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■■■■■■■■■■■ 紳也特急 vol,303 ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『性教育とは!?!』~
●『生徒の感想』
○『性教育ブームで思うこと』
●『性教育にこそ多様性を』
○『夫婦別姓反対も一つの意見』
●『多様性の反対は』
○『自分が聞きたい「対話」とは』
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●生徒の感想
人と対話をすることがとても大事というのを聞いて、確かに私も友達や家族に悩みを相談すると気が楽になるなと思いました。(高2女子)
正解依存症というものも集団における多様性の喪失であり、異なる意見が生まれ、それが認められ、相互に影響を与え合うのが本来の健全な民主主義だと思うので、そのような社会を作れるよう頑張ります。そして、マスコミだけを信じるのは悪手だと思うので、確かな対話を重視したいです。本日は腐敗した社会への抵抗を先導してくださるような革新的な講演をしてくださり励みになりました。有難うございました!(高2男子)
私は人に自分の弱さをさらけ出すことが苦手で、泣き顔を家族にも友人にも赤の他人にも誰にも見せたくはありません。相談や話すことも正直苦手で常に明るい自分自身でいたいので、悩んでいることはすべて自分で消化(自分が辛い状況ということは伝えず相手と日常会話をする、遊ぶ、一人で文字化する、画像化する)してきました。失敗談を相手に話すこと、正直とてつもなく怖くて、嫌だと思ってしまうのですが少しずつ頑張ってみます。
いま、学校に通えてない日が続いており(続く時もあり)そのことでこれから先生たちと話さなければなりません。嘘をついてしまうかもしれないし、しっかり自分が思っていることを伝えられるかもわかりません。でも、少しだけで頑張って対話したいと思います。本日はご講演ありがとうございました。(高2)
学校側は岩室紳也に性教育を依頼し、もちろん性教育のつもりで話をしています。しかし、今回紹介した生徒の感想には一言も「性」のことは触れられていない一方で「対話」という言葉が彼らの感想に書かれていました。そこで今月のテーマを「性教育とは!?!」としました。
性教育とは!?!
〇性教育ブームで思うこと
昨今、性教育がブームになっているようでいろんな書籍が出版されています。「性」をきちんと取り上げ、いろんな視点で「性」について考えられる環境が整備されつつあることはすごく大事だと思っていました。ところが、先日、ある自治体から「幼児期の性教育」についての講演依頼をいただいた結果、ブームの裏で起きていることを考えさせられました。
その自治体では3歳児健診の際に性教育に関するリーフレットを配っていたのですが、それを見直すきっかけとしての専門職向けの勉強会の依頼でした。リーフレットの一部を紹介すると「お母さん、お父さんが逃げたりすると、お子さんは性について『聞いてはいけない』とマイナスイメージを持つことにつながってしまいます」とありました。皆さんはどう思われますか。
もちろん性について話せる人もいれば、話せない人もいます。今は話せないけど話せるようになりたいと思っている人もいれば、絶対話したくないという人もいます。お子さんにとって大事なことは「この社会には性について話せる人もいれば、話したくない人もいる」ことを理解することではないでしょうか。そのために保護者に伝えなければならないことは何かを考えてみました。
●性教育にこそ多様性を
「性」を全く語らない、それこそ「性について語りたくない」と伝えることも立派な性教育だと思っています。こう話すと「では誰が正しい情報を伝えるのですか」と反論されます。でもちょっと考えていただきたいのが、最近、性に関連する分野ではLGBTQ+を含め、「多様性」を認めることの大切さが言われていますよね。それなら「性を語りたくない」人の存在も認められるべきだと思いませんか。ただ、それが保護者の場合、お子さんにとって保護者以外の人から正しい情報が得られる環境整備が大事になります。
