紳也特急265号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行) 
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~今月のテーマ『ストレス解消はマスクなしのリアルな会話から』~

●『生徒の感想』
○『AIDS文化フォーラム in 横浜での感染対策』
●『AIDS文化フォーラム in 横浜での気づき』
○『オンライン顔・カメラ顔』
●『マスクなしのリアルな会話を』
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●生徒の感想
 今回の講演でコロナウイルスに関して話してくださり、テレビで話す専門家や政府関係者よりも納得のできる話でした。(高校2年女子)
 感染症の「どこから、どこへ、どうやって」の正しい知識は、私たちにとって一番欲しい情報だったと思います。(高校2年女子)
 「ウイルスは、どこから、どこへ、どうやって」という言葉は国の偉い人とかにも聞いてもらいたいくらいのいい言葉です。(高校2年男子)
 僕はなぜ、どうしてそうなるのか、感染するのかを考えずに、マスクは義務なんだとか勝手に思い込んでいました。先生の講演を聞いて、訳も分からずに周りがやっているから、流れに身を任せるのは危険なんだと感じました。(高校2年男子)
 私は早くマスクをせず、高校生活を楽しみたいです。まだマスク越しでしか顔を知らない子さえいます。将来マスクなしで出かけることができたとしても同級生の顔が分からなければただの他人として判断してしまうでしょう。だから、マスクをせずに高校生活を楽しみたいです。(高校2年女子)
 コロナはとりあえずマスクして、消毒すれば大丈夫ということではなくて、消毒のタイミングを考えたり、むだにマスクの表面をさわるなら条件によってはマスクをしない方がよい時もあるのだと思いました。特に小さい子はいろんなところを触ったりするので、マスクがかえって危険になることもあるんだと知ることができました(高校2年女子)
 今のこのコロナの状況でマスクは絶対必要で、ウイルスを取り込まないようにしてくれる一番のアイテムだと思っていました。けれど、マスクを着けていることでたくさん空気を吸い込もうとするため、その分吐く息も多くなるから鏡が曇るというのを聞いてなるほどと思いました。ある程度の距離があるのならマスクを外した方がいいということが分かったのでこれからの生活に生かしていきたいと思います。(高校2年女子)
 
 夏休み前に高校2年生に話した時の感想です。いろんなことを考えてくれていて、うれしかったです。講演後も保健室でも1時間以上いろんな質問がありました。Facebookで紹介しましたが、中学生の時に私の話を聞いた生徒さんが、仲間3人に呼びかけて作ってくれた「コ」「ン」「ド」「ー」「ム」と書かれたプラカードを講演中に掲げてくれ、それを持って一緒に写真撮影もさせていただきました。世の中には「正解」を求めている人が多いと思っていましたが、少なくともこの学校の生徒さんたちは「考えるための情報」を求めていました。
 岩室紳也自身も考えるための情報と機会を常に求めていますが、コロナ禍で仕事が減り、行きつけの飲み屋さんにも行けず、いろんな人に会えない状況が続くと考えるための情報もいただけず、本当にストレスフルな毎日です。しかし、8月上旬に開催されたAIDS文化フォーラム in 横浜でいろんな人とマスクなしのリアルで話す中で、考えるための情報をいただけただけではなく、大いにストレス解消をさせていただきました。そこで今月のテーマを「ストレス解消はマスクなしのリアルな会話から」としました。

ストレス解消はマスクなしのリアルな会話から

○AIDS文化フォーラム in 横浜での感染対策
 今年のAIDS文化フォーラム in 横浜は昨年に引き続きオンラインでの開催となってしまいました。いつものかながわ県民センターが耐震工事のため、あーすぷらざという音楽の生演奏もできる会場をお借りすることになっていました。そこでのハイブリッド開催を目指し、千葉ダルクの方々による琉球太鼓の演奏と、映画「プリズンサークル」の上映ができるのを楽しみにしていたのですが、緊急事態宣言の発出でオンライン開催となってしまいました。
 とはいえ、配信会場では感染予防策を徹底し、登壇者がリアルで、対面しながらマスクなしでトークを展開するプログラムを実現することができました。飛沫感染対策として配信スタッフとは2m以上の距離をとり、登壇者間はアクリル板による飛沫飛散防止。エアロゾルと飛沫核(空気)感染対策として登壇者の背後から排気口に向けた空気の流れの創出による積極的な排気、飛沫核、空気の追い出し。接触(媒介物)感染対策として入退室時の手指のアルコール消毒と室内飲水は用意したペットボトルとし、配信会場内で登壇者やスタッフが感染するリスクを最小限にする対策を徹底しました。
 
●AIDS文化フォーラム in 横浜での気づき
 私が登壇したプログラムはすべて他の登壇者とのトーク形式でしたが、マスクなしのリアルでの対面トークとオンライントークの違いについて大きな気づきをいただきました。トークの場面は次の4つのパターンでした。
 
 岩室を含む登壇者全員が同じ配信会場でトーク。
 岩室を含む登壇者3人が配信会場から、1人がオンラインで参加。
 岩室が配信会場から、他の4人の登壇者全員がオンラインで参加。
 岩室が配信会場から、もう1人はオンラインで参加。
 
