような手段ばかり選んでいました。それが普通だと思っていたし、他人に悩みを打ち分けたところで、自分の弱みを見せびらかして、恥ずかしくなって相手にはただ迷惑なだけだろうと思っていました。
ですが今回岩室先生のお話の中で、誰かに迷惑をかけるのは悪いことではなく、話すだけでも癒されることを教えていただき、自分の中でため込んでしまうと、そのうち犯罪に手を出してしまったり、自殺してしまう人もいるというのも知りました。
私は幸いお互いに迷惑をかけあうことができる友達はいるので、せめてそういう人には勇気を出して相談するように心がけていきたいです。(高1女子)

 岩室先生のお話で最も印象に残っているのは「人は経験からしか学べない。経験してないことは他人ごと」というお言葉です。先生は私たちを「高校生」と一くくりにせず、多様性を認め、対等にお話をして下さいました。話の仕方も聞く側があきずに楽しめる方法でした。本当に貴重な経験になりました。ありがとうございました。(高1女子)

 若い世代はこれらの感想のように、彼らとちゃんと向き合い、分かりやすく、論理立てて話すと、こちらの思いをちゃんと受け止めてくれます。というか、ちゃんと受け止める力があります。ところが、どうも大人になると自分はおろか、周囲も気づかない認知障害が徐々に進行し、情報を断片的に、しかも自分に都合がいいようにしか受け取れないのではないでしょうか。いま、新型コロナウィルス騒動のため、巷からマスクが消えてしまった日本は異常としか言いようがありません。そこで今月のテーマを敢えて、大胆に「マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス」としました。

マスク経由で感染する(?)新型コロナウィルス

〇自分勝手に解釈
 いま、新型コロナウィルスで世間は大騒ぎで、このパニック騒動でマスクが売り切れています。テレビ、ラジオ、ネットでもいろんな情報が発信されています。NHKや、公衆衛生の専門家から見てまともな医者はちゃんと適切な情報を流しています。しかし、認知障害が進んでいる日本の大人たちは自分にとって都合がいい「マスク」という言葉だけを受け取っています。

 自分が新型コロナウィルスに感染しないために、自分がマスクを装着することが大事

と解釈するのですね。ところが、発信されている正確な情報は次のような内容です。

 あなたが咳、くしゃみなどの症状があれば、他の人に感染させないため、あなたがマスクを装着してください

と言っています。このような内容の動画はHPにもアップしていますが、YouTubeでも「マスクで広がるインフルエンザ」といった内容のものもアップする予定です。「えっ、どうして?」と思った方はしっかりこのメルマガを読んでください。そして、疑問、反論、意見はぜひ送ってください。

●感染経路を正確に知ろう
 中学校の教科書にも病原体がどのような経路で人から人、動物から人に移るかを正確に知る必要があることが書かれています。しかし、残念ながらHIV/AIDSでもそうですが、日本では医者でさえも正確に理解している人が少ないのが現状です。今回の新型コロナウィルス問題で感染経路として理解しておきたいのが、空気感染、飛沫感染、接触感染の3つです。

〇空気感染
 「空気感染」というのは字のごとく空気中に病原体が浮遊している状態にあり続け、その病原体を吸い込むことで同じ空間にいる人が感染します。ウィルスはもちろんのこと、細菌も目に見えないので素人的にはインフルエンザも、結核も、新型コロナウィルスも全部同じ感染経路に思えてしまうでしょうが、ここの整理と理解がすごく重要です。この「空気感染」は正確には「飛沫核感染」といい、飛沫の核が感染するという意味です。空気感染する代表的な感染症は結核、水痘(水ぼうそう)、麻疹(はしか)です。例えば咳で肺から結核菌を排菌している人がいた場合、同じ空間にいるだけで周囲の人に感染させる可能性があるため、隔離した上での治療ということが行われます。
 では、医療者は排菌している結核患者さんを診察する際にどのような注意をするのでしょうか。一番重要かつ簡単な予防法は風上に立つことです。結核菌は風下に運ばれるため感染することを予防することができます。患者さんを搬送する場合、車の後部座席に座っていただき、窓を開け、前から後ろに空気の流れをつくることで運転手の感染予防効果が高まります。一般的なマスクだと結核菌は素通りしてしまうので、結核菌を通さないN95というタイプのマスクが使われます。ただ、このマスクは顔に密着させなければ効果がなく、密着させると装着している人が呼吸することが難しいほどで、装着できるのはせいぜい20分程度です。

●飛沫感染
 「飛沫感染」は字のごとく飛沫(しぶき)で感染が起こります。先の空気(飛沫核)感染と字の違いが重要です。「沫」とは泡(あわ)を指し、広辞苑には「液体が空気を含んで、まるくふくれたもの。気泡。あぶく」とあります。誰かのくしゃみを浴びたことはありますか。あるいは自分自身のくしゃみを感じたことはありますか。水分が飛び散りますよね。すなわち、飛沫感染とは病原体に水分が付着した状態で飛び出したあわによる感染です。もちろん1メートル以内の近距離にいる人のくしゃみを浴びれば感染する可能性があります。逆に言うと2メートル以上離れていれば、飛沫は飛んでこないで途中で落ちてしまうので感染は起こりません。これが空気感染、飛沫核感染との大きな違いです。
 空気中を浮遊しない飛沫はどうなるでしょうか。重力により、落下し、周囲の家具、ドアノブ、蛇口等々に付着します。咳エチケットということが言われていますが、一番の基本は自分の手で、特に手のひらで咳やくしゃみを受け止めないことです。手のひらで咳を受け止めると手のひらに飛沫、病原体をつけることになります。飛沫感染は実は接触感染とのセットで考える必要があります。自然に落下した病原体だけではなく、手のひらに着いた病原体は手が触れたすべての場所に広がってしまうのです。ぜひ肘で咳を受け止めてください。
 一般的なマスクが有効なのは、既に感染し、かつ咳やくしゃみと言った病原体を体外に出すことにつながる症状がある人は、マスクを着用することで飛沫が周囲に飛び散らないようにするのです。でも、一番良いのは外出をしないことです。

〇接触感染
 「接触感染」は字のごとく接触で感染が起こることです。皆さんが出かけるところには当然のことながら既に病原体がまき散らかされている可能性があります。病原体にあることに気づかずに、というか気づかないのが普通ですが、病原体が付着した場所を触ってしまい、その手を自分がしているマスクに当てたとします。飛沫付きの病原体がマスクに付着します。呼吸で飛沫が乾燥すると病原体がマスクを素通りして吸い込まれます。予防のためにしているつもりのマスクが実は感染源になってしまうのです。

●コロナウィルス報道から読み解く感染予防
1.インフルエンザとの違い
 新型コロナウィルスの感染者数が10,000人を超え、死者が259人という報道は「怖い」というイメージを植え付けています。しかし、2019年1月に、日本で、インフルエンザで亡くなった方は1,685人です。インフルエンザにはワクチンがあり、症状を抑える薬があってもこれだけの方が亡くなっています。中国の報道からも免疫力が衰えている高齢者や持病がある方が多いというのはある意味インフルエンザと同じ状況です。

2.事実から紐解く感染経路
 日本でバスの運転手さんとバスガイドさんが感染したという事実は次のように考えるべきです。もちろん空気感染の可能性は否定できません。だとすると、このバスに乗っていた他の乗客の中での感染状況をぜひとも中国に確認し、公表してもらいたいです。
 「ほとんどの客が感染していた」となれば、今のバスは密閉性が高いので空気感染が強く疑われ、しかも感染力がすごく強いということになります。
 飛沫感染だとすると、ガイドさんがマスクをしないで接していたとすると、近くの乗客が感染し、バスの後方の座席の乗客は感染していないという結果になっているはずです。
 乗務員は感染していたが、バスの客はあまり感染していなかったということになるとどうでしょうか。乗務員の方の行動様式が感染につながったと考えられます。報道によれば、最初に感染した運転手の方は関西と関東を往復する際に、行きはマスクをせず、帰りはマスクをしていたということです。空気感染が否定されれば、やはりマスクが接触感染のリスクになったとして考えられます。
 バスガイドさんは運転手さんからの感染とされていますが、運転手さんがマスクをされていたということであれば、やはり接触感染が疑われます。バス内の清掃をする際に、ウィルスを手からマスクに付けた可能性も考えられます。
 過去のコロナウィルス感染が飛沫感染と言われているので、今回もインフルエンザ同様の感染経路と考えていいのではないでしょうか。

