紳也特急 46号

〜今月のテーマ『ヘルスプロモーションって何?』〜

●『ヘルスプロモーションって何?』
○『ファッションヘルスのプロモーション?』
●『ヘルス=健康って何?』
○『プロモーションは売り込み』
●『コンドームプロモーションを考える』
○『あなたにできるヘルスプロモーション』
●『ヘルスプロモーションは環境づくり』

◆CAIより今月のコラム
「魅せられる」

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朝日新聞ニュース速報]=================================================
HIV/AIDS感染で警視庁採用辞退勧めたのは違法 東京地裁
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 警視庁に採用された東京都内の20代の男性が、本人の知らぬ間にHIV(エイズウイルス)検査をされ、感染を理由に退職させられたとして、都と警察病院を運営する財団法人「自警会」を相手に計2354万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、東京地裁であった。三代川三千代(みよかわ・みちよ)裁判長は「必要性もないのに、本人の同意を得ずに検査してプライバシーを侵害したうえ、退職を余儀なくさせたのは違法だ」と述べ、男性に計440万円を支払うよう都などに命じた。
 原告側の代理人によると、HIV感染を理由に民間企業から解雇された元社員が解雇無効や損害賠償を求めて提訴し、認められた判決は過去に2例あるが、官公庁の無断検査を違法と認めた判決は初めてという。
 判決によると、男性は大学院生だった97年に警察官採用試験を受けて合格した。98年7月下旬、巡査としての採用手続きが終了し、警察学校に入校する際、身体検査で血液を採取された。数日後、男性は教官に言われて再び検査を受けた。
 男性は翌8月初めに、母親とともに警視庁本部に呼び出されて、HIV検査の結果が陽性だったことを告げられた。さらに、警察学校に戻ると、教官から入校辞退願を書かされて辞職した。
 判決は、血液検査の際にHIV検査をすることを本人に明示していなかったと認定。「職務の特殊性から、HIV感染者は警察官の職務は適さない」という都側の主張に対しては、「警察官の職務はストレスが高く、警察学校で厳しい訓練があるとしても、HIV感染者が当然に不適とはいえない」と述べて、検査の必要性も認められないと判断した。
 退職を勧めた行為についても、三代川裁判長は「自由な意思を抑制して辞職に導いており、違法な公権力の行使だ」と批判した。
 また、判決は、旧厚生省が93年、各都道府県に「本人の同意を得てHIV検査を実施し、検査結果についてはプライバシーを守る」と指導する通知を出していた点を指摘。「それにもかかわらず、警察病院は本人の同意を確認せずに、警視庁の依頼で漫然と検査をしており、故意または重大な過失によってプライバシーを侵害した」と述べて、自警会の責任も認めた。
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 「HIV/AIDS感染で警視庁採用辞退勧めたのは違法」という判決が出たことは至極当然のことで、むしろこのようなことに巻き込まれ、若い頃に(まだ若いのですが)仕事をする機会を奪われたことの代償がたったの440万円だったということの方に怒りを覚えます。さらに、こんな裁判をするまでもなHIV検査を無断で行うことがおかしいと感じない人が官公庁にいて裁判を容認しているという事実も恐ろしいと思いませんか。
 どうしてこのようなことが平然と行われているのでしょうか。これは人の健康やQOL(生活の質)を守ることについて実は多くの人が無頓着だからだと思います。私たちが4月から設立した「ヘルスプロモーション研究センター」は健康に関わる様々な取り組みを推し進めるにはどのような取り組みが必要かということを研究、実践するところです。もちろん私のライフワークのエイズや思春期の性についても取り組むのもヘルスプロモーションの視点からです。こう言えば言うほど多くの人から「ヘルスプロモーションって何?」と聞かれます。
 ということで、今月のテーマは「ヘルスプロモーションって何?」としました。

●『ヘルスプロモーションって何?』

○『ファッションヘルスのプロモーション?』
 今回「ヘルスプロモーション研究センター」を立ち上げたら「それってファッションヘルスのプロモーション(宣伝)をするの」と勘違いしている方もいれば、「岩室先生もコンドームの達人から何だかわからない宗教活動に入り込んだのだろうか」と心配してくださっている人もいます。しかし、ご心配には及びません。ヘルスプロモーション(Health Promotion)とは世界保健機構(WHO)も打ち出している理念ですが、日本で健康増進と訳した方がいたためか今ひとつ正しい理解が進んでいません。念のためファッションヘルスとは何の関係もありませんのであしからず。

●『ヘルス=健康って何?』
・ 皆さんは健康ですか?
・ 健康ではないと思う時ってどんな時ですか?
・ HIVに感染しても「自分は健康」って言えますか?
・ あなたのQOLは高いですか、低いですか?
 実は自分が健康かどうかは一人一人が決めることです。我が家の猫のミータロは今乳がんの末期状態です。一度は手術をしたのですが、再発し、今では時々そこから出血しています。これが人間の身に起こっていたら結構辛いと思います。自分はあとどれだけ生きられるんだろうか。この先骨に転移して痛みは出るのだろうか。感染を起こして熱が出ないだろうか。出血多量で貧血にならないだろうか。私だったらこのようにいろんな思いが駆け巡り、気分のさえない、お酒も美味しくない毎日を送っていることだと思います。しかし、ミータロはいつものようにおかか(鰹節)を美味しそうに食べ、いまも私の書斎の絨毯の上で丸くなってすやすやと寝ています。「腹が出たな・・・」と元気なのに落ち込んでいる私とミータロではどっちが健康でしょうか、QOLが高いでしょうか。

