〜今月のテーマ『包茎を治す医者、治さない(?)医者』〜
●『最近思うこと』
○『読者からの意見(献血について)』
●『包茎を治す医者、治さない(?)医者★大人編』
○『包茎に病める日本社会』
●『「包茎心配症」予防対策のすすめ』
○『包茎を治す医者、治さない(?)医者★子供編』
●『できるところまで』
◆CAIより今月のコラム
「This is not real , but reality」
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●『最近思うこと』
駅の近くに新しい予備校のビルが建ちました。この不景気にと思って周囲を見渡すと予備校の看板だらけ。一緒に歩いていた人曰く「サラリーマンの親が子供にしてやれることは教育くらいですから私立に入れたいんです」と。
私は中学の前半は公立、後半は私立という珍しい経歴ですが、今の私にとって公立で経験したことの方が遥かに役立っていると思います。多様な暮し、障害者もいた学級、多様な職業、その後の交流、等々を見ると中学での友達の方がバライエティに富んでいて面白く、今でも付き合っている友人がいます。「そうは言っても公立では勉強が…」と思っている人もいるでしょうが、公立でも私立でも成績がいいやつは同じだし、いろんな人と出会えるのも勉強だと思いませんか。私は高校は中学からそのまま上がって私立でしたが、公立中学の経験なしに画一的なクラスしか見ないまま医者になっていたら「多様性の認知」は到底できないイヤな医者になっていたんじゃないかな、と、ふと思いました。「何、いまでも十分イヤな医者だよ」。ゴメンナサイ。
○『読者からの意見(献血について)』
献血ルームの対応は、丁寧な説明はなく、特に不特定多数という表現は、不特定でなければ大丈夫とも受け取れます。また、係りの人にじっとみられていると、記入をしにくくなってしまいます。外国に行ったことはありませんか?と念を押され、記入していないから、ないのに・・と思いながら・・。なんとなくいやな感じをうけました。
採血している間に注意書きを書いた紙が渡されるのですがエイズ感染の心配のある人は連絡をするようにということが書いてあり、この血液は安全なのか?ということを強調されなんだか、いやな気分になってしまいました。
(女性・教諭)
岩室のコメント
善意で献血する人に対して「いやな気分」にさせてしまうのは困りますよね。献血者はただ善意の献血をし、輸血を受ける人は避けられないリスクを受け入れるだけのことではないでしょうか。
1月末に神戸で開催されたイベントで包茎の議論が盛り上がり、AERA2月12日号「お母さんのおちんちん騒動記―むくべきか、むかざるべきか」、女性セブン3月8日号(2月22日発売)「若いお母さんに急増中ですーおチンチン育児不安はこれで解消!」で子供の包茎が取り上げられました。どちらの記事でも取材を受けました。7月12日に行われる小児泌尿器科学会で「日本の小児の包茎は治療の対象か」というシンポジウムで話すことにもなりました。
そこで今月のテーマは「包茎を治す医者、治さない(?)医者」としました。
●『包茎を治す医者、治さない(?)医者』
★大人編
どんな包茎でも包皮を切り取る手術をせずに仮性包茎にできる。
このことについては少しずつ泌尿器科医の中でも少しずつですが理解が得られているような印象です。しかし、そのことを一番理解してくれいている石川英二先生(神戸で石川クリニックを開業し、その傍ら「ハートブレイク」という思春期の若者を支えるボランティアグループの代表)と「包茎は治すものか、それとも治さない(?)ものか」という真剣な議論をしました。
石川理論
包茎という状態であることに精神的ストレスを感じている人に対して手術をしてあげることでその人が喜び、ストレスから開放されるのなら包茎と言う状態を変えることは治療であり、包茎と言う本人にとって不健康な状態から開放することは包茎を治すことになります。
岩室理論
包茎という状態には全く亀頭部を出せない誰もが認める「真性包茎」という状態と、普段は完全に亀頭部が包皮に覆われているのに勃起や包皮を手でずらすことで亀頭部を完全に露出できる「仮性包茎」、そしてそのどちらでもない「名無しのペニス」があります。しかし、真性包茎であっても手術をせずに仮性包茎の状態にできるので「包茎を治す」という言い方は「包茎=病気」と誤解する人を増やすので適当ではないのではないと考えています。
言葉は難しい
石川先生と話をしていて、確かに包茎からくるストレスに悩んでいる人にとって、手術をすることでそのストレスから開放されるので「手術=治療」ということになるんでしょうね、と妙に納得しました。しかし、よく考えると、これはそもそも包茎で悩んでいること自体がおかしいんですよね。世界中を見ても日本人ほど包茎にこだわる民族はいないと思います。
そもそもむけた状態のペニスについては正式な呼び名はありません。「露茎」「ムケチン」という人もいるようですが「大人のペニス」、「正常」というのは明らかな間違いです。一方で包茎という言葉は病的な状態であるという前提で使われることが多く、このこと自体が誤解や偏見、不必要な悩みを助長する結果になっています。
○『包茎に病める日本社会』
結局のところ、包茎は病気ではないのですが、こころの病気の原因になり得るということです。包茎であることは問題ないのですが、包茎をきっかけにこころの闇の中に入ってしまうとこころの病を発病してしまいます。それを治すには包茎状態を解消するか、包茎状態を受容できるようにしなければならないのですね。