3.全員が発症しない
 武漢から帰ってこられた日本人の方の中に無症状にもかかわらず新型コロナウィルスに感染している人が確認されています。これはインフルエンザも同じですが、感染しても発症しない人がいる可能性を示唆しています。この方々がその後どのような経過をたどるかをぜひ公表してもらいたいのですが、感染しても自分の免疫力で抑えられる人がいるウィルスということになります。

4.治療法
現時点で新型コロナウィルスを体内から駆逐できる確実な抗ウィルス剤が存在しない以上、また、免疫力で発症しない人がいる可能性を考えれば、日頃から体力をつけておくことしか治療法はないと言えます。もちろん、様々な合併症も考えられますので、症状が出た時は感染症の専門機関にかかることが大事ですが、ただの風邪の人が、免疫力が落ちた状態で、必要がないマスクをいじりながら、実際に新型コロナウィルスの患者が実はウィルスを病院内にばらまいているところに行くと・・・・・。自分でよく考えてください。

5.で、どうする?
 新型コロナウィルスについて現時点で確定的なことはもちろん言えません。
 空気感染なら「同じ空気を共有しない」という対策しかないのです。バス等の密閉環境で働く方は少なくとも「症状がある方はこのご時世ですので、この空間を共有することをご遠慮いただければ幸いです」としたいものです。タクシーの方はほんの少しだけ前と後ろの窓を開け、空気の流れを作ってください。
 飛沫感染、接触感染対策を取るのであれば、とにかくいろんなところを触ってしまう手を顔に近づけないことです。マスクを装着するなんて言語道断です。この原稿を読んだにもかかわらず子どもにマスクをつけさせている保護者の読解力を疑います。もっともそのような人でも読みたくなる、理解できるような原稿が書けない岩室の表現力も未熟と反省です(苦笑)。

紳也特急 245

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行) 
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~今月のテーマ『HIV対策のブレイクスルー』~

●『生徒の感想』
○『薬の劇的な進歩』
●『U=U』
○『90-90-90』
●『どこでも検査を』
〇『HIV感染症の医療費』
●『PrEP』
〇『教科書にゲイを!』
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新年、明けましておめでとうございます。
 昨年も相も変わらずいろんなことに首を突っ込み、いろいろと考え続けさせていただきました。本年も試行錯誤を続けたいと思います。
 新年早々、FMで「THINK ABOUT AIDS」に出演します。
 1月1日18:00-18:55 FMとやま
 1月3日19:00-19:55 広島FM	
 ぜひ聞いてください。

●生徒の感想
 本日は講演会をしていただき、ありがとうございました。前からどんな話が聞けるのか楽しみにしていました。思ったより数倍楽しくて、とても良いことを聞いたなあと思いました。包茎友の会会長に任命していただきありがとうございました。AVについて質問できたのでうれしかったです。依存について良く知れてよかったです。覚せい剤を使う人は、おかしい、バカだなと思っていましたが、先生の話を聞いて、そういう人に対してかわいそうと思いました。ちゃんと話を聞いてあげないといけないと思いました。(中3男子)

 私は今までにもこういった「講演会」を聞いてきました。でも、どの講演会も性に関するワードがにごされていて、自分の中でどこか「大人ってそんなもんだよな」、「大切な話って言ってるだけで、本当は自分で言うのもはずかしいんでしょ」、「今の世の中、そういうことを言ったらダメだもんね」と思っていたところがありました。でも岩室先生は私の中のイメージを思いっきりぶち壊していきました。ためらうこともなく、ありのままの言葉で私たちに教えてくださったり、笑う人に向けて「それは違う!」と言っていた姿に、すごい人が来たな!と思いました。(中3女子)

 岩室先生はとても広い視点を持っている人でした。一つの物事に対して、世間の意見や社会の風潮に独自の意見と考え方で見ることができていました。僕も一つのことには様々な視点で考えるようにはしていますが、岩室先生の視点は初めてでした。それはなぜかと講演後考えていました。僕の結論としては、岩室先生はそのような視点で考えさせられる経験をしていた。僕はしていなかったというものでした。まさに「経験していないことは他人ごと」だったわけです(高1男子)
 
 私は岩室先生に「二次元しか好きになれないのですが、なにか具体的な解決法などありますでしょうか?」という質問をしました。先生の答えは「画面の女の子に触れていると虚しく感じられるのではないだろうか」というお答えをいただきました。帰ってから実践してみたのですが、虚しく感じるどころか、更に推しがかわいく思えてしまったという結果で終わりました。ですが、先生の話を聞いて、リアルにも少し希望を持てたので良かったです。(高1男子)

 今後の“性活”に活かしたい話でした。(中3男子)

 バーチャルYouTuberの由宇霧さんのチャンネルでコラボされていた動画を見ていて、この講習の前にもいろいろ勉強させていただいていました。(高1男子)

 生徒さんの反応はいつも勉強になります。一方で大人たちは頭が固いのか、こちらの伝え方が悪いのか、なかなかこちらの発信に対して反応してくれません。ところが、HIV/AIDS対策について医療費の観点から指摘をしたところ、非常に興味を示していただきました。また、ちょうど同時期に医学書院の「公衆衛生」という雑誌でHIV/AIDS対策の特集を企画する機会をいただきましたので、改めて2020年以降のHIV/AIDS対策について考えたいと思いました。そこで新年のテーマを「HIV対策のブレイクスルー」としました。

HIV対策のブレイクスルー

〇薬の劇的な進歩
 今回のテーマをHIV/AIDS対策ではなくHIV対策としたのも、AIDSという状態になった人への対応方法はほぼ確立されているのですが、HIVとの向き合い方についてはまだまだ多くの議論が必要と思ったからです。
 今年で27回目を迎えるAIDS文化フォーラム in 横浜(2020年8月7日(金)~8月9日(日))ですが、この四半世紀の間に大きな変化が起こっていました。ところが、人間は不思議と過去に強烈な印象を叩き込まれると、その呪縛からなかなか抜け出せないものです。1994年に第1回のAIDS文化フォーラム in 横浜が開催された時は、HIVを今のようにコントロールする薬がありませんでした。後に主流になった3剤併用療法ができるようになったのが1997年のインジナビルからでしたが、1日1500㏄以上の水分を摂取する必要があったり、1999年から使えるようになったエファビレンツは変な夢を見たりするなど、副作用が強く、服用し続けられない人も少なからずいました。ところが、今では一日一回食事に関係なく一錠飲めばいい、副作用の少ない薬も開発され、多くの方がそれほど苦痛なく薬を服用し続けられる状況になりました。

●U=U
 一般的にどのような治療薬であっても、その役割は使っている患者さんのためと考えてしまいます。しかし、最近はU=U、すなわち薬を服用することで、患者さんの血液検査でHIVが検出限界以下(undetectable)の状態になっていれば、その人がコンドームなしでパートナーとセックスをしても相手に感染させない(untransmittable)ということが明らかになっています。
 抗HIV薬で血液中のウィルス量が検出できない程度まで抑えられるということは、当然のことながら他の体液中のHIVも抑えられていることは予想できます。かなり前の話ですが、残念ながら亡くなってしまったパトリックの協力を得て、精液中のHIVを検査したところ、血液同様検出限界以下でした。ただ、検出限界以下と言っても「ゼロ」ではないため、当然のことながら「感染しない」とは言えないというのが常識でした。ところが、海外の複数の報告からHIVが継続的に検出限界以下に抑えられているHIVに感染している人からは、約130,000回のコンドームなしのセックスでパートナーのHIV感染がおこりませんでした。
 検出限界以下であってもゼロではないのになぜ感染がおこらないのかについて、クリアカットな説明はできません。ただ、感染している人が治療中ということは体液中にも服用している薬剤が含まれていることで、相手の体内に入ったかもしれないHIVが相手に感染することを防いでいる可能性が考えられます。いずれにせよ、U=Uは以前だったら考えられない感染予防の視点です。T as P(Treatment as Prevention:治療で予防)の時代になったのです。

