紳也特急 84

〜今月のテーマ『いのちと食事』〜

●『こんな校長先生たちがいた!』
○『いのちを育む食事?』
●『「夕食」が「友食」に』
○『個食は食餌?』
●『好きな食べ物は何ですか』
○『家族に勝る調味料なし』

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●『こんな校長先生たちがいた!』
 「今日は岩室先生の話をみんなに聞いてもらいます。君たちが岩室先生の話が聞けるくらい大きく成長したことは先生としても大きな喜びです」と始まった校長先生の挨拶は感動的でした。君たちはこうしなければいけない、こうしなさい、命を大切にしなさい、と説教やスローガンを並べるのではなく、生徒さんたちが成長していることを自分の喜びとして語り、成長のプロセスの中に今回の性教育の講演会を位置づけていることに感動しました。
 「今度、親向けにインターネット講習会を予定しているんです。もちろん学校のPC教室で行ないますが、今厳重にかかっているブロックを全部取り払い、親御さんに性情報の氾濫の実態をきちんと認識してもらいたいと思っています」と、これまた別の中学校の校長先生のお話です。「先日、若い議員さんが来られて、どのような性教育を行なっているのかを聞いて行かれ本校で行なっている性教育の話をしたら、『そのようなことをすると性行動を煽るのではないか』と言われたのですが、事実誤認も甚だしいですよね。子どもたちの周りにある情報は本当にひどい。しかし、それらの情報が間違っているときちんと教えられる大人が少ない中で岩室先生の話は貴重です」と言ってくださいました。
 全校生徒への講演が終わった後、質問をとっても案外出ないものです。そんな時、しかめっ面の固い校長先生だと思っていた方が手を上げられ「今日の先生の話は本校の高校生に非常に有意義だったと思います。そんな彼らが聞きたいけど聞きにくいのが『コンドームに値段の安いのや高いのがありますが、性能に差はあるのでしょうか』ということだと思います。教えていただけますでしょうか」と聞かれた時にはこれまた「感動」でした。敢えて校長たるものが、子どもたちの気持ちを代弁して、真剣に考えなければならないことだという姿勢を示してくださいました。
 「愛の反対は無関心」とこともなげに答える校長先生は、「この子たちは先が読めず、自分だけは大丈夫だと思っているのでしっかり教えてやってください」と何でもOKでした。
 どこにもちゃんと子どもたちの現状と成長に目を向け、いま、自分が何をすべきかを考え行動している校長先生が少なくないことを実感させていただきました。そんな中で、岩室がいま、何を、もっとも伝えたいのかと考えてみました。結局は「いのち」の重み、それも患者さんをはじめ多くの人たちから学んできたことをそのまま、正確に伝えることでした。その中から一人一人が何かを感じてくれます。講演の中で食事の話をしながら、いのちの大切さを再認識しましたので、今月のテーマは「いのちと食事」としました。

『いのちと食事』

○『いのちを育む食事?』
 食育という言葉が各方面で使われていますが、どうもいのち(生命)を維持するためには食事を通して栄養素やカロリーを摂取しなければならない。さらにそのバランスが崩れると様々な病気になるので注意をしなさい、という雰囲気が蔓延しているような気がしています。だからちゃんと食べられるように子どもたちを育てなければならないと思ってはいないでしょうか。皆さんにとって食事はその程度のものですか。そんなに感動のないものですか。違いますよね。

●『「夕食」が「友食」に』
 ここ1〜2年、講演の中で生徒さんに「今晩何が食べたい」と聞いた時の反応が気になっていました。何を答えるか、答えられるかは当たり前のことですが、生徒さんが育った環境が大きく影響しています。私立の学校では、ハンバーグ、寿司、焼肉、てんぷら、カレー、鯵の干物、うどん、焼きそば、スパゲッティ、中にはキャビアなどと贅沢なものを含めて何の躊躇もなくメニューを答えてくれます。少し地方の学校で聞くと、塩鮭の焼いたの、肉じゃが、といった伝統的な料理を上げる生徒さんもいて、地域性や家庭環境の違いが見えてきます。しかし、学校の先生たちが「家庭環境が複雑なお子さんが少なくありません」という学校では、マック、ハンバーグといった具体的なメニューが出てくるお子さんはまだましですが、「特にない」と答える子や「考えられない」というお子さんが少なくありません。確かに家に帰っても食べるものがなかったり、コンビニやお弁当屋さんで自分が買った弁当を食べていると食べたいものはと聞かれても答えられないかもしれません。「夕食」が「友食」に変わったのもうなづけます。

