紳也特急 158

~今月のテーマ『いじめとけんかの違い』~

●『中高生のためのメンタル系サバイバルガイド』
○『いじめた経験』
●『けんかをしない理由』
○『昔のいじめと今のいじめ』
●『異質者に相談しても理解されない』
○『同質化の蔓延』
●『急がば回れ』

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●『中高生のためのメンタル系サバイバルガイド』
 私のHPのトップからAmazonで買えるようにリンクを貼っていることが効いたかどうかは定かではないですが、精神科医の松本俊彦先生が編集した「中高生のためのメンタル系サバイバルガイド」(評論社)がバカ売れしています。確かに面白い。何が面白いかというと、「中高生のための」と謳っているにも関わらず、とても中高生が読めたものではない(笑)。活字だらけの、難しい内容ばかりですが、中高生、若者たちが直面している性、薬物、リストカット、いじめなどに向き合ってきたおこの分野の専門家たちが一堂に会し、本質は何かを書いているという点で編者の松本先生のすごさを感じます。
 1680円(税込)という安さなので、中高生に向き合っている大人たちが、自分なりに咀嚼して、よりわかりやすい言葉で中高生に伝えたり、そもそも中高生にまつわる様々な問題の背景にどのような問題があるのかを理解したりするには最良、最新のガイドブックです。松本先生の『問題に「気づき」「かかわり」、そして「つなぐ」』という総論に始まり、「毎日のくらし」「恋愛と性」「くすり」「やめられない・とまらない」「いのち」「わるいこと」「親のこと」を総勢31名の最先端を走っている人たちが書いています。
 ちなみに私は「毎日のくらし」の中で「男の子のこころに性のモヤモヤを花開かせよう」を書いています。久しぶりに書いていて面白かったのですが、そこに書いた
いい男になるための7カ条
 (1)おちんちんをむこう(頑張り続ける力)
 (2)ネット・AV・2次元は5人以上で(仲間に学ぶ力)
 (3)コンドームの事前練習を(先を読む力)
 (4)失恋を恐れるな(理不尽と向き合う力)
 (5)持ち物より持ち主が大事(理解する力)
 (6)愛の反対は無関心(思いやる力)
 (7)高校卒業までセックス禁止(我慢する力)
 をこれからも発展させたいと思っています。
 この原稿を書いている時も、そして最近いろんな学校に行っても必ず話題になるのが「いじめ」問題です。いじめがない人間社会はあり得ないのに大人たちはあり得ない「いじめ根絶」を訴え、そのことに違和感を持ち続けていました。ガイドブックに筑波大学の土井隆義先生が現代のいじめについて書いておられます。土井先生のお考えも「その通りだな」と思いながら読ませていただきましたが、ある高校生が今時のいじめとけんかの違いを教えてもらいましたので、今月のテーマは「いじめとけんかの違い」としました。

『いじめとけんかの違い』

○『いじめた経験』
 いじめはやめよう。いじめを根絶しよう。このような言葉を聞く度に「いじめがない社会は人間社会じゃない」と思っています。自分自身、寮生活をしていた高校時代に後輩をいじめたことがあります。そのことを今でも覚えているぐらい後味の悪いものです。自分自身もいじめられた経験がありますが、これは人と人が一緒にいれば当たり前のように起こる現象、人間関係の一つではないでしょうか。そうはいってもいじめの結果で自殺するといった不幸な結末は何としても回避したいのですが、そもそも現代版のいじめをどう受け止めればいいのでしょうか。

●『けんかをしない理由』
 ある高校生が、「いまはけんかなんかしないよ。だからいじめるんだ」と教えてくれました。最初は意味がわからなかったのですが、話を聞くとどうもこういうことでした。
 けんかは相手と意見が合わないこと、思いが違うことを確認する作業です。自分はこう思う。お前のやっていることは違う。意見の相違から来る争い、いさかいを言います。今の日本と近隣諸国との領土をめぐる関係もそうですが、いろんなやり取りが起こるのがけんかです。
 ところが今時の若者は自分の意見と他人の意見が異なる状況になることを極端なほど嫌い、積極的に同質化することを求めています。だから学校での講演で生徒にマイクを向けると反射的に「わかりません」という言葉が出てきます。この「わかりません」は本当にわからないのではなく、「わかりません」と答えることで自分の思いを表現しなくてすみ、結果として「あいつは俺たちと違う考え方だ」と思われないようにしているとのことです。「そんなことはないでしょ」と本気で思っているとしたらぜひ先に紹介した「中高生のための・・・」をお読みください。
 違いがあることを嫌う人がその違いを意識しないようにするにはどうすればいいでしょうか。しゃべらないことです。違いを棚上げしておけば「違い」は明らかにならないのでけんかにならないのです。しかし、一度言葉にしてしまうとけんかがはじまることは、今回の近隣諸国との争いでも明らかです。若者たちがけんかをしないのは「争いを避けたい」という思いと同時に、もう一つの理由がありました。それはコミュニケーション能力が低下し、そもそも自分の思いを上手く伝えられないため、けんかにならないという理由もありそうですが、鶏が先か、卵が先か、難しいですね。

