「紳也特急」カテゴリーアーカイブ

紳也特急 278号

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■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,278  ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『インフルエンザに学ぶ』~

●『生徒の感想』
○『インフルエンザが冬に流行し夏は収まる理由』
●『新型インフルエンザが1年で収束した理由』
○『日本流のウィズコロナ?』
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●生徒の感想
 コロナの感染の仕方は、キスなどがあるとは思わなかったので、知れてよかった。(高1男子)

 今の時代の新型コロナウイルスを例に出して、とても分かりやすい講座だった。どんなうつり方で、どうすればうつる可能性を低くできるかを考えさせられた。(高1男子)

 はじめに先生の身の回りでたくさんの人が命を落としていることを知り驚きました。また、それを阻止するために根元を切るという意思で、医者として、今のコロナ対策に取り組んでいる内容もとても勉強になりました。(高1女子)

 パートナーのことを考えるということを授業中よく聞いてきたが、先生の授業で具体的にどういう風に考え行動するのか知ることができた。またコロナのことなどももちろん感染対策は必要だがどこまでするべきなのか本当に意味があるのかというのを考えながら日々生きていく必要があると思った。(高2男子)

 私もハンドタイプの扇風機を使っていますが、ただ暑いから使うのではなく、コロナ予防のため小さな飛沫を拡散させ、自分のため以外にも使用できるというのが驚きでした。(高2女子)

 講演の際に新型コロナウイルスの話を盛り込むと、今でも「そうだったんだ」という反応をもらいます。もっときちんと感染経路を含めた情報を伝えなければと思っていましたが、実は自分自身もしっかり勉強してないことがありました。「新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行に注意を!」と専門家が呼び掛けているのを受け、改めてインフルエンザのデータを見直したところ、自分自身の不勉強に気付かされました。そこで今月のテーマを「インフルエンザに学ぶ」としました。

インフルエンザに学ぶ

〇インフルエンザが冬に流行し夏は収まる理由
 紳也特急271号でインフルエンザが冬に流行し夏は収まる理由を考察しましたが、国立感染症研究所が毎年いろんな型のインフルエンザで調べているHI抗体(Hemagglutination inhibition test:赤血球凝集抑制試験法)でみると、その理由がさらに明確になりました。HI抗体は多くの型のインフルエンザウイルスで10代から40代で50~80%と高くなっており、この年代が一番感染していると言えます。抗体を持っていてもウイルスに感染しますが、発症しても症状は軽くすみますので、この年代は医療機関を受診せず、カウントされていないと考えられます。
 一方で10歳未満や高齢者では抗体価が低くなっていますが、特に10歳未満は感染が確認される人数も多く、その人たちは感染することで免疫を獲得します。また、10歳未満や高齢者はワクチン接種率が高く、ワクチンによる免疫に加え、感染することで免疫を獲得する人たちと合わせると、夏場には80%ぐらいの人がインフルエンザに対する免疫を持つことになるのではないでしょうか。
 新型コロナウイルスもワクチン接種率が80%を超えた2021年10月~12月はほとんど感染している人が捕捉されませんでしたが、夏場のインフルエンザも同じような免疫状況になっているからと考えられます。
 インフルエンザのHI抗体は数年間持続するため、インフルエンザがほとんど流行しなかった2020年冬から2021年春の状況を表す2021年7月~9月のHI抗体も若い世代では比較的高い値でしたが高齢者は値が低くなっていました。今年のHI抗体の結果はまだ出ていませんが、昨年よりさらに低くなると考えられますので、高齢者の間では新型インフルエンザの時のように冬場を待たずに流行する可能性があります。もっとも高齢者の方は相変わらず人との接触を避けている人が多いので、インフルエンザは今年も流行しないかもしれません。

●新型インフルエンザが1年で収束した理由
 HI抗体検査結果がインフルエンザの流行に及ぼす効果を教えてくれるのが2009年に大騒ぎになった新型インフルエンザでした。日本では2009年の夏場に流行が始まり、年末には収束に向かい、2010年以降のインフルエンザは従来通り、冬場に流行し、夏場は収まるという状況に戻りました。
 国立感染症研究所は新型インフルエンザ(A/California/7/2009(H1N1)pmd09)についても流行の前後でHI抗体価を調べています。その結果、流行前はHI抗体価が低く、新型インフルエンザが流行しても不思議ではない状況だということが裏付けられました。ところが、翌年は他のインフルエンザウイルスと同程度のHI抗体保有率となっており、いわゆる普通のインフルエンザになっていました。
 一方で新型コロナウイルスに感染した際にできる抗体はインフルエンザに対するHI抗体のように長く持続しないため、何度も新型コロナウイルスに感染する人がいますし、集団免疫を獲得することが難しいと言えます。

〇日本流のウィズコロナ?
 新型コロナウイルスとインフルエンザは感染経路対策では多くの共通点がありますし、ワクチンによる免疫が5カ月程度しか持続しないという点も似ています。しかし、感染することで得られる免疫の持続時間に大きな差があるため、新型コロナウイルスが今よりうんと弱毒化でもしなければ当分収まらないと考えるしかありません。
 となると感染予防が大事になるのですが、最近講演した事業所では飛沫感染予防のためのアクリル板は設置していたものの、エアロゾル対策として空気の流れを創る必要性が周知されていなかったためアクリル板が原因と考えられるエアロゾル感染でのクラスターが発生していました。残念ながらこれが日本流のウィズコロナなのかと思ってしまいました。HIV/AIDSが確認されてから41年経ちましたが、今でも「共に生きる」ということを確認し続けなければならないのが感染症の現実です。焦らず、地道に啓発し続けましょう。

紳也特急 277号

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~今月のテーマ『文化だから続く』~

●『生徒の感想』
○『「文化」とは』
●『人の営みを支えるものは』
○『フォーラムは対話の場』
●『文化に、対話に学ぶ』
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●生徒の感想
 今回の講演では、単なる知っていることのおさらいであったり、知っていることの答え合わせのような内容ではなく、考えさせられる内容であった。お話の中で、詳しく知りたい人はホームページを読んでほしい、などの発言があったことからも、岩室先生は、私たちに対して「知識の拡充」を目的として来校したのではなく、考えることを促すために私たちに話をしてくださったのではないかと思う。実際に、岩室先生のお話のなかでも、「考えてほしい」であったり、「話し合ってみてほしい」という言葉が多く聞かれたと思う。
 中でも印象に残っていることは、ゲイについて何人かの生徒に質問していた際に、生徒の一人がゲイに対する考えとして「普通と違う」という発言をした後のことである。私は、ゲイは決して病気ではなく、異常でもない、普通である、ということを知識としているため、この生徒が普通ではないと言い放った際に少し違和感を覚えた。しかしそのあとに岩室先生が、経験を持つ人と、知識のみを持つ人の違いを話し、知識だけでは不十分で、経験しないとわからないということを聞き、ゲイに対して知識を持っているので私は差別主義者ではないと思っていた自分を少し懐疑的にみる機会を得た。つまり、私の周りには、ゲイであることをカミングアウトしている人がいないので自分のことを顧みる機会が今までなかった。そのため知識があるので、直面しても公平に接していけると思っていたのだが、経験がないためにもしかしたら自分のなかにも他とは違うと思ってしまう気持ちが少なからずあるのではないかと思ったのである。
 今回の講演は、思春期の性とエイズというタイトルであったが、新型コロナウイルスや、女性の生理のはなし、自立や依存のはなしなど、多岐にわたるとともに、それぞれのトピックで考えさせられる問いかけがあり、非常にいい講演が聞けたと思う。こうした講演は成長するとともに、聞く機会が減っていくと思うので、とてもいい経験であったと思う。こうした講演を聞き、それについてしっかりと考え、議論していくということでこの講演が生きていくのではないかと思う。(高1男子)

 2022年8月5日(金)~7日(日)の間、第29回AIDS文化フォーラム in 横浜をハイブリッド方式で開催することができました。1994年の国際エイズ会議と同時並行で始まった市民による市民のための第1回のフォーラムから何と29回も続いていますが、運営している側も正直なところどうしてこんなに続いているのか、よくわかりませんでした。
 一方で夏休み前の講演の生徒さんの感想を読ませてもらい、また、フォーラムをコロナ前の形式に戻して開催し、今年のテーマ「文化 ~くりかえされるもの うまれるもの~」を考え続けた結果、「文化」という視点だったからこそここまで続いたのだと気づかされました。そこで今月のテーマを「文化だから続く」としました。

文化だから続く

○「文化」とは
 AIDS文化フォーラム in 横浜のHPにも、「HIV/AIDSを医療だけの問題ではなく、広く文化の問題としてとらえることに重きを置き「文化」の2字を入れています」と書かれています。AIDS文化フォーラム in 横浜の名付け親の長澤勲さんは今年のフォーラムのオープニングセッションで  「文化は人の営み」という視点を紹介してくださいました。
人が行う営みに影響することは多岐にわたっています。HIV/AIDSで言えばセクシュアリティだけではなく、性産業、ドラッグ、違法薬物の問題も考える必要があります。AIDS文化フォーラム in 横浜が長く続いている理由は、実は「HIV/AIDSの問題を解決するためには〇〇を実現する必要があります」といったスローガンを掲げるのではなく、いろんな人が登壇し、いろんな考え方や視点を紹介し、それを聞いた人が何かを持ち帰ると言った緩やかなつながりの場だからだと気づかされました。まさしく、AIDS文化フォーラムはそこに集う人たちの営みそのものでした。

