紳也特急 135号

~今月のテーマ『ラジオのような講演』~

●『高1女子の感想』
○『聴衆が見えた』
●『講演会の評価』
○『コンドームの装着法にNo!』
●『持ち物より持ち主が大事』
○『26週と22週』
●『悩めない子どもたち』

…………………………………………………………………………………………

●『高1女子の感想』
 「最初、岩室先生がいろんな生徒に質問を投げかけた時、『この人、どうかしてるんじゃないか』と思いました。ゲイとか、エイズとか、人には言えない恥ずかしいことまでさらさらいう先生に、少し気持ち悪いと思っていました。ごめんなさい。でもでも、話しを聞いている内に、気持ち悪いと思うのは、すべて私が他人事だったからです。エイズなどはテレビでしか見たことがなく、私にとって遠い存在だと言えます。ゲイなども私は女だし関係ないんだとずっと思っていました。だけど先生が『あなたの好きな人がゲイだったらどうしますか』という質問をした時、私は考えてしまいました。好きで好きで仕方ない人は、もう私を絶対見てくれない。そもそも対象ではないと考えた時に、私は、その好きな人をどう思うのか。ゲイなんて気持ちが悪い。嫌いってなるのか。その人が好きだからその人を認めて、人間として好きであり続けるのか。私は後者になっていたいと思います。」
 メルマガでよく講演会の感想を紹介させていただいています。生徒さん一人ひとりの感想を読んでいると、自分の講演で何が足らないのか、逆に何が役に立ったのかといったことが見えてくるからです。そして、何よりこの高1の女子生徒さんのように自分の中で何かを考えてくれたという感想をもらうと、正直なところ「やった!」とうれしくなります。前回のメルマガ134号で紹介した「想像力が掻き立てられるラジオ」ならぬ、「想像力が掻き立てられる講演」を目指して、これからはラジオのような講演をしようと思いました。そこで今月のテーマは「ラジオのような講演」としました。

『ラジオのような講演』

○『聴衆が見えた』
 先日、毎年11月末から1月にかけて全国各地のFM局で取り上げられる「THINK ABOUT AIDS」という番組を、妊娠時にHIV感染がわかった私の患者さんの石田心さんと一緒に収録してきました。すごくいいトークが出来たと思っていた時に、パーソナリティーの井門宗之さんが「いまの話の時、ラジオの向こうでリスナーがうなずき、考えている姿が手に取るように見えました。そんなトークでしたね」とおっしゃいました。さすがにレギュラー番組を何本も持っているプロのDJならではの感性だと思いませんか。「ラジオは微笑みを生み、テレビは爆笑を作り出す」というのも井門さんに教わりました。ただ、ラジオ業界も大変なようで、ラジオコマーシャルの効果が見えにくいということで、スポンサー離れが顕著になり、FM業界ではつぶれる局もあるそうです。私のマイク一本の講演で耳から入った情報が本当にその人のものになっているのか正直なところいつも不安を感じつつも感想文などに励まされています。

●『講演会の評価』
 今年も夏休み前にそのような講演会が続きました。夏休みに開放的になっていろんなトラブルが起こるのを防ぎたいという学校の先生たちの思いに応えつつ、「で、実際に効果はあったの?」と聞きたいところですが、そこまでのフォローができる学校はほとんどありません。毎年呼ばれている学校では、夏休み中の、夏休み後の生徒さんたちの状況が去年とどう変わったかと聞かれてもあまりわからないというのが実際だと思います。ところが、今年初めて呼んでくださった高校から次のような感想をいただきました。

教師から
●2学期も半ばに差し掛かりましたが、妊娠・性感染症の相談はまだ受けてい
せん。把握しきれていない部分もあるかもしれませんが、昨年、一昨年の状況とは明らかに違い、効果が上がっているように思います。
●性教育に批判的だった職員もいましたが、アンケートの結果や感想を見て、性教育の必要性や生徒の切迫した状況も理解できたようでした。
●岩室先生の楽しく、また真摯に話される姿に生徒は引き込まれ、きちんとお話を受け止めて自分なりに考えることができたようです。
●いつもほとんど書いてくれない男子がたくさん書いていてくれたのには驚きました。

生徒から
●自分が今までとってきた行動が相手にどういう影響をあたえたか考えさせられました。自分の考えの甘さが良くわかったので、これから相手の気持ちを大切にして、理性を保てる男になりたいと思いました。(男子)
●友達との会話で普通のように「セックスしたことあるだろ」などとふざけて会話してたけど、もっと真剣に考えていかないといけないことがよくわかりました。(男子)
●性行為をする上での注意を話していましたが、相手のいないものにとってはタダの嫌みです。出来るかどうかわからないようなことを詳しく説明されても、できないものは出来ないのです。自分にとっては雲の上のもう少し上の話なのです。(男子)
●私は今まで、好きならセックスしなきゃいけないんだと思って不安だったけど、自分の意思をしっかり持って、相手に伝えることは大切なんだなあと思いました。(女子)
●何回かコンドーム無しでやっても大丈夫だったから、今回も大丈夫だろうと思ってやってたりしたけど、やめようと思った。エイズ検査に行きたいと思った。(女子)
●Hするのを拒んでも拒み切れずやったことがあるけど、自分は傷つくけど、相手が喜ぶならいいやと思ってガマンしてた。こんどからちゃんと断ろうと思った。(女子)
●話がおもしろくて、高校生がこんなに人の話を真剣に聞こうとする話をしてくれたのは、すごいと思うし、本当にためになった。(女子)

