紳也特急 263号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,263  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『受援力』~

●『生徒の感想』
○『上から目線の「受援力」』
●『結果的受援』
○『先輩保健師さんに教わった空気感染対策』
●『握手でパニック』
○『アベノマスクのおかげ』
●『食べ物についた飛沫は喉につかない!?!』
○『目に入るのはコンタクトレンズとともに』
●『タバコの回し飲み禁止』
○『受援力はわかちあい力』
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●生徒の感想
 とても面白かったです。政府や世間が唱えていることとは着目点が異なっていて、それでも納得できるようなデータであったり、自ら行った実験であったりとわかりやすく説明してくだったためよく理解できました。ただマスクをすればいい。距離をあければいい。窓を開ければいいわけではなく、何を、どうして、何を防ぐためにどうすればいいのか、とても参考になりました。(中3女子)
 岩室さんが話していたことは「確かに」と納得できるものばかりでした。例えば、鏡をくもらせる時、マスクをつけていない時より、マスクをつけていた時の方がくもっていて、飛沫が見える実験でも飛沫が2メートル飛んでいることを証明してから、背中合わせなら近づいて話してもよいなど、納得してしまいました。(中2男子)
 最初は、感染予防はさんざんテレビなどで報道されていたので知っているつもりでしたが、先生の話を聞いて、自分が知らないこともたくさんあるのだと思いました。(中3男子)
 今回、岩室さんの話を聞いてコロナに対する姿勢が変わりました。岩室さんは日本(小池都知事など)がいっていることは100%安全ではなくどこか違うことがあると言っていて、僕もそのことは気づきました。これまでの感染予防対策を見直そうと思いました。(中2男子)
 テレビが正しいのか、岩室先生が正しいのか、話を聞いてそう思った。でもお話やその根拠も納得できたし、試してみたい。最近不織布マスクをつけていない。今つけているものよりも効果があるから、学校とかでもつけていきたい。今の方法から変えるところなどいろいろあったのでバンバン活用したい。(中1女子)
 岩室先生はコロナウイルスに対して真剣に向き合っているのだろうと、講演を見て心から思いました。(中2男子)
 おにぎりを食べる時にフィルムをとってから手を除菌した方がいいことを知りました(中3女子)
 話し合う時はお互いに向き合わないように話す(中3男子)
 私はマスクは絶対に必要なものだと思っていましたが、状況によっては外した方が良いということがわかりました。(中3男子)
 私は吹奏楽部で、マスクはしないし、飛沫飛びまくりで心配だったのですが、下を向き、対面でなければ飛沫が飛ばないと聞いたのでそれを試したいです。風向きで窓に向かって空気を流すというのも実践したいです。部活でも家でも使えるのでみんなに伝えようと思います。(中2女子)
 ウイルスが動いてたりの動画もあり、わかりやすかったです!(中2女子)
 ウイルスは見えないからこそ、他人事ではなく、自分事としてとらえて行動していきたいです。(中2女子)

 中学生に新型コロナウイルス対策の基本的な話をした際の感想です。「ウイルスは、どこから、どこへ、どうやって」を彼らが理解できるように伝えただけです。ただ、今回の話はよくよく考えてみると、新型コロナウイルスがまん延し始めてから考え、組み立てたものではなく、1990年代に保健所に勤務していた際の結核やHIV/AIDS対策に始まり、2009年に発生した新型インフルエンザの講演を依頼されたりする中で、いろんな人の声を聴きながら、考え、積み上げ続けてきた内容です。今月のテーマを考えていた時に「感染症の危機管理時に求められている専門職の受援力」という講演依頼を受け、「これだ」と思い、今月のテーマを「受援力」としました。

