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■■■■■■■■■■■ 紳也特急 vol,307 ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『大人も子どもも求めていることは同じ』~
●『保護者の感想』
○『否定しない、否定されない』
●『考える材料提供にとどめる』
○『話しやすい環境整備』
●『正解依存症の人に正解依存症を伝えるには』
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●保護者の感想
感染症について自分で考えることの大切さ、情報をしっかり知ること、本当に勉強になりました。正解依存症について、なるほどな、こういうことかと腑に落ちました。「人は話すことで癒される」やっぱり話すことは大事だと思いました。
性感染症についてだけではなく、コロナ、インフルエンザ等なんとなく思い込んでいたことを改めて学ぶことができました。講義内容は深いのに、中学生が恥ずかしがらずに楽しめる講演でした。生徒が質問していたのもよかったです。
こういうきかっけは親が言えない現代、とてもありがたいです。どうぞ、残念なこどもの間違いが増えませんように…。子どもとたくさん話してくれてありがとうございました。
男子生徒、聞きづらい質問をしてくれてありがとう!すてきな大人になってください!
マスクをすることを否定せずにインフルエンザ、コロナの話をしていてとてもよかったです。
性についてはもちろん、人生や自分の仕事、考え方についてもとても考えさせられました。他人がどう、世界がどう、普通がどう、ではなく、違和感を覚えたらその自分の感覚を大事に、自分を、命を大切にしながら過ごしたいと思いました。自分が学生のときに聞きたかったです。あのとき、無理やりされたのをいやと言えていたら…、もっと自分の体を大事にしていたら…、と思うことがあります。
いつもは生徒の感想を紹介していましたが、今回は中学3年生向けの講演会を一緒に聞いてくださった保護者の感想を紹介させてもらいました。そもそも学校から案内があっても来ない、来られない保護者が多い中で、大勢聞きに来てくださり、率直な感想をいただきました。実は大人も、子どもたちも立場の違いを除けば基本的に受け止め方も、求めていることも同じかなと思いました。そこで今月のテーマを「大人も子どもも求めていることは同じ」としました。
大人も子どもも求めていることは同じ
〇否定しない、否定されない
いつも話を聞いてもらい、話の中から一つでも何か感じてもらえることがあればいいと思って話をしています。その際に最近一番気を付けているのが反射的に「拒否」となる言葉遣いです。例えば新型コロナウイルスやインフルエンザ予防でのマスクの話をする場合、「飛沫感染予防には・・・」「エアロゾル感染予防には・・・」といった話だけをすれば本来的にはいいのですが、それだけだと結果とし「マスクをしていることを否定している」となる方が少なくありません。もちろんそのような意図はありませんし、丁寧に私の言葉をくみ取っていただければそのような意図はないことが理解できるはずです。しかし、今の聞き手は自分の思考パターンの一部でも否定されると、自分自身を全否定されたと受け止めてしまう人が少なくありません。「マスクをすることを否定せずに・・・」と書いてくださった保護者の方もおそらく「否定せずに・・・」ということを日常生活の中でいつも気を付けておられるからさらっと書いてくださったのだと思いました。
ちなみに同じ講演会を聞き、「親に同じように話すことを求めているのか」という趣旨の意見がありました。親ができないからこそ岩室が話しているということを受け止められる保護者と、受け止められない保護者がいることもこれまた事実として考え、対応し続けたいと思いました。
●考える材料提供にとどめる
では、聞き手の誤解を修正したい場合、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。そこで考えたいのが繰り返し紹介している「正解依存症」の方々の思考パターンです。すなわち「自分なりの正解を見つけると、その正解を疑うことができないだけではなく、その正解を他の人にも押し付ける、自分なりの正解以外は受け付けられない、考えられない病んだ状態」の方に、話し手の正解を伝えれば、それこそ拒否されるのが当たり前でした。
新型コロナウイルス対策に関して言えば、子どもたちを含め、ほとんどの日本人は正解依存症になっているといって過言ではありません。こういうと読者の方は「私は違います」と言いながら、「でも岩室さんの考え方には賛同しかねます」となっていないでしょうか(笑)。実は私は賛同者を集めようとは全く思っていません。だからこそ、飛沫感染、エアロゾル感染、接触(媒介物)感染の説明をする際、最近気を付けて付け加える言葉が「岩室紳也が言っていることは信頼しなくていいです。ただ、お伝えしている情報について、自分でどう判断するかは考えてください」と聞き手に丸投げしています。
実はこの方法は受け入れやすいようです。「そんなの違う」「あり得ない」という人もいれば「そのような視点で考えたことはなかった」と思う人もいるようです。すなわち考え、判断するのはあなたで、私の役割は材料提供だけなのです。一見ずるいように思われるでしょうが、実は考えることを放棄している人たちが多い、正解依存症が増えている現代社会では大事な視点のようです。
ただ、反省を込めて言うと、保護者の中には「私もあなた(岩室)と同じように話さなければならないのか」といった反発もありましたので「保護者が岩室と同じことを話していたらこれも変だよね」という一言があるべきだったと、これまた反省させられました。
〇話しやすい環境整備
講演で必ず伝えているのが「対話の大切さ」です。斎藤環先生が「対話とは、面と向かって、声を出して、言葉を交わすこと。思春期問題の多くは対話の不足や欠如からこじれていく。議論、説得、正論、叱咤激励は対話ではなく独り言である。独り言の積み重ねが、しばしば事態をこじらせる」と教えてくれていますが、本当にその通りだと思いませんか。
学校の講演会で生徒が質問しやすい、自分の思いを口に出しやすい環境整備、対話の大切さの実感も重要です。講演の際にいろんな生徒さんにマイクを向けますが、そこでとにかく回答してくれたら「すごい。みんな拍手」と訴えると、拍手が起こるだけではなく、答えた本人も嬉しそうにします。講演後の質問タイムに「オナニーの時に足ピンはダメですか」といった質問が出た際には、「その質問、実は他のみんなも聞きたかったんだよね。質問してくれた彼に拍手!!!」。このような工夫が話しやすい、対話の環境整備につながります。
●正解依存症の人に正解依存症を伝えるには
生徒さん、若者たちだけではなく、保護者の方にも「正解依存症」の考え方がある意味スムースに受け取っていただけているのかなと思っています。でもおそらく「あなたは正解依存症ではないでしょうか」と訴えるだけだと反発だけが生まれます。その反発を最小限にとどめるには何より「岩室紳也も正解依存症でした」という説明が効果的です。
初めてHIVに感染している人の診療を頼まれた時、岩室紳也は完全に拒否モードになっていました。しかし、その原因はHIVの、感染症の感染経路を正しく理解していなかっただけのことでした。すなわち岩室紳也もその時点では完全なる正解依存症だったという説明を最初にします。こう伝えると「正解依存症」という言葉が、レッテルが、聞き手に向けられたものではなく、話し手のレッテルであり、要は一般的な、誰もがなり得ることだと受け止めてもらえます。一方でちゃんと情報を収集し、きちんと考えれば「ただただ怖い」ではなく、「ここだけ注意をすれば予防は簡単」となり、正解依存症から脱却できます。
結局のところ、大人も子どもも求めていることは同じで、他者の経験談、失敗談から学べる環境です。皆さん、大いに自分の失敗を語りましょう!!!