紳也特急 148号

~今月のテーマ『想定外?』~

●『知らない』
○『知らないエイズの偏見』
●『経験していないことは語れない』
○『経験者に学べる関係性、学べない関係性』
●『世界最大の津波』
○『自分でできるシュミレーション』
●『愛の反対を知っている若者たち』

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●『知らない』
 人は経験していないことには学べないものです。もちろん私もそうです。
 12月1日は世界エイズデー。私自身、未だにHIV/AIDSのことで躍起になっていますが、果たして世間ではどれだけの人が世界エイズデーを知っているのでしょうか。レッドリボンをつけていると「ピンク(乳がん)じゃないんですね」と言われます。一方で正しい理解が浸透したようにも思えます。病院の中で「今度HIVに感染している人が出産しますのでよろしく」というと「そうですか。了解です」という感じです。いい意味で感染不安でパニックになった時代を忘れているようです。時間が解決する問題もあるのでしょうが、時間と共に忘れ去られるものも少なくありません。
 HIV/AIDSは30年前に発見された古~い、過去の病気だから偏見や差別があったことを知らない。
 宮崎勤事件は23年前にあった過去の事件で本人も死刑になっているから若い人は知らない。
 オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件は16年も前の過去の事件だから若い世代は知らないで入信する。
 日本がアメリカと戦争をしていたことを知らない若者が少なくないとか。 3.11以降、「想定外」という言葉もよく使われました。しかし、事実を、史実を知れば知るほど「想定外」という言葉の裏返しは「無知」「不勉強」「情報伝達不足」だと気付かされます。そこで今月のテーマを「想定外?」としました。

『想定外?』

○『知らないエイズの偏見』
 先日、久しぶりにいわゆる「エイズ予防講演会」なるものを頼まれました。HIV/AIDSに対する関心が低下する中でありがたいことだと感心し、しかも対象者が20歳前後の医師、看護師、歯科衛生士を目指す学生たちだったので張り切っていきました。講演会の趣旨説明で主催者の方が「HIV/AIDSに対する偏見を持つことなく、診療の当たっていただきたい」と話をしているのを聞いている若者たちはどこか「ぽかん」としていました。若者たちからすると「HIV/AIDSに対する偏見って何?」という感じでした。
 確かにHIV/AIDSが世間を大騒ぎさせていた1990年前後と言えば、すでに20年前の話です。今の20歳が生まれた頃の世間の大騒ぎを知るはずもなく、中学生や高校生になった時にはすでに教科書に載っている当たり前の病気でした。私もうつるのは「セックス」「輸血」「薬物の廻し打ち」「刺青」と話していますので、パニックになるような問題ではないという感覚になってくれているのかもしれません。

●『経験していないことは語れない』
 講演会の会場に若者たちが中心となって性教育を行っているSCORAという団体のメンバーが来ていました。その一人から「自分たちはHIV/AIDSについてほとんど経験していないのに語れますか」と質問されました。確かにパニックを含めて何ら経験していないことは語れませんよね。彼らに結核を語れるかと言えば医学的なことは語れても、結核患者さんの思いやそれこそ私の親世代が経験した差別偏見、療養所での隔離生活といった経験は絶対に語れません。
 しかし、同じSCORAに所属し、性教育に目覚めた遠見才希子さんはHIV/AIDSを上手に伝えていました。彼女はAIDS文化フォーラム in 横浜に参加し、HIV/AIDSについて熱心に語る飯島愛さんに触発され、さらに研修会を含めてHIV感染を経験している(そう、「HIV感染の当事者」と書いていて違和感を感じたので敢えて「経験している人」としました)北山翔子さんとの親交を重ねる中で、飯島さんや北山さんとの関わりを語ってはいましたが、決して一つの病気として、感染症としてHIV/AIDSを語っていたわけではありません。だからこそ訴える力がありました。