●人の営みを支えるものは
 とはいえ、このフォーラムを運営すること自体、いろんな人の知恵だけではなく、労力が求められていますが、お陰様で今年も無事運営することができました。運営委員がいつもお互いにかけあっている言葉が「できる人が、できることを、できる時に、できるように」です。一見当り前のことですが、実はこれが意外と難しいことで、押し付け合いがつい生まれてしまうのが人間社会ですよね。
 では、なぜ押し付け合いではなく、「お互い様」や「できる人が、できることを、できる時に、できるように」という関係性が生まれたのか、正直なところそこがずっとわからずじまいでした。ところが今年のフォーラムを通して、何となくその理由が見えたように思いました。

○フォーラムは対話の場
 コロナ禍の最中でもフォーラムは続きましたが、従来のように2時間枠ではなく、配信のみのため短い1時間前後の枠で、登壇者も全員が配信会場に集まれない状況で、時には全員がオンラインで顔を合わせるといった方式でした。配信による開催はコロナ禍で職場や学校等でも増える一方でオンラインの問題点も指摘されています。しかし、今年は一部のプログラムを以前のようにリアルで集う状況に戻したからこそ、オンライン配信の問題点を実感、経験できました。
 今年はコロナ禍前から使っていた神奈川県民センターのホールをメイン会場に、ハイブリッド方式で開催しました。岩室は以前と同じ2時間枠の7つのプログラムに登壇させてもらいました。開催方式は以下でした。

1.登壇者全員がホールに集合しface to faceで
2.登壇者の一部がオンライン参加(顔出し)
3.登壇者の一部がオンライン参加(顔出しなし)

 過去2年間と比べ、時間がたっぷりとれるため、face to faceで登壇してくださった方々とは「対話形式」で、話をいろんな方向に広げることができました。一方で、オンライン参加の方と顔なじみではない場合、残念ながら「対話形式」にはならず、「司会者がオンライン参加者に振ることで発言してもらう形式」にならざるを得ませんでした。特に顔を出せない方がおられたセッションでは振るタイミングがなかなかうまく取れませんでした。

●文化に、対話に学ぶ
 では対話だとなぜ話が広がるのでしょうか。斎藤環先生が示してくださった「ひきこもりと対話」は「対話」を理解する上ですごく大事な示唆を与えてくださっています。

 対話(dialogue)とは、面と向かって、声を出して、言葉を交わすこと。
 思春期問題の多くは「対話」の不足や欠如からこじれていく。
 議論、説得、正論、叱咤激励は「対話」ではなく「独り言」である。
 独り言(monologue)の積み重ねが、しばしば事態をこじらせる。
 外出させたい、仕事に就かせたい、といった「下心」は脇において、本人の言葉に耳を傾ける。
 基本姿勢は相手に対する肯定的な態度。
 肯定とは「そのままでいい」よりも、「あなたのことをもっと知りたい」
 対話の目的は「対話を続けること」。
 相手を変えること、何かを決めること、結論を出すことではない。

 これまで全国各地で開催されたAIDS文化フォーラムにはいろんなプログラムがありました。当然のことながら参加者がどのプログラムを選び、参加するかは参加者の判断に任されています。すなわち、AIDS文化フォーラム自体が一つの「文化」、「人の営み」でした。一方で意識したわけではないですが、横浜の運営委員会が主催するプログラムは一つのテーマについて「登壇者同士の対話」を提供していたのだと改めて気づかされました。
 第1回のフォーラムが開催された1994年の1月、パトと握手をした岩室紳也は感染不安のパニック状態になっていました。その私が、その後、HIV感染予防のためには当時の厚生省も日赤も認めていなかった輸血で感染するリスクを訴えたり、実際に自分の患者さんにHIV感染の経路となった刺青を見せてもらえたり、気が付けば薬物依存症の人のプライマリケアをさせていただいたり、ほとんど誰も言わない細かい新型コロナウイルスの感染経路対策に言及できているのも、実はAIDS文化フォーラムでの多くの人との対話に、対話だからこそ学べたのだと気づかされました。
 主義主張、思い、正解を伝えるプログラムやイベントも必要ですが、AIDS文化フォーラムは全体としていろんな人が集う「文化」であり、特に横浜ではこれからも「対話」を大事にしたいと改めて思いました。来年は第30回です。がんばります。

紳也特急 276号

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~今月のテーマ『議論がないから増えるコロナ』~

●『生徒、大学生の感想』
○『議論が怖い』
●『岩室先生もいずれ感染しますよ』
○『ワクチンの効果は』
●『第7波がなぜ「過去最多」』
○『議論、対話からの学び』
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●生徒、大学生の感想
 昔、同じように性についての話をしてくれる講演があったのですが、その時に受けたものはあまりにも一方的に子どものでき方や母の出産までがどのようなものかを語る会で、とても性に対してよいイメージが持てず嫌悪感を抱いていました。今日も前回のような生命の尊さを語られたら寝てしまおうと思っていました。しかしいろいろな角度や見方、経験談から話をしてくださったのでとても面白かったです。(高2女子)

 セクシャリティや性行為、体のことなどを大衆の前で、今日初めてあった方に打ち明けなればいけない空気感、それが正しいと言わんばかりの先生の圧がすこし私には息苦しく、もう少しだけ優しく慎重に話して頂ければなと思いました。(高2女子)

 「正解依存症」。この言葉に衝撃を受け自分自身を顧みたとき、正解依存症だと自覚した。男女差別反対、戦争反対、経済格差をなくせ、教育格差をなくせ、といった理想を語ることはできてもその具体的な方法の中身は薄い。正しいものは正しいと押し付けるのではなく、課題の根本原因に目を向け、リスク対策を行うことの重要性を感じた。(男子学生)

 率直に先生のお話を中学生もしくは高校生の時に聞きたかったと感じた。「正解依存症」という言葉は初めて聞いたのだが、今までの人生の中で思い浮かぶシチュエーションがたくさんあり、自分の中にとてもすんなり入ってきた言葉だった。というのも、私の中学校ではクラス全体が「正解依存症」になっていた様に思う。誰か一人、クラスのリーダーの様な子が導き出したいろんな事柄における正解を元に私を含め全体が集団行動をしていた。そんな私には物理的な居場所、例えばお昼を食べたり、移動教室を共にしたりする友人はいても、精神的な居場所はなかった。当時はその様に感じたことはなく話す人がいれば十分と思っていたが、今少し精神的に大人になってから考えると今の方が話す友達の数自体は少ないが、自分を必要としてくれる友達がいて居場所があると感じる。(女子学生)

 同じ話をしても受け止め方はいろいろです。それは当然のことですが、多様な意見、考え方を受け止められない社会になると、結局のところ誰かの、もしかしたら間違った考えに引っ張られてしまう可能性があります。そうならないためにも議論、対話が必要ですが「議論が怖いので多数決じゃダメですか?投票とくじ引き民主主義」というニュースに出会いました。ちょうどその頃から新型コロナウイルスの感染拡大が続き、毎日のように「過去最多」を更新しているので、今月のテーマをストレートに「議論がないから増えるコロナ」としました。

議論がないから増えるコロナ

○議論が怖い
 議論が怖いので多数決じゃダメですか?投票とくじ引き民主主義
 このニュースを読みながら思い出したのが「私は岩室先生と考え方が違います」とコロナ対策の議論打ち切られた時のことでした。相手は政府の専門家委員会の先生でした。その後も専門家の方々だけではなく、いろんな方とお会いするとご自分の意見にすごく自信を持っている方が多いと思っていました。しかし、もしかしたらこれは誤解で、自信があるのではなく、議論が怖いので議論を避けるためにいろんな工夫をされていたのかもしれません。
 マスコミも、専門家も、繰り返し「基本的な感染対策の徹底を」と言い続けていますが、これも「そもそも基本的な感染対策とは何かの共通理解が得られていないのではないでしょうか」と議論をしようとしても、その議論が怖くて、議論にならないからではないでしょうか。
記事の中で興味深い言葉がいくつもありました。

 たいした意見なんか持ってないし、“論破”されてもいやだし…議論ってやっぱり、怖いものですよね?

 今の日本社会でイメージされる“議論”は、確固たる意思や考えを持った人が意見を主張しあう場として見られがち

 「それって違くない?」って言われたら、自分自身を否定されたような気分になるので、それはできるだけ避けたい

 多数派の意見がどれかを見て、そこに自分の意見をあわせるだけになってしまっている

 大多数の意見が“正解”なんじゃないかなって思っちゃうんです

 ふと広辞苑で「正解」を調べてみました。
  1 正しい解釈。正しい解答。
  2 結果として、よい選択であること。
 この1と2は似て非なるものです。1はゆるぎないものですが、2は結果が出るまで分からないことですし、結果が悪ければ出てこないことです。

●岩室先生もいずれ感染しますよ
 このように言われた時に、自分自身の表現力の未熟さ、伝えることの難しさ、さらに言うと今回のテーマとしている議論の難しさを感じていました。私が感染経路対策について細かく、いろんなことを申し上げていますが、それらを全部徹底しても感染を100%防ぐことはできないという大前提に立っています。すなわち「岩室紳也は絶対に感染しません」と言っているのではありません。こういうと、「じゃ、やったって無駄」とまたゼロか百かに戻ってしまう人がいます。まさしく議論を避けているのです。
 先日、タクシーに乗り、当たり前のように後部座席の窓を開け、空気の流れを創りました。しかし、それでもマスクをし、マスクなしよりエアロゾルを多く排出している運転手さんのエアロゾルを吸い込んで感染するリスクはゼロにはできません。

