紳也特急 250号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『エビデンスという幻想』~
●『今こそ緊急事態?』
○『なぜ「エビデンス」を求めてしまうのか』
●『「3密」にエビデンスはない』
○『「エビデンス」ではなく「ファクト」へ』
●『感染経路をめぐるファクト』
○『マスクのファクト』
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●今こそ緊急事態?
 なんと今号で250号です。よく書くことがあるなと思いますが、今月も新型コロナウイルスについて書いていました。もともとHIV/AIDSに取り組む中で、感染症対策についてはそれなりに考え続けてきたつもりなので、昨今の新型コロナウイルス狂騒曲は正直「またか」と同時に、「だよね」という印象です。
 緊急事態宣言が解除された今、皆さんはどのような思いでしょうか。私は3月1日から週1回の外来診療以外のほぼすべての仕事がストップし、持続化給付金を申請し早速受け取りました。いずれ振り込まれるであろう特別定額給付金と合わせて、お陰様でとりあえず食べることには不自由はしませんが、ストレスが溜まる毎日であることは間違いありません。何がストレスかというと、今行われている新型コロナウイルス対策があまりにも非論理的だということです。なぜそうなるのかを考えていた時に、私の発言に対して「エビデンスは?」と投げかけられました。
 エビデンスを広辞苑で調べると「証拠。特に、治療法の効果などについての根拠。」とありました。新型コロナウイルスをきっかけに取りざたされているエアロゾル感染がどれだけ新型コロナウイルスの感染拡大に寄与しているかのエビデンスはありません。そもそも飛沫、エアロゾル、接触(媒介物)感染が、何:何:何の割合というエビデンスはありません。なのにマスク、マスク、マスク狂騒曲になり、今の流行りはフェイスシールドです。今こそ緊急事態ではないでしょうか。そこで、今月のテーマを「エビデンスという幻想」としました。

エビデンスという幻想

〇なぜ「エビデンス」を求めてしまうのか
 日本人は小学校からテストを受け続けてきました。テストでいい点数を取るには先生が意図した答えを、正解を書かなければなりません。その繰り返しの結果、世の中には「正解」が存在すると信じ込ませられてはいないでしょうか。
 学校の試験で忘れられない出来事があります。6年間住んでいたケニアから日本に帰って来た直後に受けた小学校6年生の社会のテストでした。答えが西アジアの国の「Turkey」だと分かったので、回答欄に「ターキー」と書いたら「×」でした。先生に「どうして?」と聞くと、正解は「トルコ」だ教えられました。
 ケニアの小学校では教師に「君はどう思う?」と言ったことを問われ続けてきたので、一刀両断の日本の学校にびっくりでした。今だったら「Wikipediaにこう書かれています。トルコ語による正式国名は、Türkiye Cumhuriyeti(テュルキイェ・ジュムフリイェティ)、通称 Türkiye(テュルキイェ)である。公式の英語表記は、Republic of Turkey。通称 Turkey(ターキー)。日本語名のトルコは、ポルトガル語で「トルコ人(男性単数)」もしくは「トルコの(形容詞)」を意味するturcoに由来する」と反論するところですが、当時はただただビックリでした。

●「3密」にエビデンスはない
 新しい生活様式が押し付けられていますが、びっくりしたのが5月28日のNHKニュースでした。視聴者からの質問として紹介されていたのが「緊急事態宣言解除後も手洗い必要?」でした。もちろん知識がない人もいるでしょうが、かのNHKが取り上げたのがブラックジョークでないとすれば事態は深刻です。
 流行語大賞を取りそうな勢いの「3密」ですが、どこにも3密で感染が広がるというエビデンスがないことをお気づきでしょうか。確かにクラスターが発生したところでは、「密閉空間」「密接した近距離での会話」「人の密集」はありますが、それがクラスターの発生につながったのは単なる結果、ファクトです。どの感染経路がこの3密で感染拡大につながったかというエビデンスはありません。見方を変えれば「手洗いがこまめにできない狭い空間」、「密集のため同じ環境を触ってしまう」「人気スポットなので多くの人が繰り返し利用するため、過去の利用者のウイルスが残っている」と言ったことも考えられます。すなわち感染を証明する「エビデンス」はないのですが、感染が広がったという「ファクト」があるだけです。

