紳也特急 319号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『対話は質より量』~

●『生徒の感想』
○『そもそも「対話」とは』
●『大事な話は年に1回』
○『対話的な講演は文字化できない』
●『対話だからの気づき』
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●生徒の感想

 対話が大切というのはなかなか言われたことがなかったので、人との関わりと対話を大切にしていきたいと思った。(中3男子)

 対話をすることでストレスが緩和されうつ病などになりにくくするなどのことを初めて知ってびっくりしました。(中3女子)

 正解を言わなくてもいいってことで対話が大切ってことに気づかせてもらえて良かった。(中3女子)

 対話は質より量。私の家庭はずっとママが携帯をいじっているので話す機会が少なくて、話していてもゲーム中な事が多いです。今は2人で暮らしているけども、父が単身赴任から帰ってくるので父と沢山話そうと思いました。(中3女子)

 1月に開催されたAIDS文化フォーラム in 陸前高田に精神科医でつくばダイアローグハウスの院長をされている斎藤環さんをお招きしました。いろんな方とのトークを展開する中で、斎藤環さんが「対話のコツ」として「対話は質より量」、「大事な話は年に1回でいい」と教えてくださいました。文部科学省の学習指導要領でも主体的・対話的で深い学びの視点からの授業の改善が求められています。そこで今月のテーマを「対話は質より量」としました。

対話は質より量

〇そもそも「対話」とは
 「対話(dialogue)」を考える際に「独り言(monologue)」との対比が有効です。斎藤環さん(敢えて「先生」ではなく「さん」としているのは、斎藤環さんが「先生」と呼んだ段階で上下関係ができ、対話ではなくなると指摘されたからです。確かにそうですね。何気なく多くの人が私のことを「岩室先生」と呼びますが、そう呼んだ段階で対等な関係ではなくなってしまう場合があります。対話と独り言を自分なりにまとめてみると次のようになりました。
 対話:お互いの感情、感覚を大切、大事にしつつ、相手の話に耳を傾ける。正解を示さないやり取りには問いがある。相手を変えようとせず、受容や共感、お互い様のやり取りの連続の中で多様性が存在する。
 独り言:自分の思い、感情、感覚が中心で、自分の話を、正解を押し付け、〇か×を求める。相手を変えようとし、対立や分断、拒否や論破を通して同質性に導こうとする。
 斎藤環さんの「対話とは、面と向かって、声を出して言葉を交わすこと」という言葉に学ぶと、「独り言とは、相手の表情などを気にも留めず、一方的に自分の思いを発信すること」のようです。

●大事な話は年に1回
 対話のコツの「大事な話は年に1回」というのは目から鱗でした。一方でそもそも大事な話って何なのか考えてみました。いわゆる「雑談」は大事な話は含まれません。雑談をしている限り、そこには終わりも、正解もありません。ただただ言葉のキャッチボール、というか時にはキャッチさえもし合わないやり取りの連続のこともあります。
 生成AIに「『大事』って何?」聞くと、内容、関係性、感情としての大事があるとのこと。誰もが客観的に「大事」と思えるものであればわかりやすく、年に1回にしやすいのですが、感情の中での「大事」には客観性がありません。誰かと関わる中で傷ついた、怖かった、許せなかった、といった経験をすると心がすごくつらくなり、本人にとってはすごく大事な話になります。でも、そのような感情のきっかけをつくった相手は全くそのやり取りが「感情に関わる大事」につながったとは思っていない場合が多いのも事実です。「感情に関わる大事な話」を避けるには「独り言」ではなく「対話」ができるようなトレーニングが必要なようですが、独り言になりがちなSNSを多用していると対話のスキルを上げるのは至難の業のようです。

〇対話的な講演は文字化できない
 この時期は中学校卒業前の講演ラッシュが続いています。ありがたいことに毎年のように呼んでくださり、講演が終わると翌年の日程調整までしてくださいます。そんな中、ある学校で今年度赴任された校長が養護教諭の方経由で講演の大枠を教えて欲しいと言ってきました。深く考えず送ったところ、チャンピオン君を用いた実演と断定的な言葉は使わないようにとの注文が入りました。
 ここで改めて気づかされたことが「目から入った情報(文字)は独り言だ」ということでした。文字にしてしますと「チャンピオン君を使った実演」になってしまいますが、その目的は単にコンドームの正しい装着法を伝えるだけではなく、そもそもむかない包茎は陰茎がんの原因になり得ること。その原因の一つがHPV(ヒトパピローマウイルス)であること。亀頭部をゴシゴシ洗って清潔を保てていると陰茎がんのリスクをほぼゼロに下げられるが、そのHPVが女性の子宮頸がんの原因にもなり得ること。だからHPVワクチンの接種が勧奨されているといったこともすべて含めて、対話的に男子だけではなく女子にも伝えています。
 実際、マイク一本で講演をしていると、一人ひとりの生徒の表情を見ながら、一人ひとりと対話をしつつ、断定的なことを言わないようにしています。そもそも「男女」という言い方もある意味断定的で、それ以外のセクシュアリティが含まれていないと受け止める人がいますが、このことについては講演の最初に説明しています。それを踏まえて後半のメッセージがあるのですが、「対話的な講演の大枠」を書き出すと自分の意図が正しく伝わらない独り言になっていることに改めて気づかされました。

●対話だからの気づき
 対話の重要性を小学校3、4年生に伝えるにはどのような場面でマスクが有効で、どのような場面では不要、というかむしろ逆効果かを伝える必要がありました。いつも通り、飛沫の性質(直進性と2メートル先の落下)、エアロゾル対策(エアロゾルの拡散)といったことを伝えた後、「この部屋で一番不潔なところは」と聞いたら、「棚の上のホコリ」との答えでした。確かに小学生にとって「不潔」とは目に見える状態でした。そこで質問を変えて、「この部屋で一番ウイルスがいるところは?」と聞いたところ「床」と答えてくれました。「床に置いたカバンやランドセルを家に持ち帰ってどこに起きますか?」と聞くと「ベッド、机、床」となり、生徒さんが「そうやってウイルスを持ち帰っているんだよ。気をつけようね」と話すと納得していました。
 そのようなやり取りをしながらふと思ったのが、学級閉鎖という事態になるのは教室内での飛沫やエアロゾル感染もあるのでしょうが、教室の床に置いたカバンやランドセルにウイルスが付着し、自宅にウイルスを持ち帰り、自宅内で感染している可能性もあるということでした。対話的な講演は話している側の気づきにもなることを改めて実感した次第です。