〇ワクチンの効果は
 私は4回目のワクチンを3回目の接種の5ヵ月と6日後に受けています。そのため、私が感染しても無症状のまま経過する可能性があり、当然のことながら感染源になる可能性があります。他の人にうつさないよう、飛沫をかけそうな環境では不織布マスクをし、飛沫で感染させるリスクがない時はマスクを外して少しでもエアロゾルの排出を減らし、可能な時は携帯型扇風機を使用してエアロゾルを拡散、排気するようにしています。
 このように考えていた時に知り合いでコロナ患者さんを多く診療されている先生が感染されました。後学のため4回目のワクチン接種時期をお聞きしたら3回目から6カ月と6日で、症状が出たのは4回目接種から14日後。このようなデータを蓄積しつつ、ワクチンを接種するならいつがいいのかをこれからも検証し続けることが大事です。

●第7波がなぜ「過去最多」
 今回の第7波では47都道府県のすべてで「過去最多」を記録しています。このことはすごく重要です。確かに60歳未満の3回目のワクチン接種率は2回目より低いですが、国民が実践している予防策はそれほど変わっていません。ということはいま、国民が認識している、これまで実施してきた感染予防策では防げない感染経路対策ができていなかっただけではないでしょうか。
 ところがこう書くと、「自分自身を否定されたような気分になった」という人がいらっしゃるのではないでしょうか。実際、SNS上でそのような受け止められ方をされたことも一度や二度ではありませんし、先日もあるイベントの会場で空気の流れを検証する必要性を訴えたところ、「ここは法律に則った空調設備を備えています」と堂々と反論されてしまいました。ちなみに感染症対策を念頭に置いた空調に関する法律は知りませんので、ご存じの方がいらっしゃいましたら是非教えてください。

〇議論、対話からの学び
 新型コロナウイルスの感染拡大が起きてから、いろんな人との議論や対話の中で学ばせていただいたことの一部を列挙します。

 エアロゾルという概念

 マスクが増やすエアロゾル

 口腔内にもACE2レセプターが存在

 新型コロナウイルスも一定量が体内に入らないと感染は成立しない

 新型コロナウイルスが空気感染しない理由

 他にも新型コロナウイルスの出現後に学んだことは数多ありますが、知らなかったことが恥ではなく、少しずつでも自分の知識を修正しつつ、適切な情報提供を行い続けるのが公衆衛生医の役割だと改めて思っています。今年のAIDS文化フォーラム in 横浜でもさらなる学びをし続けたいと思っています。皆さんもぜひご参集ください。

第29回AIDS文化フォーラム in 横浜
2022年8月5日(金)~8月7日(日)
https://abf-yokohama.org/

NHK Eテレ「すくすく子育て」に出ます。
2022年8月4日(木)午前11:20~午前11:55

紳也特急 275号

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~今月のテーマ『ちぐはぐ』~

●『生徒、大学生の感想』
○『どのようなマスクを使っていますか』
●『マスクは何のため」
○『マスクの性能差』
●『これからのコロナとの向き合い方』
○『ちぐはぐの原因』
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●生徒、大学生の感想
 私の両親はともに医療従事者なので、彼らの言うことを鵜呑みにしてしまっていて、自分で想像することはあまりしてこなかったので、少し反省しました。(高2女子)

 今回の話を聞いて、日常への疑問を考えることは大切だなと思いました。自分の考えを思いかえしても、理由がわからずに当たり前のこととして常識のように考えてしまうことが数えきれないくらいあるので、日々の日常の中で、常に考えたいなと思いました(高2女子)

 今回の授業で今まで考えたことのないこともたくさん考えた。改めて、今の私は多くの人に支えられているから生きているのだと感じることが出来た。今回の講義は一生忘れることがないくらい深いものだった。多くのことを思い出させてくれてありがとうございました。(女子大学生)

 今回の講義は、医学の授業と言うより、人間が社会生活していく上で大切なことを教えていただいたように思える。たまには人に頼って、自分の肩の荷を下ろすことも社会生活の1部であると、そう岩室先生に教わった講義であった。(男子大学生)

 岩室先生の講義に魅力がある理由は、正解を教える従来の教育とは異なり、正解とされることへの矛盾点を疑問として投げかけ、物事の捉え方のみを講義で取り扱い、それぞれに答えを見出してもらう、哲学と似た手法を用いている点にあると考えた。(男子大学生)

 高校生や大学生が求めていることは「正解」ではなく、考えるための材料であったり、きっかけであったりだと改めて思いました。一方で再び新型コロナウイルス感染症が増えていますが、4回目のワクチンの対象が限定されています。6月で既に40℃越えになっていますが、未だに屋外でマスクを着けている人が大半です。そこで今月のテーマを「ちぐはぐ」としました。

ちぐはぐ

○どのようなマスクを使っていますか
 皆さんはどのようなタイプの、価格はどれぐらいのマスクを使っていますか。講演で生徒さんや先生方のマスクを拝見すると、材質では不織布、布、ポリウレタンといろんなのが使われています。マスク市場はまだ魅力的なようで、最近大々的にコマーシャルが打たれている多機能マスクは新型コロナウイルスのサイズ(0.1?)をも捕らえつつ、通気性も確保しているとうたっています。価格は1枚150円~200円。確かに息を吸う時は他の不織布マスクより吸いやすいとは思いましたが、理論的に言ってもこの対価を支払う意味はないと思っています。しかし、ネット販売では品薄状態のようでした。私は診療や講演、会議の時は1枚30円程度の個別包装の不織布マスクを、それ以外の屋内ではポリウレタンマスクを使い、屋外はノーマスクとしています。

●マスクは何のため?
 ぜひ周囲の方にこの質問をしてみてください。多くの方は「感染予防のため」と答えると思います。では、「何感染を予防するため?」と聞くと、「新型コロナウイルス感染を予防するため」となるので、「どのような感染経路を予防するため?」と聞くと「???」となります。マスクの目的別の効果を以下に示します。

 自分の飛沫飛散予防        ○
 他人の飛沫吸入予防        △
 自分のエアロゾル飛散予防     ×
 他人のエアロゾル吸入予防     ×
 自分の飛沫核(ウイルス)飛散予防 ×
 他人の飛沫核(ウイルス)吸入予防 ×

 このことを理解している人はどれだけいるのでしょうか。

○マスクの性能差
 布マスクはメーカーによる性能差がありますのでここではコメントしませんが、不織布マスクとポリウレタンマスクは正確に理解したいものです。
不織布マスクは装着者の飛沫を前方に飛ばさない効果があります。しかし、ポリウレタンマスクは飛沫を通します。すなわち自分の飛沫を前方に飛ばしたくないなら不織布マスクが必須です。一方で「他人の飛沫を吸い込まないため」と思っている方もいるでしょうが、確かに口を開けた状態で他人の飛沫が口の中に飛び込むのは防げますが、不織布マスクであってもマスクの表面に着いた飛沫の水分が乾燥すれば、ウイルスをマスク越しに吸い込むことになります。さらに飛沫は目にも飛び込み、そこから感染しますので目も覆う必要があります。
 一方でオミクロン株の感染拡大の原因となったエアロゾルは不織布マスクを使っていても、マスクと顔の隙間から漏れ出します。富岳でわかりやすい映像がつくられていますが、再生回数は原稿執筆時点でたったの1,474回です。
https://www.r-ccs.riken.jp/en/fugaku/research/covid-19/msg-jp/
https://youtu.be/DBUK-IYTUn8
 すなわち、マスクはエアロゾルの排出を抑制する効果は少なく、マスクをすることで口や肺の温度が上がり、かえってエアロゾルの排出を増やします。他人が排出したエアロゾルはそのまま、もしくは水分が蒸発して飛沫核(ウイルスそのもの)となって漂い、高性能な不織布マスクをしていてもマスクと顔の隙間から吸い込みます。ちなみに医療者が装着するN95というマスクは顔とマスクの間の隙間を完全に閉じるため、私などは20分以上装着できません。

●これからのコロナとの向き合い方
 今後の医学の進歩に期待しつつ、現段階での国の新型コロナウイルス対策の方向性が見えてきました。

 ワクチンで感染抑制はしない
 ワクチンで重症化予防
 感染者数は気にしない
 感染予防は自己責任で

 ある集団のワクチン接種完了率が80%を超えると、ワクチンの有効期間内はその集団での感染拡大が抑制されます。しかし、若い世代はワクチンの4回目の接種対象から外されましたので、ワクチンでの感染抑制はしない方向になりました。一方で高齢者ではワクチンで重症化予防をしますが、ブレイクスルー感染もあり、80歳以上だと、感染した人の50人に1人は亡くなっていますので感染予防は重要です。以前は早期発見、早期隔離の対策をしていましたが、空港検疫での検査対象を制限した結果、感染判明者数が約10分の1になったことからも、無症状の感染を捕捉することに重きを置かなくなりました。そして、感染予防は自己責任でとなります。

○ちぐはぐの原因
 新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃から、というかすべての問題への岩室紳也の向き合い方は学生さんが指摘してくださったとおりでした。

 正解を教える従来の教育とは異なり、正解とされることへの矛盾点を疑問として投げかけ、物事の捉え方のみを講義で取り扱い、それぞれに答えを見出してもらう。

 「ウイルスは、どこから、どこへ、どうやって」と言い続けていますが、それは答えが決して一つではなく、一人ひとりが関心を持ったり、実践できたりすることは異なるためです。しかし、そのような認識がなく、「とにかくマスク」という正解を教え続けると、現在の状況のように、猛暑、屋外でマスクが外せない人が後を絶たないちぐはぐな状況になります。しかし、正解依存症の人たちは自分たちの行動に疑問を持たないばかりか、マスクを外して涼しい顔をしている私に冷たい視線を浴びせます(苦笑)。
 ぜひこの機会にマスクについて再考していただければと思います。そして無事にこの猛暑を乗り切りましょう。