〇「エビデンス」ではなく「ファクト」へ
 ファクト【fact】は広辞苑で「事実。証拠。実説」とあります。感染経路にしても、飛沫、接触の二つの感染経路と思われていたのにエアロゾルが入ってきました。ただ、エアロゾルがどの程度感染拡大に寄与するかはわかっていませんし、そもそも飛沫と接触の二つの感染経路でもどちらが優位かというエビデンスはありません。
 で、何が起こったかというと「専門家会議」に対する妄信でした。まるで小学生が、先生の答えをただただ信じ、それに従い、それを自分から発せられるように勉強したのと同じです。いま、学校が始まり、分散登校、生徒間の教室での距離を取るようにしていますが、そうすることでどの感染経路の予防につながるのかの検討が一切ありません。
 そもそもソーシャルディスタンシングという考え方が出てきた背景に着目する必要があります。日本のようにほぼすべての国民が教育を受け、手洗いといった予防手段が入手できる国と、先進国であっても移民や貧困層の問題を抱え、教育も難しく、基本的な予防策が徹底できない国では自ずと対処方法が変わってきます。「話せば(感染予防方法が)解る」と、「離せば(感染が減るのが)判る」の違いです。

●感染経路をめぐるファクト
 フィリピンパブではアルコールによる手指消毒の結果、手を握り、隣でカラオケをしても飛沫、エアロゾル、接触のどの感染も起こらなかった一方で、アルコール消毒の前の時間差で同じ環境にいたというだけで接触感染がおこったというファクトがあります。屋形船もライブハウスでの感染も、接触感染で説明がつきます。接待を伴う飲食で広がった理由も接触感染で説明できます。しかし、そのファクトを汲んでいない専門家会議の判断について妄信しているのが今の世の中です。
 「正解」を研究社新和英大辞典で調べると次のように訳されています。

 〔正しい解釈〕 a correct interpretation
 〔正しい答え〕 a right answer; a correct response
 〔正しい解き方〕 a correct solution
 〔正しい判断〕 an appropriate judgement.

 「正解」を広辞苑で調べると次のように書かれています。
 ①正しい解釈。正しい解答。
 ②結果として、よい選択であること。

 どちらも、「答え」以外に「解釈」、「解き方」、「判断」、「選択」というのが含まれていますが、一般的な感覚として「正解」には個人の解釈、解き方、判断、選択と言った要素が含まれていないように思います。

〇マスクのファクト
 新型コロナウイルスのことを考え続けた結果、個人的にはマスクに対する自分自身の考え方が深まりました。これまでエアロゾル感染は念頭になかったので正直なところ最初は戸惑いました。しかし、エアロゾル感染を理解することでさらにマスク不要論の後押しになりました。
 マスクをすると息苦しさが増し、深呼吸になり、より多くのエアロゾルを周囲に流出させ、他の人のエアロゾル感染のリスクを増やす可能性が高まります。不織布のマスクは繊維の静電気で粒子を補足するので、呼気で繊維に水分が多く付着してしまうのとその効果が弱まります。布マスクやポリウレタンマスクはそもそも粒子を補足しづらいにもかかわらず、マスク装着で呼吸が深くなり、非装着時よりエアロゾルをより多く出してしまいます。
 結局、「マスクは他の人にうつさないため」といいつつ、マスクをすることでエアロゾル感染のリスクを高めているのです。咳やくしゃみをしそうな時、ひっかけられないよう、ひっかけないようにすればそれでいいと思いませんか。でも・・・・・・・・・・ですよね。難しいです。