大人向けの講演会をすると、決まって出る質問が「母子家庭ですが、異性である息子に何をどう教えればいいでしょうか」です。もちろん私の本を読んでお母さんが教えるというのでもいいでしょうし、お友達で話ができる人が家に来た時に話してもらうという手もあります。ちなみに私はマンションに住んでいますが「マンション」と呼ばず「高級長屋」と呼んで近所づきあいを大切にしています。そのおかげか、隣の男の子が「赤ちゃんはどうすればできるの」とお母さんに聞いた時「岩室さんに聞いてきなさい」と言われて来ました。お子さんが学校に行っていれば、お母さんがPTAの役員をして、岩室を学校に外部講師として呼ぶという手もあります。もちろんPTAの役員なんて面倒でしたら、他の方法をご検討いただくしかありません。
〇夫婦別姓反対も一つの意見
今回の衆議院議員選挙で「選択的夫婦別姓」に賛成している政党もあれば、はっきり反対と述べている政党もあります。自民党はNHKのアンケートに「夫婦の氏制度のあり方は、旧姓の使用ができないことで不便を感じている人に寄り添い、運用面で対応する形で一刻も早い不便の解消に取り組む。今後の制度のあり方については社会的意義や運用上の課題などを整理しつつ、どのような形がふさわしいかを含め合意形成に努める」としています。このような政党で小泉進次郎さんが「選択的夫婦別姓の導入」を打ち出して総裁選に出馬したのはどう考えても彼の周囲のブレーンの力量不足です(笑)。もちろん、岩室紳也は選択的夫婦別姓には賛成どころか早期に実現すべきだと思っていますが、そう思っていない人たちを否定するつもりもありません。いろんな意見がある、表明できることが保障されている社会こそが健全ではないでしょうか。そしていろんな意見がある問題こそきちんと対話を重ね、方向性を見出したいものです。
●多様性の反対は
ChatGPTに「多様性の反対は」と聞くと、次のような回答でした。
「均一性」や「単一性」です。日本語では、「画一性」や「一様性」とも表現されることがあります。これらは、個々の違いが少なく、同じような特徴を持つものが集まっている状態や、異質な要素が少ない状態を指します。
本当にそうでしょうか。今の社会では「多様性の反対」は「正解依存症」のように思います。多様性というのはいろんな人がいることを認める考え方で、最近では性の多様性、LGBTQ+やSOGIといった視点で多くの人に理解が広まりました。しかし、それらのことが受け入れられない人が少なくなく、岸田政権では総理大臣秘書官が同性婚について「見るのも嫌だ」と発言するなど、やはり違う感性を持った人がいることも認める必要があります。もちろんそのような発言をする方が総理秘書官でいいとは思いませんし実際には更迭されていますが、そのような人の存在が認められないなら、それこそその人が正解依存症ではないでしょうか。
結局、いろんなことを一人ひとりに突き付けるのが「性」です。その「性」を誰かに伝えたいという思いを多くの人が持つのはいいのですが、気をつけたいのが押し付けにならないことです。「性教育」はあくまでも「多様性を受容した上で進めるべきこと」と改めて思いました。
〇自分が聞きたい「対話」とは
この原稿を書いていた時に「性教育で何を伝えたらいいか」という質問が保健師さんからありました。おそらく先輩から「あなたがやりなさい」と急に振られ、たまたまその自治体で岩室が講演をしていたので聞いてきたようでした。皆さんならどう答えますか。私の答えはシンプルでした。「あなたが聞きたいと思う話をしてあげてください」でした。シンプルと言いながら、これが実はすごく難しいことです。なぜなら皆さんは性教育で聞きたいことはありますか。ないですよね。なぜならそもそも自分が性教育を受けるということも考えられないと思います。
こう考えると、学校の先生はすごく偉いと思いませんか。授業を聞きたいと思っていない生徒たちの気持ちを引き付ける素晴らしい授業ができる人達が数多くいます。文部科学省は「対話的な学び」を打ち出しています。10月末に開催された日本公衆衛生学会(札幌)のテーマは「ともにいきる 協創を拓く対話」でした。これからの時代は「教育」から「対話」への発想転換が必要だと改めて思いましたし、生徒さんの感想が性に偏らず、感想の中に「対話」という文言が出てきたことはこれからの私の講演の方向性を示してくれたように思いました。皆さん、対話力を磨きましょう。