紳也特急 93

〜今月のテーマ『スローガンの裏づけ』〜

●『うれしい励まし』
○『発達段階に応じた理解を支える』
●『スローガンも大事』
○『セックスは好き?』
●『自分を大切にしよう』

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●『うれしい励まし』
 ある自治体からエイズ講演会の依頼され、その担当の方から次のようなメールをいただきました。
 『私も、10年ほど前に中学校で岩室先生のお話しを聞かせていただいたことがあります(神奈川県の○○中学校です)。まだ12歳か13歳のことでちょうど性について少しずつ興味を持ち始めていた時期だったと思います。岩室先生のお話しはとても興味深く、10年経った今でも、チャンピオンくんのお話しや、お刺身のお話しなど、お話しいただいた内容を覚えています。また先生にお会いでき、興味深いお話しを聞かせていただくことができるのを、楽しみにしております。』
 よく性教育の評価は直後のアンケートだけではなく、何年も後にその人の行動がどう変わっているかを評価しなければ意味がないとおっしゃる方がいます。確かにそうなのかもしれませんが、一つの講演や授業が「どう影響したか」も大事でしょうが、私は、私のメッセージがこうやって10年以上たった今でも覚えていてもらえる内容であったことがちょっとうれしかったですね。
 そして次のような感想を講演直後に生徒さんからいただきました。
 『これからも、世界中の人に生命の大切さを教えてください。自分の体を大切にしようと思ったし、友達とか近くにいる人たちも大切にしないといけないなと思いました。「愛の反対は無関心」・・・これが私の中で一番印象的でした。以前、本を読んでこの言葉を知ったのですが、今日初めて本当の意味を理解できた気がします。いつかは本当に大切な人とそういった行為する日が来ると思うので、その暇では自分を大事にしたいです。「愛の反対は無関心」という言葉がとても印象深かったです。男の人に言われた言葉がどんなにうれしいものでも、自分の意見は大切だと思いました。本当はしたくなかった・・・。などと、あとになって後悔をするぐらいなら、はじめから、いやと言うのがとても重要だと思いました。』
 生徒さんが「生命の大切さ」ということを書いてくれると不思議に「よかった」と思えます。これは私の話をどう受け止めたらいいのかを考えた時に、誰かが教えてくれた「生命の大切さ」ということがこういうことなのか、あるいは「愛の反対は無関心」とはこういうことなのかということをその生徒さんが理解できるタイミングだったということでしょう。そこで今回のテーマは「スローガンの裏づけ」としました。

『スローガンの裏づけ』

○『発達段階に応じた理解を支える』
 よく性教育は(最近は「性の教育」と言うそうですが)発達段階に応じた伝え方に気をつけなければならないと言われます。確かにそうなのかもしれませんが、この言い方だと「発達段階によっては教えてはいけないこと」があるように思えてなりません。そのため私は常々、性の教育では正確で科学的な内容をきちんと伝えることを心掛けることが大切で、生徒一人ひとりは「発達段階に応じた理解」をするはずだと言ってきました。「命を大切にしよう」というスローガンを何万回繰り返しても、「命」というものが何かがわかっていない生徒には理解できないメッセージになります。HIV感染予防にはノーセックスかコンドームと教えなければ、自分が感染する状況というのが理解できないままだと思います。

●『スローガンも大事』
 ただ、「スローガンはやめよう」と言っていた私も、生徒さんの感想の中にあった「世界中の人に生命の大切さを教えてください」というのを読ませてもらって少し反省させられました。この生徒さんは「命は大切だ」といったことを誰かが伝えていたからこそ私の話が「命の大切さ」を伝えるメッセージだったことに気付いてくれました。もしこの生徒さんの中に「命の大切さ」というある意味スローガンを教える人がいなければ、あるいは紳也特急88号で紹介した「命は大切だ」と規定し、そのことを理解し、正解として提示できる学校教育を受けていなければ、私のメッセージが「命の大切さ」を伝えるものだと表現できなかったことになります。私のように、医療現場やボランティア活動を含めた日常生活の中での出来事を伝える立場の者だけが若者に関わっているだけでは、生徒さんたちはともすれば「そんなことがあったんだ」と聞き流すだけになるのかもしれません。スローガンを教わっているから「命の大切さ」が理解できるようです。

○『セックスは好き?』
 メッセージを伝える難しさで思い出したことがありました。ある中学で講演した後、3人の女子生徒が私と話をしたいと校長室を訪れ、いつもながら先生方抜きで話をさせてもらいました。

生徒A:フェラで病気はうつるの?
岩 室:特にクラミジアは多いよ。
生徒B:フェラって大嫌い。
他二人:私も<`〜´>
岩 室:のどクラというけど、のどに感染しても症状が出ず、パートナーが替わったら次の相手にうつすこともあるんだよ。
生徒C:私、処女だから大丈夫。
岩 室:でもフェラはやったんだよね。
生徒C:でも下は処女だよ。
岩 室:でものど処女じゃなければ今度病気を持っていない彼にフェラをしてそれからセックスをすれば自分の腟や子宮に感染するんだよ。
生徒C:そっか(@_@;)。のども危ないんだ。
岩 室:フェラが好きじゃないなら嫌といえばいいじゃない。
生徒B:この間、いやだと言ったらわかれちゃった。
岩 室:それでいいんだよ。
生徒A:だってきれるんだもん。
岩 室:のどが切れる?
生徒A:ちがう。キレるの。
岩 室:そんなやつやめたら。
生徒C:そうだよ。
岩 室:そもそもAとBはセックスは好きなの。
二 人:好きだよ。
岩 室:本当かな。
生徒A:だって触れ合っているのって気持ちいいじゃん。
生徒B:抱きしめられている感じはたまんない。
岩 室:ちょっと待てよ。講演でも言ったけど、大人になってもセックスが好きじゃない女性も少なくないんだよ。本当に入れられるのが好きなの?
生徒A:いやだよ。でも一緒はいい。
生徒B:そっか。私が好きなのはセックスじゃないんだ。
生徒C:フェラもセックスも男が好きなんだ。
岩 室:したくなかったらどっちも断ればいいんだよ。
全 員:は〜い。ありがとね。

●『自分を大切にしよう』
 「セックスがいやならNoと言おう」というメッセージだけでは私の思いはこの3人には伝わっていないことを反省させられました。「セックスという場面を好きだと思っているあなた。あなたは本当は、抱きしめられている、肌と肌のふれあい、ぬくもりを感じている場面が好きなだけじゃないの。本当に挿入されているのが好きなのか考えてみよう」と言わなければいけないのでしょうが、そこまでストレートには言えないものです。いかんせん、学校ですから。でも、「本当に・・・・考えてみよう」を省けば学校で話せる内容ですよね。そして「Noと言おう」や「あなたの本当の気持ちは」というストーリーを受けて、私の講演の後の学校長の挨拶が、「岩室先生は自分を大切にしようということを教えてくださいました」と締めくくっておられました。連携が大事ですね。