「紳也特急」カテゴリーアーカイブ

紳也特急 321号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『偏見・差別・誤解がなくならない理由』~

●『生徒の感想』
○『対話にならない人』
●『対話の基本は「問い」』
○『「問い」が生まれた背景』
●『「問い」から出発する偏見・差別・誤解の解消』
○『津久井やまゆり園事件に学べない日本』
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●生徒の感想

生徒と対話しながらユーモアや岩室先生の実体験を交えて話していたので非常にわかりやすかった。(中3男子)

対話形式での講座だったので、話が頭に入ってきやすく、わかりやすかったです。(高1女子)

映像や画像を使って説明せず、対話を大切にされている講演会はすごくわかりやすく印象にも残りました。(中3女子)

今まで受けた性教育のなかでも1番ストレートに伝えてくださる講座でした。今までは恥ずかしいと思っていた言葉も先生がすっとおっしゃってるから最後の方はなんとも思わずに聞けていました。(高1女子)

内容は少し過激なものもあったかと思いますが、このような知識はいざというときに備わっていなければならないと思いますし、日本という国が性教育について忌避感を抱いているということを痛感しました。(高1男子)

岩室先生の話し方がとても興味深く。一般的に注目を浴びたければ声を大きくするのが一番だと思うが、岩室先生は淡々と話しコンスタントに笑いを入れることでとても皆の興味を集めていたことがとてもすごいなと思いました。(高1男子)

生徒さんの感想を読ませてもらうたびにいろんな気づきをもらいます。今回、感想の中に「対話」という最近こだわり続けている言葉が出てきて、ふと「なぜ岩室紳也は対話にこだわるのか」を考えました。いろいろ考えを巡らせている内に「偏見・差別・誤解がなくならない理由」にたどり着きました。紳也特急304号で『偏見差別ゼロは無理?!?』を書かせていただきましたが、少し視点を変え、今月のテーマを「偏見・差別・誤解がなくならない理由」としました。

偏見・差別・誤解がなくならない理由

〇対話にならない人
HIV/AIDSに関わる中で、偏見・差別・誤解の塊だった岩室紳也が、気が付けばそれまで持っていた偏見や差別感情から、感染症に対する誤解から解放され、「みんなちがってみんないい」と心から思えるだけではなく、適切な感染症対策について科学的に説明できるようになっていました。自分自身が変われた時期を振り返ってみると当事者の方々と、あるいは科学的事実ときちんと向き合い、対話ができるようになった時でした。
裏を返すとその人の中にある偏見・差別・誤解を解消できない人とは対話が成立しません。その人たちに共通するのが、その人なりの正解を押し付けてくることでした。これは例えばLGBTや障害に限ったことではなく、新型コロナやインフルエンザはもちろんのこと、最近話題になっている麻疹等の感染症の問題でも同じでした。

●対話の基本は「問い」
私は異性愛者ですので、正直なところLGBTの方々のことは理解できないだけではなく、偏見もありました。しかし、ゲイの人に「なんでゲイなの?」と問いかけたら逆に「岩室さんはなんで異性愛者なの?」と問い返された時、自分への問いに返せないのに相手に聞いているおかしさに気づかされました。
良かれと思ってのことでしょうが「LGBT理解増進法」なるものもでき、「LGBTは理解しなければならない存在」になりました(苦笑)。敢えてこのようなことを言うのは、私はゲイの方との対話を通して、「理解できないのは当たり前。ただただ認めればいいだけ」ということに気づかされたのでした。先日も初対面のFTM(トランス男性)の方と話していた時にこの話をしたら強く納得してくださいました。

〇「問い」が生まれた背景
HIV感染に加え統合失調症を合併している患者さんはどこで診療してもらえるといいと思いますか。専門的なスタッフが揃ったエイズ治療拠点病院を標榜する大学病院と思った人が少なくないのではないでしょうか。実際、そう思っている医者が、医療関係者が多いのも事実です。でも私はそうは思えません。なぜなら、いろんな経緯からそのような病院にかかったものの、結果的に治療が、というか、その後のその方の生活が目指した方向には行きつかず、結果的に私の外来に戻ってきた人が少なくないからです。
そもそも統合失調症という診断が正しいのでしょうか。正しいとしたらどうすればその方がそのような病気をかかえながら自分らしく生きられるようになるのでしょうか。医者が処方した薬をただただ飲めば大丈夫なのでしょうか。
敢えてこのように書かせてもらっているのは、現在の精神科医療を否定する気持ちからでもなく、「こうすればいい」という答えを持っているからでもなく、単純に「どうすればこの方が、この方のご家族が幸せに生きられるのだろうか」という、自分自身の中で繰り返されている「問い」への答えがないからです。

●「問い」から出発する偏見・差別・誤解の解消
最近、なぜかNIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)の報道が続いています。報道内容の多くが認証施設と非認証施設の問題を取り上げていますが、そもそもNIPTの問題はそこでしょうか。国が決めた制度だからその制度が正しく運用されているか否かを検証するのがマスコミという姿勢でしょうか。マスコミとその利用者である国民は常に「そもそもNIPT自体に課題はないのか」という「問い」を持ってもらいたいものです。それこそ「なぜ、いま、紳也特急でNIPTを取り上げるのか」という「問い」を持っていただけた方には感謝申し上げます。「問いから出発」と書きましたが、その逆は「正解から出発」だったり、「思いから出発」と考えています。自分なりの正解に固執する人は偏見・差別・誤解から脱却できません。
NIPTの結果、21トリソミー(ダウン症)と診断された人の内、妊娠中断率が86.9%です。一方で「障害胎児の中絶は『差別』ダウン症の英女性、欧州人権裁に提訴へ」という記事があります。どう思われますか。