紳也特急 274号

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~今月のテーマ『安心、安全の追及が生む偏見、差別』~
●『生徒の感想』
○『サル痘の報道に学ぶ』
●『スティグマ(偏見、差別)は安心、安全を追求した結果?』
○『感染症対策の難しさ』
●『サル痘とは?』
○『曖昧が生む「考えられない文化」』
●『普及啓発の基本は対話』
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●生徒の感想
 生理の時ではなく、生理の14日前が排卵日だということを初めて知って、まだ全然体のことを知らないんだなと思いました。(高1女子)

 母親や姉にも「男性の前で生理の話とかするな」と教えられていたが、それじゃ理解されないじゃん、とも思っていたので、今回、いろんな人が知ってくれて、理解してもらえたならうれしい。性教育はデリケートな話だが、男も女もお互いのことを知っておいた方が理解し敢えて良い関係が築けそうなので大切だと思った。(高2女子)

 日本人は性に対して興味があるのに興味がないふりをしたりするところが嫌だなあと思っていたので、ちゃんとした性教育をしてもらって清々しかった。(高2男子)

 自分は性的なワードがなぜか苦手なのですが、岩室先生の講演中は不思議と自然に聞くことができました。そのおかげでゲイなどの大変さが少し理解できました。しかし、講演会が終わったとたん、苦手意識が戻ってきました。克服は少し難しそうです。(中3男子)

 性的なワードが苦手だけど、講演中は不思議と自然に聞くことができたものの、講演が終わったとたん、苦手意識が戻った。確かに苦手意識を一朝一夕で克服できるはずもありません。しかし、この苦手意識が報道を、対策をゆがめていることも事実です。今回、私も知らなかったサル痘の報道が教えてくれました。そこで今月のテーマを「安心、安全の追及が生む偏見、差別」としました。

安心、安全の追及が生む偏見、差別

○サル痘の報道に学ぶ
 サル痘「国内での感染確認されず 天然痘ワクチン備蓄」厚労相
 サル痘に有効とされる天然痘ワクチン 日本も備蓄、活用方法を検討
 奇病ウイルス「サル痘」が世界12カ国へ謎の感染拡大…“夏のワンナイトラブ”にご用心!
 「サル痘、欧州のレイヴでの性行為で拡散した可能性」専門家が指摘
 サル痘の流行は「ウクライナ支援国」のゲイばかりと、ロシア国営TVで嘲笑
 スペイン帰りの男性が感染、アルゼンチンでも「サル痘」…中南米では初の事例か

 サル痘に関する報道に接した皆さんは、一人ひとりが自分のために、他の人のため、患者となった方のためにできることは何かを考えたでしょうか。

 新しい感染症があるんだ。
 サルからうつるのかな?
 日本にはまだ入ってきていないし、とりあえず他人ごと?
 やっぱりゲイの中で流行!

 サル痘の報道に接し、HIV/AIDSや新型コロナウイルスの時と同じく、国民一人ひとりが必要としている情報が伝えられないと残念な気持ちになってしまいました。

●スティグマ(偏見、差別)は安心、安全を追求した結果?
 今の時点でサル痘の対策として確実なことはワクチンが存在することです。マスコミは国民を安心させるため「ワクチンあります!!!」や「ゲイの病気」というイメージ報道をしたのではないでしょうか。
 新型コロナウイルスの初期の頃、「ホストクラブ」「接待を伴う飲食店」「お酒を提供するお店」等を袋叩きにし、そのようなところに行かなければ大丈夫だと国民に誤解をさせ、「夜の街」へのスティグマ(偏見、差別)が助長されたことは記憶に新しいところです。でも、報道する側も、対策を行っている専門家や行政も、自分たちの発言がスティグマ(偏見、差別)の助長につながるとは思わず、大多数の人の安心、安全に寄与していると考えているからこそ、今回もマイノリティーの人たちのことをやり玉にあげるという、同じ過ちを繰り返したのだと思いました。

○感染症対策の難しさ
 感染症対策の難しさは、病原体が見えないことだけではなく、他人ごと意識が根深く浸透していることです。HIV/AIDSや性感染症の講演を何千回も行ってきましたが、伝わりにくさ、他人ごと意識の克服に少しは自分ごと意識になっている新型コロナウイルスの話を組み合わせることでより身近な問題と考えてくれるようになります。一方で、聞いている時は自分ごとでも、聞き終わるとその意識が元の世界に引き戻されるのは生徒さんの感想にある通りだと思います。しかし、あきらめることなく、感染症対策を伝え続けるしかありません。

●サル痘とは?
 医師である岩室紳也にとっても「サル痘」は初めて聞く感染症でした。しかし、HIV/AIDSに関わってきた経験から、サル痘を正確に理解するため、中学校の教科書に書かれている感染症を予防するための3原則、「①感染源をなくす」、「②感染経路を断つ」、「③体の抵抗力を高める」に沿って情報を整理するため、国立感染症研究所CDCのHPから情報を収集しました。

★サル痘ウイルス(感染源)はどこに
 自然界ではげっ歯類(ビーバー,リス,ハツカネズミ,ヤマアラシ等)が宿主。しかしウイルスを持っている可能性がある宿主や感染した人をすべて排除することはできません。

★サル痘の感染経路
 感染動物や感染者の血液・体液(飛沫、エアロゾルも?)・皮膚病変(発疹部位)と感染する人の皮膚(傷が明らかではない場合も侵入経路になり得る)、呼吸器、粘膜との接触。
 →動物に咬まれる(唾液が侵入)
 →濃厚接触者(国立感染症研究所の表現)から感染??????
 →体液や飛沫で感染するので、キスやあらゆる性行為はもちろんのこと、病変がある皮膚に触れる抱擁等の接触で感染
 →リネン類を介した医療従事者の感染報告あり

★サル痘の症状
 潜伏期間は5~21日(通常7~14日)。
 発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続いた後に発疹が出現。

★ワクチンの対象者
 サル痘ウイルス曝露後4日以内に痘そうワクチンを接種すると感染予防効果が、曝露後4-14日で接種した場合は重症化予防効果があるが、潜伏期間を考慮すると発症者の治療ではなく、医療関係者や実際にその患者さんと感染リスクが高い行為をした人の予防法、治療法である。

★早期発見、早期診断の重要性
 サル痘患者の診断が明らかになった時点で、対応した、対応するすべての医療関係者にワクチンを接種することが必要です。そのため、何より早期発見、早期診断が重要となります。

○曖昧が生む「考えられない文化」
 サル痘の感染予防の基本は新型コロナウイルス対策として行ってきた飛沫、エアロゾル、接触(媒介物)感染対策に加え、HIV/AIDS対策で求められているコンドーム等による精液、膣分泌液等の体液の交換を予防するだけではなく、梅毒対策のように皮膚と皮膚の接触を避ける必要があります。しかし、サル痘に関する国立感染症研究所のHPには「濃厚接触者」といった曖昧な表現しか書かれていません(2022年5月29日時点)。
 これが日本の文化なので仕方がないと思いますが、2020年8月13日に岩室紳也がワイドショーで「新型コロナウイルスはキスで感染する」と発言するとスタジオが凍ってしまい、二度とその番組に呼ばれなくなりました。このような現状を考えると、ここに示した、サル痘対策として伝えなければならない特に性行為に関連する感染経路について、当分日本国民には伝えられないのではと考えています。
 曖昧な伝え方が得意な日本ですが、新型コロナウイルス対策で国やマスコミが行ってきた「3密を避ける」といった曖昧な、抽象的な啓発の結果、教育レベルが高いはずの日本人が、未だに飛沫は何メートル飛ぶかを知らず、国が屋外でマスクを外してもいいという条件を示してもマスクを外せない人が多いのが現状です。

●普及啓発の基本は対話
 サル痘は公衆衛生関係者のみならず、日本人に改めて感染症の普及啓発の基本とは何かを問いかけています。
感染症の普及啓発の基本は、小学生でも理解できる、科学的な視点での情報発信に加え、情報の受け手が正確に、自分ごととして理解し、実践できているか否かを、対話を通して、繰り返し確認し続けることです。対話を重ねていると、自ずと「この人はなぜこう考えるのか」や「自分の考え方に問題がありそうだ」と気づけます。しかし、対話ではなく、一方通行の押し付けばかりだと、結局のところ一人ひとりが考えることを放棄するようになります。
 いまこそ、感染症の啓発だけではなく、対話の必要性を含め、一人ひとりが上手に感染症と共に生きられるよう、「できる人が、できることを、できる時に、できるように」、自分の役割を考え続けたいと思います。

紳也特急 273号

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~今月のテーマ『専門家とは』~
●『生徒の感想』
○『特定の分野に精通』
●『考えることを放棄していないか』
○『考えた結果の感染経路』
●『反省はするけど後悔はしない』
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●生徒の感想
 私は実際にコロナウイルスに感染しましたが、先生の話を聞いて自分の生活を振り返ってみると、まだまだ足りないことが多くありました。これくらいならというあいまいな考えはせずに、しっかりと言い切ることが大事だと思いました。(高2女子)

 私はコロナにならないように、マスクや手洗い、うがいなどを何となくみんなが行っているからという理由でやっていたけれど、きちんと理由を理解して行うと、マスクをつけなくてもよい場合があるということを教えていただきました。何となく行動するのではなく、理解して、理由を知った上で行動するようにしたいと思いました。(高2女子)

