紳也特急 236

~今月のテーマ『罪を憎んで人を憎まず』~

●『生徒の感想』
○『2重刑罰社会』
●『誰の言葉?』
○『教職員不祥事根絶ポータルサイト』
●『自制心について』
○『職を辞してもらいたい』
●『不祥事根絶を自分自身の課題として考える難しさ』

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●『生徒の感想』
 マスターベーションは男の必須科目であるとおっしゃっていましたが、周りの人々はマスターベーションに対してタブーな話であるという認識が強くあり、私も良いことではないんだと考えていました。ところが、今回先生がやって当り前であるように話されていたので、私の考えがおかしいのかと大変驚きました。(中3男子)
 →やって当り前です。頑張ってください。

 私はもともとつきあっていた人に「やろう」、「写真を送って」などと言われていて、この講演会を聞いて私のことをちゃんと好きではなく、体で好きということを思いました。私はちゃんと人を見て、良いパートナーを見つけられるようにしたいなと思いました。(中3女子)
 →気が付いてよかったね。

 講演会を聞く前の朝の時点で、また、いつもどおり画像や映像を使って、よくわからない話をされるものだと正直思っていました。ですが、いざ話をきいてみると、映像や画像があるわけでもなく、手持ちのマイク一本で話をしているのにスッと内容が入って来て大変分かりやすかったです。ちょっと聞きづらいと思うような内容のものも、大人に聞いていたりして、当たり前にわかっているものだと思っていたのに、先生方も迷ったりしているのは新鮮でした。(中3男子)
 →大人も性のことを正確に知らないものです。

 「自立することは依存先を増やすこと」についての説明が一番印象に残りました。人と話すことは健康にもつながっているんだと知り、これからはもっと友達といる時間を増やそうと思いました。(中3女子)
 人生についても考えることができる良い機会となりました。依存をすることはいけないことだと思っていたけど、依存をすることも大事だということに気が付きました。依存することのできる友達をつくろうと思いました。(中3女子)
 自立をすることだけを考えるのではなく、友人や家族に依存することで、ストレスを減らし、事件や事故を防ぐことができるんだなと思いました。(中3男子)
 →思いが伝わって何よりです。

 話を聞いて、私は将来男を選ぶとき、自分で判断せずに、友人に相談したりして人生を歩んでいきたいと思いました。(中3女子)
 →すばらしい!

 年度末の講演ラッシュはいつも新たな気づきをいただく機会になっています。生徒さんたちは話をききながら、いろんなことを感じ、考え、そして新たな一歩を踏み出そうとしています。一方で大人たちは、残念ながら自分と考え方が一致しない人たちを、価値観が一致しない人たちを、罪を犯した人たちを排除し、その人たちに学ぼうとはしません。「だって考え方が違うから、価値観が一致しないから話したって無駄。それに悪いことをした人たちに学ぶことなんてない」とただただ切り捨てて、自分自身に学ぶ力自体がないことを認めたがりません。そんなことを考えていたところ、違法薬物で逮捕され懲戒解雇となった人や医業停止となった医師の方とつながる機会をいただきました。そこで、今月のテーマを「罪を憎んで人を憎まず」としました。

『罪を憎んで人を憎まず』

○『2重刑罰社会』
 日本は法治国家なので、罪を犯した場合は、裁判所が下した判決に基づく刑罰を受け、その刑に服した後は社会復帰が認められることになっています。しかし、ピエール瀧がコカイン使用で逮捕された後のマスコミでの排除はもちろんのこと、過去の著名人たちが排除されてきた状況を見ると、どうも日本はただの法治国家ではないように思えてなりません。大人たちは若者たちのSNS上のいじめを問題視していますが、様々なマスコミがよってたかって罪を犯した人を叩くのに便乗して、大人たちもSNSを通して、いじめを通り越して、社会自体から排除しようとしていないでしょうか。時には自分が裁判官になったような気分になり、間違った情報を鵜呑みにし、社会的排除に加担している人が増えているように感じるのは私だけでしょうか。そして今の社会は、罪人にとって「法律による処罰」だけではなく、社会によって生きていく術までを奪われてしまう2重刑罰社会になっているようです。