受援力

○上から目線の「受援力」
 被災地のみならず、いろんなところで「受援力」という言葉が使われています。あるサイトには「『受援力』とは、『助けて』と言える力」とありましたが、本当にそうでしょうか。松本俊彦先生、熊谷晋一郎先生たちと「助けてが言えない」という本の中で行った座談会『「依存」のススメー援助希求を超えて』を思い浮かべていました。「『助けて』と言える力」と言っている方はどれだけ上から目線なのか考えたことがあるでしょうか。
 岩室紳也は、自分が困っても、わからないことがあっても「助けて」とは言えませんし、一度も言ったことはないと思います。自分が言えないのに、他人に「助けて」と言いなさいとは口が裂けても言えません。「助けてと言いなさい」と言っている方は自分で何度も言ってきた方なのでしょうね。そうであれば、どのような場面で「助けて」と言ったか、なぜ言えたのか、その結果どのように助かったかを話していただきたいと思います。それとも正解依存症、すなわち、自分なりの「正解」を見つけると、その「正解」を疑うことができないだけではなく、その「正解」を他の人にも押し付ける、自分なりの正解以外は受け付けない、病んだ状態なのでしょうか。

●結果的受援
 では、岩室紳也はこれまで一切誰にも助けてもらっていないかというとそれは全く逆で、いろんな人の助けがあったからこそ、いま、こうやってメルマガを書かせていただいていますし、新型コロナウイルス対策でもいろんなことを考え続けられているのです。すなわちこちらから「助けて」と言わなくても、いろんな人が「助けになる関わり」をしてくださっているのです。
 結果的に「助けられている」、結果的受援ということでもいいと思いませんか。では岩室紳也はどうやって結果的受援を手にしてきたのでしょうか。それは一つ一つの関係性の積み重ねの結果でした。

○先輩保健師さんに教わった空気感染対策
 新型コロナウイルスに関わり始めて最初につまづいた、というかよくわからなかったのが「エアロゾル」でした。ところが、結核対策でエアロゾル感染より感染予防が難しい空気(飛沫核)感染について保健所で学ばせてもらっていました。保健所の医師や保健師は結核患者さんが出れば患者さんや関係者からの聞き取りをし、患者さんの搬送、施設での啓発活動などに関わります。その際に自分自身が感染しないため、患者さんと向き合い続けてきた保健所のベテラン保健師さんに高性能のN95マスクを使うことでマスクの材質や装着法等を教わる中で、空気中をさまよい続ける結核菌に感染しないために一番重要なことは風上に立つことだと学びました。言われてみれば当たり前のことですが、目からうろこでした。
 新型コロナウイルス対策でエアロゾル対策として初期のころから「換気」の必要性が強調されていますが、よっぽど強力な換気扇でない限りさまよっているすべてのエアロゾルを換気扇に向かわせることはできません。だから「排気」という視点で換気扇に向かってサーキュレーターを使用し、空気の流れを創出することが必要になります。ところが、世間ではビルや車両等の換気の専門家の意見を聞き、CO2センサーを設置したり、「何分で空気が入れ替わるので安心です」といった感染症対策とは別次元の、CO2、二酸化炭素滞留対策をあたかも感染症対策かのような錯覚で啓発しています。びっくりなのが空気を循環させている空気清浄機の売れ行きです。まったく意味がないというつもりはありませんが、空気清浄機が起こす気流の結果、感染されている方の風下に立つことになった人は空気清浄機で感染リスクが高まることになります。今や電車の窓が開いているのは普通ですが、ぜひ、利用する場所は進行方向に向かって一番前の窓の前にしてください。一番後ろの窓だと、車両内のすべての方の空気(エアロゾル)の通り道、排気道になります。
 ただ、誤解のないようにしていただきたいのですが、電車内でのエアロゾルでクラスターが起こったという報告はないので、空気の流れでエアロゾルが拡散すれば感染予防になるのかもしれません。でもそのような「エビデンス」はありません。

●握手でパニック
 忘れもしない1994年1月29日、HIVに感染していたパトリックと握手をし、彼の掌の汗が私の手につきパニックになったものの、もちろん感染していませんでした。この経験が、パトとの関りがなければ「ウイルスは、どこから、どこへ、どうやって」ということを突き詰めなかったと思います。一方でエイズパニックの頃、この話を中高生にさせていただく環境をいただけたからこそ、上から目線ではなく、中高生が理解できる「ウイルスは、どこから、どこへ、どうやって」の話の内容をより研ぎ澄ますようになりました。男性同性愛や新宿2丁目に関わる機会を得たからこそ、「感染機会」が危ないのではなく、「感染経路」対策が重要だと気付かされました。