〇90-90-90
 U=Uが確立されたことで、HIV対策で重要になるのが、感染している人が本人のためだけではなく、社会のためにも治療を受けることです。例えば咳をすることで結核菌を出し続けている肺結核の患者さんは他の人に感染させる可能性がありますので、入院勧告という形で入院治療の対象となります。
 90-90-90というのはHIVに感染している人の90%が検査を受け、その内の90%の人が治療を受け、治療を受けている人の90%が血液検査でHIVが検出限界以下にコントロールされていることを目指しましょうということです。日本では最新の副作用が少ない薬が使えるだけではなく、様々な制度のおかげで患者さんの負担が少ないため感染が判明した人のほとんどが治療を受けています。また、治療を、すなわち抗HIV薬の服薬をきちんとしていればほとんどの人のHIVが検出限界以下になりますので、日本で一番大事なことは感染している人が検査を受ける環境をどう整備するかということです。ちなみに、日本の状況は最悪でも80-95-95と考えています。

●どこでも検査を
 自治体が実施する保健所等でのHIV抗体検査件数は2018年が13万件でしたが、ピーク時の2008年は17.7万件でした。単純計算で27%落ち込んでいるということになりますが、その間に20~59歳の人口は8%減少しています。この数字を見せると、「検査を受ける人が落ち込んでいるのは担当者の普及啓発が足らないからだ」という指摘になりがちですが、少なくとも「心配な人は、心当たりがある人は検査を受けましょう」という旧態依然とした啓発活動ではだめです。
 そもそもなぜ残りの20%の人が検査を受けないのでしょうか。検査というと初期の頃のいろんな呪縛から、プライバシー、匿名、公的機関(保健所)が実施、と言った思い込みが強くないでしょうか。誰もががんになる可能性があるのに、検診を受けない人が多いですよね。健康診断を受けている多くの人は「職場検診」といった半強制的なものだからです。であれば、HIV検査も半強制的でいいと思います。検査件数が増えれば検査の価格も下がります。もちろん、陽性になった場合、未だにある偏見や誤解から解雇といった事態にならないよう、検査会社が陽性を確認した段階で保健所に連絡を入れ、職場の適切な対応を後押しする制度を構築することも重要です。その際、すべての保健所で人材を確保できないでしょうから、その都度、私のようなHIV診療経験を持つ地域の医師を派遣すればいいと思います。
 
〇HIV感染症の医療費
 これまでの累積HIV感染者数は30,149人。死亡報告数は1,003人。現在治療中の患者は約25,000人。1日に服用する抗HIV薬の値段は約7千円。1年で255万円。検査等々を含めると年間約300万円。年間の総医療費が750億円。国民医療費42.6兆円の0.17%です。昨今の日本の医療費削減はジェネリック医薬品の使用が大きな柱になっていますが、抗HIV薬は日進月歩のため、ジェネリック医薬品が出てきたときには日本ではその薬剤が使われていないことが多く、従来の医療費削減方法での効果は期待できません。
 今は、HIV感染が明らかになるとすぐに抗HIV療法が開始されます。2018年の新規感染者数は1,317人ですので、2018年と同程度の感染者の増加があれば、毎年40億円医療費が増えます。逆に予防活動で年に100人の感染が予防できたら、年間3億円、10年累積で165億円の医療費削減です。

●PrEP
 このようなことをFacebookに書いたら「3億円で100人減らせる方法を示せ」と指摘されました(笑)。もちろん「これ」という特効薬はありませんが、これまでのように、「コンドームを使おう」、「検査を受けよう」と正解を発信するだけではなく、いろんな発想の組み合わせを考える必要があります。その最初が先に述べたように「検査」を受ける人を増やすことです。
 PrEP(Pre-Exposure Prophylaxis:暴露前予防投与)という方法もあります。これはHIV感染のリスクがある性行為を行う前に抗HIV薬を服用することで、万が一HIVが体内に入っても感染を予防することを可能にする対策です。海外では2つの成分が入っているツルバダ配合錠という薬が使われ、1回5,000円でPrEPを実施すると感染するリスクを86%下げられるとされています。

〇教科書にゲイを!
 これら以上に強調したいのが「教科書に男性同性愛の記述を!」ということです。敢えて「LGBTQ等の記述を!」と言いません。あくまでもHIV対策という意味で男性同性愛の人が自分のセクシュアリティときちんと向き合える社会をつくることが何より急務です。しかもこの対策は何と予算を増やさずにすぐ出来ます。
 自民党の皆様。教科書の記述を変えるだけで、マスコミがこのことを取り上げ、確実に毎年100人以上の新規HIV感染者数を、毎年3億円、10年累積で165億円の医療費を減らすことができます。ぜひそのような夢が見られる2020年になることを祈念しています。
 
 本年もよろしくお願いします。

紳也特急 244

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~今月のテーマ『コンドーム』~

●『生徒の感想』
○『コンドーム柄ネクタイにニタニタ』
●『他人と違う面白さ』
○『コンドームは破れる』
●『性感染症になって何が悪い』
○『ダブルコンドーム?』
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●生徒の感想
 はじめてプロジェクターなし、マイク1本での講演会を聞きました。すごく疲れたけど、お話しされてた事、全部一所懸命聞いていられました。(中3女子)

 映像を使っていなかったので先生と一対一で聞いているような気持になって、先生の話がより深く伝わってきました。(中3女子)

 会話をすること、それが人にとって一番のストレス解消法になるというところが印象に残りました。人とのコミュニケーションを大事にするとともに、話の聞き上手にもなればいいなと思いました。(中3女子)

 「性教育講演会」なんて2年生でやったから別にいいのに・・・なんて思っていた。が、3年生になって思わされた。性教育講演会というのは、将来を通して「何回も」学ばなければならないということ。「相手の意見を聞く」ことは何より必要だという言ことがわかった。(中3男子)

 私は少し人見知りなところがあるのですが、人とのコミュニケーションが大事だということを知り、困っていること、嬉しかったことなどを親や友達にどんどん話していこうと思いました。(中3女子)

 私は性のことについてあまり好きじゃなく、親とも話さないし、友達とも話さないし、恥ずかしかったりするけど、誰かに話すと人はいやされるって岩室先生は私たちのために堂々といろんな話をして、とても性や生命は大事ということが印象に残った。先生はたくさんの死を目にしたり、友達をたくさん失っているのに、先生としてたくさんのことを受け継いでいるのがすごいなと思った。(中3女子)

 人は経験に学び、経験していないことは他人ごとです。だから「命を大切に」、「相手を思いやろう」といった言葉を平気で話せる大人は大っ嫌いです(笑)。でも、私の話を聞かないで、あるいは聞いていても「岩室さんも『コンドームを付けよう』と言っているんじゃないですか?」と言う方がいます。そこで今月のテーマをずばり「コンドーム」としました。

コンドーム

〇コンドーム柄ネクタイにニタニタ
 日本エイズ学会に向かうため空港内のバスに立って乗っていたら、目の前の60歳前後のご夫婦がコンドーム柄のネクタイを見てヒソヒソ話。「素敵なネクタイですね」とでも声をかけてもらえればいろんな話ができたのに残念でした。また、こちらから声掛けをすることも考えたのですが「声をかけないで」というオーラが出ていたので諦めました。でも、よく考えてみるとそのご夫婦もコンドームのお世話になっているはずなのに、どうしてコンドームは秘め事なのでしょうか。そこで改めて何でコンドーム柄のネクタイをしているのかを振り返ってみました。
 最初にコンドーム柄のネクタイを私にプレゼントしてくださったのが性教育の大御所の北沢杏子さんでした。デンマークで見つけて「これはコンドームの達人の岩室さんにプレゼントしなくちゃ」とくださったのが何年前だったか忘れました。その次に同じようなコンドーム柄のネクタイをプレゼントしてくださったのが、今や日本家族計画協会の理事長になられた北村邦夫先生でした。「香港の空港で見つけた」と言ってプレゼントしてくれました。この紳也特急の配信を手伝ってくださっている渡部さん(元Campus AIDS Interface代表、現認定NPO法人子宮頸がんを考える市民の会理事長)が、秋葉原でコンドーム柄のネクタイを見つけたので買い占めてくださったおかげで、福山雅治さんにプレゼントをし、ツーショットを撮ることができました。このようにいろんな人のおかげで「コンドーム柄のネクタイの岩室紳也」が出来上がりましたが、よくよく考えてみると自分がしていることは、ただいただいたコンドーム柄のネクタイを締めているだけのことだと改めて気づかされました。

