紳也特急 317号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,317  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『生きづらさの解消に向けて』~

●『生徒の感想』
○『HIVのプライマリケアの障壁』
●『笑ってはいけない?』
○『「聴す」の読み方』
●『生きづらさの背景』
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 あけましておめでとうございます。

●生徒の感想

 性についての講演会は非常に大切なものだと分かってはいたが、小学校から高校まで何度も似たような話を聞いてきたので、正直最初は「またか一、もう分かってるよ」という気持ちだった。しかし岩室先生の話は性行為や性病(エイズ)、妊娠の話が中心ではあったものの、ノロやコロナ、マスクの必要性、自殺やコミュニケーションなども織り交ぜて話していたのでただの性教育の話じゃないなとすぐ分かった。また、かなりセンシティブな話も包み隠さず面白おかしく話してくれて、最初はひやひやしたもののほとんど集中して聞けた。拍手や笑いが起こる性教育の授業は前代未聞だと思った。そして最後には命の大切さにつながるスピーチの構成が良かった。(高1男子)
 
 ここまで岩室の講演を分解、分析してくれた感想は正直感動ものでした。確かに、岩室は「性」だけを伝えても性に関わる諸問題の解決にはならないと考え、このような話を盛り込むと、結果として性の問題だけではなく生きづらさの解消につながるのではないかと考えながら話しています。一方で「またかー、もう分かってるよ」と言わせるような性教育が繰り返されてきたこともこれまた事実のようで、教える側も反省すべきですね。おそらく「正しい性の知識」しか伝えない、伝えられない人が多いのだと思いました。そこで今月のテーマを「生きづらさの解消に向けて」としました。
 
生きづらさの解消に向けて

〇HIVのプライマリケアの障壁
 70歳になったので、この3月に厚木市立病院を定年退職します。正直なところ医者になってから45年間、プライマリケア医、泌尿器科医、HIV/AIDS診療医といろんな分野で臨床医をさせていただけたことに感謝です。特に治療薬もない頃からHIV/AIDSに関わらせていただいた経験は、医者として考え続ける大切さを教えてくれました。そして最後の仕事として、HIVに感染し、状態が安定している人たちはそれこそ内科の開業医さんが診られるようにして臨床医を卒業しようと思っていました。
 ところが、ところが、そこには大きな役所の障壁がありました。HIVに感染している人はもはや1日1回1錠の薬を飲むだけで天寿を全うできますし、ちゃんと治療ができている人はコンドームなしのセックスをしても相手を感染させない(U=U:undetectable=untransmittable)時代になっています。すなわち継続的に医療にアクセスできる環境が最も大事なのです。
 一方で治療薬が高額なため様々な制度で患者さんの負担を軽減できるようになっています。ところが一部の制度は厚生労働省の通知で「常勤の専門医」がいる医療機関でしか利用できなくなっています。確かに医療の質を保つために一定のルールを設ける必要があることは十分理解できますが、一方で医療の進歩と共に患者さんのニーズが「専門家による高度な医療」から、治療が功を奏したら「身近で受診しやすい医療」に変わってきたので、柔軟にそのような体制に移行することが求められます。厚生労働省も最終的には医療機関を指定する自治体の判断との認識なのですが、残念ながら神奈川県は今のところ厚生労働省の通知文通りの判断になっています。厚木市立病院でかかっていた医者が、診察の場面を開業医さんのところに変えただけなのに、患者さんがかかりたい医者にかかれない制度って何なのでしょうね。

●笑ってはいけない?
 生徒の感想で「拍手や笑いが起こる性教育の授業は前代未聞」と書いてくれたのを読んで「???」と思いました。「いいな」と思えば拍手はするし、「面白い」と思えば笑いますよね。と思っていたら、先日お邪魔した学校で「講演中の笑いは禁止」という先生からの事前指導があったとのことでした。
 確かに学校の先生に生徒の様子が知りたくて「どのような生徒さんですか?」と聞くと「ちゃんと聞くと思います」という返事をいただくことが少なくないことを思い出しました。私は「ちゃんと聞く」というのは聞いている時の態度より、ちゃんと話していることが伝わるか否かが大事だと思っています。だから拍手や笑いはちゃんと伝わっているか否かの指標になるのでありがたいのですが、「性的なことで笑ってはいけない」と思っている大人たちの正解を押し付けられると、それこそ生きづらいと思いませんか。

〇「聴す」の読み方
 皆さんは「聴す」と書いて何と読むかご存じでしょうか。これを3つの生成AIに聞いたところ、3通りの回答でした。
 
 Copilot:「ちょうす」と読み、「聞かせる。聞かせてやる。(音楽・詩歌などを)披露して聞かせる」の意味とのこと。
 
 ChatGPT:「きかす」と読み、「①(主に古語・文語)相手の言葉・訴え・申し出などを聞き入れる/聞いて受け止めること。→ 現代語の「聞く(受け入れる)」に近い意味です。②(文脈によって)注意深く耳を傾ける、よく聞く、というニュアンスを含む場合もあります」とのこと。
 
 Gemini:「ゆるす」と読み、「願いを聞き入れる: 相手の要望や請いを聞いて、それを認める。許容・許可する: 罪を免じたり、行動を差し支えないものとして認めたりする」の意味とのこと。さらに「許す」との違いを「許す: 最も一般的で、感情的な許容や法的な免除など幅広く使われます」、「聴す:『聴(き)く』という字が含まれている通り、**『相手の言い分や願いをしっかり聞き届けた上で、聞き入れる』**という、『聴従(ちょうじゅう)』のニュアンスが強くなります」とのこと。
 
 私はある方から「ゆるす」と読むと聞いていたのでGeminiの答えが一番すっきりしました。逆に今回の問いかけは生成AIもまだ苦手な分野があることの証にもなりました。Geminiの答えによれば、聴すと許すに違いはありますが、どちらにも判断が入ります。となると「ゆるす」ということ自体に何らかの判断の押し付けがあると思いませんか。

●生きづらさの背景
 いろんな人がいる社会には一定のルールが必要です。しかし、自分が納得できないルールや指導、判断が入ると生きづらさを感じますよね。「いやいや法律を含めルールは社会の規律を守るために必要だ、なに甘いことを、非常識なことを言っているのだ」とお怒りの方もいると思いますが、こう書きながらふと春日武彦先生の言葉を思い出しました。
 
 こころを病むとは、その人のものごとの優先順位・価値観が、周囲の人の常識や思慮分別から大きくかけ離れてしまうこと。
 
 世界中を見渡すと、国際法といったルールから大きくかけ離れた考え方で戦争を仕掛けている人や、これまでの先達の常識や思慮分別から大きくかけ離れた選択をしている人たちを見ていると、どちらがこころが病んでいるのか悩んでしまいます。ただ一つ言えることは誰かが生きづらさを感じている時に足らないのが「対話」のようです。対話の反対が独り言です。
 最近、対話とは何か、対話ができる人の姿勢(お互いの感情、感覚を大切、大事に・読み解く・学びと気づきの連続)、対話する際の行動の実際(聴く・傾聴・分ちあう・受容・共感・共有・見守り・正解を示さない)、そして対話で生まれるもの、結果(信頼・つながり・お互い様・絆(きずな+ほだし)・笑い・余裕・協働・反省)について考え続けています。まだまだ「対話とは」と話せるレベルに至っていませんが、今年も考え続けたいと思っています。
 
 本年もよろしくお願いします。