紳也特急 271号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,271  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『インフルエンザに学ぶコロナ対策』~

●『生徒の感想』
○『違いではなく類似点に着目を』
●『マスクをつけている方が感染?』
○『ワクチンをしたのに感染』
●『治療薬の意味は』
○『ワクチンが抑えた感染拡大』
●『インフルエンザが冬場に流行する理由』
○『感染拡大の収束方法』
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●生徒の感想
 一番印象に残っているのは「依存」「自立」「絆」の場面でした。僕も岩室先生のように依存や薬物は意思の弱いものなのだと思っていました。ですが「自立は依存先を増やすこと」というのを聞いて鳥肌が立つというか、ブワーと自分の中で沸き上がりました。自分の弟は、今非行少年というか不良のはんぱ物のような感じです。そんな弟は家族にも迷惑をかけています。自分が怒ろうとすると逃げ出して、手に負えない。自分はいっそのこと家を出て欲しいと思っていました。でも今回の話で孤立は薬物依存に手を出しかねないと聞いて、こんな弟にしたのは僕ら家族の責任なのかもしれないと思いました。(高1男子)

 2月末から3月にかけて学校で講演する機会が増えます。同じ話を繰り返しさせていただくことで、生徒さんは、先生方はどこに興味を持って聞いてくれているのかが、どこがスルーされているのかがよくわかります。45分しか話せない学校ではいろんなことを削らざるを得ないのですが、それで伝わっていないかと言えばそうではなく、むしろ他の学校で入れていた内容がちょっとくどかったと反省することも多々あります。
 ちょうど2年前の今日、3月1日、全国一斉に休校になり、卒業前の講演がすべてキャンセルされました。そこから2年、相変わらず新型コロナウイルスの感染拡大が繰り返されています。しかし、よく考えればインフルエンザも同じでした。新型コロナウイルスが収束せずにインフルエンザ同様、集団感染を繰り返し続けることが明らかになったからこそ、今月のテーマを「インフルエンザに学ぶコロナ対策」としました。

インフルエンザに学ぶコロナ対策

○違いではなく類似点に着目を
 新型コロナウイルスが流行し始めた頃から「インフルエンザに類似している」と言った話をすると、必ず後遺症が違う、死亡率が違う、など、同じように考えるのは間違いという指摘が繰り返されました。確かにいろんな点で異なっていることは事実ですが、感染経路は当初から同じでしたし、今では新型コロナウイルスのワクチンも使えるようになりました。まだインフルエンザの治療薬ほどではないにしても治療薬が複数手に入るようになってきました。このような状況になった今だからこそ、インフルエンザの経験に学びたいと思います。

●マスクをつけている方が感染?
 新型コロナウイルスが広がる前、ある中学校の養護教諭の方から「マスクをつけている生徒の方がインフルエンザに感染しているようですがなぜですか?」と聞かれました。マスクはあくまでも自分の飛沫を飛ばさないためです。もちろん感染している人にくしゃみを直接顔にかけられた時に口を開けていればマスクは有効かもしれませんが、マスクをしているからといってマスクをしている人の予防にはほぼならないことは当時から常識でした。
 新型コロナウイルスで認識が広まったエアロゾルも、マスクと顔の隙間から入りますのでやはりマスクの予防効果はあまり期待できません。結核の患者さんからうつらないための対策としての顔と皮膚の間の隙間をなくして装着するN95マスクですが、N95という基準が0.3?の粒子を95%通さないという意味で、結核菌は0.3?ですが、新型コロナウイルスは0.1?です。もちろんエアロゾルとして存在している時は水分をまとっていますので一定の捕捉効果は期待できますが、エアロゾルの水分が蒸発しウイルスが露出した飛沫核の状態になればウイルスがN95マスクを通り抜けます。
 インフルエンザの頃にマスクをしている人の方が感染したとすれば、インフルエンザウイルスが付着した指でマスクの表面を無意識の内に触り、それを吸い込んでいた可能性があります。

○ワクチンをしたのに感染
 インフルエンザワクチンを接種していたにもかかわらず感染した人は大勢います。その時、多くの人は「今年はワクチンの型が合わなかったのだ」と言っていました。もちろんそれもあるでしょうが、いま、新型コロナウイルスワクチンで盛んに言われてるワクチンを打っていても感染するブレイクスルー感染だった可能性もあります。もともとインフルエンザのワクチンも新型コロナウイルスのワクチン同様、感染しても重症化を予防するためのものです。だから、ワクチンを接種していても感染するということはインフルエンザの時から学んでいたはずですがその経験は生かされていません。

