紳也特急 300号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,300  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『忖度社会』~

●『生徒の感想』
○『忖度は勝手な思い込み?』
●『熱中症対策での忖度』
○『患者さんに学ぶ』
●『低カリウム血症が疑われる熱中症の記事』
○『効果的なカリウム補給法』
●『熱中症対策のコンビニ朝食』
○『AIDS文化フォーラム in 横浜』
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●生徒の感想
 
 綺麗ごとなど言わずに、正直に話してくれているからこそ信頼できるし、人間のありのままを知る機会にもなって本当に良かったです。(高2女子)
 
 テレビで放送されている情報は信ぴょう性が高いと思って疑わなかった自分がいた。先生の言葉から視覚から入った情報で分かった気にならないこと。特にマスコミの情報を鵜呑みにせず、疑問を持たなければならないこと。メッセージが深く刺さった。(中3男子)
 
 今まで教えられてきたことに間違っていたということがあったということに驚いた。特に命を大切にしろではなく、もともと命は大切だということが一番心に残りました。普段、人と話しにくい性についての話もしっかり説明してくれて、自分のこれからの人生のためにも大切にしていこうと思いました。(中3女子)
 
 「綺麗ごと」、「信ぴょう性」、「命は大切だ」と言った言葉に生徒さんが反応してくれたことをどう思いますか。2024年7月末に日本産婦人科医会の性教育指導セミナーが奈良県で開催され、「若者が求める性感染症予防教育とは」という講演をさせていただきました。大会のテーマが「どうするネット社会の性教育~SNSの功罪を考える~」だったのですが、不思議とSNSの「功」の話がほとんどありませんでした。なぜなのかと考えた時に、SNSを利用している大人が少ないというのもありますが、もう一つはマスコミがSNSをはじめとしたさまざまな媒体に忖度(そんたく)しているからではないかと思いました。
 そこで今月のテーマを「忖度社会」としました。

忖度社会

〇忖度は勝手な思い込み?
 「忖度」を広辞苑で調べると「(「忖」も「度」も、はかる意)他人の心中をおしはかること。推察」とありました。皆さんは他人の心中をおしはかる能力はありますか。少なくとも私はありません。ということはこの忖度というのは相手の思いとは裏腹に、自分で勝手に「相手はこう思うだろう」と思い込んで選択、行動をしている可能性も否定できないとも言えます。こう考えると、忖度されたとされる側が「そんなことをお願いしたことはない」と反論することもあながちウソとは言えないのですね。

●熱中症対策での忖度
 猛暑を通り越して酷暑という状況の中、マスコミは「熱中症予防のために水分、塩分、クーラーの大切さ」を繰り返し伝えていますが、この報道に疑問を持ったことはありますか。水分補給も、塩分摂取も、クーラーの使用もどれも大事なことですが、予防を考えるためにはもう少し具体的に、どれぐらいの水分、塩分が必要なのかを検討したいものです。
 高温下で1時間働くと汗1.5l、塩分4.5g失います。野球を2時間半していると5.4gの塩分が必要です。夜中、特に汗をかいた感覚がなくても汗0.5l、塩分1.5g失います。ということは、夜中に失った水分や塩分を補うだけではなく、朝食で午前中の活動に合わせた水分と塩分の補給が必要ということになります。
 朝はパン食という方が多いのですが、食パン1枚(塩分0.8g)、卵とベーコン(塩分1.5g)、バナナ1本(塩分0g)、牛乳200ml(塩分0.1g)で合計塩分摂取量は2.4gです。ご飯(塩分0g)、塩鮭(塩分2.2g)、納豆(塩分0.6g)、味噌汁(塩分1.5g)で塩分は4.3gなので、午前中部活等に出かけるお子さんには梅干し(塩分1.0g)や沢庵3切(塩分0.8g)を食べさせたいですね。栄養的には反論もあろうかと思いますが、カップ麺はスープまで全部摂取すると塩分は4.5gとなります。
 「熱中症対策にスポーツドリンク」や「塩分補給に塩分タブレット(1粒)」と言っていますが、スポーツドリンク500mlに含まれる塩分は0.5~0.6g、タブレット1粒の塩分は0.12gです。これでは十分な塩分補給にならないことがわかります。テレビコマーシャルやワイドショーでは様々な熱中症対策用品が紹介されていますが、新型コロナウイルス対策同様、本当に国民が必要としている情報が伝わっていない、コマーシャルを出してくれている企業に忖度していると思うのは私だけでしょうか。