〇津久井やまゆり園事件に学べない日本
私が医者になって3年目から赴任した旧神奈川県津久井郡にあり、何回か往診もした津久井やまゆり園で2016年7月26日に起きた殺傷事件の際に、多くの方々に「障害を抱えている方とどう向き合うか」について考えさせられました。機会があることに繰り返し紹介させていただいている、当事者だからこその記事です。
この記事にはキーワードがいくつもちりばめられています。

植松容疑者の「正気」と闘うために
「社会の敵排除」の確信犯
広がる「生産能力ない人は無価値」

取材を受けた最首悟さんの三女はダウン症で複合障害を抱えておられます。どの言葉も重いのですが、植松容疑者が衆院議長公邸に渡した手紙の中で、「施設で働いている職員の生気のかけた瞳」という表現が最も気になったと言います。また、「職員らは過酷な勤務や低賃金に押し込まれてきた。それへの怒りは職員らの共感を呼ぶだろう」と警鐘を鳴らしておられました。実際、津久井郡の4町が相模原市に吸収合併される直前の2005年に津久井やまゆり園は指定管理者制度で社会福祉法人が運営することとなり、当然のことながら職員の給与や待遇は神奈川県職員時代と比べて低くなっています。もちろん正確な金額ではないですが、Copilotに22歳から65歳まで務めた場合の生涯賃金の差額は推計で9千万円でした。
事件が起きると犯人を責めるだけで終わってしまう。制度ができるとその制度の是非はもはや議論にはならない。なぜ「このような犯人が生まれたのか」、「本当にこの制度に問題はないのだろうか」という「問い」をこれからも持ち続けたいと改めて思いました。

思春期保健指導者研修会の参加者募集中です。
よろしくお願いします。

紳也特急 320号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
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~今月のテーマ『自立は依存先を増やすこと』~

●『生徒の感想』
○『人生の予定は未定』
●『HIV診療はクリニックで』
○『おちんちん外来に後継者が』
●『国際エイズ会議と公衆衛生学会がきっかけで講演と仲間が増えた』
○『あまたの当事者が教えてくれたこと』
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●生徒の感想
 
 印象に残ったことが、私たちには断る権利があるということです。行為の際、相手の同意が得られていないのに行ってしまうと犯罪になるのが怖いと思いました。嫌だったらいやとはっきり言えるようになりたいです。この判断は自分を守るためだけではなく、相手と良い関係を保つためでもあると思いました。(中3女子)
 
 エイズになる原因や重み、コンドームの大切さがわかった。コンドームマスターの話を聞いたことにより今まで考えたことなかった、実際に妊娠してしまったりエイズになってしまった人がどのように悩むのかやどんな気持ちで相談するのかを考える良い機会となった。(高1男子)
 
 自立の意味を聞いて感銘を受けました。つらいことがあったらもっと色々な人に頼ろうと思った。(高1男子)
 
 今回、とても興味深い内容をお話していただきありがとうございました。先生が仰っていた、「人は一人で生きられない」「自立とは依存先を増やすこと」というお考えは、私も前々から考えてはいたものの上手に向き合うことができないものでした。人間関係で苦労することも多く、期待した分落胆する、逆に期待されたとして、いつ相手が落胆するかという漠然とした不安を抱えてしまっています。ですが、この先何十年と死なない限り人とは折り合いをつけながら関わらないといけません。悩んでいたときに、先生がおっしゃった「正解依存症」という言葉に心が軽くなりました。受動的に動いてしまうのに失敗を恐れ、成功だけにこだわってしまう私たちにはその言葉がぴったりだと感じました。自他ともに認めて、意見を押し通すのではなく、寄り添って共に在ることが大切なのだとお話を拝聴して感じました。コロナに直面して姿が見えないものに間違ったおびえ方をしてしまい、先入観や固定観念にとらわれている私にとって、今回のお話は新鮮なものでした。フィルターを通して同じ人間を見ず、話を聞いて理解を深め、聴かせる人間にゆっくりなっていきたいです。対話の重要性や孤独と自立の関係、思考が先生のお話のおかげで明らかなものになりました。ありがとうございました。(高2女子)
 
 今月のメルマガを発行する前日の2026年3月31日に厚木市立病院を退職しました。これまでの私のモチベーションを支えてくださったのが、今回も紹介させていただいた生徒さんのみならず、患者さん、住民の皆さん、そして一緒に仕事をさせていただいた方々の声と思いでした。そこで今月のテーマを「自立は依存先を増やすこと」とし、これまでの医者人生を振り返ってみました。

自立は依存先を増やすこと

〇人生の予定は未定
 1981年4月に医者になり、横浜市立市民病院での初期研修後の1983年6月1日に当時の神奈川県立厚木病院に赴任して以来、あしかけ42年9ヶ月お世話になりました。当時は泌尿器科医としてのトレーニングを重ね、1990年3月31日に神奈川県を退職し、自治医科大学泌尿器科教室で泌尿器科医となる予定でした。その後は努力と運次第で自治医科大学第3代教授に・・・・・などと空想していました(笑)。しかし、米瀬泰行教授が急逝される一方で神奈川県衛生部の小宮弘毅部長が自治医科大学の卒業生の今後のことを考えてくださり、臨床と公衆衛生の兼務という新しい勤務形態を用意してくださった結果、神奈川県に残ることになりました。そして気が付けば、公衆衛生、性教育、HIV/AIDS診療、AIDS文化フォーラム in 横浜、さらにはおちんちん外来といった大学卒業時には想像だにし得なかった医者人生を歩ませていただきました。