○『個食は食餌?』
 こんなことを考えていた時に講演を頼まれて出向いた先で昼食をご馳走になりました。40cm四方はあろうかという豪華弁当、中身は3種のお刺身、焼き魚、フライが2種類、メロンまで付いた、今までになかった(他の文句を言っているのではありません、念の為に)ものを楽屋裏の鏡が設置された部屋に用意され、「こちらでゆっくりお昼を召し上がってください」と言われました。「皆さんとご一緒に」というとみんなは済ませてしまっていて、他にもまだ仕事があるという雰囲気でした。「つまんないな」と思いつつ、鏡の中に映る自分を見ながら食べる豪華な弁当が少しも美味しくなかったのです。それこそ、食事ではなく食餌(えさ)です。芸能人の皆さんはいつもこのように食べておられるのでしょうか。お気の毒ですね。
 もっとも、病院で診療をしていると患者さんが途切れることなく、気がつけば昼食抜きになることも。おなかが空いたからと売店でサンドイッチやおにぎりを買って外来の奥でパソコンに向かいながら食べているとやはり「餌」だと感じます。これで自分自身がガマンができるのは、診療そのものが人との触れ合いであり、そこにいろんな関係性や感動が生まれているので、一食ぐらいが「餌」でもガマンができます。

●『好きな食べ物は何ですか』
 生徒さんに「今夜食べたいものは」と聞いていたら、最後の質問で、「岩室先生が好きな食べ物は何ですか」と聞かれ、思わず答えたのが「女房の手料理」でした。あらためて岩室紳也が好きなメニューは何かと自問自答してみると、美味しい鯵のお刺身、鯵の塩焼き、メバルの煮付け、スモークサーモンとサラダとワインの組み合わせ、といった個々の食材やメニューはいろいろあげられます。しかし、その料理をきっかけとして誰かとおしゃべりをし、「おいしいね」とか「少しカロリーオーバーだよ」といった会話を楽しみながら食べることが何よりの幸せです。先日、北海道では魚の干物を、岩手では生のホタテ、イカの一夜干をはじめとした海産物をいろいろといただいたのですが、その美味しさは言うに及ばず、何よりこの岩室紳也のためにわざわざ買いに行ってくださった気持ちがうれしくないですか。そう思いながら、話題にしながら、いただいたコマイの干物を北海道のスキー場のホテルで教わったマヨネーズに七味唐辛子を混ぜたので食べると、これまた思い出話に花が咲きさらに美味しさが増します。
 このように食事一つをとっても、それを楽しみ、味わい、感動しながら生きることができれば、また明日も生きたいと思えるのではないでしょうか。

○『家族に勝る調味料なし』
 食べる事を楽しむにはやはり家族や仲間が必要です。全国を飛び回っていると帰りの新幹線や飛行機の中で食べることもありますが、夜9時頃までに自宅に帰り着くことができる時は家で食事をしています。駅弁も空弁も多様化し美味しくなっています。しかし、一人で食べることのむなしさを考えると、やはり家族に勝る調味料なしです。例え時間がなくてお弁当を買ってきて済ませるにしても家族が一体感を持って食事ができればその日の思い出話に花が咲きます。その点友食は個食よりましなんでしょうね。
 自分のHPのトップに『「命の大切さ」、「愛を伝えたい」と軽々しく言う前に命を育む源となる美味しいご飯と人のぬくもりが待っている、Only One が招かれる環境づくりをしたいですね。いま、子どもたちが見たがっているのは大人たちの背中です』、と書かせていただいています。食事の機会一つを大切にしているという話だけでも子どもたちは何かを感じてくれます。皆さんも自分と一緒に食事をしてくれる人の大切さ、存在のありがたさ、その人のいのちの大切さを今一度見直してみませんか。