不登校、引きこもり、暴走族の共通点

 実は次に「不登校、引きこもりを増やす正解依存症」というのを書こうと思っていたところ、ある中学校の校長先生と話していたら面白いことに気づかせてもらいました。

 2025年の2月~3月にかけて中学3年生の卒業前の講演会をいくつもさせていただいています。おじゃする学校でのイマドキの中学生の2極化が気になっていました。すごく大人しく、人目を気にしすぎる、不登校も多い学校もあれば、それこそ「学級崩壊」とか「荒れた学校」と言われた時期の、暴走族に入る元気なお子さんがいる学校もまだ少ないですがありました。この違いはなんでだろうと思っていたら一人の校長先生が面白いことを教えてくださいました。

 暴走族に入り、補導歴もあり、仲間の兄貴分たちは少年院送りになっている中学生の男の子も、上から目線で怒ったりするとすぐ切れるけど、上手に対応するとトラブルも起こさないとのことでした。その生徒の学年の先生たちはその子との接し方がわかっているので何とかなるらしいのですが、他の学年の先生だと、もちろん情報は共有していてもなかなか上手に対応できず、結果としてその子がトラブルを起こすことになってしまうとのことでした。

 一方で不登校や引きこもりになってしまう理由は本当に人それぞれです議論しても意味がないと思っている人が少なくないのは承知しています。しかし、ここ数年、小中学生の不登校が毎年5万人ずつ増えているには社会に蔓延する何らかの要因が絡んでいると考えられます。これは公衆衛生、すなわち予防の観点から見ると、ハイリスクな個人へのアプローチ、状況の確認と対処も大事ですが、実は社会に蔓延するリスクが一人ひとりの健康に大きく影響していることに着目した対応が求められています。バブル期に急増した自殺。コロナで急増した女性の自殺。増え続ける児童虐待や不登校、ひきこもり。これらの問題を単に個人の問題ととらえるのではなく、社会に蔓延するリスクととらえる必要があります。でも、「社会に蔓延するリスク」と話をしても多くの人はピンときませんでした。ところがあるドラマが興味深い視点を教えてくれました。

 ドラマ「御上先生」で紹介された”personal is political”。 直訳すれば「個人的なことは政治的なこと」、 「個人的なことは政治と無関係ではない」になりますが、さらに言うと「個人的な課題を解決するためには、実は社会を動かすような政治的な介入が必要な場合が多い」となります。

 今回、すぐトラブルを起こしてしまうやんちゃなお子さんは、ある意味、他の大人や教師から見れば当たり前の叱責を受けただけで切れてしまうのも、それは多くの人にとっては当たり前、正解と思える叱責を彼が当たり前と受け止められないからだと思いませんか。「いやいや、同じように叱っても他の生徒はちゃんと悪いことをして怒られているとわかる」という大人はいるでしょう。しかし、そのお子さんと上手に向き合える大人もいれば、そうではない大人もいることを考えると、人との向き合い方を考えるいいきっかけをその子が与えてくれていると思いませんか。

 不登校と暴走族の共通点を「周囲の正解と自分の中の正解とのギャップ」と考えられないでしょうか。そもそも「不登校」も「暴走族」も社会のルールに反することと考えられ、多くの人がそれらの問題に深く首を突っ込んでいません。こう書いただけで「不登校」と「暴走族」を同一視するなと御怒りの方がいらっしゃると思いますが、その視点はハイリスクな、不登校、暴走族のハイリスクな個人に視点を当てていると言えます。それこそそのような個人とちゃんと向き合っていない、公衆衛生的に言えばハイリスクアプローチの視点しか持てない専門職と言わざるを得ません。だからこそ”personal is political”の視点が求められています。

 見方を変えてみました。多くの場合、不登校や暴走族の当事者は学校や社会に蔓延する、誰がつくったかわからない正解を押し付けられ、つらい思いをしていないでしょうか。そのつらさから逃れるべく、学校に行かなかったり、暴走という多くの人が迷惑と、反社会的と思う行為に走ったりします。

 では岩室紳也はそのような人たちと関わったことはあるのか。関わった上でこの原稿を書いているのか。そのようにお怒りの方もいらっしゃるでしょう。実は不登校、ひきこもり、暴走族との接点がなければこのような気づきは燃えませんでした。

2005年1月27日の読売新聞に次のような記事がありました。

 昨年1年間に全国の警察が確認した暴走行為の参加人員は延べ9万3438人で、一昨年より31%(4万2717人)も減少したことが、警察庁のまとめで分かった。
 警察庁は、「暴力団の予備軍と化している暴走族が、今の若者気質に合わないのではないか。上下関係の厳しい組織に嫌気を感じ離脱する者も多い」と指摘している。
 100台以上で暴走する大規模なグループはほとんどなく、1グループ当たりの平均構成員数も、95年の32人から、昨年は18人に落ち込んだ。

 当時、この記事を紹介しながらいろんな学校のPTAで講演していたら、何校ものPTA会長から「オレ、元暴走族」とカミングアウトされました。もちろんPTAの会長を引き受けるぐらいなので、その時点では学校長を含めた地域の皆さんとの関係性も全く問題はなく、むしろ「元暴走族」からの更生(?)の経験がイマドキの子どもたちの理解に寄与していたと思いました。この記事にある「上下関係の厳しい組織に嫌気を感じ離脱する者も多い」というのは正解依存症だらけの学校を含めた日本社会で不登校、ひきこもりになるのはある意味当たり前で、暴走族と感覚は同じと言えないでしょうか。

つづく

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