感染予防の難しさ  ~AIDS文化フォーラム in 横浜での学び~

感染予防の難しさ
 これまで「感染予防の基本」、「常に考えたい『何故』と『根拠』」、「『リスク』と正しく向き合うために」を書かせていただきました。文書だけでは伝わらないことも多々ありますので、HPにPowerPointもvideoもアップしていることも紹介しましたが、やはりそれだけでは不十分だったようです。「もう少し具体的に」という注文が入りました。と同時に、夏休み前に講演した高校生から次のような感想をもらいました。

 コロナウイルスに対する固定観念が払拭されました。「なぜ?」を突き詰めていくと、今この世界で根拠がないものはどれくらいあるのかすごく気になりました。

 原因を1つ1つ掘り下げることの難しさがとても伝わってきました。感染経路を特定するのは、簡単な事のように思えますが、それを解くのはパズルのようでととても面倒くさいものですね。

 高校生は本当に鋭い。「なぜ?」を突き詰めると、新型コロナウイルスでよく使われる「3密」「濃厚接触」「濃密」といった曖昧、かつ抽象的な言葉がいかに感染経路の理解を妨げているのかがわかります。かといって、具体的に示せば示すほど「その行動をとっていないから大丈夫」になります。しかし、高校生からの感想は感染経路について丁寧に紹介した結果でもありますので、感染経路についても丁寧に紹介したいと思います。
 その前に、2021年8月に開催されたAIDS文化フォーラム in 横浜で多くの気づきをいただきましたので紹介させていただきます。
AIDS文化フォーラム in 横浜での学び
 今年で第28回目を迎えたAIDS文化フォーラム in 横浜ですが、28回続いたからこその気づきをいただきました。

1.人は経験に学び、経験していないことは他人ごと
 HIV/AIDSでもそうでしたが、新型コロナウイルスでも感染するまで「まさか自分が」とみんなが思っています。他人ごとと思っている人に対して最も効果的なメッセージは当事者の経験談でした。しかし、いま、マスコミから流れている当事者の声といえば「入院ができない」「感染経路がわからない」といったものばかりです。HIV/AIDSと異なり、経過が急で、数日から数週間以内に回復するか、重症化するかという短期勝負の感染症では当事者に学ぶことはないように思われがちです。しかし、感染経路の誤解といった当事者の経験は他の人の参考になるものばかりだと思っています。個人の知識や情報のなさということではなく、正確な情報が伝わっていない現状に鑑み、そのような情報を共有できればと思っています。
 一方でHIV/AIDSを経験した人たちは、当事者も支援者も新型コロナウイルス対策についても冷静かつ客観的な視点で考えることができていたように思いました。これは私を含め、HIV/AIDSで様々な苦い失敗経験を重ねてきた結果のなせる業です。しかし、そのような経験がない人は得てして自分なりの正解を探し、無意識の内に正解依存症に陥るリスクがあるのではないでしょうか。
2.対話、リスクコミュニケーションの大切さ
 対話とは面と向かって、声を出して話すこと。今回、フォーラムは無観客で開催しましたが、可能な範囲で登壇者はオンラインではなく、対面で話すようにしました。その結果、感覚的なものではありますが、対面で、相手の声を生で聞きながらの対話は登壇者自身がびっくりするぐらい、無意識の内に一人ひとりが欲していた、心に響くものでした。リスクコミュニケーションで大事だといわれている「信頼関係」も、対面だからこそ構築できるものだという実感がありました。
3.HIV/AIDSと新型コロナウイルスの共通点
 どちらも感染症だからでしょうか、「ウイルスは、どこから、どこへ、どうやって」というウイルスに着目した理解が重要です。しかし、実際には「誰が、どこで、どうして、どうなった」と感染した人に焦点を当てて理解をしようとする場面が多いようです。HIV/AIDSの時は「いいエイズ(薬害エイズ)」「悪いエイズ(性感染)」といった区分けになりましたし、新型コロナウイルスでも「夜の街」「お酒を提供するお店」といった悪者探しが未だに続いています。
 HIV/AIDSで偏見や差別が助長されたのは、HIVの正確な感染経路を伝えにくいという人の心理が結果でした。MSM(men who have sex with men:男性とセックスをする男性)間での感染経路の一つは肛門性交です。ところがこのことを正確に言えない人は、そもそも男性同士の性行為についても語れない、語らないため、結局のところ「相手を思いやる心が大事」といった曖昧な表現を羅列していました。新型コロナウイルスで一番語られていないのがキス・唾液感染ではないでしょうか。なぜキスでの感染が起こり得るのかを含め、後で詳しく紹介します。
4.歴史は繰り返される
 「人は経験に学び、経験していないことは他人ごと」という言葉は裏を返せば「歴史は繰り返される」ということなのかもしれません。戦争を知っている世代は今でも必死に戦争での経験を伝えようとしてくださっていますが、戦争の記憶が風化していると感じている人は少なくないと思います。私のようにHIV/AIDSの歴史を知っている世代は、それこそ必死にその経験を伝え続ける努力が求められているのだということを改めて今年のAIDS文化フォーラム in 横浜で学ばせていただきました。