 岩室先生の講演を聞いて、固定観念にとらわれていたと思いました。自分のコロナ対策を振り返ると、皆がしてるから、言われたからといって、何故するのかと深く考えずにしていました。みんながしているからと流されるのではなく、一人ひとりがどんな感染経路なのかを知った上で対策することが感染リスクを減らす大切な方法だと思いました。(高1女子)

 コロナウイルスについては、三密がよくない、部活を制限する、緊急事態宣言を出すなどと言った実際に行われる施策しか知らなくて、なぜそれが必要なのか、具体的にいつ感染してしまうのかについて、自分が理解したつもりになっていたことに気づけた。これからの日常生活では、先生がおっしゃっていたように、どこから感染するのか、どのように感染するのか、などをよく考えて、コロナウイルスに感染しないために最大限自分ができる取り組みをしたい。(高2女子)

 TVなどのメディアでたくさんコロナについて取り上げられているけれど、今回のようなためになる話が全然されていないので、正しくてすぐに役立てられる情報がもっと発信されるといいと思う。コロナは、目、鼻、口から入るので、今後それに気を付けて生活したい。(高2男子)

 コロナもエイズもその他のウイルスも少し考えれば何をしたらうつるのかすぐわかるのに、そういう当たり前のことを今まで考えたことないなと思った。みんなわかっているはずなのに当たり前すぎてみんなその行動で感染するかもしれないということに気づいていないのだと思う。テレビなどのメディアも密を避けようということばかりで、おにぎりや飲み物、タバコなどを触る時に気を付けるべきことについてなどの報道はほとんど見たことがない。今回の話を聞いてそれに気づけたので良かった。(高2男子)

 相変わらず専門家の方々の言動に振り回されている新型コロナウイルス対策ですが、専門家に振り回されているのは新型コロナウイルス対策だけではないということを再確認させてくれたのがNHKのクローズアップ現代「妻は夫に“殺された”のか 追跡・講談社元社員“事件と裁判”」という番組でした。番組自体もよくぞここまで踏み込んだと思わせる内容でしたが、番組の中での千葉大学法医学教室の岩瀬博太郎教授のコメントが衝撃的でした。

 専門家という名前がついている人が自信ありげに言うと、それが通っちゃうというのは多々経験していますね。

 思わずうなずいていました。そこで今月のテーマをずばり「専門家とは」としました。

専門家とは

○特定の分野とは
 2019年7月の紳也特急239号は「専門とは?」というタイトルで「専門家と称する人たちは決してその一つの課題に関係するすべての分野での専門家ではありません」と書かせてもらっていました。
 2021年6月の紳也特急262号の「専門家って何?」の章で「専門家」を「単に資格を持った人であったということではないでしょうか」とさらっと流していました。これは新型コロナウイルスのようにまだ知見も蓄積されていないことについて「専門家」を名乗れる人はいないという思いからでした。
 広辞苑で検索すると「ある学問分野や事柄などを専門に研究・担当し、それに精通している人」とあります。裏を返すと、専門家と名乗っている人は、ある特定の分野や事柄などについて、専門に研究・担当し、それに精通しているか否かを確認する必要があります。では、特定の分野とは何を指すのでしょうか。
 高校生たちが岩室の話を聞き、自分たちの日常の生活習慣の中に新型コロナウイルスの感染予防対策が十分入り込んでいないことに気づいてくれました。ということは、少なくとも彼らがそれまで耳にしてきた感染予防対策は、「日常の生活習慣の中で求められている新型コロナウイルス感染予防対策」という特定の分野について精通している人から情報を得ていなかった。すなわち、情報を発信していた人たちは「日常の生活習慣の中で求められている新型コロナウイルス感染予防対策」の専門家ではなかったということになります。

●考えることを放棄していないか
 先に紹介した千葉大学法医学教室の岩瀬博太郎教授のコメント「専門家という名前がついている人が自信ありげに言うと、それが通っちゃうというのは多々経験していますね」というのを聞き、ある高校生の感想文を思い出しました。

 高校生(しかも女子)をやっている今、性について真面目に考える機会などはほぼないですし、あまり気軽にぺらぺら話したりすることは、難しいです。
 自分で色々考えたくても、材料となる情報は氾濫していて、何を思考の軸におけばよいのかわからず、自分のなかに浮かんだ疑問・問題はいままでほったらかしのままでした。
 これからは色々なことについて、考えることを放棄せずに生きていけたら、と思います。

 確かにいろんな情報をつなぎ合わせ、そこから自分に役に立つものを抽出して生活の中に活かしていくというのは言うは易し、行うは難しです。だから専門家の人たちに方向性を委ねたいと思うのはわかりますが、それは裏を返すと考えることを自ら放棄していることと言えます。マスコミも、国民が必要としている情報はどの特定の分野に精通している人の情報かを吟味して発信する必要があるのではないでしょうか。

○考えた結果の感染経路
 新型コロナウイルスがどのような感染経路で広がるか、正直なところ初期の頃から専門家と称する方々が自説を繰り返していました。いやいや、論文を、国立感染症研究所やWHO、CDCが言っていることを踏まえた話との反論も多々受けてきました。しかし、先日やっと国立感染症研究所がエアロゾル感染を認め、WHOなどが未だにアフリカでHIV感染予防のために割礼を推奨しているように、日本人にとって最良の感染症予防対策が何かについてはまだまだ検証しなければならないことが多々あります。だからこそ岩室紳也はいろんな情報を突き合わせながら自ら考え、発信する作業を繰り返してきました。
 最近でこそ感染拡大についての事例的な情報が少なくなりましたが、感染拡大の初期の頃、飲食店で感染が広がったという記事の中に、飛沫感染やエアロゾル感染では説明がつかず、接触(媒介物)感染が強く疑われる事例がありました。ところが飛沫が付着した料理を食べて感染する接触(媒介物)感染について話をしても、喉や肺で感染するが口の中に入っても感染しないと言い切る専門家が後を絶ちませんでした。その時点で私も口腔内に新型コロナウイルス感染の入り口になるACE2レセプターが発現しているという論文を探すことができていませんでした。しかし、口腔内組織にACE2レセプターが発現していると書かれている論文が次々と世に送り出されました。次のは神奈川歯科大学の研究者のものです。
http://www.kdu.ac.jp/corporation/news/topics/20210415_pressrelease.html
https://www.mdpi.com/1422-0067/21/17/6000
 上記以外にもいくつもの論文があり、これらのことを承知されている口腔外科、歯科医の先生方は、飛沫が付着した料理で感染するリスクは当然のこととして納得してくれました。さらにキスでの感染予防のためにキスの前後に何かを飲んでウイルスを胃に流すことでrisk reductionになることについても「完全に同意します」と言ってくれました。
 ここで大事なことは、口腔内で感染が起こるメカニズムを研究し証明した先生たちは、必ずしも口腔内感染予防、接触(媒介物)感染予防の専門家ではないということです。だからこそ、岩室はこのような情報を収集し、いろんな人と意見交換をする中で、科学的に理屈が通った情報を「日常の生活習慣の中で求められている新型コロナウイルス感染予防対策」の専門家として高校生に話をさせていただきました。

●反省はするけど後悔はしない
 私のHIV/AIDS活動の同志だったパト。日本語ペラペラのゲイでHIVに感染していたパトとの出会いはその後の私のHIV/AIDS活動の方向性を揺るぎのないものにしてくれました。出会ってすぐの頃、まだHIVを抑える治療薬もない死の病だったHIV感染症にかかっていたパトと次のような会話をしていました。

岩室:HIVに感染した時のセックスのことを後悔していないの?
パト:何で後悔するの?
岩室:パトのコンドームの着け方は完璧だけど、相手の人が感染していることを知っていたのだからセックスをしなければ感染しなかったじゃない。
パト:結果的にコンドームが破れて感染したけど、この人とコンドームを着けてセックスをすると自分で決めたんだから後悔なんてするわけないでしょ。もちろん反省点はあるかもしれないけど。

 反省はするけど後悔はしない。ちゃんと予防についても事前にしっかりと学習し、そのriskも承知していたからこそ言える言葉です。感染症予防に完璧はありません。若くても新型コロナウイルスで亡くなる方もいます。だからこそ、これからもいろんな人が後悔しないための情報発信をし続けたいと思っています。岩室紳也が後悔しないためにも。

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~今月のテーマ『辻褄(つじつま)』~

●『生徒の感想』
○『辻褄とは』
●『エアロゾル感染を認めた国立感染症研究所?』
○『感染経路を決めるのは誰?』
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●生徒の感想
 コロナウイルスのお話では、私は今までマスクは絶対外してはいけない、会話しながら食事をしてはいけないと思っていたけれど、実際はそんなことはなく、しっかり対策をすればある程度は自由に生活できるのだと知ることができ、コロナ禍の生活は縛られてばかりだと感じていたので少し考え方が変わった気がしました。(高2女子)

 特に同性愛のことに関する誠実な話しぶりが印象に残りました。HIVが最初ゲイの人を中心に広まったことまで授業でふれても、それがなぜなのか、人間心理的、社会的、医学的な背景を伝えられることはありませんでした。感染の確率を高めたのはゲイであるということではなく、それに付属する合理的な理由ですし、コロナが飲食店で広まりやすかったのは、マスクをはずし、料理自体にウイルスが入ってしまうことが多かったことなどが大きな理由で、酒を飲む人たちが悪いとバッシングを受けるいわれもないはずです。リスクの一因にはなるでしょうが、因果関係を見極めること、人自体の否定に走らないことが今の日本の問題対処に欠けていると改めて感じました。(高2男子)