●HIV診療はクリニックで
 厚木市立病院でこれまで関わってきたHIV/AIDSの患者さんは150名を超えました。最初に診療をさせてもらったのが1994年。当時はやっと抗HIV薬が出たものの、ウイルスをコントロールするには至らず、AIDSを発症した患者さんが亡くなるのを見送るしかない状況でした。もちろん偏見や差別、診療拒否は当たり前でした。U=U(Undetectable=Untransmittable:治療でウイルスが血中で検出限界以下になっていればコンドームなしの性交渉でもパートナーを感染させない)時代になったいまこそ、感染不安を言い訳にせず、その人と向き合えるようになったと思っています。
 しかし今でも「HIVは・・・」、「薬物使用者は・・・」、「病院の言うことを聞かない患者は・・・」と診療を拒否される場合が少なくありません。その一方で「U=Uなら問題ないです」と、今回厚木市立病院の近くの開業医さんで患者さんたちの診療を継続することができました。本当に感謝です。ただ、制度上の問題で、自立支援医療制度を使わなければならない人は、指定を受けた医療機関でしかその制度が使えないため、「制度の壁」で診療が継続できないことを今回改めて知りました。これはいろんな意味で改善しなければならないことですが、行政の壁を切り崩すのは非常に難しいですが頑張ります。

〇おちんちん外来に後継者が
 1991年4月に日本泌尿器科学会に参加したことをきっかけに「包茎の手術は不要」と気づかされました。それ以来、むきむき体操を推進し、神奈川県立厚木病院の産科病棟の理解を得て新生児へのおちんちん外来を開始したのが1994年1月。日本家族計画協会から「OCHINCHIN」なる冊子を出させていただいたのが1999年7月。論文や講演でむきむき体操の重要性を伝え続けてきましたが、残念ながら、泌尿器科医でこのことに関心を持ってくれる医者はほとんどいませんでした。もっとも、私が大学の泌尿器科教室に戻って泌尿器科専門医の道を歩んでいたら、おそらく包茎の手術は若い先生のトレーニングの機会としか思わず、今では繰り返し反対しているPSA検診も問題視せず、前立腺がんの手術に邁進し、2012年に導入されたロボット手術の習熟にいそしんでいたと思います。
 おちんちん外来は岩室が厚木市立病院を退職したら消滅する運命かと思っていたら、若い泌尿器科の開業医の先生が興味を持ってくださり、引き継いでいただくことになりました。詳細はHPで紹介します。

●国際エイズ会議と公衆衛生学会がきっかけで講演と仲間が増えた
 私の臨床医としての人生の前半は泌尿器科医としての手術の習熟に勤しんでいました。しかし、気が付けば30年以上にわたってHIV/AIDS診療とおちんちん外来が主で、さらに薬物依存症のプライマリケアやトランスジェンダーの方々の診療にも関わらせていただいていました。その原点になるのが実は公衆衛生であり、AIDS文化フォーラム in 横浜であり、性教育でした。
 1990年に神奈川県に残ることになり、「さて何をしたもんだろう」と思っていた時に青野原診療所や津久井保健所の時の仲間と共に日本公衆衛生学会で発表をしたところ、いろんな仲間ができました。一方で1994年に横浜で開催された第10回国際エイズ会議に向けた準備を通してAIDS文化フォーラム in 横浜の立ち上げに関わらせてもらいました。このフォーラムは「文化」の名の通り、いろんな人の生き方に触れる機会であり、それまでの専門職だけの世界とは異なる、本当にいろんな人が関わる世界でした。そこで学ばせてもらった私は公衆衛生の仲間にとっても貴重な存在だったようで、いろんな仕事が次々と舞い込んできたのを思い出しています。もちろん公務員という枠の中で動くのが基本でしたが、「エイズ」という緊急事態の中、日常業務に支障がない範囲で自由奔放に、それこそ全国レベルで活動させていただきました。

〇あまたの当事者が教えてくれたこと
 泌尿器科診療、へき地診療、公衆衛生活動、HIV/AIDSを通して「正しい知識と情報」をきちんと伝え、それらを受け手が実践できるようにすることが大事だと学ばせてもらっていました。「エイズ予防にはノーセックスかコンドーム」と正解を伝え続けていましたが、ふと当事者に目を向けると、それが実践できていない人ばかりでした。しかし、一人ひとりはごく普通の生活者でした。もちろん私のメッセージが届いていなかったからHIVに感染し、多くの方が亡くなられていたのですが、そもそもHIV/AIDSは予防できるのだろうか。HIV/AIDSになって何が悪い。こう思うようになったのは当事者との関りがあったからでした。
 また、生徒向けに性教育をしていても、「正しい知識」を伝えただけではトラブル回避はできないことにも気づかされました。もちろん、「で、どうすればいい?」という問いへの明確な答え、正解はありません。でもあと何年活動を続けられるかはわかりませんが、「で、どうすればいい?」を追求し続けたいと思います。
 結局のところ、岩室紳也の医者としての人生は、多くの人への依存の上に成り立っていたことは確かです。そのことに感謝しつつ、少しでも恩返しができたらと思っています。今後ともよろしくお願いします。

紳也特急 319号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
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~今月のテーマ『対話は質より量』~

●『生徒の感想』
○『そもそも「対話」とは』
●『大事な話は年に1回』
○『対話的な講演は文字化できない』
●『対話だからの気づき』
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●生徒の感想

 対話が大切というのはなかなか言われたことがなかったので、人との関わりと対話を大切にしていきたいと思った。(中3男子)

 対話をすることでストレスが緩和されうつ病などになりにくくするなどのことを初めて知ってびっくりしました。(中3女子)

 正解を言わなくてもいいってことで対話が大切ってことに気づかせてもらえて良かった。(中3女子)

 対話は質より量。私の家庭はずっとママが携帯をいじっているので話す機会が少なくて、話していてもゲーム中な事が多いです。今は2人で暮らしているけども、父が単身赴任から帰ってくるので父と沢山話そうと思いました。(中3女子)

