紳也特急 78

〜今月のテーマ『出会いは大切』〜

●『いいじゃない いいんだよ』の感想
○『デブな医者をやせさせるには』
●『過程(プロセス)を評価する意味』
○『心に響く性教育』
●『博士の愛した数式』
○『「出会い」の創造を狙って』

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●『いいじゃない いいんだよ』の感想
 どんな問題も、人と人の関係。人間愛なのかなぁと、考えさせられました。生徒たちを見ていて思います。「何で、そんな簡単に『死ぬ』と口にするんだろう?」と。ちょっと嫌なこと、辛いことがあると「もう死ぬ〜」「死んだ〜」「死にたい〜」と言います。
 私は言葉には力があると思っています。いわゆる言霊というものでしょうか。だから、「事故ればいいのに」「死ねばいいのに」という言葉を聞くと、とても辛く、嫌な気分になります。生徒に「もう死ぬぅ」と言われると、「大丈夫。めちゃめちゃ生きてるし」と切り返します。
 もう去年になりますが、口癖のように「死にたい」と言っていた女の子がいました。しかしある日、親しくしていた彼氏の兄が事故で亡くなりました。彼女の親は離婚していますが死んではいません。きっと、初めて「死」というものを身近に感じたのだと思います。その出来事以来、彼女の口から「死にたい」と私は聞いていません。
 この本を読んでいて、やはり「出会いは大切」とつくづく感じました。たくさんの人たちと触れあわないと、いろんなことを学べないんですね。
 ある養護教諭の先生が私たちの本を読んで感想のメールをくださいました。人が育つにはいろんな経験を重ねることが必要なのでしょうね。大人たちは次世代に何を、どう、伝えればいいのでしょうか。先月のメルマガを書きながら、そもそも性教育、エイズ教育の目標、目的は何なんだろう。いい性教育、悪い性教育ってどのように評価すればいいんだろうという考える中で、やっぱり大切なものは出会いだということを改めて感じたので今月のテーマを「出会いは大切」としました。

『出会いは大切』

○『デブな医者をやせさせるには』
 先月号で少し紹介しましたが、私(岩室紳也)は昨年7月からダイエットをはじめ、約10キロ減量することに成功しました。しかし、この10キロに満足することなくあと5キロはやせようと思っています。
 面白いことに、ヘルスプロモーション関連の研修でこの話をすると、保健師や栄養士といったいわゆる専門家の人たちは「どうやってやせたのですか」と繰り返し聞いてきます。私は「おいおい、皆さんプロでしょ」と言っています。「食べない、飲まない、運動する」しかないじゃないですか。そんな知識は誰だって持っているんです。
 エイズウイルスに感染しないためにはノーセックスかコンドーム(細かいことはここでは触れません、あしからず)。こんなことはみんな知っています。でもできない。だからこそ性生活習慣病という概念(紳也特急57号)を取り入れないといけないと言っていた私が、性教育の評価を旧来の行動変容、知識の変化、といったことでしようとしていました。恥ずかしいことです。

●『過程(プロセス)を評価する意味』
 公衆衛生関係者であれば様々な生活習慣病の原因の一つになっている肥満の人に対して、知識伝達だけでは十分な成果を挙げられないということは百も承知しています。もちろん知識伝達型のアプローチは意味がないというわけではありませんが、その人の意識や行動が変わるためのきっかけづくりとしての出会いも大切ですし、行動が変わった、変わろうとした後、その変わった、改善された生活行動が習慣化されていくための環境を整備しておくことも重要になります。すなわち、様々な取り組みがあってはじめて望ましい生活習慣を身に着けられることから、逆に無駄なものはなく、多様な出会いがなければならないと言ってもいいのではないでしょうか。

○『心に響く性教育』
 私はお蔭様で全国を飛び回らせていただき、そんな中で多くの出会いをいただき、一つ一つの出会いを大切にすることでまた日々の元気が生まれているように思います。「出会いが大事」と考えていた時に北海道思春期教育ネットワークの研修会で話をさせていただく機会を得ました。いただいた演題が「心に響く性教育の実践」でした。講演内容は基本的に今までと同じだったのですが、「心に響く」ということを意識して整理して話してみると、これが岩室の性教育の原点だったと改めて気付かされました。一人ひとりの患者さんとの出会い。やり取り。死。私自身が心を動かされてきた中でいただいたものをそのまま伝えるのが私の性教育、エイズ教育の原点でした。つい先日も一人の患者さんが亡くなられました。どうしてこんなに若くして亡くならなければならないのか、という悔しい思いをそのまま若者たちに伝えることの大切さを忘れたくない。その原点を思い出させてくださった北海道の皆さんに感謝です。

●『博士の愛した数式』
 「最近、本を読んでいないんじゃない。人に話を聞かせる人が自分の中に感動がなくていい話がでるはずがない」こんなことを私に言ってくれるのは家内しかいません。勧められた本が映画化もされた小川洋子さんの「博士の愛した数式」でした。記憶が80分しか持たない障害を背負った数学者の物語です。読後感は何とも言えない暖かいものでした。映画化されているのでそれもぜひ見てみたいと思っています。
 とても読書好きとは言えない自分がこんなに本を読むようになったのは家内との出会いのおかげです。確かに出会いに疲れることもあるでしょうが、心に響く出会いをもっと増やしたいものです。最初に紹介させていただいた養護の先生が「出会いは偶然ではなく必然だと思えるようになってからは、新たな出会いがだいぶ好きになりました」とをおっしゃっていました。本当にそうですね。

○『「出会い」の創造を狙って』
 たった一回の講演を聞かせるだけでいいのだろうかと迷っている人がいますし私もそのように思っていた時期がありました。しかし、若者たちの立場になって考えてみてください。いま、若者たちが性やエイズについて考えるチャンスはほとんどありません。エイズを題材とした小説で感動できるものもありません。教科書的な情報はそれなりにあるのでしょうが、かれらの心に響く感動的な話を一つでもしてあげられたら、それこそ別の生き方に触れる出会いであり、自分の生き方を見直すチャンスではないでしょうか。「あの人の話を聞いてよかった」という感動を伝えることが出来ればと思い、これからもこつこつと講演会を重ねたいと思います。