 「3密を避けろ」と言われ続け、当たり前のことなのに、「背中合わせで話せばOK」ということを考えてすらいませんでした。(中3男子)

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから2年以上経過してにもかかわらず、なぜ、この教育先進国でこのような感想が続くのでしょうか。そんなことを考えていた時に、私のFacebookの書き込みに次のコメントが寄せられました。

 他の数字、色んな数字と合わせて考えて、辻褄が合えば、それだけ信憑性も増す

 未知の感染症に対して、「これだけすれば大丈夫」といったことを提示できるはずがありません。だからこそ、公衆衛生の立場からこれまでも考え続けてきました。考え続けることで自分の考え方の間違いが、勘違いが、誤解が削ぎ落され、辻褄があっていくプロセスを重ね続けていました。これまで何となくうまく説明できなかったことがストンと腑に落ちたので、今月のテーマを「辻褄(つじつま)」としました。

辻褄(つじつま)

○辻褄とは
 広辞苑を調べると次のように書かれています。

 「辻褄」とは「(「辻」は道があい、「褄」は左右があうものであるからいう。また、辻も褄も裁縫用語という)あうべきところがあうはずの物事の道理。始めと終り。筋道。」

 「辻褄が合う」は「細かい点まで食い違いがなく、筋道が通る。前後が一貫する。「話の―」」

 「筋道」は「①物事の道理。条理。すじ。「話の―」 ②物事を行う順序・手続き。「―を立てて話す」」

●エアロゾル感染を認めた国立感染症研究所?
 2022年3月28日に国立感染症研究所がエアロゾル感染の存在を認めた
 https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/11053-covid19-78.html
 ということがニュースになりました。このニュースをセンセーショナルに取り上げるマスコミや専門家がいますが、私は次のように考えていました。国立感染症研究所は感染症の専門家集団のため、「どの感染経路が一番多いか」ということを考えていたため、エアロゾル感染のリスクは飛沫感染より低いから敢えて言うこともないと思っていた。ところがオミクロン株での感染の広がりから考えるとエアロゾル感染をリスクの一つとしてきちんと出しておく必要があるとの考えに至っただけ?
 一方で公衆衛生サイドとしては、どの感染経路が多いか否かではなく、考えられる感染経路に対して、できることは何かを伝えることを目指しています。感染症対策の難しさはこれだけやればいいということが言えないからこそ、この感染経路にはこの対策を、という辻褄合わせを丁寧に伝え続けているだけです。

○感染経路を決めるのは誰?
 エアロゾル感染もそうですが、感染経路についてまだわかっていないことが多々あるはずです。なぜなら、テレビに繰り返し出ていた某学会の前理事長も感染されました。その後、ニュースで「日頃から、マスクの着用の徹底や人との距離をとること、接触する時間を短くすること、それに換気の徹底といった感染対策を取っていたと言います」と紹介されていました。
 もちろん、取材した方が書いた原稿ですので、その先生の意図が、言いたいことが正確に表現されていなかった可能性は否定できません。しかし、せっかくご経験を語られるのであれば「ということは、これらの対策(マスクの着用、人との距離をとる、接触する時間を短くする、換気の徹底)に加えて、どのような予防策が考えられるのか、それともそもそも予防ができないのかを考えたいと思っています」といったコメントをしていただきたかったです。いろんな可能性を考え続けたいと思っていたら、私のFacebookに次のような書き込みがありました。

 食品の接触感染の報告は英語論文上、皆無です。感覚で語らないでください。

 私はいつも接触(媒介物)感染という表現を使うようにしていますが、それは単純な理由からです。新型コロナウイルスが人の細胞に入り込むのはACE2レセプターから。当初、これらは鼻、目、肺を含めた呼吸器に多いと言われていましたが、口腔内の舌にも分布していることが明らかになりました。( http://www.kdu.ac.jp/corporation/news/topics/20210415_pressrelease.html )すなわち、口の中に食品に付着した新型コロナウイルスが入れば、当然のことながら舌にも触れますので感染する可能性が考えられます。なぜ、手洗いは口や目に入れるものを触る直前でなければならないかはこのような説明で辻褄が合うと思いませんか。
 いずれにせよ、まだわかっていないことが多々ある一方で、できていないことも多いと考えています。

 ウイルスは、どこから、どこへ、どうやって

 できる人が、できることを、できる時に、できるように

 これからも辻褄合わせを続けたいと思います。

紳也特急 271号

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~今月のテーマ『インフルエンザに学ぶコロナ対策』~

●『生徒の感想』
○『違いではなく類似点に着目を』
●『マスクをつけている方が感染?』
○『ワクチンをしたのに感染』
●『治療薬の意味は』
○『ワクチンが抑えた感染拡大』
●『インフルエンザが冬場に流行する理由』
○『感染拡大の収束方法』
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●生徒の感想
 一番印象に残っているのは「依存」「自立」「絆」の場面でした。僕も岩室先生のように依存や薬物は意思の弱いものなのだと思っていました。ですが「自立は依存先を増やすこと」というのを聞いて鳥肌が立つというか、ブワーと自分の中で沸き上がりました。自分の弟は、今非行少年というか不良のはんぱ物のような感じです。そんな弟は家族にも迷惑をかけています。自分が怒ろうとすると逃げ出して、手に負えない。自分はいっそのこと家を出て欲しいと思っていました。でも今回の話で孤立は薬物依存に手を出しかねないと聞いて、こんな弟にしたのは僕ら家族の責任なのかもしれないと思いました。(高1男子)

 2月末から3月にかけて学校で講演する機会が増えます。同じ話を繰り返しさせていただくことで、生徒さんは、先生方はどこに興味を持って聞いてくれているのかが、どこがスルーされているのかがよくわかります。45分しか話せない学校ではいろんなことを削らざるを得ないのですが、それで伝わっていないかと言えばそうではなく、むしろ他の学校で入れていた内容がちょっとくどかったと反省することも多々あります。
 ちょうど2年前の今日、3月1日、全国一斉に休校になり、卒業前の講演がすべてキャンセルされました。そこから2年、相変わらず新型コロナウイルスの感染拡大が繰り返されています。しかし、よく考えればインフルエンザも同じでした。新型コロナウイルスが収束せずにインフルエンザ同様、集団感染を繰り返し続けることが明らかになったからこそ、今月のテーマを「インフルエンザに学ぶコロナ対策」としました。

インフルエンザに学ぶコロナ対策

○違いではなく類似点に着目を
 新型コロナウイルスが流行し始めた頃から「インフルエンザに類似している」と言った話をすると、必ず後遺症が違う、死亡率が違う、など、同じように考えるのは間違いという指摘が繰り返されました。確かにいろんな点で異なっていることは事実ですが、感染経路は当初から同じでしたし、今では新型コロナウイルスのワクチンも使えるようになりました。まだインフルエンザの治療薬ほどではないにしても治療薬が複数手に入るようになってきました。このような状況になった今だからこそ、インフルエンザの経験に学びたいと思います。

●マスクをつけている方が感染?
 新型コロナウイルスが広がる前、ある中学校の養護教諭の方から「マスクをつけている生徒の方がインフルエンザに感染しているようですがなぜですか?」と聞かれました。マスクはあくまでも自分の飛沫を飛ばさないためです。もちろん感染している人にくしゃみを直接顔にかけられた時に口を開けていればマスクは有効かもしれませんが、マスクをしているからといってマスクをしている人の予防にはほぼならないことは当時から常識でした。
 新型コロナウイルスで認識が広まったエアロゾルも、マスクと顔の隙間から入りますのでやはりマスクの予防効果はあまり期待できません。結核の患者さんからうつらないための対策としての顔と皮膚の間の隙間をなくして装着するN95マスクですが、N95という基準が0.3?の粒子を95%通さないという意味で、結核菌は0.3?ですが、新型コロナウイルスは0.1?です。もちろんエアロゾルとして存在している時は水分をまとっていますので一定の捕捉効果は期待できますが、エアロゾルの水分が蒸発しウイルスが露出した飛沫核の状態になればウイルスがN95マスクを通り抜けます。
 インフルエンザの頃にマスクをしている人の方が感染したとすれば、インフルエンザウイルスが付着した指でマスクの表面を無意識の内に触り、それを吸い込んでいた可能性があります。

○ワクチンをしたのに感染
 インフルエンザワクチンを接種していたにもかかわらず感染した人は大勢います。その時、多くの人は「今年はワクチンの型が合わなかったのだ」と言っていました。もちろんそれもあるでしょうが、いま、新型コロナウイルスワクチンで盛んに言われてるワクチンを打っていても感染するブレイクスルー感染だった可能性もあります。もともとインフルエンザのワクチンも新型コロナウイルスのワクチン同様、感染しても重症化を予防するためのものです。だから、ワクチンを接種していても感染するということはインフルエンザの時から学んでいたはずですがその経験は生かされていません。

●治療薬の意味は
 インフルエンザの治療薬は進歩し、今はインフルエンザで発熱しても服薬で解熱する人が多くなっています。しかし、ワクチンも、治療薬もあるにもかかわらずインフルエンザで毎年3,000人前後の方がインフルエンザが原因で亡くなっていました。今後、さらにいい新型コロナウイルスの治療薬やワクチンが開発されたとしても、インフルエンザ同様、亡くなる方は一定数いることを覚悟して、ウイルスとの共存を考える必要があるようです。

