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■■■■■■■■■■■ 紳也特急 vol,309 ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『情報と選択は別物』~
●『生徒の感想』
○『生成AIと検索機能の違い』
●『わからないから楽しく考え続けられる』
○『情報があっても選択(施策)にはならない』
●『同調圧力で高まるワクチン接種率』
○『選択を阻むものは』
●『自己責任の時代に求められていること』
○『生成AIが情報収集の手助けに』
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●生徒の感想
私は1年前に彼氏がいて愛してるから性行為をしようと言われました。ですがやることでの危険性をたくさん知っていて、私は愛しているからしようはただの欲求不満を解消するための道具になるだけで自分は不快な思いをするだけなので断りましたが何度も何度も誘われたのでわかれました。それに対して私は、私が変なのかなとずっと悩んでいました。ですが今日岩室先生の話を聞いて、私のした選択は間違ってなかったんだなと思い、それにたくさんのことを学びました。(中3女子)
少子化の原因に膣内射精障害があると聞いて、僕自身もずっと間違ったマスターベーションをしていたこともあり、学校で正しいマスターベーションを教わることはとても大事だと思いました。(高2男子)
とてもいい講演だった。でもASMRなどの新しいコンテンツを知らないところを見ると少々残念な気持ちになった。(高1男子)
この3つの感想の共通点、わかりますか。私自身、そのことにハッとさせられ、今回の感想とテーマを選ばせてもらいました。
人は自分の選択や行動を後押しするような情報は納得して受け入れます。一方で自分が持っている情報を講演者が知らないとがっかりするのも理解できます。講演の聞き手は講演者の話をそのような姿勢で聞いていると改めて気づかされました。
一方で皆さんはASMRをご存じでしょうか。私は知りませんでしたので質問を受けた際に、「知らないので教えて」と聞き返しましたが、その場の説明だけではよくわからなかったのでChatGPTに聞いてみました。
ASMRとはAutonomous Sensory Meridian Response(自律感覚絶頂反応)の略で、「ある特定の音や視覚的な刺激によって、頭や背中にゾワゾワっと心地よい感覚が走る現象」を指すとのこと。ASMRはなぜ気持ちいいのかについては科学的にはまだ研究途上ですが、副交感神経が優位になり、リラックス効果やストレス緩和につながるとされています。心拍数の低下や、軽い「トランス状態」に入るような感覚が得られる人もいるようです。若者に人気なのはSNSやYouTube、TikTokで手軽に楽しめ、睡眠導入、ストレス解消、集中力アップのために利用する人が増えているとのこと。
なかなか面白そうな世界ですが、私はこの世界のことを知ってもそこに踏み込むことはないでしょう。情報や知識があることと、実際に自分の選択肢の一つにするか、自分の生活の中に取り入れるか否かは別問題です。今回の紹介した感想も、私が提供した情報が受け手の経験と重なった場合は参考になって受け入れられたようですが、自分の関心事と一致しないと残念と思うという当たり前のことでした。「情報」と「選択」というのは全く別物と気づかせてもらったので、今月のテーマを「情報と選択は別物」としました。
情報と選択は別物
〇生成AIと検索機能の違い
実はChatGPTに質問を投げかけた際に入力ミスをし「AMSRについて教えてください」としました。その結果が次の回答でした。
1. Advanced Microwave Scanning Radiometer (AMSR)
これは、地球観測衛星に搭載されているマイクロ波放射計のことです。気象や海洋、雪氷、土壌水分などの観測に使われます。
開発元:日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)
搭載衛星:Aqua衛星(NASA)、GCOM-W「しずく」など
主な観測対象:海面水温、降水量、雪の深さ、土壌水分、海氷の広がり
2. ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)との混同
スペルが似ているため、「AMSR」が「ASMR(自律感覚絶頂反応)」の誤記である可能性もあります。ASMRは、人の聴覚や視覚に心地よい刺激を与える動画や音声(ささやき声、タッピング音など)によって、リラックスや快感を誘発する現象です。
どちらの意味がご希望か、もう少し文脈を教えてもらえるとピッタリの説明ができます!どちらについて知りたいですか?