 1月に開催されたAIDS文化フォーラム in 陸前高田に精神科医でつくばダイアローグハウスの院長をされている斎藤環さんをお招きしました。いろんな方とのトークを展開する中で、斎藤環さんが「対話のコツ」として「対話は質より量」、「大事な話は年に1回でいい」と教えてくださいました。文部科学省の学習指導要領でも主体的・対話的で深い学びの視点からの授業の改善が求められています。そこで今月のテーマを「対話は質より量」としました。

対話は質より量

〇そもそも「対話」とは
 「対話(dialogue)」を考える際に「独り言(monologue)」との対比が有効です。斎藤環さん(敢えて「先生」ではなく「さん」としているのは、斎藤環さんが「先生」と呼んだ段階で上下関係ができ、対話ではなくなると指摘されたからです。確かにそうですね。何気なく多くの人が私のことを「岩室先生」と呼びますが、そう呼んだ段階で対等な関係ではなくなってしまう場合があります。対話と独り言を自分なりにまとめてみると次のようになりました。
 対話:お互いの感情、感覚を大切、大事にしつつ、相手の話に耳を傾ける。正解を示さないやり取りには問いがある。相手を変えようとせず、受容や共感、お互い様のやり取りの連続の中で多様性が存在する。
 独り言:自分の思い、感情、感覚が中心で、自分の話を、正解を押し付け、〇か×を求める。相手を変えようとし、対立や分断、拒否や論破を通して同質性に導こうとする。
 斎藤環さんの「対話とは、面と向かって、声を出して言葉を交わすこと」という言葉に学ぶと、「独り言とは、相手の表情などを気にも留めず、一方的に自分の思いを発信すること」のようです。

●大事な話は年に1回
 対話のコツの「大事な話は年に1回」というのは目から鱗でした。一方でそもそも大事な話って何なのか考えてみました。いわゆる「雑談」は大事な話は含まれません。雑談をしている限り、そこには終わりも、正解もありません。ただただ言葉のキャッチボール、というか時にはキャッチさえもし合わないやり取りの連続のこともあります。
 生成AIに「『大事』って何?」聞くと、内容、関係性、感情としての大事があるとのこと。誰もが客観的に「大事」と思えるものであればわかりやすく、年に1回にしやすいのですが、感情の中での「大事」には客観性がありません。誰かと関わる中で傷ついた、怖かった、許せなかった、といった経験をすると心がすごくつらくなり、本人にとってはすごく大事な話になります。でも、そのような感情のきっかけをつくった相手は全くそのやり取りが「感情に関わる大事」につながったとは思っていない場合が多いのも事実です。「感情に関わる大事な話」を避けるには「独り言」ではなく「対話」ができるようなトレーニングが必要なようですが、独り言になりがちなSNSを多用していると対話のスキルを上げるのは至難の業のようです。

〇対話的な講演は文字化できない
 この時期は中学校卒業前の講演ラッシュが続いています。ありがたいことに毎年のように呼んでくださり、講演が終わると翌年の日程調整までしてくださいます。そんな中、ある学校で今年度赴任された校長が養護教諭の方経由で講演の大枠を教えて欲しいと言ってきました。深く考えず送ったところ、チャンピオン君を用いた実演と断定的な言葉は使わないようにとの注文が入りました。
 ここで改めて気づかされたことが「目から入った情報(文字)は独り言だ」ということでした。文字にしてしますと「チャンピオン君を使った実演」になってしまいますが、その目的は単にコンドームの正しい装着法を伝えるだけではなく、そもそもむかない包茎は陰茎がんの原因になり得ること。その原因の一つがHPV(ヒトパピローマウイルス)であること。亀頭部をゴシゴシ洗って清潔を保てていると陰茎がんのリスクをほぼゼロに下げられるが、そのHPVが女性の子宮頸がんの原因にもなり得ること。だからHPVワクチンの接種が勧奨されているといったこともすべて含めて、対話的に男子だけではなく女子にも伝えています。
 実際、マイク一本で講演をしていると、一人ひとりの生徒の表情を見ながら、一人ひとりと対話をしつつ、断定的なことを言わないようにしています。そもそも「男女」という言い方もある意味断定的で、それ以外のセクシュアリティが含まれていないと受け止める人がいますが、このことについては講演の最初に説明しています。それを踏まえて後半のメッセージがあるのですが、「対話的な講演の大枠」を書き出すと自分の意図が正しく伝わらない独り言になっていることに改めて気づかされました。

●対話だからの気づき
 対話の重要性を小学校3、4年生に伝えるにはどのような場面でマスクが有効で、どのような場面では不要、というかむしろ逆効果かを伝える必要がありました。いつも通り、飛沫の性質(直進性と2メートル先の落下)、エアロゾル対策(エアロゾルの拡散)といったことを伝えた後、「この部屋で一番不潔なところは」と聞いたら、「棚の上のホコリ」との答えでした。確かに小学生にとって「不潔」とは目に見える状態でした。そこで質問を変えて、「この部屋で一番ウイルスがいるところは?」と聞いたところ「床」と答えてくれました。「床に置いたカバンやランドセルを家に持ち帰ってどこに起きますか?」と聞くと「ベッド、机、床」となり、生徒さんが「そうやってウイルスを持ち帰っているんだよ。気をつけようね」と話すと納得していました。
 そのようなやり取りをしながらふと思ったのが、学級閉鎖という事態になるのは教室内での飛沫やエアロゾル感染もあるのでしょうが、教室の床に置いたカバンやランドセルにウイルスが付着し、自宅にウイルスを持ち帰り、自宅内で感染している可能性もあるということでした。対話的な講演は話している側の気づきにもなることを改めて実感した次第です。

紳也特急 318号

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~今月のテーマ『正解依存症社会』~
●『生徒の感想』
○『選挙で考えたこと』
●『有権者の正解』
○『制度ファーストの社会』
●『なぜ制度が生まれたか?』
○『「正解」がない「対話」を』
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●生徒の感想