○ワクチンが抑えた感染拡大
 2021年の10月から12月にかけては、さざ波のような、コロナの新規感染者がそれほど見つからない、まるで夏場のインフルエンザのような状況でした。理由として考えられるのが50歳以上で90%以上、12歳~49歳でも約80%とワクチン接種率が非常に高かったことです。いわゆる集団免疫を獲得したような状況でした。
 感染しても症状が出る人が少なく、結果的に捕捉される人が少なくなっただけではなく、感染しても排出するウイルス量が少ないため、次の人への感染拡大が抑えられたと考えられます。一方でオミクロン株の大流行が起きたのは、ウイルスの感染力の強さもさることながら、ワクチンの効果が約6か月しか持続しないにも関わらず、ワクチンの3回目の接種が遅れたことが原因と考えられます。

●インフルエンザが冬場に流行する理由
 インフルエンザは日本をはじめ、北半球ではお正月前後に急増し、春ごろには急速に減少し、夏場はほとんど確認されません。この状況は日本の新型コロナウイルスの2021年10月から12月のように集団免疫を獲得した可能性がないかという視点で考えてみました。
 エアロゾルの理解が広まるにつれ、乾燥した冬場はエアロゾルが低い湿度のため飛沫核化してウイルスがそのままさまよい続け、感染拡大が起こっている可能性が指摘されています。しかし、それならインフルエンザも、新型コロナウイルスでも満員電車でもっとクラスターが起きてもおかしくないのにそうはなっていません。何故でしょうか。
 感染に必要なウイルス量という視点で考えると、アカゲザルの実験で新型コロナウイルスに感染するには数千から数万個のウイルスを吸入する必要があるとされています。満員電車にウイルスを排出している人がいたことは間違いないのですが、多くの人が感染してクラスターになるほどの濃度のウイルスを排出していなかったのではないでしょうか。一方で少量のウイルスだと軽症で済んだり、免疫獲得だけで済んだりした可能性があるのではないでしょうか。ちなみに東南アジアでは年中、同じような割合でインフルエンザが確認されていますが、集団感染したり、集団免疫を獲得したりするような生活習慣や環境要因がないからかもしれません。
 日本でのインフルエンザワクチンの接種率は全体では1/3、子どもや高齢者では半数以上だそうですが、ワクチンだけで抑え込んだと考えるのには無理があります。となると、他の方法で免疫を確保したと推定されます。インフルエンザウイルスは新型コロナウイルスと比べて感染力が弱いため、忘年会、お正月、新年会、満員電車等で感染が拡大して感染が確認される人も増える一方で、エアロゾルや飛沫核として体内にウイルスを取り入れたものの、入り込むウイルス量が少なく、症状があまり強くでなかったり、免疫を獲得しただけだったりで、結果的に春ごろにワクチンを打っていない人を含めた集団免疫が確立されていた。そして、次の冬を迎える頃にはその集団免疫力が低下し次なる流行が起こっているのではないでしょうか。

○感染拡大の収束方法
 新型コロナウイルス対策として、免疫の獲得に寄与するワクチンは接種率を国民の80%以上にすると感染拡大を抑えられるようです。インフルエンザに学べばワクチンに加え、体内に取り入れるウイルス量を減らず感染予防策をそれなりに実行する人が増えれば、結果的に集団免疫の獲得につながります。集団免疫を獲得するため、80%を超えるワクチン接種率を今後6か月ごとに繰り返すことを目標にしつつ、ワクチンを受けない人も体内に取り入れるウイルス量を減らす感染経路対策をすることで、結果として免疫が獲得できるような出会いの機会、新年会、忘年会、歓送迎会を企画してはいかがでしょうか。
 もし、ワクチン接種率が低下する一方で、人との出会いが少ない状況を選択するのであれば、「第○波」という言葉をこれから何回も聞くことになるでしょう。そろそろこれまで蓄積された経験を共有したいものです。
 

紳也特急 270号

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~今月のテーマ『ゼロか百か』~

●『生徒の感想』
○『原因と結果という単純化』
●『「なぜ?」がないゼロか百か』
○『独り言はゼロか百かの発想』
●『対話はゼロから百までの連続性を確認しつつ、着地点を確認する手法』
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●生徒の感想
 自分は犯罪を犯すのは頭の狂った人だと思っていました。しかし、講演を聞いて「孤立している人」と聞き恐怖を覚えました。と同時に納得もしました。
 恐怖を覚えた理由として、自分はゼロではないが友達が少ない。そして自分のことをすべてさらけ出せる友達は二人しかいません。今まで困ったことがあったらお母さんに相談していました。しかし、高校生になって相談しにくくなりました。しかし悩みはずっとあるので、ストレスがどんどん溜まる一方でした。だから先生の言葉を聞いてとても納得しました。
 その後、ストレスがたまっていた自分はその二人の友達に相談し、こころが楽になりました。だからこれからは困りごとがあったら誰かに相談しようと思いました。(高1男子)

 最近、医師が犠牲になる、医師を目指している人が人を傷つけるといった事件が続いていますが、これらの事件の前に行った講演会の感想でした。
成績が伸び悩み、東京大学医学部に入れそうにないとして人に切りつけた高校生は、答えを、目標を求める現代社会の犠牲者ではないでしょうか。多くの人はそんな理由で他人を傷つけるのは許されないと断罪し、医者は「医学部なら他にもたくさんある」とか、「医者の世界では出た大学はその後の活動にそれほど影響しない」と正論を言うでしょう。私自身、酷似したケースの相談を受け、非常に根っこが深い問題だと思い知らされたことがありました。少なくとも今回の高校生にとっては「東大理Ⅲ」が百、唯一無二の目標であり、是だったのです。それ以外は彼にとってゼロであり非だったのです。そこで今月のテーマを「ゼロか百か」としました。

ゼロか百か

○原因と結果という単純化
 感染症対策が混乱するのもこのゼロか百かの発想が根付いているからではないでしょうか。感染したら0点、感染していなければ100点。だから感染するリスクを下げるリスクリダクションという話をしても、「いろいろやっても、結局感染したらおしまいでしょ」と言われます。
 先日、知人4人で中華料理を食べに行きました。直径1.5メートル強の、ターンテーブル付きの円卓に等間隔に座り、出てきた料理は菜箸を使い、料理はしゃべらずにすぐにとりわけ、会話も自分の飛沫を相手にかけないように心掛けるなどの感染対策を共有した上で会食をしていました。ところが、他のお客さんはお互いの料理に飛沫をかけあいながら会食していました。どのテーブルにも神奈川県が推し進めているマスク会食のチラシが置かれていました。
 もしわれわれのグループで同時に二人以上の感染が確認されたとしたら、お店の空気の流れが今一つ弱かったのでエアロゾル感染の可能性は否定できません。でもそれなら他のお客さんも全員感染していたでしょう。でも、「感染」という結果が出たら原因は「会食」という単純な判断になり「空気の流れを創出する指導がされていないこと」にはならないのが今の日本の現実です。

●「なぜ?」がないゼロか百か
 在宅診療を熱心に行っていた医師が銃で射殺された事件で、死後1日以上が経過した母親に心臓マッサージをするよう求め、蘇生はできないことを説明された後、銃を発砲したと報道されています。殺された先生やご家族、関係者の方々は無念以外の何物でもないでしょうし、理不尽この上ない事件です。しかし、犯人にとって、母親は生きていなければならない存在で、生きていれば百点、生きていない状況はゼロ点の状態だったのしょう。
 いやいや92歳で、先生たちは最大限のことをしてくださったので、これ以上長生きをするのが無理だったとほとんどの人は思うのでしょうが、そう思えるというのは「生」か「死」か、「ゼロ」か「百」かではなく、生から死に向かう中でそれこそ92歳という年齢や様々な病状を受け入れることができている人たちの発想です。
 最初の生徒さんの感想にあった「犯罪を犯すのは頭の狂った人だと思っていました」というのがまさしく社会の受け止め方ではないでしょうか。表現の是非はともかく、なぜ人の道から外れたことをしてしまったのかを考える必要がありますが、ゼロか百かの発想で言えば「ダメなものはダメ」で「なぜ?」がないまま話はおしまいです。

○独り言はゼロか百かの発想
 斎藤環先生がひきこもりと対話について、示唆に富む考え方を示してくださっていますがこの考え方は社会で起きている様々な事件を考える上で参考になります。

 思春期の問題の多くは対話、dialogueの不足や欠如からこじれていく。議論、説得、正論、叱咤激励は対話ではなく独り言、monologueである。独り言の積み重ねがしばしば事態をこじらせる。

 今回、事件を起こした犯人たちも孤立から他者との対話の中で現実を受容するプロセスを経験できなかったのではないでしょうか。斎藤環先生は対話の目的は対話を続けること。相手を変えること、何かを決めること、結論を出すことではないと指摘されています。しかし、これらの事件を聞くと、多くの人は犯人が間違っている。他者を傷つけてはいけない。こんな人間が医者にならなくてよかった。と、自分なりの結論を出しますし、ネット上での書き込みはまさしく自分が出した結論、独り言、monologueオンパレードです。
 もちろん悪いものは悪い、犯人たちはとんでもないことをしてしまったのでそれなりの制裁を受けるのですが、同じことが繰り返されないためにどうすればいいかを考えなければなりません。「そう言うならあんたが答えを、犯罪を予防する効果的な方策を示せ」とまたゼロか百かに逆戻りさせられてしまいます。

●対話はゼロから百までの連続性を確認しつつ、着地点を確認する手法
 孤立というと、物理的、あるいは心理的孤立がイメージされますが、対話が成立する相手がいない状態も立派な孤立です。先の高校生が友達に相談しこころが楽になったと言っていましたが、人は話すことで何かに気づき、次なるステップを踏み出せます。対話は今を生きるために必要不可欠なことです。
 新型コロナウイルス対策で一番難しいのが着地点をどこにするかです。感染者ゼロ、死亡者ゼロは無理だということは多くの国民が感じている今だからこそ、いろんな人が対話する中で、一人ひとりができることは何かを繰り返し確認し、一人ひとりが着地点を受け入れられているよう、対話を重ね続けたいものです。

1. ワクチンを打ちたい人はワクチンを打ち、3回目は少し遅くなったけど4回目以降はより適切な時期に行おう。

2. 飛沫感染予防のために2メートル離れよう

3. エアロゾルの排出抑制のため、2メートル離れていればマスクを外そう

4. 接触(媒介物)感染予防のために、タバコのフィルターを触る直前に指先の消毒を

5. 軽い熱ぐらいだと、水分補給で様子を見よう

6. 咳が出た時はすぐに医者に診てもらえるよう、自分が医療崩壊の原因にならないようにしたい

7.