●他人と違う面白さ
 では、何のためにコンドーム柄のネクタイを締めているのかというと、他にしている人がいないから。しているだけでメッセージが伝えられるから。コンドームに対するハードルを下げられるから。と、後から付けられる理由はいろいろあります。「コンドームの達人」と呼ばれているのも、ある時、誰かが名付けてくれて「いいね」と思ってその後、勝手に名乗り続けているだけです。
 そもそも「コンドームの達人」と呼ばれるようになったのも、ある助産師さんが「コンドームって正しく着ければいいんですよね」と聞いてきたので、「『正しく着ける』ってどういうこと?」と聞いたら試験管を出してきてそれに着けていました。思わず吹き出しますよね。だって男のおちんちんには皮があり、それを上手に、丁寧に扱わないとコンドームが破れたり、外れたりすることを岩室紳也は個人的に学習していたのでした。「それは違いますよ」と即座に答えたものの、「じゃあ、どのようにつければいいのですか」と聞かれても自分で実演するわけにいかないので試行錯誤の結果、今のチャンピオン君が誕生しました。
 チャンピオン君の製造方法
 やっぱりここでも他の他人の言葉にただただ反応しただけでした。

〇コンドームは破れる
 チャンピオン君を使ったコンドームの装着法をいろんなところで紹介し始めた頃に、全国的にHIV/AIDSの予防啓発活動が盛んになり、神奈川県が作ったビデオにもチャンピオン君が出演しました。ただ、ここでビックリしたのが、多くの日本人男性がコンドームの正しい付け方を知らなかったことでした。そのためか、渡部さんたちがYouTubeにアップしてくださった動画の再生回数が、新旧のバージョンを合わせて今や660万件を超えるまでになりました。
 コンドームの達人講座(装着法)を実演する際に、「するなら着けようコンドーム」と言っていますが、一方でコンドームは破れることがあることもあわせて伝えています。その際に強調しているのが、残念ながら死んでしまった親友であり、私の患者でもあったパトの話です。これまでパト以外に正しいコンドームの装着法ができた人は一人もいません。先日、NHKの「眠いいね!」でご一緒した宮藤官九郎さんも、又吉直樹さんもダメでした。なぜパトが大丈夫だったかというと、彼はゲイであり、7割が包茎の日本人のパートナーとちゃんと相互練習をしていたからです。ストレートの日本人男性は自分のペニスにしか装着したことがない上に、誰かに装着法を教えるといった場面もないので、ただ「普通に着ける」ぐらいの感覚しかなくても当然です。
 そのパトはコンドームが破れてHIVに感染しました。なぜならコンドームは所詮ゴム製品です。正しく装着しても、タイヤがパンクするように、コンドームも破れることがあります。それだけです。私が話していることはパトが自ら経験したことの受け売りなのです。

●性感染症になって何が悪い
 HIVだけではなく、クラミジア、淋菌、梅毒など、様々な性感染症になる人たちと関わっていると、当たり前のことですがその人たちは普通の人です。ところが性感染症予防に関する講演を聞いていると「性感染症にならないように」という話ばかりです。先日行われた日本公衆衛生学会のシンポジストに「性感染症になってはいけないのでしょうか」と質問をしたら皆さん、ビックリされていました。もちろん性感染症にならない方がご本人にとってもいいことは間違いありません。しかし、予防を強調しすぎると、結果的に感染した人たちには排除感が残ってしまいます。

〇ダブルコンドーム?
 「コンドームの達人」と自分のことを呼びながら、実は最近、あまりコンドームのことを詳しく話してはいませんでした。1994年頃から本格的に「コンドームの達人」をPRし、1998年にそれまでのラテックスゴムだけだったコンドームにポリウレタン製品が導入された頃は大いに脚光を浴びましたし、その話を聞きたがる人も多かったと思います。2014年にイソプレンラバー製品が登場し、製品自体はいいのですが、「盛り上がる」までには至りませんでした。
 ところが、ところが、2019年10月に画期的なダブルコンドームが発売されました。「えっ? 2枚重ねOKのコンドーム?」と勘違いした人がいると思いますが違います。コンドームにもう一つの防御が付いているのです。「プレミアム ゼロゼロスリー?+ビバジェル」というオカモトが出した製品です。何が面白いかというと、ビバジェルというHIV(Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス)とHSV(Herpes Simplex Virus:単純ヘルペスウィルス)に対し抗ウイルス作用をもつジェル剤が付いていることです。
 性感染症になっても、それこそHIVに感染しても今や治療で長生きができる時代になっています。しかし、ちょっとでも性感染症のことが気になる人だったら、それこそ2枚重ねにして予防を確実にしたいと思うことでしょう。でもコンドームの達人が「2枚重ねはダメ絶対」と言っているので泣く泣く1枚でしている人にはぜひこの新製品を勧めたいですね(笑)。
 「どのような人に?」と聞かれそうですが、ちょっとでも性感染症を身近に考えられる人です。例えば、次のような人です。
 
1. どちらかがHIVの検査を受けたことがない
2. 何となくセックスはしたいけど相手が病気を持っているかわからない
3. 仕事でいろんな人の相手をしなければならない
4. 彼氏がコンドームを付けたがらない

 そんな時、コンドームを装着させる口実に「この新製品知ってる?最新のダブルコンドームだよ。避妊にも、HIVやヘルペスにもそれなりの効果があるんだって」と。コンドームが当たり前の生活用品になれるよう、達人ももう少し頑張ってみます(笑)。

紳也特急 243

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~今月のテーマ『雑談は相談』~

●『生徒の感想』
○『「相談しましょう」に違和感』
●『相談は雑談から』
○『「話す」の意味』
●『話すトレーニングが必要』
○『話しが癒しにならない時代?』

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生徒の感想
・私は常に人では無いものに依存してきた。勉強、遊び、部活動など様々なものに依存して、擬似的に自立することに成功していた。心の底では他人を信頼できず、表面上だけの人間関係を築き上げてきた。しかし、それは本質的には自立していないのではないと思い、改めて自分自身に自立とは何かに問いかける良い機会になった。今までの自分は人と距離を置くことで、お互いに傷つけず、依存せず、という関係を築いてきた。それは、人との関わりから逃げ続けただけなのではないか。様々な疑問が自分に投げかけられたように感じた。(高1男子)

・私は経験があります。エッチは好きではないですが、彼が抱きしめてくれるエッチの時間は好きです。でも、彼には恋人がいます。愛がないです。愛がないエッチは無関心なんだと気づいて悲しくなりました。私のこころには全く関心がなく、体にしか興味がないのだと思い知り、分かりきっていたことなのに、こころに染み入り、改めて考えさせられました。それでも彼を嫌いになれない自分が嫌です。一緒に先生の話を彼は聞いていたので、少しでも気持ちを理解してくれたらいいなと願うのみです。本当に先生の話を聞くことができてよかったです。ありがとうございました。(高校2年女子)

 人はどのような時に自分の中のもやもやを解消できるのでしょうか。少なくともこの二人は私の話を通して、何か感じ、自分自身の次のステップにしてくれたように思います。「『助けて』が言えない」という本に関わらせていただいた後に、「ザッソウ 結果を出すチームの習慣 ホウレンソウに代わる『雑談+相談』」という本の存在を教えてもらいました。「雑談」や「相談」ということを改めて振り返ると、自分自身がこれらの言葉をちゃんと理解していなかったことに気づかされました。そこで今月のテーマを「雑談は相談」としました。