 性についてこんなにデリカシーなく面と向かって聞いたのは初めてだったので、なんだか楽になったというか、もっと気楽にこういう話もできるようになれたら人との距離も縮まるのかなとかを思いました。(高1女子)
 
 めっちゃ踏み込んでくれたから反応がしやすかった。(高1女子)
 
 他の講演とかはこちらに質問とかをかけてくるのが少なかったから、講演している人とのコミュニケーションをとるのは珍しいし、楽しいと思った。今の世の中に遠慮している人が多いから講演していた人はとても尊敬できると思った。(高1男子)
 
 岩室先生の話し方や生徒への積極的な質問などで、すぐ心に惹かれました。聞いてて面白かったです。機会があれば、個人的に話もしてみたいなと思います。(高1男子)
 
 コミュニケーションを取ることがお互いについて知ることが相手の理解だけでなく、自分の心の豊かさを高めることが分かり、もっと多くの人とコミュニケーションを取っていきたいと思いました。(高1男子)
 
 親がHPVやコロナ、インフルなどワクチンを打つなと言っていて、不安を感じていたけど、先生の話を聞いてなぜ打たないといけないのかを知ることで不安が解消された。(高1女子)
 
 私の講演を聞いてくれた生徒さんの感想は本当に勉強になります。今回は「デリカシーなく」「反応がしやすかった」「遠慮している人が多い」「面白かった」「心の豊かさ」「なぜ」といった言葉に勇気づけられ、知的障がいをかかえている生徒さんに話をさせていただいたところ、先生方から「あんなに食い入るように聞いていたのにはびっくりした」という声をいただきました。もちろん言葉にしない、できない、したくない否定的な意見も多々あると思いますが、いろんなとらえ方があることをもっと共有したい、共有する必要があると思いました。
 若者は柔軟に考え、表現してくれる一方で、それができないのが大人社会だと思い知らされています。柔軟か否かの違いは正解に依存しているか否かのように感じたので今月のテーマを「正解依存症社会」としました。

正解依存症社会

〇選挙で考えたこと
 今月号のメルマガを書いている時に衆議院が解散され、来週選挙になります。支持率が高い人は解散して自分の基盤を固めたいと思い、危ないと思った人たちはそれまでの主張を捨て、相容れないはずだった人たちが合体して何とかこの選挙を勝ち抜こうとし、議員バッジを失っていた人は何とかバッジを取り戻すべくいろんな人とのつながりを利用しています。これは決して皮肉でもなく、もし自分が国会議員だったら、国会議員を目指していたら、まずは自分が当選し、しかも当選するだけではなく自分の思いを実現できる環境づくりをしようとしますよね。
 マスコミはそのような政党の姿勢を問題視して取り上げていますが、選挙民のことはほとんど取り上げていません。ここ4回の衆議院議員選挙の投票率は52.7~55.9%ですが、あまりにも低いと思いませんか。年代別に見ると60代は68.0~72.0%、50代は59.2~63.3%、30代以下は50%を下回り、20代は32.6~36.5%、10代は39.4~43.2%でした。ちなみに政権交代が起きた年の投票率は2009年が67.5%、2012年は69.3%でした。
 私も学生時代はあまり選挙に行かなかったので偉そうに言えませんが、社会人になってからは必ず行くようになりましたし、特定の政治家を応援するようになりました。民主主義を選んでいる以上、政治について考え、自分なりにできる事を積み上げたいと思っています。

●有権者の正解
 実は今回の選挙で、誰とは言いませんが当選してもらいたい人がいます。もし皆さんにそのような人がいたら、その人の行動を皆さんの「正解」に当てはめるでしょうか。それとも「政界」はそんなもんだと、少々異論はありつつもその人を応援するでしょうか。今回の選挙で様々な現実に直面し、改めて選挙はきれいごとではないと思いました。
 実はこの2026年3月31日で長年勤めてきた厚木市立病院を退職します。公的な医療機関で70歳まで非常勤職員として勤務させていただいたことに感謝をしつつ、いろんな壁にぶち当たっています。厚木市立病院を退職した後、ある開業医の先生のご理解を得、そのクリニックでHIV(エイズウイルス)に感染している人の診療を継続することが出来そうな状況になっています。「それはよかったですね」と多くの方に言っていただいているのですが、残念ながらそこには大きな壁が立ちはだかっていました。その壁を打ち破るべく動いてくださった方を今回の選挙で応援したいと思っています。それはそれとして、なぜ厚木市立病院にかかっていた患者さんが、すんなり開業医にかかれないかを紹介したいと思います。

〇制度ファーストの社会
 今回の選挙で「生活者ファースト」と言っている人たちがいますが、その人たちにこそ私は「制度ファーストの社会を変えて」と言いたいです。HIVに感染している人は今やきちんと薬を飲み続ければ天寿を全うできるだけではなく、パートナーとコンドームなしのセックスをしても相手を感染させません。しかし、医療費は年間200万円以上、3割負担でも60万円になるので、負担を減らす制度の一つが自立支援医療です。ただ患者さんがこの制度を利用するためには、かかる医療機関が、神奈川県で言えば神奈川県が指定した自立支援医療機関でなければなりません。しかも、そのような指定を受けるためのルール(5年以上のHIV診療経験がある常勤医がいること:2006年の厚生労働省通知)があります。すなわち、HIVの診療経験が30年以上もある岩室紳也であっても、非常勤職員だとこの制度を使って患者さんを診療することができません。一方でこの指定自立支援医療機関を指定するのは自治体なので、自治体の判断で診療経験がない医師しかいない医療機関が指定されているところもあります。

