紳也特急 275号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,275  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『ちぐはぐ』~

●『生徒、大学生の感想』
○『どのようなマスクを使っていますか』
●『マスクは何のため」
○『マスクの性能差』
●『これからのコロナとの向き合い方』
○『ちぐはぐの原因』
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●生徒、大学生の感想
 私の両親はともに医療従事者なので、彼らの言うことを鵜呑みにしてしまっていて、自分で想像することはあまりしてこなかったので、少し反省しました。(高2女子)

 今回の話を聞いて、日常への疑問を考えることは大切だなと思いました。自分の考えを思いかえしても、理由がわからずに当たり前のこととして常識のように考えてしまうことが数えきれないくらいあるので、日々の日常の中で、常に考えたいなと思いました(高2女子)

 今回の授業で今まで考えたことのないこともたくさん考えた。改めて、今の私は多くの人に支えられているから生きているのだと感じることが出来た。今回の講義は一生忘れることがないくらい深いものだった。多くのことを思い出させてくれてありがとうございました。(女子大学生)

 今回の講義は、医学の授業と言うより、人間が社会生活していく上で大切なことを教えていただいたように思える。たまには人に頼って、自分の肩の荷を下ろすことも社会生活の1部であると、そう岩室先生に教わった講義であった。(男子大学生)

 岩室先生の講義に魅力がある理由は、正解を教える従来の教育とは異なり、正解とされることへの矛盾点を疑問として投げかけ、物事の捉え方のみを講義で取り扱い、それぞれに答えを見出してもらう、哲学と似た手法を用いている点にあると考えた。(男子大学生)

 高校生や大学生が求めていることは「正解」ではなく、考えるための材料であったり、きっかけであったりだと改めて思いました。一方で再び新型コロナウイルス感染症が増えていますが、4回目のワクチンの対象が限定されています。6月で既に40℃越えになっていますが、未だに屋外でマスクを着けている人が大半です。そこで今月のテーマを「ちぐはぐ」としました。

ちぐはぐ

○どのようなマスクを使っていますか
 皆さんはどのようなタイプの、価格はどれぐらいのマスクを使っていますか。講演で生徒さんや先生方のマスクを拝見すると、材質では不織布、布、ポリウレタンといろんなのが使われています。マスク市場はまだ魅力的なようで、最近大々的にコマーシャルが打たれている多機能マスクは新型コロナウイルスのサイズ(0.1?)をも捕らえつつ、通気性も確保しているとうたっています。価格は1枚150円~200円。確かに息を吸う時は他の不織布マスクより吸いやすいとは思いましたが、理論的に言ってもこの対価を支払う意味はないと思っています。しかし、ネット販売では品薄状態のようでした。私は診療や講演、会議の時は1枚30円程度の個別包装の不織布マスクを、それ以外の屋内ではポリウレタンマスクを使い、屋外はノーマスクとしています。

●マスクは何のため?
 ぜひ周囲の方にこの質問をしてみてください。多くの方は「感染予防のため」と答えると思います。では、「何感染を予防するため?」と聞くと、「新型コロナウイルス感染を予防するため」となるので、「どのような感染経路を予防するため?」と聞くと「???」となります。マスクの目的別の効果を以下に示します。

 自分の飛沫飛散予防        ○
 他人の飛沫吸入予防        △
 自分のエアロゾル飛散予防     ×
 他人のエアロゾル吸入予防     ×
 自分の飛沫核(ウイルス)飛散予防 ×
 他人の飛沫核(ウイルス)吸入予防 ×

 このことを理解している人はどれだけいるのでしょうか。

○マスクの性能差
 布マスクはメーカーによる性能差がありますのでここではコメントしませんが、不織布マスクとポリウレタンマスクは正確に理解したいものです。
不織布マスクは装着者の飛沫を前方に飛ばさない効果があります。しかし、ポリウレタンマスクは飛沫を通します。すなわち自分の飛沫を前方に飛ばしたくないなら不織布マスクが必須です。一方で「他人の飛沫を吸い込まないため」と思っている方もいるでしょうが、確かに口を開けた状態で他人の飛沫が口の中に飛び込むのは防げますが、不織布マスクであってもマスクの表面に着いた飛沫の水分が乾燥すれば、ウイルスをマスク越しに吸い込むことになります。さらに飛沫は目にも飛び込み、そこから感染しますので目も覆う必要があります。
 一方でオミクロン株の感染拡大の原因となったエアロゾルは不織布マスクを使っていても、マスクと顔の隙間から漏れ出します。富岳でわかりやすい映像がつくられていますが、再生回数は原稿執筆時点でたったの1,474回です。
https://www.r-ccs.riken.jp/en/fugaku/research/covid-19/msg-jp/
https://youtu.be/DBUK-IYTUn8
 すなわち、マスクはエアロゾルの排出を抑制する効果は少なく、マスクをすることで口や肺の温度が上がり、かえってエアロゾルの排出を増やします。他人が排出したエアロゾルはそのまま、もしくは水分が蒸発して飛沫核(ウイルスそのもの)となって漂い、高性能な不織布マスクをしていてもマスクと顔の隙間から吸い込みます。ちなみに医療者が装着するN95というマスクは顔とマスクの間の隙間を完全に閉じるため、私などは20分以上装着できません。

●これからのコロナとの向き合い方
 今後の医学の進歩に期待しつつ、現段階での国の新型コロナウイルス対策の方向性が見えてきました。

 ワクチンで感染抑制はしない
 ワクチンで重症化予防
 感染者数は気にしない
 感染予防は自己責任で

 ある集団のワクチン接種完了率が80%を超えると、ワクチンの有効期間内はその集団での感染拡大が抑制されます。しかし、若い世代はワクチンの4回目の接種対象から外されましたので、ワクチンでの感染抑制はしない方向になりました。一方で高齢者ではワクチンで重症化予防をしますが、ブレイクスルー感染もあり、80歳以上だと、感染した人の50人に1人は亡くなっていますので感染予防は重要です。以前は早期発見、早期隔離の対策をしていましたが、空港検疫での検査対象を制限した結果、感染判明者数が約10分の1になったことからも、無症状の感染を捕捉することに重きを置かなくなりました。そして、感染予防は自己責任でとなります。

○ちぐはぐの原因
 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃から、というかすべての問題への岩室紳也の向き合い方は学生さんが指摘してくださったとおりでした。

 正解を教える従来の教育とは異なり、正解とされることへの矛盾点を疑問として投げかけ、物事の捉え方のみを講義で取り扱い、それぞれに答えを見出してもらう。

 「ウイルスは、どこから、どこへ、どうやって」と言い続けていますが、それは答えが決して一つではなく、一人ひとりが関心を持ったり、実践できたりすることは異なるためです。しかし、そのような認識がなく、「とにかくマスク」という正解を教え続けると、現在の状況のように、猛暑、屋外でマスクが外せない人が後を絶たないちぐはぐな状況になります。しかし、正解依存症の人たちは自分たちの行動に疑問を持たないばかりか、マスクを外して涼しい顔をしている私に冷たい視線を浴びせます(苦笑)。
 ぜひこの機会にマスクについて再考していただければと思います。そして無事にこの猛暑を乗り切りましょう。