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■■■■■■■■■■■ 紳也特急 vol,301 ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『包茎再考』~
●『包茎と向き合った2024年8月』
○『そもそも包茎とは』
●『「自然にむける」という誤解』
○『過保護な亀頭部』
●『包茎は切るべからず』
○『保育園での性教育』
●『ハエ便器でこぼれ80%削減』
○『かぶれば包茎、むければOK』
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●包茎と向き合った2024年8月
OCHINCHINというパンフレットをはじめ、これまで包茎についていろんな発信をしてきました。しかし、先月(2024年8月)はいつもの小さいお子さんから中学生までのおちんちん外来に加え、包茎手術後の後遺症で苦しんでいる40代の人、包皮をむいた時の亀頭部の刺激感が強くてむけない40代の人も受診しただけではなく、保育園児対象の性教育でむきむき体操を教えたら、保育園の先生から「おしっことびちり防止ターゲットシール」を教えてもらうなど、包茎についていろいろ考えさせられるだけではなく、新たな学びと気づきをいただきました。
そこで今月のテーマを「包茎再考」としました。
包茎再考
〇そもそも包茎とは
おちんちんは亀頭部と、亀頭部を覆っている包皮、そして陰茎根部から成り立っています。包皮が亀頭部を覆っている状態を「包茎」と言います。包皮をずらしても包皮の出口の包皮口が狭く、全く亀頭部が見えない状態は「真性包茎」。包皮をずらして亀頭部が全部露出できる状態は「仮性包茎」。では亀頭部が少しは見えるが全部露出できないのは「亀頭部が少し出たペニス」です。
インターネットを調べると「カントン包茎」とか、いろんな間違った記述がありますが、本当の嵌頓包茎とは、包皮口が狭いものの、何とか亀頭部を露出したまま放置し、むいた包皮がむくんでパンパンに腫れた状態を言います。
詳しくは以下を参考にしてください。
https://iwamuro.jp/syho/qahoukei/
●「自然にむける」という誤解
よく「包茎は思春期になると自然とむけるので放っておくべし」と自信たっぷりにおっしゃる医者がいます。確かにそういう人もいるのかもしれませんが、では「包皮をむいた時の亀頭部の刺激感が強くてむけない40代の人」はどう考えればいいのでしょうか。自己責任でしょうか。このような方を生まないために情報発信をし続けているつもりですが、残念ながら私の力不足でこの方にこれまでそのメッセージがちゃんと伝わっていませんでした。と同時に、「放っておくべし」という人たちはこのような人の存在を知らないのか、どうでもいいのか、ぜひご意見を伺いたいものです。
〇過保護な亀頭部
でどうしたか。この方は二つの問題点を抱えていました。亀頭部が刺激に弱いことと、包皮口が十分広がっていないことでした。まず、亀頭部をとにかく毎日、最初は指で少し触れる程度でいいので10回から少しずつ回数を増やし、刺激に慣れてきたら回数はそのままにして少し強くこすり、最終的にはタオル等でごしごし洗っても平気になるというトレーニングを指導させていただきました。ごしごし洗っても平気になったら、次は包皮口を広げるため、最初は非勃起時に「包皮をむいて亀頭部を露出したらすぐ戻す」といういわゆるむきむき体操を30回から始め100回まで増やす。包皮口が緩くなったら、勃起時にむきむき体操を行い、最終的には勃起した状態で亀頭部を露出しても包皮口で陰茎が締め付けられない状態を目指しましょうと指導させてもらいました。ちなみにこの方は350キロ離れたところから来られました。
●包茎は切るべからず
包茎手術後の後遺症で苦しんでいる40代の人は200キロも離れた地域から来られました。中学生の頃、包茎が気になり親に相談したところ成り行きで環状切除術という私も以前は行っていた、ある意味包茎の標準的な手術を受けていました。ところが手術後から亀頭部の過敏状態、縫合部の違和感、勃起時痛、等々いろいろ辛い状態が続いているため、仕事が手に着かなかったり、鬱状態になったりを繰り返されていました。この方だけではなく、包茎の手術を受け、その後の後遺症で苦しんでいる方を数多く見てきましたが、後遺症の原因のほとんどが、包皮切除による神経の損傷です。
手や足を切断した際に「幻肢痛」といって、失ったはずの手足が存在(幻肢)するように感じたり、その幻肢が痛いと感じたりする現象が知られています。もちろん時間と共に症状が消える人もいるでしょうが、症状が残り、苦しむ人もいます。今回受診された方は術後30年近くたっていたにも関わらず、包皮を多く切除していたため、勃起時に皮膚が突っ張る状態でしたし、皮膚の知覚が過敏な状態が残っていました。
〇保育園での性教育
昨年に引き続き、陸前高田市の保育園児に性教育をする機会をいただきました。保育園の園長先生や保健師さんたちと一緒に、外陰部の清潔の保ち方、性被害に遭った時の対処法といったごくごく基本的なことを保護者も参加してやりました。もちろん男の子にはむきむき体操を伝えたのですが、その後の振り返りのところで園長先生から「おしっことびちり防止ターゲットシール」を教えてもらいました。おちんちんのことをいろいろやっていながら、そのようなものが市販されているとはつゆ知らず、すぐにネットで購入して保育園でトライヤルをしていただくことになりました。今回購入したのは以下の商品ですが、今後いろいろ試したいと思っています。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B095YV5Z61
このシールを見て思ったのが、おしっこをする際に包皮をむいてこのシールを狙えるお子さんと、むかずに狙ったお子さんでは命中率に当然のことながら差が出るはずです。保育園でむきむき体操を教えなくても、ターゲットシールをつけるだけで、考える子は「むかないとまっすぐ飛ばない」ということに気づき、結果的にむくことを覚えると期待されます。将来的にはむきむき体操とターゲットシールのコラボを目指したいと思いました。
●ハエ便器でこぼれ80%削減
そんな話をしていたら、インターネットの専門家の宮崎豊久さんが次の記事を教えてくれました。
スキポール空港はハエ便器のこぼれを 80% 削減
小便器の排水溝付近にハエの画像を入れたら、皆さんがそのハエを狙うようになり、尿漏れが80%減少したとのことでした。日本だけではなく、海外でも、大人でもまだまだいろんな工夫が必要なようです。
〇かぶれば包茎、むければOK
結局のところ、もちろん思春期になってからでもいいですが、「かぶれば包茎、むければOK」です。それをいつ、誰が、どのように伝えれば、今回受診された、辛い思いをされている人たちを予防できたのでしょうか。
このような書き込みをFacebookにしたところ、心ある泌尿器科の先生たちから賛同のメッセージをいただくだけではなく、「不要な包茎の手術に加え、(よくわからない)長茎手術も併せて受けた人が術後の出血で陰嚢がパンパンに腫れたのが来たばかり」といった情報をいただきました。
インターネットにはいろんな情報がある一方で、今どき男子は「包茎」という言葉も知りません。そのため騙され、不要な手術を受けたり、逆にむくことも知らないまま思春期を通り越してセックスができなかったりという現状があります。さて皆さんは何ができますか。私は「かぶれば包茎、むければOK」を地道に伝え続けたいと思います。