●なぜ制度が生まれたのか?
 生成AIに「人間社会で制度が生まれた背景」を聞くと、「人が集まると、1.争いが起きる、2.不平等が固定化する、3.責任の押し付け合いが起きる」から制度が必要と言っています。すなわち、制度が必要とされる理由は、個々の状況や価値観に左右されず、誰もが公平に医療サービスを受けられる環境を整えるためです。HIV/AIDSでは、経済的な負担だけではなく、社会的な偏見に加え、医療者の中にも未だに偏見、差別が存在しています。そのため、昔は制度をつくることで、医療の質を確保し、患者さんが安心して医療機関を受診できるようにしたことは理解できます。
 しかし、医療の進歩と共に制度の見直しが求められており、厚生労働省のエイズ対策推進室も地域の一般の医療機関(開業医等)での診療の必要性を昨年発表した指針の中で示しました。しかし、自立支援医療制度を管轄している部署は厚生労働省内の別の局なので制度改正まで踏み込めていません。

〇「正解」がない「対話」を
 今回、制度の壁にぶち当たりながら、厚生労働省、神奈川県だけではなく、いろんな自治体と話をさせていただいています。皆さん、真摯に話を聞いてくださるのですが、結局のところ、行政機関は制度、法律を守ることが使命であり、ルールに則った正解か否か、〇か×かが判断材料でした。生成AIに「行政とは」と聞くと「国や地方自治体(市役所など)が法律やルールに基づいて、国民の生活を支え、公共の利益のために行う仕事全般のこと」と教えてくれました。すなわち「ルールに基づいて行動する」ことが求められています。
 一方で柔軟な対応ができている自治体の話を伺うと、ちゃんと患者ファーストで考え、いろんな人との対話の中から、制度を柔軟な発想で解釈していました。生成AIも「行政には裁量的行為(法律の範囲内で、行政が判断を選ぶことができる)が許されている」と教えてくれましたが、逆に「選ばなくてもいい」とも読み取れます。
 ふと思ったことです。対話には正解はありませんが、会話だと往々にして正解が顔を覗かせます。確かに患者ファーストの視点で交渉をしても、制度ファーストの視点にいつも押し返されています(苦笑)。まだまだ当たれるところには当たりながら、何とかあと2カ月ですが、患者ファースト、患者さんがかかりたい医者にかかれる制度運用を実現したいと思っています。皆さん、お知恵を貸してください。よろしくお願いします。

紳也特急 317号

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~今月のテーマ『生きづらさの解消に向けて』~

●『生徒の感想』
○『HIVのプライマリケアの障壁』
●『笑ってはいけない?』
○『「聴す」の読み方』
●『生きづらさの背景』
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 あけましておめでとうございます。

●生徒の感想

 性についての講演会は非常に大切なものだと分かってはいたが、小学校から高校まで何度も似たような話を聞いてきたので、正直最初は「またか一、もう分かってるよ」という気持ちだった。しかし岩室先生の話は性行為や性病(エイズ)、妊娠の話が中心ではあったものの、ノロやコロナ、マスクの必要性、自殺やコミュニケーションなども織り交ぜて話していたのでただの性教育の話じゃないなとすぐ分かった。また、かなりセンシティブな話も包み隠さず面白おかしく話してくれて、最初はひやひやしたもののほとんど集中して聞けた。拍手や笑いが起こる性教育の授業は前代未聞だと思った。そして最後には命の大切さにつながるスピーチの構成が良かった。(高1男子)
 
 ここまで岩室の講演を分解、分析してくれた感想は正直感動ものでした。確かに、岩室は「性」だけを伝えても性に関わる諸問題の解決にはならないと考え、このような話を盛り込むと、結果として性の問題だけではなく生きづらさの解消につながるのではないかと考えながら話しています。一方で「またかー、もう分かってるよ」と言わせるような性教育が繰り返されてきたこともこれまた事実のようで、教える側も反省すべきですね。おそらく「正しい性の知識」しか伝えない、伝えられない人が多いのだと思いました。そこで今月のテーマを「生きづらさの解消に向けて」としました。
 
生きづらさの解消に向けて

〇HIVのプライマリケアの障壁
 70歳になったので、この3月に厚木市立病院を定年退職します。正直なところ医者になってから45年間、プライマリケア医、泌尿器科医、HIV/AIDS診療医といろんな分野で臨床医をさせていただけたことに感謝です。特に治療薬もない頃からHIV/AIDSに関わらせていただいた経験は、医者として考え続ける大切さを教えてくれました。そして最後の仕事として、HIVに感染し、状態が安定している人たちはそれこそ内科の開業医さんが診られるようにして臨床医を卒業しようと思っていました。
 ところが、ところが、そこには大きな役所の障壁がありました。HIVに感染している人はもはや1日1回1錠の薬を飲むだけで天寿を全うできますし、ちゃんと治療ができている人はコンドームなしのセックスをしても相手を感染させない(U=U:undetectable=untransmittable)時代になっています。すなわち継続的に医療にアクセスできる環境が最も大事なのです。
 一方で治療薬が高額なため様々な制度で患者さんの負担を軽減できるようになっています。ところが一部の制度は厚生労働省の通知で「常勤の専門医」がいる医療機関でしか利用できなくなっています。確かに医療の質を保つために一定のルールを設ける必要があることは十分理解できますが、一方で医療の進歩と共に患者さんのニーズが「専門家による高度な医療」から、治療が功を奏したら「身近で受診しやすい医療」に変わってきたので、柔軟にそのような体制に移行することが求められます。厚生労働省も最終的には医療機関を指定する自治体の判断との認識なのですが、残念ながら神奈川県は今のところ厚生労働省の通知文通りの判断になっています。厚木市立病院でかかっていた医者が、診察の場面を開業医さんのところに変えただけなのに、患者さんがかかりたい医者にかかれない制度って何なのでしょうね。

