紳也特急 166

~今月のテーマ『日本人が苦手な一次予防という視点』~

●『生徒の感想』
○『貧乏人の子だくさん』
●『子どものうつ』
○『女性手帳は出してほしかった』
●『いま、何が大切ですか』
○『性教育バッシングの自民党案だからこそ』

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●『生徒の感想』
 初デートはマック! 彼氏の確かめ方。「で」の一文字で彼氏の本性がわかるというのはすごいなと思いました。(中3女子)

 特に印象に残ったのが全体のテーマにも関連するマクドナルドの話で、自分も普段から「・・でいい」と自分の意思、意見をしっかりと持ち、それをきちんと言うことのできる人間になりたいと思う。(高2男子)

 私は今日の健康教育講演会で、特に印象に残ったのは男女でこんなにも考えていることが違うということでした。私は今日の講演を聞いて本当に良かったと思いマス。大切にしていかないといけないのは自分の気持ちだということもよくわかってよかったです。(高1女子)

 自分は前の彼氏に別れたあとも「愛してるから・・・」とか言われて「エッチがしたい」って言われてた時期があって・・・。さっき岩室さんの話をきいてあの人はそういう人だったんだなと思ったと同時に、男は汚いなと思った。自分の欲のためなら平気でうそつけるんだなと思った。(高1女子)

 30才までセックスをしなかったら魔法使いになれるって本当ですか?(高3男子)

 レイプは良くないことだと分かった。(高3男子)

 質問の際にみんなが言っていたことがあまりよくわからなかった。(高1男子)

 これらの感想を読んだだけでもいろんな生徒さんがいることが読み取れますが、一人ひとりに効果的な支援の手を差し伸べるのは至難の業です。だからこそ、この子たちが抱えている社会に蔓延する根っこにあるリスクが何かを一人ひとりが考え、それぞれができることを一つひとつ丁寧にやって行くしかありません。そして結果として、いろんな人の英知が重層的に作用した結果、課題が一つひとつ解決していくことを期待したいものです。

 しかし、最近、日本社会が目先の課題を解決することにしか目が行かず、根本的なところを見ようとしない、見ることができない結果、様々な課題の根っこにあるリスクを克服することができていないのではないかと危機感を感じています。
 目先のことしか見ていないものの代表格が事業仕訳でした。「事業」は所詮手段でしかないのですが、短期的な「成果」しか見ることができない人たちが仕分けをすると、「目的」を忘れた事業仕訳になってしまいます。もちろん仕訳人たちはそれなりに勉強をした、その道のそれなりの人なのでしょうが、一つの「目的」を達成する手段として一つの事業だけで十分な成果が上げられるはずもありません。そのことを承知の上で判断してもらいたいと思うのですがそう簡単には行かないようです。最近世間やマスコミが行った事業仕訳の一つが配布中止に追い込まれた「女性手帳」でした。そもそも今の日本で一番大事なことは何でしょうか。私は人と人がつながれなくなり、性に関する様々な情報やコミュニケーションを通して人が成長できる機会がなくなっていることだと感じています。女性手帳は単に少子化に歯止めをかけるための、「産めよ増やせよ」という二次予防策だったのでしょうか。後述しますが、もっと根本にある課題を解決する、少子化の一次予防となる可能性がありましたがあっという間に葬られてしまいました。そこで今月のテーマを「日本人が苦手な一次予防という視点」としました。

『日本人が苦手な一次予防という視点』

○『貧乏人の子だくさん』
 こんなやり取りをどう思いますか?

相談者:昨今は“貧乏の子だくさん”という言葉は死語に近くなっていますが、未だに私が勤めている地域ではそんな母親が少なくありません。夫が避妊に対して非協力的な上、日々食べることにも困っているために卵管結紮、リングどころかピルを処方してもらうお金もない様な方がいます。そんな彼女たちが妊娠せずに済む名案はないものでしょうか?

岩室:彼女たちは本当に不幸せなのでしょうか。少なくとも旦那とのセックスもあり、子どもも産め、生活は苦しくても頑張って生きている。そのような彼女たちの頑張りをもっと世の中に知らしめるべきだと思っています。そうすれば自己肯定感が違う形で育まれ、気が付けば「自分で決める」という選択肢も彼女たちの前に現れるように思います。答になっていないと思いますが、HIV/AIDSをはじめとしていろんな課題を背負っている人たちがそれほど不幸だと思わないような支援をこれからも心掛けたいと思っています。

相談者:自己肯定感が低い彼女たちに対してアプローチをしていくことは、とても困難で時間を要するかと思います。家族計画と経済的な問題という視点にだけとらわれず、違った方面からも一緒に考えていってあげられるようにしていこうと思います。

