紳也特急 266号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!

性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
                    Shinya Express (毎月1日発行)

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~今月のテーマ『なぜ、今回も収束したかを考える』~

●『生徒の感想』
○『感染は感染経路がつながった範囲にしか広がらない』
●『感染経路がつながる人たちとは』
○『飲食やお酒で広がる要因』
●『感染が収束に向かう理由』
○『感染経路がつながる人たちを減らすには』
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●『生徒の感想』
 先生のお話をお聞きするのは2回目でが、やっぱり生徒思いの方で、自分たちの将来に関する重要なことを改めて確認できました。コロナの感染に関しても、エイズの感染に関してもやってはいけないことをしっかり理解して無駄な努力をしないようにしたいと思いました。先生から聞いた通り、AVは5人以上で見ることを心掛け、また、そのような仲の友達(そうしたことについても相談できる友達)を持っておくことが大切だなと思いました。(高校2年男子)

 物事の表面ではなく、本質を追い求める達観さには、感銘しました。(高校2年女子)

 今日の講演を聞いて岩室先生の「ルールに従うだけではなく、自分で考えて行動する」という考え方に感銘を受けました。(高校2年女子)

 自分で考える機会が今までなかったことなのでとても新鮮でした。考えるときに「こういう現象がある」と捉えるのではなく、「自分にこういうことが起きたら・・・」と主体的に考えられるようになりたいです。(高校2年女子)

 日頃の生活を見直し、感染リスクや感染経路について改めてよく考えてみることは単純なことですが、とても難しいことです。しかし、誤った方法から意味のない感染予防をするより、全然効果があると思います。この講演で得られた知識や情報を無駄にしないためにも、改めて感染症についてよく考えて生活していきたいです。(高校2年女子)

 感染対策は、漠然とした情報にただ従うだけでなく、自分でよく意味を考えて本当に理解して行動することが大切だと思った。ただ、マスクをするだけでなく、外し方や置き方などとても勉強になった。(高校2年女子)
 
 考えることの大切さが伝わったのはありがたいことでした。一方で発信している情報の一部分だけを切り取り、考え方ではなく言ったこと、文字にしたことの一部にだけ反応され、「違う」「間違っている」と指摘する方が少なくありません。正解や答えを求める人の心理としては理解できますが、もしその方の指摘が当たっているとすれば、私にとって大事なことは、「なぜ違ったのか」「なぜ間違ったのか」を考えることです。
 今回、自分の中でああでもない、こうでもない、と考えを巡らせている課程、プロセスを伝えることに挑戦してみたくなりました。このメルマガが発行される日に全国のいろんなところに発出されていた緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が一斉に解除されます。そこで今回のテーマを「なぜ、今回も収束したかを考える」とし、岩室の思考回路をプロセス別に紹介することとしました。

『なぜ、今回も収束したかを考える』

○『感染は感染経路がつながった範囲にしか広がらない』
 新型コロナウイルスの感染が2021年の6月半ばから急上昇した第5波では、感染者数が最大25,867人になりました。これだけ感染力があるウイルスの場合、感染経路がつながっている集団に入り込むと感染は加速度的に広がります。一方で感染症というのは感染経路がつながらなかった人には広がりません。何、当たり前のことを言っているのと思った人も多いと思います。でも、当たり前のことですが、感染は感染経路がつながった範囲にしか広がらないのです。
 
●『感染経路がつながる人たちとは』
 感染経路がつながる人たちというのを感染経路別に見ると次のようになります。何をいまさらと言われそうですが、それを考え続けなかったからこれだけ広がったのではないでしょうか。
 
・飛沫感染では、感染している人でマスクをしていない人が出した飛沫を自分の目、鼻、口に入れる人。
・エアロゾル・飛沫核(空気)感染では、感染している人が排出し、空気中を漂っているエアロゾル・飛沫核を自分の目、鼻、口に入れる人。
・接触(媒介物)感染では、感染している人が排出した飛沫等が付着した食べ物を口に入れたり、飛沫等が付着した素手等でポテトフライをつかんで口に入れたりする人。
・唾液感染では感染している人の唾液を直接、間接的に自分の口に入れる人。
 
 流行語大賞になりそうな「人流」の中であっても、マスクをしていれば飛沫感染という感染経路はつながりません。エアロゾル・飛沫核(空気)感染はつながる可能性がありますが、もしそれで感染がひろがるとすれば、人流の拡大が続いている今、第5波が収束するはずがありません。ということは少なくとも『人流の中ではエアロゾル・飛沫核(空気)感染のリスクは軽微』ということになります。軽微と言ったのは、感染した人はウイルス量が少なかったため、発症せずに把握されなかった可能性が考えられるからです。

○『飲食やお酒で広がる要因』
 感染拡大の要因の一つが飲食、しかも酒類を提供している場所が問題だと繰り返し言われています。飲食時の感染の原因は飛沫感染(一部エアロゾル・飛沫核(空気)感染)だと言い切る方がいますが、その方々はぜひ東京都のお店の認証チェックシートにクレームをつけていただければと思います。
 「料理は大皿を避け個々に提供する、従業員等が取り分ける等の工夫を行っている」という項目があります。料理を介した接触(媒介物)感染を想定してのことです。飛沫感染しかないのであれば東京都のこのチェックシートは問題ですよね。一方で、料理に飛沫を、ウイルスを付着させないことが重要ならば、感染している調理人やサービスをしている人の飛沫が料理に付着しないよう、マスクは不織布とすべきですが、そうなっていません。ちぐはぐになるのは、感染経路をつなげて考えることって結構面倒なことだからのよ
うです。

●『感染が収束に向かう理由』
 第5波は急増後にほぼ同じパターンで急減しました。第5波ではデルタ株が脅しのように使われ、すれ違っただけで感染すると言われ続けたのですが、第5波の終わりの頃、ほとんどのウイルスがこのデルタ株に置き換わっていたのに感染がどんどん収束していきました。何故でしょうか。
 繰り返しになりますが、これだけ感染力があるウイルスの場合、ある集団にウイルスが入り込むと加速度的に感染が広がります。しかし、感染経路がつながる人の数が限られていると、その集団の中の感染していない人が加速度的に減るため、増えたスピードで収束していくのではないでしょうか。
 第1波以降、日本人は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を受け、自主的に自粛を繰り返し、感染経路がつながる人の数を限定してきました。ところが、第5波では感染経路がつながる人たちの輪、集団が大きくなっていたため、これまでにない大きな波になりました。しかし、やはりここでも感染経路がつながっている人たちが限定されていたため急速に収束に向かっただけではないでしょうか。

○『感染経路がつながる人たちを減らすには』
 多くの専門家は、「第6波は必ず来る」としか言いません。感染の拡大と収束の要因が、感染経路がつながっている人たちの集団、輪の大きさに起因すると考えればいいのではないでしょうか。第5波のように感染する人が増えれば、一定割合で重症になる方がおられ、医療はひっ迫します。
 では、感染経路がつながる人を減らすにはどうすればいいのでしょうか。ワクチンは重症化予防には一定の役割が明らかになっていますが、ブレイクスルー感染でも明らかなように、感染経路を遮断する効果はそれほど期待できません。これまでのように、酒類の提供を停止したり、イベントを制限したりするなど、感染機会を遮断する方向はこれ以上とれません。だからこそ、いまさらですが、感染経路がつながる集団を小さくするため、感染経路を断つためにできることを考え、実践し続けるしかありません。面倒でも考え続けましょう。