●笑ってはいけない?
 生徒の感想で「拍手や笑いが起こる性教育の授業は前代未聞」と書いてくれたのを読んで「???」と思いました。「いいな」と思えば拍手はするし、「面白い」と思えば笑いますよね。と思っていたら、先日お邪魔した学校で「講演中の笑いは禁止」という先生からの事前指導があったとのことでした。
 確かに学校の先生に生徒の様子が知りたくて「どのような生徒さんですか?」と聞くと「ちゃんと聞くと思います」という返事をいただくことが少なくないことを思い出しました。私は「ちゃんと聞く」というのは聞いている時の態度より、ちゃんと話していることが伝わるか否かが大事だと思っています。だから拍手や笑いはちゃんと伝わっているか否かの指標になるのでありがたいのですが、「性的なことで笑ってはいけない」と思っている大人たちの正解を押し付けられると、それこそ生きづらいと思いませんか。

〇「聴す」の読み方
 皆さんは「聴す」と書いて何と読むかご存じでしょうか。これを3つの生成AIに聞いたところ、3通りの回答でした。
 
 Copilot:「ちょうす」と読み、「聞かせる。聞かせてやる。(音楽・詩歌などを)披露して聞かせる」の意味とのこと。
 
 ChatGPT:「きかす」と読み、「①(主に古語・文語)相手の言葉・訴え・申し出などを聞き入れる/聞いて受け止めること。→ 現代語の「聞く(受け入れる)」に近い意味です。②(文脈によって)注意深く耳を傾ける、よく聞く、というニュアンスを含む場合もあります」とのこと。
 
 Gemini:「ゆるす」と読み、「願いを聞き入れる: 相手の要望や請いを聞いて、それを認める。許容・許可する: 罪を免じたり、行動を差し支えないものとして認めたりする」の意味とのこと。さらに「許す」との違いを「許す: 最も一般的で、感情的な許容や法的な免除など幅広く使われます」、「聴す:『聴(き)く』という字が含まれている通り、**『相手の言い分や願いをしっかり聞き届けた上で、聞き入れる』**という、『聴従(ちょうじゅう)』のニュアンスが強くなります」とのこと。
 
 私はある方から「ゆるす」と読むと聞いていたのでGeminiの答えが一番すっきりしました。逆に今回の問いかけは生成AIもまだ苦手な分野があることの証にもなりました。Geminiの答えによれば、聴すと許すに違いはありますが、どちらにも判断が入ります。となると「ゆるす」ということ自体に何らかの判断の押し付けがあると思いませんか。

●生きづらさの背景
 いろんな人がいる社会には一定のルールが必要です。しかし、自分が納得できないルールや指導、判断が入ると生きづらさを感じますよね。「いやいや法律を含めルールは社会の規律を守るために必要だ、なに甘いことを、非常識なことを言っているのだ」とお怒りの方もいると思いますが、こう書きながらふと春日武彦先生の言葉を思い出しました。
 
 こころを病むとは、その人のものごとの優先順位・価値観が、周囲の人の常識や思慮分別から大きくかけ離れてしまうこと。
 
 世界中を見渡すと、国際法といったルールから大きくかけ離れた考え方で戦争を仕掛けている人や、これまでの先達の常識や思慮分別から大きくかけ離れた選択をしている人たちを見ていると、どちらがこころが病んでいるのか悩んでしまいます。ただ一つ言えることは誰かが生きづらさを感じている時に足らないのが「対話」のようです。対話の反対が独り言です。
 最近、対話とは何か、対話ができる人の姿勢(お互いの感情、感覚を大切、大事に・読み解く・学びと気づきの連続)、対話する際の行動の実際(聴く・傾聴・分ちあう・受容・共感・共有・見守り・正解を示さない)、そして対話で生まれるもの、結果(信頼・つながり・お互い様・絆(きずな+ほだし)・笑い・余裕・協働・反省)について考え続けています。まだまだ「対話とは」と話せるレベルに至っていませんが、今年も考え続けたいと思っています。
 
 本年もよろしくお願いします。

紳也特急 316号

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~今月のテーマ『なぜインフルエンザが大流行するのか』~

●『生徒の感想』
○『インフルは常に子どもが流行の中心に』
●『亡くなるのは高齢弱者』
○『新たな変異株(サブクレードK)だけが問題!?!』
●『ワクチンが持つ意味』
○『微量感染で免疫を』
●『微量感染のコツ』
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●生徒の感想

 語彙力がなくてうまく言えないのですが、先生のお話で感じ取れたことがたくさんありました。ありがとうございました。伝わらないかもしれませんが、感動しています。今日得たものは一生忘れないと思っています。(高2女子)
 
 普段は耳にしないような貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。正直、社会では性について遠ざけられているので、本当にこういうお話を聞くことがなく、お話の内容もほとんど聞いたことがないことばかりでした。いずれ僕もパートナーができたら、今日学んだことをよく思い出したいです。(中3男子)

 自分の意見など、嫌なことは嫌と言えるようになろうと思いました。(中3女子)

 最近よく、自分はなぜ他人と違う発想をしてしまうのかを考えています。この3つの感想、「今日得たもの」「普段耳にしない」「自分の意見」を読ませてもらいながら、直接関係するようには思えないかもしれませんが、今大流行しているインフルエンザについて、どうして多くの専門家もマスコミも「マスク」「手洗い」「換気」「ワクチン」しか言えないのかを考えていました。そこで今月のテーマを「なぜインフルエンザが大流行するのか」としました。

なぜインフルエンザが大流行するのか

〇インフルは常に子どもが流行の中心に
 いま、インフルエンザが全国的に大流行しています。11月30日のNHKのニュースでも「インフルエンザ 去年より約1か月早く流行 特に子どもで広がる」と報道されていました。去年より早い流行の話は後ほどするとして、「子どもで広がる」というのはインフルエンザの感染経路を考えれば当然のことです。
 インフルエンザは人から人にうつるウイルスですので、一番密集した集団で生活しているのが子どもたちですので「子どもで広がる」というのはある意味「いつものパターン」です。しかし、先日お邪魔した、学級閉鎖になった学校では設置されている換気扇も、サーキュレーターも使っていませんでした。要するに一番広がる学校という集団で感染予防対策ができていない、というか学校という集団では感染予防対策はできないと考えた方がいいのかもしれません。

