紳也特急 176号

~今月のテーマ『フリー宣言』~

○『講演の感想』
●『33年が教えてくれること』
○『違和感で「うつ」』
●『虐待予防』
○『やめよう「カーリング子育て」』
●『ヘルスプロモーション推進センター(オフィスいわむろ)』

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○『講演の感想』
 まさか、しょっぱなからあんなにぶち込んでくるとは思いませんでした。以前までは、講演会と聞くと面倒だと思っていましたが、今回の講演会はとても新鮮で面白かったので自分の中での講演会のイメージが良い方に変わったと思います。ありがとうございました。
 また、女子に向けて話していた男の心理とその怖さは、男子である自分に対してのいましめにできそうです。他人が何をするかがある程度わかっていても自分が何をしでかすかわからず、一番信用できないため、先生の言葉を心に埋め込んでいざとなった時に自分の本能を止められるようにしたいと思います。万が一の時には、先生の言葉を覚えておいて、ゴムを忘れないようにしたいと思います。非常に貴重なお話ありがとうございました。

 こういう感想をもらうと、一人でも多くの若者にメッセージを届けたいと思ってしまうのですが、残念ながらそのことを理解し、許容してくれる環境はそうはありません。神奈川県の職員をしていた時には、「どうして隣の保健所の管轄まで講演に行くのか?」と言われ続けていましたが、私が辞めた後は医者の特技は広域的に活用しようとなったようです(苦笑)。へき地医療を主目的としている組織では性教育はしている本人の趣味としか写らず、地域とつながる手段とは理解されませんでした。被災地支援(「支援」と言いながら一緒に考えながら働く「協働」だと思っています)が4年目に突入しましたが、「まだ行っているのか」や「代わりなら他にいくらでもいる」と理解を示してもらえない現実もあります。その一方で年齢は既に58歳。体が言うことを聞いてくれるのも後わずかでしょうから、残された時間を大事にしたいと思いフリーになることにしました。
 と言ってもライフワークとなったHIV/AIDSについては厚木市立病院での診療は継続します。陸前高田市と女川町には「来なくてもいい」と言われるまで入り続けます。講演も今まで以上に受けられると思います。
 ということで今月のテーマ、というよりメッセージは「フリー宣言」としました。

『フリー宣言』

●『33年が教えてくれること』
 医者になって33年。学生時代に勉強したことで今でも診療で、公衆衛生活動で役に立っていることはほとんどありません(は言い過ぎかも)。しかし、学生時代に教わった考え方は今でも役に立っています。忘れられないのは「教科書を信じるな」という言葉を教えてくれた組織学の教授でした。教科書に書かれたことをそのまま解答したら「教科書が間違っている」と授業をさぼっていた私に教えてくださいました。日進月歩の医学と言えば聞こえはいいのですが、最近は暗中模索中の医学と感じています。「評価」ということが盛んに言われていますが、自分自身の評価が出来ていない人が多いですし、誰もが知っている8020運動が成功した要因を論理的に、対費用効果を含めて説明できる人に出会ったことはありません。で、岩室は医者になってからの33年間、何をやってきたかと言えば人が手をつけなかった、組織や制度、立場の問題から手をつけられなかった隙間産業(市町村版保健医療計画、包茎は手術不要、先天性尿路奇形スクリーニング、HIV/AIDS普及啓発、前立腺がん(PSA)検診の問題点、被災地の中長期支援、などなど)に首を突っ込み、そこからいろんな分野に応用できる考え方を積み上げさせていただきました。

○『違和感で「うつ」』
 ではどうしてこうやっていろんなことに興味を持ち、それなりにいろんな気づきにつながったのかと言えば、「好奇心」と「頭の中の『?』(クエスチョンマーク)」のお蔭です。これは小学校の6年間を過ごした東アフリカのケニアでの暮らしが役に立ったのだと思います。Hospital Hill 小学校には30ヵ国以上の国から仲間が集まり、当たり前のように「みんな違って、みんないい」という環境とともに、いつも「Why?」と聞いてくる先生のおかげでした。いま、「得意なことは」と聞かれたらおそらくケニアで培われた能力、「トーク」と答えます。AIDS文化フォーラム in 横浜だけではなく、いろんなところで他の人を巻き込んだ司会やトークをやらせていただいています、自分で言うのも変ですが、これが結構上手いようです。そのコツは「自分自身が面白いと思うことを探し、突っ込み続けること」です。
 先日、「元不登校+うつ」という現在カウンセラーとしてすごく活躍されている方のインタビューをさせていただきました。きっかけはその方と飲む機会があり、「元不登校+うつ」を克服した話を聞き(正確にはその時には結果だけを聞き、詳細はじっくり聞かせて欲しいということで)、あるクローズドの会で突っ込んだ話を聞かせていただきました。
 その方の話を私なりにまとめると、「こう生きるのが幸せ」という親や社会からの刷り込みに対して、現実の社会は必ずしもそのようにはならないことへの「違和感」が生まれた時に、その「違和感」を払拭することができなければその世界(学校や社会)から離れる(不登校やうつになる)というのは当たり前の道筋だったようです。その違和感を持ち、その違和感に押しつぶされる人と持っても押しつぶされない人の違いは、元々持っている周りの環境の違いとのこと。個人的にはすごく納得していました。
 不登校やうつから立ち直るには、押し付けられた価値観や生き方ではなく、周りの環境、人に学びつつ自分自身で築き上げた目標や価値観を獲得することが重要、というか基本になるようです。そのことを理解し、実行に移せば不登校もうつも予防できるのではないでしょうか。