○『昔のいじめと今のいじめ』
 最初に紹介したように私も人をいじめた経験があります。その時の後味の悪さを知っているので今いじめをしている若者たちはどう思っているのだろうかと思っていたら、前述の高校生が「相手のことなんか考えていじめない」と教えてくれました。
 いじめる側が自分の思いを一方的に相手に押し付けるのがいじめで、サンドバッグ状態の相手はただそれを受け止めるだけだと言います。反論、すなわちけんかを選ぶことは、自分がその同質社会の中から出ること、その同質社会から追放されることを自ら選ぶことになります。「いじめられるぐらいならそこから出ればいい」と思うのは強い人の論理で、今のいじめはいじめる側は一方的に自分たちの思いを相手にぶつけ、いじめられる側もみんなが望んでいるその状態を受け入れているとのことでした。もちろん、いじめられている側のつらさが一定の限界を超え、自殺という結果になってしまいます。

●『異質者に相談しても理解されない』
 9月10日の世界自殺予防デーや自殺予防週間の際に「もし、あなた自身が悩んでいたら・・・一人で悩むより、まず相談を」、「気づいてください!体と心の限界サイン」や「いじめ等で悩んでいるみなさんへのメッセージ」といったキャンペーンが繰り広げられています。では皆さんが相談を受けたらどう答えますか。
 「人生、いろいろあるよ。いずれいいこともあるから頑張れ」
 「そんな奴は無視しろ。他にもいい仲間がいるよ」
 「気にするな。自分だってももっとつらいことがあったけど、こうやってなんとかやっている」
 そう言われても、今いる同質社会から別の異質社会に飛び込むことができないからこのような状態が続いているのです。私のところに若者たちからいろんな相談メールが入りますが、正直なところ、私と全く異なる心理構造の若者たちの悩みを理解することは難しく、適切な答えを返すのは難しいと思っています。だからというわけではないのですが、
 「つらいよね」
 「よくぞ声をかけてくれた」
 「一緒に考えよ」
と傾聴を心がけるようにしていますが、同じ精神構造ではない人が、どこまでその人の悩みを本当に受け止められるのでしょうか。さらに同世代で、それも「けんかはしない(できない)けどいじめはする(できる)」世代の中で相談しても、解決に向かう答えは得られません。

○『同質化の蔓延』
 思春期を経験する意味は、様々な「異質」との接点を通してストレスに強くなれることです。思春期には小学生の時のように何となくみんなが一緒というのではなく、体も心も変化し、男女で関心事も大きく異なってくる時期です。特に性については関心が高くなるので、男女共学だと講演を聞いていても笑いたいところで「相手がどう思うか」が気になって笑を押し殺す人たちが大勢います。その点、男子校だと気になる異質(異性:女子)がいないので、講演会は結構盛り上がったものでした。ところが最近は男子校でも盛り上がらない学校が増えてきました。「岩室の講演が下手になったんじゃないの」と言われてしまうかもしれませんが、どうもそうではないようです。
 以前は「男子」と「女子」という集団ではお互いをけん制する雰囲気はあったものの、「男子」や「女子」という集団の中には逆に多様性を認め合う、同質化しなくてもいい雰囲気がありました。しかし、今はすべての集団で「同質化」を求める雰囲気があります。面白いと思って笑う場合も、「自分が属しているこの男子集団は一緒に笑うだろうか」ということが心配になり、結果として「笑わない」、「笑えない」ということが起こっているようです。

●『急がば回れ』
 結局のところ、いろんな世界を知っていると自分の気持ちの落としどころが見えてくるのでしょうが、狭い範囲でしか生きていないと人は生きづらさを感じてしまいます。多様性の中に自分を救ってくれる誰かが、世界があるのでしょうが、同質性の中で自分の居場所を見つける方がある意味楽です。
 思春期は多様性に気づく素晴らしいチャンスであると同時に、多様性に押しつぶされるリスクがあることをいじめ問題が示しているのかもしれません。結局のところ、いろんな経験をする中で人は育つことを見抜き、「かわいい子には旅をさせよ」と言っていた先人たちはすごい!!!