雑談は相談

「相談しましょう」に違和感
 最近、若者たちの様々な生きづらさを乗り越えるために、いろんな人が「信頼できる大人に相談しましょう」と言っています。わたしはこの言葉にずっと違和感がありました。平気でこのような言葉を口に出している人にはぜひとも「あなたにとって性的なことを含め、信頼できる、相談ができる人はいますか」と聞きたいものです。そもそも「信頼できる大人」がどこにいるのかという疑問もありますし、そもそも「相談しましょう」という言葉自体が理解できません。なぜなら岩室紳也は意識的に、自分から進んで相談したという記憶がないのです。「それは悩みもなく、よかったですね」と皮肉を言う人もいるかもしれませんが、いろんなことを悩み、苦しい思いもし続けてきましたが、「相談に乗って欲しい」や「どうすればいいと思う?」と言ったことを訴えた記憶がどうしても蘇りません。もし私から相談を受けたという記憶がある方は是非おっしゃってください。
 では、どうやって様々な悩みや苦しみを乗り越えてきたかというと、誰かと話をしたり、いろんな情報(書籍、メディア等)からヒントをもらったりしていたように思います。そこでいつもの癖で「相談」を広辞苑で調べてビックリでした。

相談は雑談から
 広辞苑第七版に、「相談」は「互いに意見を出して話しあうこと。談合。また、他人に意見を求めること」とありました。皆さんにとって「相談」のイメージはどのようなものでしょうか。私は「他人に意見を求めること」と思っていました。ついでに「雑談」を調べると、「さまざまの談話。とりとめのない会話。ぞうたん」とありました。すなわち、先に紹介した「ザッソウ」という本はある意味、話していればいろんなことが解決されるという核心をついているのです。
 言葉は社会情勢で変化するものですが、では、なぜ「相談」が「話し合うこと」から「意見を求めること」に変化したのでしょうか。以前だったら家や学校にしか辞書や百科事典がなかったのですが、IT技術の進歩により、今ではパソコンの中に広辞苑等の辞書が入る時代です。信頼度はともかく、Wikipediaのようなサイトもありますし、ネットで調べればいろんな情報にアクセスできます。今や「百科事典」という言葉も死語のようになっていないでしょうか。すなわち、自分が欲している答えがすぐそこにあると思える社会になっています。

「話す」の意味
 陸前高田市でお会いした岩手県立大船渡病院緩和療科の村上雅彦先生にカール・ロジャーズの言葉「人は話すことで癒される」を教えていただきました。その際に村上先生は「雑談自体も緩和ケア」という言葉も教えてくださいました。広辞苑で「話す」を調べると「言葉に出してつたえる。口で述べる。互いに会話をする。ある言語・方言を使う。(遊里語)遊女を買う」とありました。「話すことで癒される」を現代に当てはめて考えると、「話す行為ではないSNSでは人は癒されない」とも言えます。
 そのような議論をしていた時に、カール・ロジャーズの次の言葉も教えてもらいました。
 
 The only person who cannot be helped is that person who blames others.
 助けることができない唯一の人は、他人を非難する、他人のせいにする人です。
 
 同じ「話す」にしても話す内容も大事になるようです。クレーマーという言葉もありますが、確かにクレーマーになる人たちは、相手を非難する、相手のせいにすることで自己発散はされているのでしょうが、本当の意味で癒されてはいないということになります。

話すトレーニングが必要
 少し横道にそれるかもしれませんが、行きつけのヘアメイクサロンの客が、それも年配者がどんどん離れています。そこは基本的に「理容室」なのですが、女性客も多く、子どもから高齢者までが利用していました。神奈川県内でも若手の育成に定評がある先生がおられ、若い人たちが次から次へとその店を卒業し、それぞれが地元に帰って店を持ち、繁盛させていました。わが家は夫婦でそこを利用していたのですが、最近、うちの奥さんは他の店に替えました。理由は簡単で、若い店員さんと話をしていても「ただ疲れるだけ」とのことでした。「どうしてこちらが客なのに若い店員に話を合わせなければならないのか」という思いが強くなったようです。同様の理由でお客さんが激減しているようでした。そこでふと、なぜ自分はその若い店員の話についていけるのか、というかそれはそれで面白いと思えるのかを考え、ここ何回か、少し聞き耳を立てながら利用していました。
 理容師を目指している人たちなので、それなりにお客さんと話ができていると思っていたのですが、丁寧に聞いてみると、お客さんの話をちゃんと聞けていないようでした。「傾聴」という言葉をよく耳にしますが、店員がお客さんの話を「聞いていない、聞けていない、聞き流している」という印象でした。あるお客さんが旅行で美味しい食べ物と出会った話をしているのに対して、「〇〇コンビニの〇〇ってすごく美味しいですよね」と返していました。「美味しい」という言葉に反応しているとも取れますが、そもそもコンビニで売られているものを美味しく思わない人にとっては耐えがたい反応、会話だと思いました。私自身は若者の食文化を知る上で面白いと思ってしまうのですが、癒しを求めに来ているお客さんが多いので、そのお客さんたちに合わせて話すトレーニングが必要と思いました。

話しが癒しにならない時代?
 確かに「人は話すことで癒される」と話すと納得してくれる人が多いと感じています。しかし、若者たちの状況を見ていると、話す経験が乏しい人たちにとって「話す」という行為に変わる「癒し」が必要なのかもしれません。確かに「話す」かわりに「SNS」という時代なのでしょうが、SNSは癒しになりません。なぜなら目から入った情報はわかったような気になるだけです。また、自分勝手に解釈するので、思いは伝わりません。実際、両親からの虐待で死んで心愛ちゃんはアンケートに「先生どうにかなりませんか」と書いていました。しかし、話さない世代の先生はその「文字」情報を読んで、自分なりに「まだ大丈夫」と思ったのではないでしょうか。「いじめ」といえば「アンケート」という考え方自体、人間が変わってしまった時代にそぐわないのかもしれません。
 一方で、「話す」と言葉尻をとらえて非難される時代です。この風潮が続くと、ますます「話す」ことが怖くなると思いませんか。で、あなたはどうしますか。私はしばらく「人は話すことで癒される」ということを強調し、相手を傷付けたら「ごめんなさい」と素直に謝り、謝った人が許される社会に少しでも近づける、少しでも雑談が増える世の中になるよう頑張りたいと思いました。あらためて肝に銘じたい言葉です。
 
 The only person who cannot be helped is that person who blames others.
 助けることができない唯一の人は、他人を非難する、他人のせいにする人です。
     カール・ロジャーズ

紳也特急 242

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~今月のテーマ『話し言葉が伝わらない社会』~

●『生徒の感想』
○『インターネットは情報が詰まっただけのサイト』
●『伊丹空港ナイフ事件がなぜ起きた?』
○『口頭の注意耐えられず』
●『短いセンテンスで』
○『耳から情報を入れる機会が激減』
●『目から入る情報はスルーされている?』
○『聞く前に自分の中に正解がある』
●『正解依存症』

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●生徒の感想
 友達との何気ない会話がどれだけ心を支えているかを改めて実感した。自分の悩みを解決してもらえなくても、ただ話を聞いてもらえるだけで充分であると知った。これは、実体験として家族や友人に「今日、〇〇なことがあって…」などと打ち明け、仮に打開策が見つからずとも心のもやもやがスッと消えていくような感覚になったことがあるのを思い出したからだ。自分の中にある負の感情は外に出すことで自分以外にも共有でき、楽になるのではと考えた。これによってその後の行動が変わり良い方向に進んで安心したこともある。仮にヒートアップしてしまっていた場合、聞いてくれた人が止めてくれる可能性もある。そういう人を大切にしたいと思った。(高1男子)
 
 I have attended many events, such as this one, but this is my first, told from a Japanese point of view. He did something that many people fail to. He captured the attention of a flock of high school students. This allowed him to get his points across easily. Marvelously done. From what I understood he came across many subjects in a relatively short amount of time, seemingly without missing any detail, in a calm and steady tempo. He touched on taboo subjects such as aids, sexuality, drugs etc. From what I understood these subjects are rarely discussed in Japan, in my opinion, hi did a great job breaking down the walls, high school students are keen to put up, creating a sort of bond of trust between him and the students, enabling him to teach the students about things otherwise not bought in school in Japan. (Just a foreigner’s perspective. )(高校1年男子)
 この生徒さんの聞く力は完ぺきではないかと思うぐらい、私の講演の分析は素晴らしいと感動しました。
 
 思ったことははっきりと言う。「分からない」という答えは私もよく使うけど、心の中に絶対違うと思っている答えがあったりします。私はそういう時恥ずかしくて言えないことが多いけど、思っていることを相手にしっかり伝えていきたいと思いました。(中3女子)
 