●『「包茎心配症」予防対策のすすめ』
そこで包茎で悩む人を「包茎心配症」と呼ぶのはいかがでしょうか。そして包茎心配症予防のために、「誤った誇大広告の禁止」、「未成年者への包茎手術の禁止」といったことをする必要がありませんか。これってタバコ対策、アルコール対策に似ていますね。
私が予防ということを考え出したのは公衆衛生・予防医学に深く関わっているからかもしれません。臨床の泌尿器科医は「治療」という発想から抜けにくいのか、病気は治すものと考えがちです。エイズ問題にしても予防について関心を示し取り組んでいる医者が少ないことからもいかに公衆衛生・予防医学的な発想を持ってもらうことが必要か、お解りいただけますでしょうか。
○『包茎を治す医者、治さない(?)医者』
★子供編
子供はそもそも包茎についての知識も悩みも持っていませんので大人と同一の基準で手術をするか否かを決めることはできません。むしろ、「子供の包茎手術は百害あって一利なし」、というのが私のライフワークになってきています。この度、二つの週刊誌の取材を受けて思ったのは「医者にもいろんな考え方がありますね」と記者が聞いてくること自体が非科学的だと思いました。OCHINCHIN(日本家族計画協会刊)が発売されて既に全国で七万部近い売上です。こんなに関心をもって読まれているのは単に医者が根拠に基づかない指導をしているからではないでしょうか。
未だに
1.バルーニング
排尿の時外尿道口が狭く尿が出にくいため包皮と亀頭部の間に尿が溜まって包皮が膨らむ
2.嵌頓包茎
包皮をむいたら戻らなくなり包皮がむくんでしまう
3.埋没陰茎
皮下脂肪が多く、包皮が短いため一見ペニスが小さく見える状態
これら3つの状態を手術の対象としている先生が少なくありません。それも小さい子だと全身麻酔ですよ。
あなたのお子さんならどれを選びますか?
1.手術を受ける
2.手術を受けないで包皮翻転指導を受ける
3.生まれてすぐから包皮翻転指導を受ける
4.何もしないで放っておく
できるところまで
実際にお子さんに包皮翻転指導をしていると、1歳を過ぎたお子さんの場合、包皮と亀頭部の癒着を剥がそうとすると2度とおちんちんを触らせなくなる恐れがあります。そこで最近は次ぎの段階を目標に指導をしています。
1.外尿道口が見える
2.お風呂でむいて洗う
3.オムツが取れたら自分でむいて排尿をする
もちろんむいても大丈夫なお子さんは冠状溝まで剥離しますが、とりあえずこの3つができればOKとしています。私は包茎を治しません。
だって、結局、やっぱり、
「かぶれば包茎、むければオーケー」
◆CAI編集者より今月のコラム
「This is not real , but reality」
生きていたいかい?君だよ。そう、君に聞いているんだ。
…えっ?当たり前じゃないか、って。ふーん、そう。じゃあ、君の日常で生きていたい、って思う時ある?
…何で困っているの?ある気がするけど、思い出せない?
生きているのは当たり前だから、「生きたい」って考えた事も無かったかい?
本当に当たり前なのかな?人間は、誰だって死ぬんだよ。年を取ったり、事故に逢ったり、病気になったり。
自分はまだ若いし、そうそう事故には遭わないだろう。ましてや死ぬ病気なんて持ってるはず無い。…今、そう思った?何でそう思うの?
どんな病気でも感染したら、すぐに自分でも分かるのかな。
現在あるのだけが、全部の病気なのかな。
エイズって知ってる?そう、セックスするとうつる病気。セックスした事ある?
あっ、ごめんごめん、恥ずかしいよね。エイズになったらどうなるか分かる?
身体にできものが出来る?熱が出て、やせたり顔色が悪くなったりする?
あ、そう。でも、うつったらすぐそうなるワケでもないみたいだよ。何年もかけてゆっくりと進む病気だから、自分でも分かるくらい具合が悪くなるのは、結構、後なんだって。
病気のウイルスは絶えず進化している、って映画か何かでやってた。人から人へ伝わっていく間にも、タイプの違うウイルスになっているんだって。
もし…もしだよ、接触感染したり空気感染する新しいタイプのエイズが、たった今、世界の何処かで生まれたとして、それをどう知りようがあるだろう?あるいは既に存在していて、誰かのカラダの中でひそかに増殖を続けているとしたら?
すぐには症状が出ないから、きっと分からないんじゃないかな。
あ、ごめん。こんな話するつもりじゃ無かったんだ。いや何、相談事があってさ…。
昨日、病院でのちょっとした検査にひっかかっちゃったんだ。医者が言うには、
これまでに無い新種のウイルスが僕に感染しているかも知れない、って…。
あれ、どうしたの?体がかゆい、って。おかしいな、僕もなんだけど………
※注:この話はフィクションです。とりあえず「現在」までは。
みなさんこんにちは。いきなりな文章で失礼しました。僕はCAIの新人で桜屋伝衛門と言います。年令は26歳で、子供の頃血液製剤でHIVに感染しました。薬害の一件以来、すっかり話題を無くしたエイズですが、性感染者数が増加している事実があります。良い薬が出来たとしても、だから安心していいという訳ではないのです。強い薬には副作用が付き物で、それを服用しながら過ごすというのは、決して感染する前の生活レベルに戻るという事ではありません。
感染はしない方がいいですよ、みなさん。老婆心までに。
「いつのまにか感染していました」 桜屋 伝衛門