〇患者さんに学ぶ
 そんな思いでいた時に、私が診ていた患者さんが「暑いから水分を取っていたけど、体がだるい、力が入らない」と訴えたので血液検査を行ったところ、血液中の低カリウム血症でした。
 低カリウム血症の主な症状は、「手足の力が抜けたり弱くなったりする」、「手足のだるさ」、「こわばり」、「筋肉痛」、「麻痺」、「不整脈」などで、病状が進むと、「体を動かすと息苦しくなる」、「歩いたり走ったりできなくなる」こともあります。医者がこのような患者さんを診るのは多くの場合使っている薬の副作用が原因ですが、熱中症や過度の水分の摂取で尿からカリウムが失われることもあります。
 
●低カリウム血症が疑われる熱中症の記事
 この患者さんをきっかけに、過去の熱中症の記事を検索したところ、次のようなニュースがありました。
 
7月、熱中症で死亡35人 「このまま死ぬかも」と感じた人の症状は
 
 意識を失った人の症状を見ると

・気分が悪くて何も飲めない
・指がつり、足や首の筋肉もしびれ
・水を飲もうとしたが、うまく飲みこめなかった
・足から始まったしびれが体を伝うように上がってきて、顔に到達
・話すこともできなくなる
 
 先に紹介した低カリウム血症の症状と一致します。でもこう言っている方は、水分補給は意識的にしていたり、木陰にいたりしていました。
 また、このニュースで非常に重要なことは意識を失ったものの、助かった人たちは他の人と一緒にいたことでした。逆に「畑仕事中に倒れていた方の死亡が確認された」という報道も多いのですが、裏を返すと一人だと助からないこともあり、誰かと一緒にいることも熱中症対策で重要です。

〇効果的なカリウム補給法
 カリウムは野菜、海藻、果物に多く含まれ、一日に2,000~2,500mg摂取する必要があります。普段から、朝食で多くの野菜を食べ、野菜や海藻入りの味噌汁を飲み、夏場は梅干しを必ず食べている私ですが、先日、この酷暑の中15分ほど歩いたら少し脱力感を感じたので、コンビニで100%のオレンジジュース250ml(カリウム530㎎)飲んだところ、すぐに脱力感が回復しました。野菜ジュース200ml(カリウム620㎎)もいいと思いますが、パッケージに書かれているカリウムの含有量をチェックして選んでください。

●熱中症対策のコンビニ朝食
 酷暑を乗り切るには何より朝食でしっかり、塩分、カリウム、水分をちゃんと摂ることです。コンビニで調達するのであれば、食材の中の塩分とカリウムをチェックするようにしてください。おにぎり(塩分1.0g)×2、たまごサンド(塩分1.2g)、カレーパン(塩分1.4g)、カップみそ汁(塩分2.2g)、梅干し(塩分1.0g)、野菜ジュース(カリウム530㎎)、バナナ(カリウム360㎎)です。もちろん水分も大事ですが、水分をしっかり摂れているかはおしっこの量と濃さ(濃いいと水分不足)でチェックして、この酷暑を乗り切りましょう。

〇AIDS文化フォーラム in 横浜
 2024年8月2日(金)~8月4日(日)
 https://abf-yokohama.org/
 お待ちしていますが、必ず朝食を食べていらしてください!!!