 マイク一本の講演にこだわって生徒向けに話し続けていますが、だからこそこのように考えた結果としての反応が多いように思います。
 「目から入る情報(PowerPoint等)はわかったような気になる。一方で耳から入る情報(会話、等)は想像力を育み記憶に残る」という言葉があります。九州大学の精神科の元教授の北山修先生の言葉です。カールロジャーズは「人は話すことで癒される」と教えてくれています。私の話を聞きながらいろんなことを考えてもらえているのかなと思えると、これからもマイク一本の講演にこだわりたいと思います。
 しかし、最近、この話し言葉が伝わらないことが原因でトラブルが起きていないでしょうか。そこで今月のテーマを「話し言葉が伝わらない社会」としました。

話し言葉が伝わらない社会

○インターネットは情報が詰まっているだけ
 伊丹空港でナイフが保安検査を通ってしまった事件が起きた9月26日、私は北海道千歳空港から羽田に向かっていました。千歳空港で「伊丹空港に向かう飛行機が4時間遅れ」という放送が入っていましたが理由は語られていませんでした。事件を知ったきっかけは、千歳から帰ったその足で近所の行きつけの飲み屋さんに寄ったこと。その店主とはその前日、羽田空港行きのバスで一緒になり、彼はJAL、私はANAと羽田では別々のターミナルでした。
 店主:岩室さんは大丈夫だったのですか?
 岩室:何の話?
 店主:ANAは伊丹空港で大混乱でしたが私はJALだったので大丈夫でした。
 岩室:そういえば千歳空港でも伊丹行きが大幅に遅れていましたね。
 こんな会話があったので帰宅後、インターネットで調べて事件のことを詳しく知ることとなりました。しかし、翌日の読売新聞の横浜版には事件は記事にさえもなっていませんでした。もしその飲み屋に寄らなければ、私はこの事件のことを知らず、今回のテーマも違ったものになっていたことでしょう。もっとたどると、日常的に行きつけの店をつくり、その店主と仲良くなり、顔が見える関係性をつくっていたから今回のテーマにたどり着くことができました。
 確かにインターネットには様々な情報があり、自分から積極的に情報にアクセスすると余計な情報まで入手することが可能です。しかし、9月28日に関西で講演した際にこの事件を知らない人が多数いました。これもまた事実です。

●伊丹空港ナイフ事件がなぜ起きた?
 伊丹空港ナイフ事件とは、空港の保安検査でナイフを持っていることが判明した男性をそのままナイフを回収することなく通過させ、大混乱となった事件でした。報道によると「保安検査員は、男性から「これはええねん」と言われ、通過させたと話している」とのことでした。それに対してネット上では様々な書き込みがありました。「馬鹿な関西オッサン一人の為に大混乱だね。『これはええねん』という自己中心的な発言」といったこの男性を責めるツィートや、「わかってて通した係員を処罰しなきゃ、誰だ、名前と顔を公表して欲しい」といった係員を責めるツィートばかりでした。しかし、問題の本質はもっと違うところにあるのではないでしょうか。そもそもこの係員はこの男性が話している言葉をそのまま信用してしまったり、そもそも会話が苦手でその場をスルーしただけだったりという可能性を考えなくていいのでしょうか。

○口頭の注意耐えられず
 2015年4月17日の読売新聞の人生案内というコラムに「口頭の注意耐えられず」という相談がありました。
 「大学生の女子。18歳です。人から注意されたり、自分の考えを否定されたりすることが耐えられません。私の考えや行動を肯定してくれないと嫌なのです。私に注意をするなら、紙に書いて渡してくれればいいのに文字ならば大丈夫なのに、声で言われるとどうして拒絶してしまうのでしょうか。」
 確かに耳から言語情報を入れることが苦手な人がいます。そのような特性や障害を抱えている場合はその人に合ったコミュニケーションを考えてあげる必要があります。しかし、対面での会話が減り、SNSでのやり取りが増えた結果、いわゆる健常者でさえも聞く力が低下しているのではないでしょうか。今回の保安検査の係員も「これはええねん」と自分の判断を否定されたわけです。その状態になった時に「早く行って」、「あんたに対応するのは『無理』」と思ったのではないでしょうか。

●短いセンテンスで
 言葉による思いの伝達方法がどんどん変化していることを日々感じさせていただいています。先日、ある雑誌に依頼された原稿を提出したところ、「一つ一つのセンテンスが長いので、読者に合わせて短くしてください」との注文を受けました。確かにSNSでのやりとりは短文の連続です。SNSに慣れている人にとって長い文章は苦痛になるらしく、ちゃんと読んでもらえないので短文の連続にして欲しいとのことでした。
 目から入る情報と耳から入る情報の違いにしか関心がなかった自分自身を大いに恥じました。時代はどんどん変化し、目から入る情報ももはやSNSに大きく影響されていることを思い知らされました。となると、耳から入る情報はもっと危機的な状況ということになりませんか。

○耳から情報を入れる機会が激減
 ラジオを聞く若者が激減しているだけではなく、テレビやYouTubeといった媒体でも耳から情報を入れる機会が減ってきています。最近、多くの番組で出演者の言葉にテロップを付けて放送しています。もちろん聴覚障害の方々への配慮という点では適切な対応ですが、聞かなくてもテロップを読んでいれば情報が入ってきます。すなわち、想像以上に耳から情報を入れる機会が減り、その結果として聞く力が低下していると危惧されました。

●目から入る情報はスルーされている?
 「目から入る情報はわかったような気になる」のは文字情報の中に答え、正解が示されているからです。例えば「コンドームの使用は性感染症予防に有効です」という文字を見た瞬間、「コンドーム」の「使用」は「性感染症予防」に「有効」という流れが認識できます。ところが、全く同じ情報を耳から入れるとどうなるでしょうか。
 「コンドーム」ってセックスの時に使って避妊や性感染症の予防になるゴム製品だったよね、何、それを「使用」と言っても使ったことがないのでどうやって使うかを教えてもらわないとわからないし、「性感染症」ってそもそも病気なの。だとするとどのような症状があるんだろう。そもそも「予防」と言われても何がどうなっているのかよくわからないので「有効」と言われてもなぜ有効なのかもわからないからもっとちゃんと教えて欲しい、とならないでしょうか。
 要するに目から入った「コンドームの使用は性感染症予防に有効です」という情報はなんとなく正解をもらったような気になる、わかったような気になるだけで、実際にはわかっていない自分のことをスルーすることができる方法なのです。

○聞く前に自分の中に正解がある
 目、視覚から情報を入れることが習慣化されていると、自分の中に完全な理解が成立していない情報であっても、何となくわかったような気になってしまいます。保安検査場でどのようなやり取りがあったかはわかりませんが、「ナイフ」と言われて反応したものの、「これはええねん」と言われたらあまり考えることなく「いいんだ」と思ってしまったのではないでしょうか。これまで正解を押し付けられ続けていると、相手、それも自分より年配者が「これが正解」と言われたことに対して、「それって違うんじゃないですか」という疑問を挟むことは想像だにしなかった、できなかった人であれば、「そうなんだ」と素直に受け止め、「(どうぞナイフを持ったまま)ご通過ください」となっても不思議ではないと思いました。
 「いやいや、ナイフは持ち込み禁止であって、持ち込みを阻止するために保安検査場があるのです」と思ったあなた。実はそう思えるあなたは相当高度なトレーニングを受けてきた方なのです。「ナイフ」と聞いた瞬間に「持ち込み禁止物品」を「係の私が、お客さまが不愉快にならないように伝えた」結果として、「了解しました」という回答と共に「ナイフを回収する」という行動に出ることが求められています。ところがそのような思考の連続性がないと「これはええねん」となると「そうですか」となり、結果として今回の大騒動となったのではないでしょうか。

●正解依存症
 学校の授業で教わることはほぼすべて「正解」にどうたどり着くかということです。そのため、「正解」を与えられると思考がストップし、そのことを受け入れるように訓練されていないでしょうか。岩室が常々言っている「前立腺がんのPSA検診は過剰診断と5倍の見落としがある」と言っても、「がん」という正解にしか目が行かない泌尿器科の先生たちは、「『がん』の『検診』をして何が悪い」となり、それ以上議論になりません。「PSA検診はええねん」と言っている大御所たちのことを信じて疑わないのは「正解依存症」の日本国民の共通の課題なのかもしれません。ぜひ、今回の事件に学び、正解依存症からの脱却を目指したいものです。