 そうなのです。そもそもこのような状況が大変だとするのであれば、どうすればこのようなカップルが生まれないようにできるかを社会全体で考える必要があるのです。

●『子どものうつ』
 先日NHKで「子どものうつ」を取り上げていましたが、そもそも子どもたちをうつ状態にしている社会に問題があると思いませんか。出ていた精神科の先生も早期発見、早期対応とおっしゃっていましたが、そのうつのお子さんが不幸にして自殺した時には「サインを見落とした親や学校関係者の責任」で終わらせるのでしょうか。
 子どもたちにとって「認められることが大事」ということも言ってはいるのですが、どうすることで日々そのような感覚が得られるかというところまで踏み込んでいませんでした。その後に「女性手帳配布見送り」のニュースが流れていました。認められる方法として仕事に就き、社会人として働き、一定のキャリアを積むことを社会に教えられた結果、そこに到達することができないといったストレスから「子どものうつ」になり、働いた結果、晩婚化や未婚、高齢出産という道をたどった挙句、次は産めよ増やせよの「女性手帳」配布となると確かに戸惑いますよね。

○『女性手帳は出してほしかった』
 そう言いつつも、実は岩室紳也は「女性手帳」賛成でした。もっともそのままでいいはずもなく、男性へのメッセージや配布対象なども大いに議論すべきですが、報道された批判者の方々とは少しスタンスが違います。「若いうちに産んだ方がいいことぐらい女性は既に知っている」という指摘には唖然としてしまいました。いかにも現場を、若者たちの実態を知らない方のご指摘と言わざるを得ません。また、「女性の生き方の選択に国が干渉すべきではない」といった指摘はその通りですが、「干渉」と「教育」の境目はどう考えておられるのでしょうか。挙句の果て、女性手帳がお蔵入りするだけではなく、何と「研究班を立ち上げる」という結果になってしまいました。今さら何を研究していくのでしょうね。ぜひ一次予防のあり方を研究してもらいたいものです。

●『いま、何が大切ですか』
 そもそも少子化の原因は単一のものではないことは世間もわかっています。多様な原因を突き詰めて、モグラたたきのような後追い対策、二次予防策は効果をあげません。いま求められているのは、一人ひとりがいろんな人とつながり、様々な情報に触れ、なおかつそれらの情報を正しく受け止め、咀嚼し、自らの意志と共に、いろんな人とのコミュニケーションの中から生きづらさと向き合う術を身につけ、その人なりの豊かな、幸せと思える人生を送れるようになることではないでしょうか。性教育の目的は性のトラブルに巻き込まれないことだけではなく、性を通してストレスに強い人づくりをすることです。そのためには単に「正しい知識」を伝えるだけではなく、「性が突きつける選択の難しさ」を通して、自分で選択し、その結果を自らの責任で受け止められる人づくりです。歳を重ねてからだと妊娠がしづらくなることや、お子さんに障害が出る可能性が高くなることを知った上で、仕事を選択するか、妊娠出産を選択するかはすごく重いテーマです。女性手帳の配布はこのようなことを考えるきっかけになったのではないでしょうか。

○『性教育バッシングの自民党案だからこそ』
 性教育バッシングで教育をする側が受けた嫌な、理不尽な批判については今さら取り上げるまでもないことです。実際に教育が受けられなかった障害者の方々でその後性被害を含めて嫌な思いやトラウマを経験している人たちはバッシングをした人たちを許せない気持ちでいっぱいだと思います。バッシングをした人たちはぜひ貫地谷しほり主演の映画「くちづけ」を見てもらいたいです。ただ、今回の女性手帳がこれまでにない視点を打ち出してきたことに注目すれば、むしろ性教育の広がりにつながったと考えられないでしょうか。学校の教科書には「受精」と「出産」についての記述はありますが、妊娠の経過や妊娠する年齢に関する記述はほとんどありません。このことは学校でできる性教育の範囲を狭めることにつながっていました。一方で、もし女性手帳の内容を男性向けのものも入れてもらって完成したら、学校の性教育で次のようなディベートができたはずです。

【妊娠時期の事実関係】
女性手帳には若い時の妊娠が望ましいと書かれています。
日本の女性は16歳から結婚できますが、なぜか選挙権は20歳からです。
若年妊娠はシングルマザーやその後の離婚だけではなく、若年HPV感染、若年子宮頸がんのリスクが高くなります。

【みんなで考えよう】
いつ、どのような妊娠、出産を選ぶべきか。
そのためにどのようなことを一人ひとりが学び、考えなければならないか。

 そうなのです。せっかく性教育がこのように自ら考え、選択する内容へと変貌できたのに・・・。やっぱり日本は根本的なところを、一次予防を考えるのが苦手な国なのですね。悲しいし、若者たちに申し訳ない思いでいっぱいです。