 いろんな人と対面で話す機会が減る中、登壇者全員が同じ会場でトークをしたプログラムは参加していて非常に充実感を感じるとともに、楽しさが抜きんでていました。もちろん、登壇する前はお互いにマスクをつけて挨拶をしたり、下打ち合わせをしたりしたのですが、マスクを外して、お互いの表情が見える状態でトークが始まるや否や、それぞれの気持ちがはじけたようにトークが展開されていました。初対面の人もいる中、だからこそ一人ひとりの表情や体全体で表している思いを感じながら、ごく自然な形で他の人の話に途中から入ったりすることもできました。というか、一人ひとりが本来はそのような関り方をしていたんだということを思い出しては楽しみ、日頃のストレス解消をしていたように思います。中高生に話をする時に、「2m以上の距離を取り、マスクを外して話す」ことの大切さを伝えてきましたが、これからは自分自身の経験として「マスクなしのリアルトークの大切さと楽しさ」を伝えたいと思いました。
 ところが登壇者のお一人だけがオンライン参加だと、対面で話している人たちの話が盛り上がる一方で、オンラインの方について、「いつ、どのようなタイミングでこの人に振ればいいか」といった流れづくりに気を取られてしまいますし、その方もどこで話に入ればいいかを探り続けておられると感じました。もちろん話の流れはそれなりにスムースに進んだのですが、その方が同じフロアにいらっしゃればもっと盛り上がったのだろうなと思いました。
 登壇者全員がオンラインでの参加の場合はいかに話の流れをスムースに運ぶかといったことに全精力をつぎ込んでいて、一人ひとりとのトークの楽しさはやはり少なかったと言わざるを得ません。
 二人でオンライントークをした相手は同じ運営委員の宮崎豊久さんでした。お互い気心も知れている間柄だったので、その場は上手くまとめられたとは思いつつ、もしリアルだったらもっと気分的にも盛り上がっただろうと思いました。おそらくオンライン故の一瞬のタイムラグのため突っ込みが一瞬ずれることで、言葉が弾んだキャッチボール的なやり取りができないのだと感じました。
 一方でプログラムを聞いていた方の立場から考えてみました。視聴者はどのセッションも画面越しで視聴しているため、配信会場の人もアップでうつる時はオンライン参加の人と同じように映るのでどちらも同じだと思ったのではないでしょうか。さらにAIDS文化フォーラム in 横浜のオンライン配信チームは秀逸で、スタジオのようにカメラ3台を切り替え式で操作していたので、配信会場の映像もスピーカービューで見ているとどのセッションの映像も同じように見え、会場とオンラインの違いを感じなかったと思われます。オンライン授業、オンライン会議、オンライン講演会が当たり前の世の中ですが、だからこそオンラインの限界と問題点についてさらに検証を重ねる必要があるようです。

○オンライン顔・カメラ顔
 皆さんはテレビに映っている人たちをどのような感覚で見ているでしょうか。何となく平面的で、テレビに映っている人たちとの交流感はないですよね。今回、オンライン参加されている方々と大きなテレビ画面越しでトークをしたのですが、画面に映っている顔が「オンライン顔」「カメラ顔」だと感じました。もちろん笑うなどいろんな表情をされるのですが、ギャラリービューでみんなが同じ画面に映っていても、やはり交流感は乏しいと思いました。
 一方で、会場で一堂に会している他の登壇者はどちらかというと横顔が中心で正面の表情は見えないにも関わらず、いろんな場面でうなずいたり、いろんな表情を見せたり、さらには見ていなくても反応していることを感じる中で、一緒にいるという感覚をもらえました。カールロジャーズが「人は話すことで癒される」という言葉を発した時代はオンラインで話すということは想定されていなかったでしょう。今回、「話す」というのは単に言葉のやり取りをするだけではなく、リアルに会って言葉を交わすことに加え、その場の空気をも共有することだと実感させていただきました。
 では、なぜ「オンライン顔」「カメラ顔」だと癒しにつながりにくいのでしょうか。そう考えた時に思い出した言葉が「コミュニケーション」でした。コミュニケーションの語源は「わかちあう」「共有する」だそうですが、カールロジャーズが言った「話す」というのは、単に言葉を交わすだけではなく、言葉以外の雰囲気やしぐさをも含んだ「コミュニケーション」という意味だったのだと納得しました。

●マスクなしのリアルな会話を
 当たり前のことが当たり前ではなくなってしまったコロナ禍で、夏休みも延長して学校に行けないなど、児童、生徒たちが相変わらず大人たちに振り回されています。「オンライン授業をするんだからいいだろ」とか、「半数は学校に来ている」といった安易な考え方ではなく、マスクなしで相手の表情を見ながら会話をすることの大切さを、生徒一人ひとりが改めて感じる場面を作ってもらいたいと思います。
 行政の要請を無視してお酒を提供している居酒屋が各地で繁盛しているようですし、横浜市内にもそのようなお店は数多くあります。神奈川県知事はマスク飲食を求めていますが、もちろんそのようなお店の利用者はマスクなしで談笑しています。ではこの人たちは単に「酒が飲みたい」「コロナなんて関係ない」「行政のいうことなんか聞いてられるか」といった不埒な考えの人たちでしょうか。もしかしたら本能的に人が必要としていることは何かを理解し、本能的に自分自身の身を守っている人たちかもしれません。なぜならそういうお店を覗くと、不思議と談笑している人たちは自分の飛沫が相手の顔や料理にかからないように角度をつけて話をしているように見受けられます。
 ストレスだらけの世の中になっていますが、いま、何を、どうすれば少しはストレス解消になるのかを一人ひとりが考えなければならない時かもしれません。皆さんはこれからどうされますか。私はマスクなしの会話の場面を一つでも多く作っていきたいと思います。もちろん感染予防対策をしっかり徹底した上で。