○『プロモーションは売り込み』
 プロモーションというのをネットで検索するとトップに出るのが「石原プロモーション(http://www.ishihara-pro.co.jp/)」です。石原プロの一番の目的は石原軍団とその作品をいろんなところに売り込み、シェアを広げることです。そう聞くとますます「ヘルスプロモーション」って「(ファッション)ヘルスを売り込むことに思えてしまいます(笑)。
 ヘルスプロモーションを的確に表現できる日本語はないようです。外国の言葉の中には日本語に訳せない、訳してしまうと意味や雰囲気を正確に伝えることが難しいものが少なくありません。外国のように自己主張や自己PRを当然のように行い、商品が売れれば大金を手に入れ、売れなければ破産という考え方の中で出てきたプロモーションという言葉にはダイナミックな動きが感じられます。さらに健康までもが自己責任という中で、役所に頼ったりしないで、みんなでどうヘルスをプロモーションしていくかという発想になるのは自然な流れだと思います。しかし、日本のようにコネ、付き合い、といったところで物が売れる場合はプロモーションという大きなうねりにあまり比重が置かれず、むしろ健康は公的保険制度が使える医療体制と公的なところが行う検診の組み合わせによって他人に守ってもらうという意識が強く広く受け入れられています。

●『コンドームプロモーションを考える』
 エイズ、性感染症、望まない妊娠を避けるにはノーセックスかコンドームです。だからこそコンドームをもっとみんなが使うような宣伝、普及啓発活動が必要です。しかし、単純に知識を伝達するだけではだめです。もしあなたがコンドームを普及させるためにコンドームプロモーションを依頼されたらどのような方法で売り込み、実際に販売量を上げるようにしますか。
 私は自分にできることは何かを考え、何よりも情報量、繰り返し「コンドーム」という情報を流し、コンドームという言葉を聴いてもまったく恥ずかしさを感じない状況を作りたいと思っています。コンドームが当たり前の存在になれば買いやすい環境も生まれます。6月に日本家族計画協会から発売される私の新作パンフレット(1冊100円)は性、エイズ、性感染症の3つのテーマですが、そのいずれにもコンドームの詳細な装着法が説明されています。コンドームについて詳細に書かれているパンフレットが若者の中に定着すれば少なくともコンドームという言葉についてなんら抵抗感のない世代が育っていきます。そのような世代を育て、いつの間にかコンドームが市民権を得るような方向に持っていく取り組みこそがヘルスプロモーションです。

○『あなたにできるヘルスプロモーション』
 あなたの周りの保健、医療、福祉のすべてが充実されたとしたらあなたの健康は保てますか?エイズや性感染症を予防するためのコンドームは買いやすいですか。コンドームを教えやすいですか。若者はコンドームを使ってくれますか。一つでも「いいえ」と思った方。足らないものは何でしょうか。それを満たす動きがプロモーションです。そのキーワードの一つとされているのが住民参加です。もはやいわゆる専門家だけではヘルスプロモーションを進めることは不可能だということが明らかになって次の二つの宣言が出ています。

オタワ憲章(1986年)
 ヘルスプロモーションのための5つの優先的行動分野として、(1)健康公共政策の確立、(2)健康に関する支援的環境の創造、(3)健康のための地域活動の強化、(4)個人技術の向上、(5)ヘルスサービスの方向転換、が掲げられました。

ジャカルタ宣言(1997年)
 21世紀のヘルスプロモーションでは5つの優先課題、(1)健康に関する社会の責任を推進する、(2)健康開発のための研究を増やす、(3)ヘルスプロモーションのための協働を広げる、(4)コミュニティの能力を高め、個人の力をつける(5)ヘルスプロモーションのインフラを保証する、を掲げています。

●『ヘルスプロモーションは環境づくり』
 結局のところ、従来の枠組みや方法論だけではみんなのQOLを高めることはできません。エイズに関わるヘルスプロモーションとは、知識があっても「今回だけは大丈夫」と思ってしまう人を認めつつ、「セックスするならコンドーム」と叫び続けることで、コンドームに対する世間のアレルギーをなくし、コンドームが買いたいと思ったら何のためらいもなく買える雰囲気づくり、環境づくりを一歩ずつ進めることです。要は何でも巻き込んで、あらゆるアプローチを試みて最終目標である一人一人のQOLを高めることがヘルスプロモーション。何となくわかりましたか。あなたができるヘルスプロモーションは何ですか。

◆CAIより今月のコラム

「魅せられる」
 私は今、いくつか興味を持っていることがあります。
基本的にはいい加減な性格で手先も不器用なので、所謂「ちまちま」した事が性に合わない気質なのは分かっているのですが、ああっと魅せられた感覚の色に出会いました。皆さんもそんな瞬間ありますよね。
 それは「藍色」です。響きも良いです。
 染め物には興味もなく昔住んでいた駒込にも染料工房があって体験入学もしたのですが、それほど深入りすることはなく、魅せられるほど夢中にはならなかった数年前の自分がいます。
 冷静に振り返ってみると、藍色以外にもちょっとした興味が変わっていくことに気が付きました。それは骨董品です。
 母は昔からジャンクな(笑)骨董品が好きで使うでもなく、飾るでもなく皿や何に使うのか分からない物を集めています。最近、実家の食器棚でああこりゃ鮮やかだなとか趣があるなぁ。なんて少しだけ少しだけ感じるようになりました。
 工業製品全盛の日本で主張のある一品があるのが嬉しく思うのか、そこに職人の心が分かるようになったのか、少なくとも今の自分は語るに至りませんが著名な作品ではなく、当時日常の生活道具としての物を通じて魅せられる感覚は今まではなかった気がします。
 さて、藍色ですが下町の染色教室に通うことにしました。色柄物で洗濯に困る位の洋服ができるほどハマルといいなぁ。数年ぶりのリベンジなるか?
                              W.T