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~今月のテーマ『愚者と賢者』~

●生徒の感想
○「賢い」とは
●「へりくだる」とは
○混乱の原因は岩室に
●事業をこなすな
○皮肉

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●生徒の感想
 岩室先生はいつも「どうして?」と聞いていらっしゃいました。他の人にたずねている時に答えを私も考えていましたが、「だって当たり前だから」とか「だってそれが普通だから」と自分の中で出てきました。でもそれではダメで「当たり前」とおもっていたことに立ち止まって疑いを持ったり、考えたりすることはとても大切だと思いました。(高校2年女子)
 
 自分はレイプもの、同人誌などで抜いていたので、今回の講演会でだいぶショックを受けました。これからは控えます。(高校2年男子)
 
 私は“早く自立したい”と今まで思っていました。しかし、実際は自立することは不可能なんだなと思いました。一人で何もかもできる人はいないし、みんな誰かの助けや支えを必要としていることに気づきました。困ったことや辛いこと、嬉しいことも楽しいことも、話せる友達がいるから“笑顔の私”がいるんだなと思うと、友達の偉大さに気づかされました。時には迷惑だと感じることもあるけれど、そう思えることが幸せなんだと思います。非行に走ってしまう友達と自分も同じことをするのではなく、ダメだということがその友達のためにもなります。なので、私は友達にとって迷惑だと思われても、正しい道を教えてあげようと思います!(高校1年女子)
 
 自分はとてもあいまいに物事を考えてしまう人なので、人に何か聞かれたら「わからない」と言ってしまうことも多いし、アンケート調査の時でも選択するところに「わからない」があったらそこに〇をしてしまうことが多いです。しかし、これからは「わからない」とは言わず、何でもいいから答えることが重要なんだなと分かりました。(高校1年男子)
 
 話の中で自殺の話題がありましたが、自殺をすれば周りの人が悲しむということに気づかされました。私は生きることへの執着心が昔から薄く、いつ死んでもいいと思っています。自傷行為にも抵抗はないです。だけど、私はもっと生きることを楽しみたいと思っていました。命の大切さがわかればもっと大切にできると思いました。岩室医師は経験からしか人は学べないと言っていました。私はずっとどうすれば生きたいと思うことができるかを考えていたので、まずは誰かの葬式に行く機会があった時、命を失う悲しみというものを経験しようと思います。(高校1年女子)

 生徒さんの感想は本当に勉強になります。もちろん感想では把握できない、「何言っているかわからない」という生徒さんもいるのでしょうが、若者以上に大人たちの反応にいろいろと学んだ夏でした。
 大人向けに「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」と話したところ、次のような反論がありました。「ビスマルクが『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』と言っていることと違う」という指摘でした。そこで今月のテーマを「愚者と賢者」としました。

愚者と賢者

○「賢い」とは
 言葉というのはいろんなことを考えさせてくれます。「愚者と賢者」と聞くと、自分はどっちだろうと考えてしまいます。何となく自分は愚か者、すなわち愚者なのかなと思いましたが、いつもの癖で広辞苑を紐解いていました。

「賢い」
 (1)おそろしいほど明察の力がある。
 (2)才知・思慮・分別などがきわだっている。
 (3)(生き物や事物の)性状・性能がすぐれている。すばらしい。
 (4)抜け目がない。巧妙である。利口だ。
 (5)尊貴である。たいそう大事である。
 (6)(めぐりあわせなどが)望ましい状態である。よい具合である。
 (7)(連用形を副詞的に用いて)非常に。はなはだしく。

「愚か」
 (1)知能・理解力が乏しいこと。ばか。あほう。
 (2)程度が劣ること。おろそか。
 (3)ばかげていること。
 
 この「賢い」や「愚か」の記述を読むと、賢者とは到底名乗れず、でも愚者と言われることに抵抗を覚えます。もしかしたら意見をくださった方が「愚者」と言われたことにカチンときたのかなと思ったりもしました。でも、自分のことを「賢者」と呼ぶのもいかがなものかと思ってしまいますよね。どちらかと聞かれると少しへりくだった感じで「愚者」というか「愚か者」と言うと思います。

●「へりくだる」とは
 またまた言葉遊びをしてしまい、「へりくだる」を広辞苑で調べると「他をうやまって自分を低く扱う。謙遜する」とありました。ついでに勉強になったのが、「へりくだる」は漢字で「謙る」、「遜る」と書くとのことでした。「謙遜」の両方の漢字が「へりくだる」のひらがな読みだったのを今更ながら知り、本当に一生勉強だなと思いました。「謙遜」を広辞苑で調べると「控え目な態度で振る舞うこと。へりくだること」とありました。
 自分自身を「愚者」だと言った場合、それは少なくとも「他をうやまって自分を低く扱う」でもありませんし、「控え目な態度で振る舞う」や「へりくだる」でもないと思います。ビスマルクの言葉に学べば自分自身が経験にしか学べておらず、とても「賢者」とは言えず、やはり「愚者」なのかなと思いました。
 「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」という言葉は岩室紳也自身の経験から出てきた言葉でしたので、そのことをきちんと伝えなければ、ビスマルクの言葉とダブらせて考え、自分を愚者呼ばわりされたと思う人が出ても仕方がないと反省させられました。

○混乱の原因は岩室に
 さらに反省させられたのが、「目から入る情報はわかったような気になるが、耳から入る情報は想像力を育み記憶に残る」と言いながら、岩室は大人たちにはPowerPointで話し、若者にはマイク一本で話していることでした。
 
 生徒の感想
 パワーポイントを使わないのは珍しいですが、この感想用紙を書いている時、思い出せることが多く、私にも効果があったと思います。(高校1年女子)
 
 生徒さんには岩室自身が経験に学んできた話をしつつ、「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」を伝え、思いが伝わっているという手ごたえがあったのですが、大人にはこの言葉をPowerPoint、すなわち目から入る情報としてしか伝えていませんでした。それだと、PowerPointを見た人はその人なりの解釈をしてしまうということを改めて突き付けられました。
 しかし、これまで今回のような反応はありませんでした。なぜかと考えてみるといろんな要素が絡んでいました。大人向けの講演をするときは同じスライドを使っても、話し言葉でなぜ「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」となるかについて少し時間をかけて説明をしています。しかし、今回の反応は日本思春期学会のワークショップ「これからの学校におけるインターネット・情報モラル教育」での出来事でした。座長でもある私の持ち時間は25分だったのですが、他の演者が時間をオーバーし、結果的に25分で話す予定の話を15分弱で話していました。当然のことながら詳しい説明を抜きに、目から入った情報だけが印象に残ったようでした。

●事業をこなすな
 私は公衆衛生の世界で常々、「事業をこなすことを目的にしないで、事業の狙いが何かを考えましょう」と言い続けています。ところが今回のワークショップで岩室は座長として与えられた1時間30分という時間をどうこなすかだけを考えていました。ディスカッションの時間を残すべく、自分の講演時間を端折り、いい気になっていました。さらに「岩室先生の話はいつ聞いてもいいですね」と、何度も私の話を聞いてくれている人からの声で「短くてもちゃんと伝わったんだ」と勘違いをしていました。でも、私の話を初めて聞いた人の中には「???」しか残らなかったのです。若い人たちには「事業をこなすことを目的にしてはいけない」と言いつつ、実は自分自身が座長として、ワークショップを無事こなすことしか考えていなかったことを反省させられました。

○皮肉
 もう一つ反省させられた反応がありました。先に書いた「目から入る情報はわかったような気になるが、耳から入る情報は想像力を育み記憶に残る」というのに対して、「発達障害の子どもたちには視覚情報は必要不可欠なのでどう考えればいいのか」という指摘でした。もちろん目から入る情報をすべて否定しているわけでもないのですが、十分な説明をしないで話すと、受け止める側の思いを独り歩きさせてしまい、予想だにしない誤解を生むということを改めて経験させていただきました。
 「これからの学校におけるインターネット・情報モラル教育」の座長という大役を引き受けながら、若者たちのSNSやネットのトラブルと全く同じことを自分がしでかしてしまったというのはすごい皮肉であるとともに、貴重な経験でした。
 