●治療薬の意味は
 インフルエンザの治療薬は進歩し、今はインフルエンザで発熱しても服薬で解熱する人が多くなっています。しかし、ワクチンも、治療薬もあるにもかかわらずインフルエンザで毎年3,000人前後の方がインフルエンザが原因で亡くなっていました。今後、さらにいい新型コロナウイルスの治療薬やワクチンが開発されたとしても、インフルエンザ同様、亡くなる方は一定数いることを覚悟して、ウイルスとの共存を考える必要があるようです。

○ワクチンが抑えた感染拡大
 2021年の10月から12月にかけては、さざ波のような、コロナの新規感染者がそれほど見つからない、まるで夏場のインフルエンザのような状況でした。理由として考えられるのが50歳以上で90%以上、12歳~49歳でも約80%とワクチン接種率が非常に高かったことです。いわゆる集団免疫を獲得したような状況でした。
 感染しても症状が出る人が少なく、結果的に捕捉される人が少なくなっただけではなく、感染しても排出するウイルス量が少ないため、次の人への感染拡大が抑えられたと考えられます。一方でオミクロン株の大流行が起きたのは、ウイルスの感染力の強さもさることながら、ワクチンの効果が約6か月しか持続しないにも関わらず、ワクチンの3回目の接種が遅れたことが原因と考えられます。

●インフルエンザが冬場に流行する理由
 インフルエンザは日本をはじめ、北半球ではお正月前後に急増し、春ごろには急速に減少し、夏場はほとんど確認されません。この状況は日本の新型コロナウイルスの2021年10月から12月のように集団免疫を獲得した可能性がないかという視点で考えてみました。
 エアロゾルの理解が広まるにつれ、乾燥した冬場はエアロゾルが低い湿度のため飛沫核化してウイルスがそのままさまよい続け、感染拡大が起こっている可能性が指摘されています。しかし、それならインフルエンザも、新型コロナウイルスでも満員電車でもっとクラスターが起きてもおかしくないのにそうはなっていません。何故でしょうか。
 感染に必要なウイルス量という視点で考えると、アカゲザルの実験で新型コロナウイルスに感染するには数千から数万個のウイルスを吸入する必要があるとされています。満員電車にウイルスを排出している人がいたことは間違いないのですが、多くの人が感染してクラスターになるほどの濃度のウイルスを排出していなかったのではないでしょうか。一方で少量のウイルスだと軽症で済んだり、免疫獲得だけで済んだりした可能性があるのではないでしょうか。ちなみに東南アジアでは年中、同じような割合でインフルエンザが確認されていますが、集団感染したり、集団免疫を獲得したりするような生活習慣や環境要因がないからかもしれません。
 日本でのインフルエンザワクチンの接種率は全体では1/3、子どもや高齢者では半数以上だそうですが、ワクチンだけで抑え込んだと考えるのには無理があります。となると、他の方法で免疫を確保したと推定されます。インフルエンザウイルスは新型コロナウイルスと比べて感染力が弱いため、忘年会、お正月、新年会、満員電車等で感染が拡大して感染が確認される人も増える一方で、エアロゾルや飛沫核として体内にウイルスを取り入れたものの、入り込むウイルス量が少なく、症状があまり強くでなかったり、免疫を獲得しただけだったりで、結果的に春ごろにワクチンを打っていない人を含めた集団免疫が確立されていた。そして、次の冬を迎える頃にはその集団免疫力が低下し次なる流行が起こっているのではないでしょうか。

○感染拡大の収束方法
 新型コロナウイルス対策として、免疫の獲得に寄与するワクチンは接種率を国民の80%以上にすると感染拡大を抑えられるようです。インフルエンザに学べばワクチンに加え、体内に取り入れるウイルス量を減らず感染予防策をそれなりに実行する人が増えれば、結果的に集団免疫の獲得につながります。集団免疫を獲得するため、80%を超えるワクチン接種率を今後6か月ごとに繰り返すことを目標にしつつ、ワクチンを受けない人も体内に取り入れるウイルス量を減らす感染経路対策をすることで、結果として免疫が獲得できるような出会いの機会、新年会、忘年会、歓送迎会を企画してはいかがでしょうか。
 もし、ワクチン接種率が低下する一方で、人との出会いが少ない状況を選択するのであれば、「第○波」という言葉をこれから何回も聞くことになるでしょう。そろそろこれまで蓄積された経験を共有したいものです。