紳也特急 257号

…………………………………………………………………………………………
■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,257  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
…………………………………………………………………………………………
バックナンバーはこちらから
…………………………………………………………………………………………
~今月のテーマ『新型コロナウイルス対策のブレイクスルー』~

●『中学3年生の感想』
○『ブレイクスルーとは』
●『「感染経路」が議論にならない理由』
○『感染経路、感染者は犯人ではない』
●『感染経路別にできること』
…………………………………………………………………………………………

●中学3年生の感想
・コンドームは正しく使用していても破けてしまうことがあること知りました。大人でもあまり知っている人の少ない知識を知ることが出来ました。
・性教育で気持ち悪くなかったのは初めてです。
・今日の講演会はおもしろく場が和んでいたのでとても岩室紳也先生の話が聞きやすかったです。性の話などもとても良かったのですが、実際に岩室さんが経験した話や、かんじゃの話など色々と学べるお話をしてくださったのがとても印象に残りました。今までの講演の中で一番聞きやすい、かつとても学ぶことが多い講演でとても満足した講演会になってよかったです。
・今回は笑いを交えた講演会だったので楽しく聞くことが出来ました。Love(大切)の反対は無関心ということも初めて知れました。人は依存するのではなく、人との絆を結び、初めて自立できるといった自分のいままでの考えを一新するようなことも学ぶことができたのでよかったです。
・画像や映像を使わず、声だけでものすごい情報を伝えるのはすごいし、耳からの情報なのでとても覚えやすいし、分かりやすかったです。

子どもたちにとっての性教育は、大人たちにとっての新型コロナウイルス教育と同じです。その生徒さんへの性教育ですが、生徒さんに直接、マスクなし(もちろん2メートル以上の間隔を取り、かつ小さな声)で講演する機会を大人への新型コロナウイルス教育を兼ねて徐々に復活させています。昨年は3月1日からの講演がすべてキャンセルになるとんでもない年でしたが、今年はそのようなことがないことを祈っています。何より、緊急事態宣言が発出されたにもかかわらず、新型コロナウイルスに感染している人が連日のように「過去最高」と言われる中、首相の「静かな年末年始」のお願いではウイルスは抑えられません。分科会の尾身会長が力を込めて指示棒を振り上げても、感染拡大が止まらない状況が何より国民の実情を物語っていると思いませんか。
では、いま、何が求められているのでしょうか。2020年1月号は「HIV対策のブレイクスルー」ということで書かせていただいたので、2021年1月号は「新型コロナウイルス対策のブレイクスルー」としました。

新型コロナウイルス対策のブレイクスルー

〇ブレイクスルーとは
Oxford Dictionaryでbreakthroughを調べると“A sudden, dramatic, and important discovery or development.”とありました。研究社 新英和大辞典第6版でbreak throughを日本語に訳すと「(壁などを)突破する。(努力の末に)大きく前進する、大発見をする。」とありました。
確かに、今の日本は流行語大賞を獲得した「3密」神話が根深く定着し、大きな「壁」となっています。年末に行きつけの飲み屋さんで飲んでいたら隣の方が「COCOAを入れていますか?」と話しかけてこられたので、素性を明かし、そのお店の感染予防対策に関わらせていただいている旨を紹介させていただきました。このように国民一人ひとりの中で、何を「(努力の末に)大きく前進」させればいいのでしょうか。

●「感染経路」が議論にならない理由
2020年12月31日にNHKのニュースで「バスツアー 休憩中の換気や車内の食事禁止を 国立感染症研究所」というのが流れました。「接触」「マイクロ飛まつ」という言葉が使われているため、一見「感染経路」についてきちんと議論をしているように思ってしまいます。しかし、「乗客と乗務員は常にマスクを着けていたことから、報告書では、さらなる感染対策として、頻繁に触れる場所を中心に清掃や消毒をし、休憩時の換気や、軽食を含めた食事の禁止といった対応を取ることが望ましいとしています」とあります。マスクをすることでかえって「マイクロ飛まつ(エアロゾル)」の排出が増えるので、本気でマイクロ飛まつ(エアロゾル)対策をするのであればマスクをしないという選択肢も提示すべきですができていません。
さらに、これだけの人が感染したということは、どこかの旅館の調理人が無症状の感染者で、ポリウレタンマスクやマウスシールドで調理をしていた可能性を抗体検査等でフォローしたのかということが気になります。でも、保健所の方々に聞いてもそのような調査をしている余裕も、予算もないのが実情です。

〇感染経路、感染者は犯人ではない
HIV/AIDSに初期の頃から関わる中で、自分自身の反省を込めて振り返ると、「感染経路」という言葉を使いながら実は「感染者」を見ていた時期がありました。さらに「感染者」という言葉を使うこと自体、適切に「感染経路」を捉えていないことに気づかされた場面がありました。
ある時、次のような指摘を受けました。「岩室先生のご家族がHIVに感染していたら他の人にどうその事実を伝えますか?」と。私には妹がいますので、「妹はHIV感染者です」ではなく、「妹はHIVに感染しています」と言うのにも関わらず、どうして統計数字等を語る時は「感染者」という呼び方になるのかという指摘でした。
「感染」というのはあくまでもその人の現状です。その人がどのような経路で感染されたかを丁寧に学ぶ必要があります。大人がHIVに感染する経路はセックス、輸血、薬物の廻し打ち、刺青となります。科学的にとらえ、適切な、効果的な啓発活動が求められていたにも関わらず、多くの人たちが「不特定多数とのセックス」といった修飾語をつけて、誤解を招き、偏見を助長する啓発をしていました。「不特定多数とのセックス」を声高に叫んでいた人たちは、まるで今の政府や専門家のように「夜の街や接待を伴う飲食店」と脅している人たちと同じでした。

●感染経路別にできること
緊急事態宣言の前から、それこそ3密という言葉が使われる前から感染経路別対策を確認し続ける重要性を指摘し続けています。それが日本全体でできていない理由は「犯人」を探し出し、自分はカヤの外に置きたい他人ごと意識のなせる業のようです。となると今求められているブレイクスルーは、改めて感染経路別にできることを再確認することです。

飛沫感染対策:相手の顔に、料理に飛沫をかけないために不織布マスクを使用し、マスクの表面は触らない。
エアロゾル対策:排気に向けた空気の流れを創出し、可能な範囲でマスクを外す。
接触(媒介物)感染対策:口に物を入れる直前の手指衛生を徹底し、他人の料理に飛沫をかけない、料理食器は他人から遠くに置く。
唾液感染対策:キスの前後に何かを飲むか、覚悟のキス。

一見シンプルなことのようですが、エアロゾル対策でマスクを外すことや、不織布マスク以外は単なるポーズだということは大きなブレイクスルーです。ここにたどり着くまでに紆余曲折もあり、これからも修正の連続だと思っています。ぜひ「犯人探し」の発想から抜け出し、一人ひとりができることを徹底する1年にしたいですね。私はできることを重ね続けたいと思います。

本年もよろしくお願いします。