 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
 
 さてあなたは・・・・・・・・。岩室は間違いなく「愚者」です。


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~今月のテーマ『できるひとが、できることを、できるときに、できるように』~

●『第26回AIDS文化フォーラム in 横浜』
○『なぜ薬物を使うのですか?』
●『あなたはマジョリティですか?』
○『啓発が作り出す生きづらさ』

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●第26回AIDS文化フォーラム in 横浜
 8月2日(金)~4日(日)にかながわ県民センターでAIDS文化フォーラム in 横浜を開催します。
 https://abf-yokohama.org/
 気が付けば1994年の初回から25年、26回目、よく「どうしてこんなに長く続けられたのですか?」と聞かれます。
 一方で、先日、浦安市で高齢者が住みやすいまちづくりの議論をしていた時に興味深いことに気づかされました。浦安市の高齢化率(全人口に占める65歳以上の人の割合)は17.2%と全国的に見れば非常に若い地域です。もちろん今後高齢化率が急上昇すると予測され、いろんな対策を議論し続けています。しかし、浦安市内を丁寧に見ると、既に高齢化率が40%を超えている地区もあり、そのようなところでは高齢者がお互い様の精神で支え合うまちづくりが進んでいることも明らかになりました。その議論をしていたら、「キーパーソンの〇〇さんがいるから」とある人が発言し、会議の参加者の何人かが〇〇さんを知っていたので「そうですよね」と話が打ち切りになりそうでした。確かにキーパーソンの存在は重要なのかもしれませんが、その時、ふと陸前高田市の会議での議論を思い出しました。

できるひとが、できることを、できるときに、できるように。

 陸前高田市の女性の平均寿命は現在岩手県内の市町村比でNo1になっています。その要因として、いろんな活動がいろんなところで展開されていることが功を奏していると考えられています。それぞれの活動にはキーパーソンがいらっしゃるのですが、陸前高田市の会議で出たキーワードが「できるように」でした。どんなに素晴らしいアイディアを持っている人でも、その人がそのアイディアを、能力を発揮するためには、その人を取り巻く環境、いろんな人と人とのつながりが重要です。「できるひと」には必ずそのひとが「できるように」してくれた環境があることに気づかされました。
 AIDS文化フォーラム in 横浜もできるひとが、それぞれができることを、それぞれができるときに行い、神奈川県が会場を提供してくださったり、様々な団体が寄付をしてくださったり、ボランティアの方々が支えてくださったり、それこそ参加者が参加してくださることで支えてくださったりしてくれているおかげで何とか成り立っています。いい意味で、「みんながキーパーソン」です。ということで今月のテーマは「できるひとが、できることを、できるときに、できるように」としました。

できるひとが、できることを、できるときに、できるように

〇なぜ薬物を使うのですか?
 「ダメ絶対運動」というのを聞いたことがあると思います。違法薬物の覚せい剤、大麻、コカインなどの所謂ドラッグを使う人を減らそうという運動です。何を隠そう岩室紳也も違法薬物を使っている人はダメな、弱い、どうしようもない人と思っていましたし、その人たちと自分自身が関わる必要性を感じたこともありませんでした。そのような人に接することがあっても「ではダルクに行ってみたら」や「芹が谷病院の専門外来に紹介しましょう」という思いしかありませんでした。
 ところがいろんなことを勉強してみると、何とドラッグは一度使ったら絶対抜けられないのではないことをベトナム戦争が教えてくれていたようです。兵士の20%がヘロインを与えられていたにも関わらず、兵役を終え、家族や仲間のもとに戻ると95%の人は何のリハビリを受けることなくドラッグフリーの状態になったようです。薬物依存症となった5%の人たちとの違いは依存先があったかなかったかでした。
 では、実際に日本でドラッグを使う人たちはどうなのかを教えてもらうため、今年のAIDS文化フォーラム in 横浜で当事者の話を、専門家を交えて聞く機会を作ることができました。

 回復を応援する共生社会とは
 8月2日(金)15:30~17:30
 薬物依存症の第一人者の松本俊彦先生と、元NHKアナウンサーの塚本堅一さん、薬物で医業停止2年間の処分を受けた新堂慎二さん(仮名)とのトークセッションです。「共に生きる社会を」ときれいごとはいっぱい並んでいますが、皆さんのお隣に引っ越してきた方が「実はドラッグで刑務所に入っていました。でも刑期を終え心機一転頑張りますので、よろしくお願いします」とあいさつに来られたら皆さんはどのような言葉を返しますか。罪を償った人がまだまだ排除し続けられている社会です。その人たちが再チャレンジできる社会になるために何が求められているのかを考えたいと思います。

●あなたはマジョリティですか?
 セクマイ(セクシャルマイノリティ)、LGBTQ、SOGI(Sexual Orientation Gender Identity:性的指向・性自認)などと言った言葉がよく使われますが、人間は自分の存在を肯定するためにいろんな分類を作って、自分の居場所を確認したがるようです。HIV/AIDSに関わりだした当初、岩室は正直なところゲイの方のことがよくわかりませんでしたし、少し敬遠していました。しかし、いろんな経験を重ね続ける中で、そもそもマイノリティ、障がいの問題はマジョリティの側にいることで安心感を得ようとしている人たちのパワハラと思うようになりました。
 「異性愛者とセクマイという分類であなたはどちらに入りますか?」と聞かれると多くの人は「異性愛者」と答えます。「男が好きですか、女が好きですか」と聞かれると、多くの人は異性を思い浮かべます。ところが、「異性なら誰でもいいですか」と聞かれると「とんでもない」ということになります。ということはその人は「異性の中の『このような条件を満たす』人が好き」ということになり、「えっ、そうなの。私の趣味と違う」と同じマジョリティのつもりの人とは別の存在となります。すなわち、丁寧に見ると全員がマイノリティなのに、そのことを認めたくないから、認めることが怖いから何らかの共通項を見つけてマジョリティになりたがっているだけではないでしょうか。このような話を次のセッションでします。なんとAIDS文化フォーラム in 横浜初のYou Tube LIVE配信付きです。

 マイノリティとマジョリティ~生きやすい世の中とは~
 8月2日(金)13:00~15:00
 YouTuberでゲイのかずえちゃん、自らの、様々な体験から生じたPTSDを、ネットを上手に利用して乗り越えてきた体験を持つインターネットポリシースペシャリストの宮崎豊久さんと一緒に「生きやすさ」や「生きづらさ」とその背景について考えます。
 ★You Tube LIVE配信は【とよさんコミュニケーションズ】というチャンネルで。

〇啓発が作り出す生きづらさ
 自分自身の反省を込めて言うと、「HIV/AIDS予防にコンドーム」というメッセージは実はとんでもない啓発方法でした。「えっ、どうして?」と思いますよね。でも、この「正しいメッセージ」を繰り返し聞いた小学生の気持ちになってください。「HIV/AIDSになった人はコンドームを正しく使えなかった人」ということになります。もちろん「HIV/AIDSになっていい」というつもりはありませんし、ならない方がいいに決まっています。しかし、なった人の立場から考えられるようになると「HIV/AIDSになって何が悪い!?!」となります。
 東京都の啓発イベントで岩室が「HIV/AIDSになって何が悪い!?!」と話したら女装家のブルボンヌさんが「医者でそういう言葉を言う人に会ったことがない」と言ってくださいました。この一言が私にとってすごい応援メッセージになりました。自分で口にしながらも、「HIV/AIDSになって何が悪い!?!」というメッセージの重み、深み、難しさを自分だけだと気づくことができませんでした。「できるように」、すなわち岩室がこのメッセージの重み、深み、難しさに気づけるようにしてくれたのがブルボンヌさんでした。まだまだ深掘りをしたいと思い次のセッションを開催します。

 HIV/AIDSになって何が悪い!?!
 8月3日(土)13:00~15:00
 ブルボンヌ(女装パフォーマー)、長谷川博史(JaNP+理事)、岩室紳也の3人で考えます。長谷川さんが「MCが3人揃ったらどこに話が広がるか全く想像がつかないよね」との感想でした。私自身が楽しみにしています。

皆さんのご来場をお待ちしています。