○アベノマスクのおかげ
 マスク不足で世間が大騒ぎをしていた時、わが家に例の「アベノマスク」が届きました。新型コロナウイルス予防の際に、マスクが果たす役割とマスクの材質別のデータを視覚的に示したいと思っていた時だったので早速中学生にもわかる、洗面所の鏡にマスクなし、アベノ(布)マスク、ポリウレタンマスク、不織布マスクで息を吹き付け、曇る度合いを見せる実験をしたところ、マスクによるエアロゾルの増加とポリウレタンマスクを通過する飛沫を映像化できました。これも安倍首相の支援を有効に受け止めた結果でした。

●食べ物についた飛沫は喉につかない!?!
 ある消化器内科の先生に「食べ物に飛沫に入ったウイルスが付着しても、それがのどに触れれば咽頭反射が起こるのでものを食べての感染は起こらない」との指摘を受けました。「確かに???」という思いになりながら、一方で小学生みたいに「じゃあ、手洗いは不要で、素手で食べても大丈夫?」と思っていました。「今回の新型コロナウイルスは飛沫やエアロゾルでうつるので密がダメ」という意見が多いのは承知していますし、それを否定するつもりはありません。しかし、手洗いを推奨しながら、食べ物についたウイルスでは感染しないというのはどう考えても矛盾します。
 悶々とした思いで日々考えていたら、食事中、食べ物を咀嚼しているとおいしい味や香りが口中に広がる感覚を味わっていました。食べ物をかみ、味わっていると飛沫がエアロゾル化して吸い込まれる。この先生の指摘がなければここまで頭を悩ませず、ある意味正解依存症のまま、「接触(媒介物)感染はおこる」と伝えていたと思います。新たな「ウイルスが、どこから、どこへ、どうやって」の気づきが生まれた瞬間でした。

○目に入るのはコンタクトレンズとともに
 新型コロナウイルスの侵入経路として「目」が言われていますが、目をこする人もそれほどいないし、目に前にいる人の飛沫が飛び込むとも思えないけど、一応感染経路として伝えなければと思っていたら、講演を聞いてくれた人が「コンタクトレンズを清潔に扱うことも大事ですね」との感想をくださいました。「いただき」と思いましたが、ここでも気付きをくださった方の指摘の、支援のおかげでした。

●タバコの回し飲み禁止
 新宿2丁目にあるレズビアンのお客さんが多いお店に2回目にお邪魔した時、「岩室さんの話、すごく役に立ちました」と感謝されました。喫煙OKのお店だったので、「お客さんがタバコのフィルターを触る前に手指消毒を徹底してください」とお伝えしていたのですが、「お店のお客さんはタバコの回し飲みを楽しむんです。それだけは禁止にしました」と教えてくれました。岩室が想像だにできなかった、タバコの回し飲みによる間接キス。確かにハイリスクですよね。

○受援力はわかちあい力
 岩室紳也の感染症対策に関する学びはすべて他者にいただいた気づきを積み上げた結果です。「空気感染予防は風上に立てばいい」というのは小学生でもわかる、でも感動的な気づきでした。いくら一人で考えても、書物を読んでも気づけないことは多々あります。それらを気づかせてくれる周囲の人とつながり、コミュニケーションを通したわかちあいを重ね続けると、気が付けばいろんな人と共有できる情報が組み立てられているようです。「受援力」は「わかちあい力」とも言えます。
 ぜひ皆様も、他の人の指摘を「くそ・・・・」や「違うよ!!!!」、「見返してやろう」ではなく、どれもありがたい指摘と思って自分の中で咀嚼し続けませんか。きっとびっくりするような気付きが生まれると思います。多くの指摘に、支援に改めてお礼申し上げます。