●『誰の言葉?』
 「罪を憎んで人を憎まず」を広辞苑第七版で調べると、「犯した罪は罪としてにくむべきものだが、その罪を犯した人までもにくんではならない」とありました。ネットで誰の言葉だったのかを調べると諸説あるようです。
 “Hate the sin, love the sinner.”はインドの非暴力運動の指導者で独立の父と言われているマハトマ・ガンジーの言葉だそうです。“Hate not the person but the vice.”は『孔叢子』刑論にある孔子の言葉だそうです。ちなみに“vice”は不道徳、悪徳、邪悪、非行等の意です。
 いずれにせよ、「人」と「その人の行い」を分けて考えるべきだと教えてくれています。

○『教職員不祥事根絶ポータルサイト』
 埼玉県はこのようなサイト
 https://www.pref.saitama.lg.jp/e2201/fusyouji-boushi/main6.html
 を立ち上げ、不祥事の根絶を目指しているようです。そして教育長は次の3点を強調されています。

1.自制心を大事にすることです。
2.児童生徒から慕われたとしても、教師の側からは恋愛の対象として見てはいけません。また、児童生徒を性の対象として見ているのであれば、その方には教師という職を辞してもらいたいと思います。
3.不祥事根絶を自分自身の課題として考えるということです。

 この3点をどう考えるかが重要だと思いました。

●『自制心について』
 皆さんはどうして反社会的なことをしないで済んでいるのでしょうか。私の場合、「自らの気持ちで反社会的なことをしないで済んでいる」のではなく、「いろんな人との関係性が結果として岩室紳也の反社会的欲求にブレーキをかけている」と考えています。一見「自制心」に見えることが、実は関係性の中から生まれている力、社会性だと認識しています。
 しかし、往々にして個人が解決することを求め、その個人に責任を押し付けていないでしょうか。もちろん個人の責任を否定するつもりはありませんが、それだけだと同じようなトラブルが繰り返されることは、これまでの多くの事件や事象が示してくれています。

○『職を辞してもらいたい』
 「欲求をコントロールできない場合には、専門の医療機関を受診することを考えても良いのではないでしょうか」とありますが、われわれ医療者を買いかぶらないで欲しいと思いました。そのような解決力がある医者がいたら、真っ先に私がかかりたいです。それとも医療者に能力がないことを承知でただただ丸投げをしているのなら、完全に責任逃れの言い訳として医療者を利用していることになりますので、ご遠慮申し上げます(笑)。薬物依存症できちんと医療にかかわっている人であっても再犯率が高い現状は「専門の医療機関だけ」ではどうにもならないことの証なのです。ちなみにこのようなとんでもない要求を受け入れた医療機関があるのであれば、ぜひどなたか教えてください。
 「児童生徒を性の対象として見ているのであれば、その方には教師という職を辞してもらいたいと思います」という思いはわかります。しかし、もう少し冷静に考える必要があります。もちろん「児童生徒に対して性的な行動に出ること」は絶対許されません。しかし、人の感情にまで介入するのは不可能です。大事なことはきれいごとを言うのではなく、反社会的な行動に出ないようにするためには何が大事かを皆で議論することです。

●『不祥事根絶を自分自身の課題として考える難しさ』
社会で起こっている、このサイトにアップされている様々な問題(薬物、性犯罪、飲酒運転、体罰、いじめ等)を世間の人たちは「自分自身の課題」と考えているのでしょうか。考えているとすればこのようなサイトにはならないはずです。
結局のところ、一人ひとりの「他人ごと意識」が問題解決を遅らせていると言わざるを得ません。この「他人ごと意識」を蔓延させているのが「課題」「問題」には「答え」があると思いこませる「教育」ではないかと思っています。不祥事を起こす人と起こさない人の違いをもっと研究する必要があります。その答えが出た暁には、多くの人が「自分自身の課題として考える」ことができるようになっていることでしょう。しかし、今のところは私がいつも申し上げているように「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」なのです。
人を排除する理由は、「罪」の原因を考えたくない、考えることを放棄した結果のようです。さらに言うと、自分が所属している社会にそのような人がいるという現実を受容できないため、「排除」と言う手段に出ていないでしょうか。「自分自身の課題」となれば、「明日はわが身」にならないように「罪」の原因を皆で議論していると思います。でもそうならないということは、「罪」の原因は、「排除」の原因は「他人ごと意識」ということになりませんか。「罪を憎んで人を憎まず」という言葉があること自体、「他人ごと意識」を、「排除」を解消する難しさが昔から変わらないことを示しているのかもしれません。

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2019年4月1日