8.

 自分ができそう、したいと思うようなことを7.以下に100、いや200ほど列挙して、一つずつ、いろんな人と対話をし続ければ、お互いができることが少しずつ増えていくはずです。一方で全部を完璧に実施するのは無理だと気づかされると、どこで妥協するか、妥協しても決してそれはあきらめやゼロの選択ではなく、結果として感染した人もそれまでやってきたからこそ今まで感染しなかったり、感染しても重症化しなかったりにつながったという納得、着地点に向かえるはずです。
 斎藤環先生は対話の際の基本姿勢は相手に対する肯定的な態度。肯定とは「そのままでいい」よりも、「あなたのことをもっと知りたい」とおっしゃっています。でも感染症対策でゼロか百かの姿勢の人は「あなたのこの考え方が間違っている」と切り捨てて終わり。難しいです。

紳也特急 269号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『対話で気づく』~

●『生徒の感想』
○『対話で進んだ理解』
●『対話の中に大事なヒントが』
○『役割の解放こそが対話の基本』
●『対話で予防したいオミクロン株』
○『「感染力」と「重症化リスク」』
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●生徒の感想
 性に関して、なぜ自分は異性が好きなのか、と聞かれた時に私は少し考えました。でも、わかりませんでした。考えても考えても何で?が出てきました。でもそれがせいなのだということが今回認識できたというか、性に関して少しだけわかったような気がしました。(高1女子)

 講演を聴く前は性教育なんて遅すぎだろと思っていました。というのも個人差はあるとは思うけど、性に関する身体の変化が始まるのは多くの人は中学の頃だと思うから。今さら性教育とか、もうみんな悩み終わってるだろと考えていました。しかし、今回の講演を聴いて、保健の授業でいう性教育などの知識ではなく、どちらかというと道徳のような視点から性と向き合う考えや思いの授業なんだなと思いました。(高1男子)

 「愛しているならセックス、ではない」という言葉が印象に残っています。今までは人と付き合ったら必ずしなければいけないものというような感覚があって、少し抵抗を感じていました。でも好きとか、愛してるとか、を表現するのにセックスは必ずしも必要なものではないと思うと、純粋に恋愛を楽しめるような気がしてきました。(高1女子)

 アメリカのカリフォルニア州ではステルシング(stealthing)を違法にする法案を満場一致で可決されたそうです。ステルシングとは、性行為の最中にパートナーの同意なくコンドームを外す行為だそうです。この法律を日本でも定めて欲しいと思いました。(高1女子)

 私が成果が見えにくい公衆衛生の虜になった理由がほぼ毎回掲載させていただいている生徒さんたちの感想にありました。講演後にいただく感想はいつも新鮮な刺激を与えてくれます。ここが伝わったんだ。こう受け止めるんだ。自分一人では到底思いつかない発想、感想を書いてくれた一人ひとりとの対話を楽しんでいました。対話の延長線上に自分が公衆衛生活動の中で解決したいと考える次なる課題や解決に向けたヒントが次々と生まれていました。そこで今月のテーマを「対話で気づく」としました。

対話で気づく

○対話で進んだ理解
 最近、進学校で講演をする機会が増えているのですが、生徒さんが前のめりになって聞いてくれるのが岩室紳也が浪人中に物理と化学の偏差値を10以上上げた話です。高校時代、物理と化学の先生が苦手で、授業は聞かず、ひたすら教科書と参考書で勉強をし、自分で知識や正解を詰め込んでいたつもりでした。しかし、予備校では先生の授業はとにかく面白く、ひたすら聞きながら、自分の頭の中の知識と先生が話すストーリーとの対話を楽しんでいました。その結果、新しい知識が増えたというより、きちんと理解できていなかった知識が、ちょっと視点を変えるヒントをもらうことで整理され、より理解が深まり、成績が上がっただけのことでした。

●対話の中に大事なヒントが
 医者になって2年半しか経っていなかった時に診療所で住み込みを始めました。診療は何とか大きなミスをすることなくこなせるようにはなっていたものの、患者さん一人ひとりの背景を考える余裕もありませんでした。ところが、地元に住んでいる看護師さんや受け付けの事務の方が「あの人はお嫁さんとの関係が悪いから血圧が高い」といった背景をいろいろ教えてくださる中で、診察や投薬といった医療行為以外に、患者さんの話やご家族の愚痴を聞くことの大切さを学ばせてもらいました。
 もちろん医学教育の中で家族構成、患者の背景を把握することの重要性は教わりますが、実地で、何気ないやり取り、対話の中から患者さんにとって大事なことが何かを把握し、自分ができることは何かを汲み取り実践につなげるということを診療所時代に学んでいたんだと今更ながら気づかせてもらっています。

○役割の解放こそが対話の基本
 東日本大震災の直後からかかわらせていただいている岩手県陸前高田市で公衆衛生を実践する上で大事なポイントが「できる人が、できることを、できる時に、できるように」することでした。私は医者なのでよく「被災地では救護所での診療をしていたのですか」と聞かれました。しかし、災害時は医者だから、保健師だから、看護師だから、薬剤師だから、素人だからといった平時に掲げていた看板や専門性にとらわれることなく、一人ひとりができることは何かを考え、実践し続けることこそが大事でした。
 それができたのは、一緒に陸前高田の支援に入っていた佐々木亮平保健師、名古屋市から派遣の日髙橘子保健師、陸前高田市の職員の皆さん、さらには未来図会議の参加者の皆さんと、今思えばず~~~~っと対話をし続けたからでした。その対話の中で、一人ひとりが、自分たちはもちろんのこと、他の人たちを専門性で、役割で縛るのではなく、一人ひとりの役割を解放しながらそれぞれができることを考え、発言し、実践につなげる、対話する関係性を構築していました。そのような関係性が構築できた時、陸前高田市が公衆衛生、地域づくりの視点で一歩ずつ復興に向かっていると実感できました。

●対話で予防したいオミクロン株
 オミクロン株の感染者数はこれから加速度的に増えると考えられますが、災害級と言われる新型コロナウイルス禍でこそ対話が必要です。今、多くの人たちが持っている新型コロナウイルスに関する知識は決して大きく間違っているわけではありません。しかし、一つ一つの情報、知識が有機的に結合した状態で一人ひとりの行動に結びついていないと思うのは私だけでしょうか。
 「オミクロン株は感染力が強いが重症化リスクは低い」ということが繰り返し伝えられています。マスコミも専門家も「感染者数が増えれば重症者が増える」と言って、一見同じ問題のように伝えています。しかし、よく考えてみると「感染力」と「重症化リスク」はまったく別問題です。自分一人だとごちゃごちゃになってしまう視点を、他の人と対話をする中で整理して正しく対応できるようにすることが急務ではないでしょうか。

○「感染力」と「重症化リスク」
 アカゲザルの実験では新型コロナウイルスに感染するには数千から数万個のウイルスを吸入する必要があるとされています。感染力が強いということは、その数が数百でも感染する可能性があるということです。吸い込むウイルス量を減らすには浮遊しているウイルスの空気中の濃度を減らすための工夫が必要です。そのためにできることは実は無数。一例を挙げれば、体育館での講演では暖房で上昇気流をつくりながら、上部の窓に換気扇をつける、サーキュレーターで空気を拡散する、など。いろんな人が対話を重ねればいろんな工夫点が浮かび上がります。
 感染した人が重症化するか否かはその人の年齢、基礎疾患の有無、ワクチン接種の有無に加え、3回目接種が適切な時期に行われているかです。すなわち、重症化を予防するには基礎疾患がある人はそのコントロールをしつつ、できるだけ適切な時期に3回目接種ができるようにすることです。
 ところが、このような対話がないため、世の中の注目は「検査」に集中し、無症状感染者の大量掘り起こしが始まっています。検査はあくまでも感染していない可能性が高いことの証明でしかありません。だから陰性でも感染している可能性があるとして感染予防行動はしっかりとる必要があります。感染していても不織布マスクで飛沫感染は予防できます。しかし、不織布マスクをしていてもエアロゾルは多く排出していますのでエアロゾル感染、さらに乾燥している冬場だとエアロゾルの水分が蒸発し飛沫核が露出した空気(飛沫核)感染のリスクはつきまといます。で、どうする。対話をし続けるしかありません。

 改めまして、あけましておめでとうございます。
 今年を新型コロナウイルス対策対話元年にしたいと思います。
 本年もよろしくお願いします。