○『経験者に学べる関係性、学べない関係性』
 遠見才希子さんは北山翔子さんとの出会いの中で、「こうすれば、検査を受ければ、コンドームを使えばHIVに感染することを予防ができます」ということを学んだのではなく、知識があっても結果的に相手を信じたいような関係性になったり、どことなく他人事だったりすると知識は役に立たないということを学んでいました。私自身、HIV感染を経験している人たちに会うまでHIV/AIDSは他人事でしたし、自分は無関係と思っていました。しかし、一人ひとりとお会いする中で、共感することがあまりにも多く、「予防は難しい」という結論に達しています。
 ところが先の講演会で保健所のエイズ検査を担当されている方から次の質問が寄せられました。「同じ人が何度も検査を受けにくるのですが、どのようなアドバイスをすればちゃんと予防行動をとってもらえるようになるのでしょうか」と。どう思いますか。タバコの害を知っていてもタバコを止められない人。休肝日が必要だと分かっていてもお酒をやめられない自分。メタボ解消には飲まない、食わない、運動すると分かっていても、実行できない人たち。依存症や生活習慣病とは無縁の、他人事と思っている人たちは経験者に学べないのでしょうか。 「(人を)変えることはできないけれど、(人は)変わることはできる」という言葉を思い出しました。もし人を変えられるとしたら、その人とお友達になり、本当にその人のことを心配していけば、もしかしたらその人は変われるのかもしれませんが、関係性が希薄な専門職の一言で変わるはずもありません。

●『世界最大の津波』
 多くの人が経験していなかったことの一つが津波でした。東日本大震災のおかげでいろんな本を読むようになりましたが、吉村明著「三陸海岸大津波」(文春文庫)や山下文男著「津波てんでんこ 近代日本の津波史」(新日本出版社)を読むと、日本は記録にあるだけでも何回も大津波に襲われていることがきちんと記録に残っているのです。これらの本は今やインターネットで簡単に購入できるようになっているにも関わらず、私を含めほとんどの人が読んでおらず、大津波は他人事でした。50メートルの津波は当たり前、想定内だそうです。何よりびっくりしたのが世界最大の津波でした。何と500メートルを超えていました。どこで?
 アラスカです。どうしてそんな大津波が?山が崩れたのです。

○『自分でできるシュミレーション』
 自分が住んでいるところは津波に対してどれほどの危険があるところなのかを調べる方法がありました。
 NASAが開発したもののようですが、自分が住んでいる地域が海抜何メートルかを簡単に調べられます。もちろん津波の被害は津波が進んでいく方向、地形や波の力の伝わり方の関係で海抜何メートルかということだけで被害の実態を正確に予想できるわけではありません。しかし、今回の東日本大震災での陸前高田市での浸水域は概ね9~13メートルの領域と一致しています。ちなみに、この13メートルの海抜を神奈川県の湘南海岸に当てはめるととんでもない浸水域が現れます。やはり津波からの避難はとにかく高い、頑丈な建物に限るのですね。

●『愛の反対を知っている若者たち』
 若者を対象に話をしていると、HIV/AIDSが他人事のように、もっといろんなことを知ってほしいと思うことが少なくありません。その一方で、確実に若者たちの中に浸透していっていることもあります。
 以前は「愛の反対を知っている人」と呼びかけても知らない人が多く、自分から答える人は皆無でした。しかし、最近は「無関心」とちゃんと答える若者が増え、さらに「マザーテレサの言葉でしょ」ということまで知っている若者がいます。どこで知ったのかを訪ねると「本」「テレビ」「授業」というように各方面で取り上げられていることがわかります。
 HIV/AIDSもその意味ではきちんと教科書にも取り上げられているので、それ以外の所で繰り返し取り上げていけば、少しは身近な、記憶に残るものになるのではと期待してこれからもがんばります。

福山雅治「魂のラジオ」 エイズ特番に出ます
2011年12月3日(土曜日)23時30分~
http://www.allnightnippon.com/fukuyama/

FMでのTHINK ABOUT AIDSの放送予定です
FM岩手 1月8日(日)20:00-20:55
FM秋田 12月1日(木)21:00-21:55
ふくしまFM 12月4日(日)19:00-19:55
FM石川 1月8日(日)19:00-19:55
FM福井 1月8日(日)19:00-19:55
FM AICHI 12月4日(日)19:00-19:55
FM滋賀 12月4日(日)19:00-19:55
FM山陰 1月8日(日)19:00-19:55
FM岡山 1月8日(日)19:00-19:55
広島FM 1月2日(月)
FM香川 1月8日(日)19:00-19:55
FM長崎 12月4日(日)19:00-19:55
FM鹿児島 1月8日(日)19:00-19:55
FM沖縄 12月4日(日)22:00-22:55