おそらく圧倒的にASMRの検索が多い中で、生成AIは質問者が誤入力をした可能性にも配慮していました。しかし検索エンジンだとAMSRの説明だけになります。生成AIはある意味おせっかいなのか、それとも気が利いたやつなのか、こんな発見もいただけました。
●わからないから楽しく考え続けられる
相変わらずさまざまな感染症が猛威を振るっています。百日咳は過去最多。麻疹(はしか)も既に昨年を超えた。一方で新型コロナウイルスのワクチンへの国の助成が中止に。沖縄県では新型コロナウイルスは昨年の9月からずっと低レベルで推移している間にインフルエンザは2回も流行を繰り返しています。しかし、同じ感染経路なのに「どうして?」という議論も報道もありません。ただ、一人で考えているとそれはそれで楽しい発見があり、さらに楽しく考え続けられます。
タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)の視点で考えると随分無駄なことをしていると指摘されそうです。一方でネットには「タイパのカギは情報の整理と絞り込み」と書かれていました。ということは間違った情報であってもそれを信じてしまえばタイパはいいが、気が付けばとんでもないコストロスをしている可能性があるということでしょうか。
〇情報があっても選択(施策)にはならない
生後1か月のお子さんが百日咳で亡くなられたニュース「女児はワクチンの接種前。妊娠中に母親のワクチン接種歴なし。児は抗菌薬が効きにくい耐性菌に感染」を読み、改めていろいろ調べてみました。
百日咳のワクチンは生後2カ月から接種できますが、3回の追加接種をして初めて十分な効果が得られます。逆にワクチンを接種できない月齢や、接種回数が不十分なお子さんは命の危険がある上に、近年耐性菌が増えているので感染しない工夫が必要です。一方で欧米では妊娠後期の妊婦さんに百日咳のワクチンを推奨しているだけではなく、多くの国では妊婦さんは無料で接種できるようです。母親がワクチンを打っていれば、子どもが生まれた時には母親から移行した抗体のおかげで本人がワクチンを接種し、きちんと重症化予防ができるようになるまでの時期を乗り越えられます。
日本環境感染症学会は医療関係者(特に産科病棟スタッフ、新生児・乳児をケアするスタッフ、妊娠中の母親や入院中の新生児・乳児と直接接触する医療関係者)にも百日咳含有ワクチン(3 種混合ワクチン:DTaP)の接種を推奨していますし、妊婦さんの百日咳ワクチン接種に積極的な医療機関もありますが有料です。このようなデータ、情報がちゃんとあるにもかかわらず百日咳ワクチンの妊婦さんへの接種は制度化されていません。なぜでしょうか。
●同調圧力で高まるワクチン接種率
ワクチンを一番接種しているのは子どもたちです。子どもが自分から受けに行くはずもないのですが、保護者は子どものワクチンについては積極的で、接種率はほぼ100%近くになっています。接種率が高い理由として保護者の意識もあるでしょうが、無料、母子健康手帳に記載がある、保健師や助産師の訪問や乳幼児健診等で繰り返し指導されるといったことも影響していると考えられます。さらに保護者は様々な場面で専門職だけではなく、他の保護者の方と情報共有をする中で、「予防接種をしていない保護者」と言われないためにも、しっかり母子健康手帳にしっかり記録を残すようになると思いませんか。すなわち子どもたちのワクチン接種率の高さは「とにかく子どもたちのワクチン接種率を高めたい」という多くの方々があの手この手を使い、最終的には日本人が弱い同調圧力の力も借りて接種率を高めるシステムを構築しているのでした。
妊婦への百日咳のワクチン接種も、妊娠が判明し、母子健康手帳をもらう際に「お母さんもぜひ百日咳ワクチンを打っておいてくださいね。無料ですから」と言われるだけではなく、母子健康手帳に「母親の百日咳ワクチン接種記録欄」があり、産婦人科でも「妊娠後期になりましたから百日咳ワクチンを打っておきましょうね」と言われればかなりの数の人が接種をするのではないでしょうか。
〇選択を阻むものは
では何故欧米でも無料で妊婦さんに接種をしている百日咳ワクチンが日本では子どもたちのワクチンのように公費負担で接種できるようになっていないのでしょうか。と言いつつ、岩室紳也もここまで知っても自ら「妊娠後期の妊婦さんに百日咳ワクチンを!」という運動を立ち上げません。せっかく知り、憤りを感じているのでこうやって紳也特急の読者の方にアピールすることしかしていません。人は経験に学び、経験していないことは他人ごとと言い続けていますので、今回はその言葉をそのまま自分に返したいと思いました。
ちょうど原稿を書いている時に東北自動車道で逆走車による事故で3人が亡くなりました。昨年も近くで同様の逆走事故が起きており、高速道路のインターチェンジの構造的な危険性が指摘されていたとのことです。そのような「情報」があったにもかかわらず、大幅な構造の変更(道路の立体交差等)という「選択」がされなかったのは何よりお金がかかるからでしょう。となると妊婦さんへの百日咳ワクチン接種もお金の取り合いの中で優先順位が後回しされているということでしょうか。
●自己責任の時代に求められていること
今の時代、国に、誰かにトラブルを回避するおぜん立てをしてもらう時代ではなくなりました。様々なトラブルは最終的には自己責任で回避しなければならない時代なのです。そのような時代だということを認識し、当事者の方が後悔しないよう、専門家が、気が付いた人が「妊婦さんへの百日咳ワクチンのことを知っていますか」とできる範囲で伝え続けるしかありません。そして何より「自己責任」というのは自分が選択した結果を受け入れることですので、常にいろんな情報を取捨選択する習慣を身に着けることが求められているようです。
〇生成AIが情報収集の手助けに
自己責任の時代におけるタイパ、コスパのいい情報の入手方法は何かを考えてみました。誰もが使える生成AIに「黒磯板室ICのように逆走が発生し得る構造になっているICを教えてください」と聞いたところ、代表的な逆走リスクの高いIC(全国)を教えてくれました。スペースの関係上検索結果は紹介しませんが、皆さん、ぜひ検索してみてください。そのことをFacebookに紹介したらある方が「上信越自動車道の東部湯の丸ICも逆走リスクあります」と教えてくださいました。
一方で「逆走事故があったのですか」という方もいらっしゃると思います。自己責任社会では、一人ひとりがアンテナを高くして社会の課題を、情報を、自分がしなければならないことを確認し続け、万が一トラブルに巻き込まれた場合は、自分を責めるのではなく、そのような社会の中で生きていることを受け入れるしかないようです。
できる人が、できることを、できる時に、できるようにし続けましょう。