 「たった一回の性教育で」と思うでしょうが、私もある女性の「たった一言」でダイエットを決意しました。たった一回だからこそ、こちらもいろいろとこだわっていますが、久しぶりにコンドームの達人講座に「No」と言われました。

○『コンドームの装着法にNo!』
 「コンドームの装着法については、正しい情報を得られるサイト(岩室先生のホームページ等)の紹介にとどめていただけるとありがたいです。」
 私への講演依頼の多くはHPからの申込ですが、最初からこのような依頼をしてきた高校がありました。学校からの依頼ですので、基本的には依頼者の考えに沿った話をするようにしています。しかし、「高校でどうして」という思いもあり、少し早目に学校に出向き、学校長を交えて「どうしてコンドームの装着法をしないでくれという話になったのでしょうか」と確認したところ、依頼してきた養護教諭の先生が「私がいやだからです」とこれまた率直におっしゃってくださいました。学校の方針ではないということだったので学校長の了解も得てコンドームの達人講座を組み入れました。
 生徒さんだけではなく、教師からの反応も良く無事終わった後、「私がいやだからです」とおっしゃった先生から、「『性』についてどう子どもたちに伝えるか?どうしたら伝わるか・・・という、未だ自分の中でぐちゃぐちゃなまま、自信を持ちきれないままの課題について、先生のお話を聴きながら改めていろいろと考えさせられました」という率直な感想をいただきました。岩室紳也を呼ぶ前に、周りの人たちとコンドームの装着法を教えることについてどう思うかをディスカッションできなかったことがびっくりでした。

●『持ち物より持ち主が大事』
 私の講演のネタや、この紳也特急のネタは実は夫婦の会話から生まれるものが多々あります。「持ち物より持ち主が大事」という家内の名言に対して、次のような感想をもらいました。
 「正直に言って講演の前はたいくつで寝そうだなとか、一時間以上もやるのかと思っていました。しかし、そんなことは思う間もなく終わってしまいました。笑い話を交えながらも時にかなりシリアスなことだったりして、その恐怖や重大さがかなり伝わってきました。そして、とても貴重で大切な話なのに、今まで全くこのような機会がなかったことに疑問を感じます。今回の講演で2つのことが印象に残りました。一つは「持ち物より持ち主」です。どのようなことにもあてはめられると思います。この言葉はこの先も何度も思い出すことがあるだろうと思います。もう一つは「持ち主をよくするには友達とたくさん話せ」という言葉でした。最近人と話すのが煩わしいというか、何も話す気もなくなる自分に嫌気がさしていたので、ずいぶん心が軽くなった気がします。ありがとうございました。」
 キャッチボールをしながら人は考え、悩み、そして悩みを解決するようです。

○『26週と22週』
 「中絶の話で22週?までなら大丈夫と聞いて勉強になりました。自分は26週で生まれたので色々と重なるところがあったりして少し苦しかった。助けられない命もあるけど、助けられる命もある」。
 この感想は本当に苦しいですね。たった4週(実際には22週未満なので5週?)の違いで中絶されるか、生きて高校生としてこの話を聞くのかの違いが生まれます。このような感想をもらったのは初めてでしたが、私の言葉をいろんな角度から受け止めてもらえたことに一番感謝しなければならないのは私かもしれません。この感想文を書いてくれた女の子に感謝です。

●『悩めない子どもたち』
 「思考のための言葉」とか、「考えさせるラジオ」のことを考えていた時に、「悩むってことは言語化するってこと」とうちの奥さんが言ったので「その言葉もらった」とメモ書きをしていました。確かに「悩むことができる、悩める人」と「悩むことができない、悩めない人」がいるようです。でも「不愉快」、「きらい」、「いや」という感情は誰にでもあります。「不愉快だけど我慢しなければならない」、「学校は行きたくないけど行かなければならない」状況に置かれると悩みが生まれます。でも「不愉快」だけしか出てこないと、「切れる」とか「暴力」といった行動になります。
 聞くこと。聴くこと。考えること。言葉にすること。その言葉を誰かと共有すること。そのようなプロセスがあると言葉が、思いが少しずつ心の中に入っていくはずです。確かに私の講演を聞きながら、まるでラジオの前の友達同士のように、「どう思う」、「でもさ~」、「そうそう」、「あるある」、「うっそ~」とお互いに反応しながら話を聞いている生徒さんたちを見ていると、私の講演は人間スピーカーから流れてくるラジオのトークのような講演なのかもしれません。次も頑張ります。