●『虐待予防』
 虐待予防も私の頭の片隅から消えない課題ですが、なかなか「これ!」というわかりやすい考え方で頭を整理できないでいます。そんな時、旧知の保健師さんが自分自身の子育て中の心境を教えてくださいました。

 虐待と紙一重。とにかく寝てくれない。日中も腕の中で寝ても布団におろすと起きて。イライラしたり、涙ばかり出てきたり。イライラ抱っこしながら、揺さぶられっ子症候群になっちゃうって思ったりしたことも。
 訪問してきた助産師さんからの一言一言がトゲトゲしく不愉快。育児相談会に毎月通っては、アルバイトのおばちゃん保健師さん達からの断定的なものの言い方。「そんなことはよくあることよ~」ってさらっと片付けられたりしたことになんかすっきりしない感情を抱いたり、腹を立ててみたり。
 生後しばらく「子どもはどう?やっぱり可愛いでしょ?」ってものすごくたくさん人から言われる。で、言われた私は、「はい、可愛いです。」って言わなきゃいけないって思っている、せいぜい、「まぁ大変なこともありますけど~」って軽くつけ加えるくらい。
 「赤ちゃんにはいっぱい声かけて~」って言われても、モノ言わぬ我が子に1人でいったい何話しかければいいのよっ。マニュアル通りの育児なんてできないのはわかっているはずなのに。でも、きっと虐待までいかなくても同じような状況に陥っている親ってかなりいるんだろうなぁなんてだいぶ後になってから思いました。
 本当に辛かった生後数ヶ月の間は引きこもり状態で危なかったですよ。結局、役所の育児相談は問題解決にはあまり役立たなかったかな。生後3ヶ月を過ぎたあたりから月一回育児相談会に通って、待っている間にその場で知り合ったいわゆるママ友達とオバちゃん保健師、助産師さん達に対しての不平不満を愚痴ったり、たわいもないことをおしゃべりしたりしてました(笑)
 なぜか今はその腹を立ててたオバちゃん達と一緒に育児相談やってるんです。後押ししてくれたのは、育児相談で待っている間に知り合った1人のママでした。『オバちゃん達と経験年数の差はあるかもしれないけど、今まさに同じくらいの子どもを育てているからこそ、ママ達の支えになれること、気持ちを分かり合えることがたくさんあるんじゃないかなぁ。あなたならできるよ、きっと。』って言われて。
 彼女と出会ってホントによかった。子育て中の愚痴のこぼしあいもずいぶんしたけど、彼女の話の聞き方からずいぶん学んだことが多かったかな。子育て中の大変さを、よく同じ境遇のママ達と話しをすることで解消できるっていうでしょう?確かにそういう部分もあるにはあるんですが、実際にはちょっと違う部分もあって。どこかで、あのママとの大変さとは違う、私みたいに大変な思いをしている人はいないみたいな、ある意味悲劇のヒロイン的にまで陥っていることも多いんです。彼女は自分の話はおいておいて、まずその大変さを受けとめてくれるような話の聞き方をするんですよ。そうするとすごく楽になる。彼女も彼女なりに子育てのストレスは抱えていたんですが。お互い愚痴のこぼし合いをしてましたから、私もなるべく気をつけて彼女の話を聞くようになりました。そして今も大切な友達。
 育児相談のアルバイトもはたしてどれだけ意味があるんだか?って思うこともあるんです。でも、今やらせてもらっている仕事をとにかく丁寧に考えながらやっていったらいずれ何かわかることがあるかなぁ、できることがあるかなぁって思ってます。

 「傾聴」というと何だか型っ苦しい響きになりますが、誰かに「聴いてもらう」というのは本当にありがたい癒しになりますね。私も講演を「聴いてもらう」ことを通して自分自身を癒しているのだと思いました。

○『やめよう「カーリング子育て」』
 ソチオリンピックの前から人気が出ていたカーリング。個人的にはルールもよくわからないのですが何となく楽しませてもらっていました。しかし、選手が投げたストーンをスウィーピングしている姿を見ていて、思わず「カーリング子育て」という言葉が思い浮かびました。選手(親)が投げたストーン(子ども)が進む道筋を選手(親)が一所懸命スウィーピングし(掃き清め)、どこに到達すべきかを必死になってサポートする姿は現代の子育てそのものと思いませんか。しかもそこには親が連れてきたチーム(塾、家庭教師、友達等)しか子どもたちは知らないという、ある意味非常に偏った世界が創られています。
 「違和感で不登校」も「違和感でうつ」も子育てを親だけ、親が気に入った、納得した環境の中でやってしまった結果ではないでしょうか。同じようにカーリング子育てをしている親に育てられていても、実は横からちょっかいを出す親戚や近所の人たちが結果的にスウィーピングしている親の思いとは別の世界を教えてくれた結果、「違和感」を覚えることなく、「うつ」や「不登校」を回避できているのです。親はどうしてもかわいい子どものためにカーリング子育てをしてしまうでしょうから、それを変えるのではなく、カーリング子育てをしている自分を意識し、子どもに違う世界を見せてくれる人を多く呼び寄せたらいいのではないでしょうか。そのような一人になれるよう、これからも人前に立ち続けたいと思います。

●『ヘルスプロモーション推進センター(オフィスいわむろ)』
 で、新しい事務所の名称は? ここ11年間、ヘルスプロモーションをいろんな角度からそれなりに考え、研究してきたので、これからはその成果を踏まえ、ヘルスプロモーションを推進するという思いで「ヘルスプロモーション推進センター」としました。ただ法人格もとるつもりもないので、通称を「オフィスいわむろ」としました。連絡は今まで通りHP、メールでお願いします。
 講演依頼、お待ちしています。