紳也特急 310号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,310  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『感染で発症予防!?!』~

●『常識を疑え』
○『過去にも想定外が』
●『日本は水痘感染蔓延国』
○『水痘と新型コロナウイルスは感染経路は同じ』
●『感染経路対策ができないのが当たり前?』
○『帯状疱疹が増えたのはワクチンが原因』
●『感染拡大で予防が成立!』
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●常識を疑え
 つい先日、保育園児の年長さんに水痘、水ぼうそうの集団発生があったとの情報をいただきました。いま、子どもにはワクチンを接種していますし、念のために確認した厚生労働省のHPには「水痘ワクチンの1回の接種により重症の水痘をほぼ100%予防でき、2回の接種により軽症の水痘も含めてその発症を予防できると考えられています」と書かれていました。そのことを確認した後、ワクチン接種歴等を調べた方がいいとのアドバイスをさせていただきました。しかし、調べてみると発症したお子さんは全員ワクチンを接種していました。その後、教えてもらったり調べたりした結果、水痘ウイルスについての最新事情について知らないことばかりだと改めて反省させられました。実は同じ水痘ウイルスで発症する帯状疱疹が増えているのも、水痘ウイルスに感染する人が減っているからでした。
 そこで今月のテーマを「感染で発症予防!?!」としました。

感染で発症予防!?!

〇過去にも想定外が
 実は過去にも小学校での集団発生事例がありました。こういう情報を教えてくれた方に感謝ですが、その原因を調べたらびっくりの事実が明らかになりました。感染症流行予測調査報告書の「水痘」を読むとワクチン接種をしてもしばらくすると抗体は減少し、年長さんや小学校低学年で最低となっているというデータが何年にもわたってちゃんと確認されていました。今回教えてもらった保育園での集団発生は抗体が下がった年齢とも一致し、あり得ないことではないと反省しきりでした。

●日本は水痘感染蔓延国
 それだけではなく、水痘の抗体保有率を見ると、1歳以降のワクチン接種で一時的に50~70%に上昇した抗体保有率が、3~9歳ごろに一端20~30%まで低下した後に、20歳過ぎた頃から上昇し、90~100%までになっていました。小学生以降にワクチンを接種している人はほとんどいないので、抗体保有率が上昇したのは気が付かない内に水痘ウイルスに感染し、抗体価を上げていたことになります。
 ワクチンを接種したことによる抗体の獲得と実際にウイルスに感染した場合の抗体の獲得状況、すなわち獲得した抗体がどの程度持続するかの差はわかっていませんが、少なくとも終生続く免疫ではないことは明らかです。しかも、40代以降の抗体保有率がほぼ100%ということから、日本では水痘ウイルスに感染する状況が、人が、ず~~~~~~~~~~っと続いているということになります。そうなのです。皆さんの周りには水痘ウイルスを排出している人が大勢いて、その方々のお陰で抗体を維持できているのです。

〇水痘と新型コロナウイルスの感染経路は同じ
 水痘の感染経路は生成AIによると、「空気感染(飛沫核感染)「飛沫感染」「接触感染」です。新型コロナウイルスの感染経路を同じ生成AIで調べると「飛沫感染」「エアロゾル感染(空気感染)」「接触感染」です。すなわちどちらもほぼ同じ感染経路です。
 ということは、水痘の抗体保有率が増加し、ほぼ100%を維持しているということは、水痘の感染経路がずっと遮断されないままということです。現在、新型コロナウイルス感染者数が全国的にも低下傾向にありますし、沖縄県ではずっと低いレベルで横ばいです。どちらも水痘と同じ感染経路なので、持続的な感染による免疫の獲得が、結果として全国的には感染者数の低下に、沖縄県では感染者数の低いレベルでの抑制につながっていると考えられるのではないでしょうか。

●感染経路対策ができないのが当たり前?
 今回、「感染で発症予防!?!」というタイトルにしたのには一つの意図がありました。新型コロナウイルス感染症予防をどれだけ呼び掛けても、適切なマスクの使用(飛沫感染対策)も、換気ではなく空気の流れの創出による感染リスクの軽減(エアロゾル感染対策)も、料理への飛沫の付着対策(接触媒介物感染対策)も残念ながらごく一部の人にしか伝わりませんでした。しかし、そもそも「感染経路対策は可能」という発想自体が妄想、誤解、思い上がりだったと反省しています。すなわち、感染経路対策ができていないから集団免疫が成立したり、個人レベルでも水痘ウイルスの抗体保有率が高まったり、結果として帯状疱疹の抑制につながっていたのです。

〇帯状疱疹が増えたのはワクチンが原因
 帯状疱疹は、過去に水痘ウイルスに感染した人が、体内、特に神経節内に残って休眠状態だったのが、再活性化し、痛みや発心、水疱といた皮膚症状が出ます。従来は過去に水痘ウイルスに感染した大人が高齢化に伴い、抗体は持っているものの免疫力の低下に伴い発症すると考えられていました。しかし、最近は高齢者のみならず若い方の発症も増えていることから、昔のように水痘ウイルスに繰り返し感染し、抗体価を維持し続けられない人が増えた結果と考えられています。その要因の一つが子どもたちの水痘ワクチン接種の普及です。
 どのような感染症でも、感染しても発症する人と発症しない人がいます。発症している人は発症していない人より輩出しているウイルス量が相対的に多いと考えられています。水痘ワクチンは子どもが水痘ウイルスに感染した際に重症化することを予防する効果がある反面、子どもたちが輩出する水痘ウイルスが減り、結果的に大人が水痘ウイルスの感染や再感染による抗体の上昇が得られる機会が減り、結果として帯状疱疹の方が増えているとのことです。

●感染拡大で予防が成立!
 水痘の抗体保有率の推移を見れば、結局のところ水痘の感染経路対策はできていないことになり、同じ感染経路である新型コロナウイルス感染症も同様と考えられます。しかし、それはネガティブなことだけではなく、沖縄県のように、新型コロナウイルス感染症が低レベルで推移しているのは無症状感染者からの再感染による抗体獲得に向けたブースター効果が繰り返されていると考えると、あながち間違ったことではないと言えます。
 逆に、過剰な予防をしていると、免疫を獲得する機会が減り、免疫が低い人が増える中で感染が広がると、発症者数が過去の流行時よりはるかに増えることになるかもしれません。百日咳がそうなっているようです。感染症対策は本当に難しいです。