●亡くなるのは高齢弱者
 感染する中心が子どもたちなのに対して、実は死亡率が高いのが高齢者です。人口100万人当たりのインフルエンザ死亡者数は0~9歳が1.9人、20歳代で0.4人と子どもでも若者でもインフルエンザで亡くなる方はいます。一方で死亡者数は、60歳代で10.9人、70歳以上で118.7人と高齢になればなるほどインフルエンザで亡くなる方は多くなります。では、どのような方が亡くなっているのでしょうか。
 コロナ禍で日本人の平均寿命が男女とも1歳ほど低下したにも関わらず、男女とも健康寿命は横ばいでした。健康寿命が横ばいということは健康で介護等が必要ではない人にはコロナ禍はそれほど大きく影響していないと言えます。それに対して、要介護の方々のほとんどがワクチンを接種していたはずですが、それにも関わらず早世、すなわち寿命が短くなったと言えるデータです。自立している高齢者は運動習慣、文化活動、ボランティア・地域活動のどれが欠けてもフレイルになる、体が弱る可能性が高くなるというのは様々なデータでも示されています。すなわち高齢者を守ろうとして面会制限を含めた様々な対策が取られたにも関わらず、結果として要介護の、高齢弱者の人たちがコロナ禍で早世していました。
 ちなみにコロナ禍前にインフルエンザで亡くなっていた方は1,000~3,500人でしたが、2025年は6月時点で既に5,383人です。新型コロナウイルスでなくなった方は2025年6月現在14,037人です。なぜこのような大事なデータは報道されないのでしょうか。残念ながらこのようなデータを気にしている専門家が少ないことの表れだと思いませんか。

〇新たな変異株(サブクレードK)だけが問題!?!
 新型コロナウイルスの時もそうでしたが、新たな変異株が明らかになると「変異株で大流行」と大騒ぎしますが、なぜ変異株だと流行するのか、これまでの変異株はその後どうなったのかという報道はありません。さらにインフルエンザが例年年末の11月から徐々に増え、年明けの1月から2月に流行のピークを迎え、夏場はほとんど感染者が報告されず、また次の11月頃から増え始めるのかの理解が浸透していません。
 2009年の新型インフルエンザや2023年のインフルエンザが8月から流行しましたがその理由は明確です。2009年の新型インフルエンザ(A/H1pdm09)は新型故に流行前の血液を調べると、ほとんどの人が免疫(抗体)を持っていませんでした。そのため夏場から大流行しました。2023年に流行したA/H1pdm09もA/H3もコロナ禍の自粛の影響もあり、流行前の抗体検査では全年齢で抗体価が非常に低かったことが明らかになっています。一方で2009年に流行したA/H1pdm09は2010年には全年代で抗体価が上昇し、他のインフルエンザ同様の流行になり、さらに抗体価が上昇した2011年、2012年にはほとんど確認されませんでした。一方で流行しなかったため、抗体価が減少し、再び2013年に検出されるようになりました。
 新たな変異株か否かを調べることは大事ですが、日本ではウイルスの流行で獲得した免疫力(抗体価)が流行を抑えてくれていることに着目すれば、裏を返せば感染経路対策が十分できていないということでもあります。

●ワクチンが持つ意味
 先に示したように、コロナ禍で要介護の人たちが早世し、結果として日本人の平均寿命が短くなっています。早世した人たちの多くはワクチンを打っていたと思われます。すなわち、ワクチンは一定程度重症化を予防したでしょうが、全ての人にとって重症化予防にならなかったというデータでもあります。
 高齢者や様々な合併症を持っている方が重症化予防のためにワクチンを接種することを否定するつもりはありません。しかし、2025年6月までに新型コロナウイルス感染症で14,037人の方が亡くなっている事実から、今のような接種間隔でいいのか、今一度検証する必要はないのでしょうか。
 一方でインフルエンザも今年の6月までに5,383人が亡くなっていますし、いまインフルエンザが大流行中ということから死亡者数がさらに増えることが懸念されます。では、ワクチン以外で何に気をつければいいのでしょうか。

〇微量感染で免疫を
 2009年に流行した新型インフルエンザ(A/H1pdm09)が今や毎年流行し得るウイルスになったのは、多くの人が感染して抗体を獲得したからでした。15~19歳のA/H1pdm09の抗体保有率(HI抗体価1:40以上)を見ると、2009年21%、2010年64%、2011年79%、2012年80%でした。
 免疫(抗体)を獲得する方法の1つが実際にウイルスに感染することです。ここでは2012年に15~19歳の80%が2009年に流行した新型インフルエンザ(A/H1pdm09)の抗体を持っているという事実に着目しました。どう考えてもこの年の15~19歳の80%がインフルエンザを発症したとは考えられません。インフルエンザが大流行している現時点で、学級閉鎖、学年閉鎖、学校閉鎖の話は聞こえては来るもののごく一部の話です。すなわち感染し、抗体を獲得している人のほとんどは無症状で抗体を獲得したと考えられます。
 コロナ禍ではインフルエンザはほぼ報告されなくなりましたが、その前後の15~19歳のA/H1pdm09抗体価の推移は次のようでした(グラフからの読み取りのため誤差があります)。2018年65%、2019年58%、2020年42%、2021年48%、2022年31%、2023年16%、2024年27%。これらの数字から見えてくることは「感染した人の抗体は意外と長持ち」なのか、それとも「発症するほどではないが感染(流行)はそれなりに続いていた」のかです。いずれにせよ、体内に入れるウイルス量を減らすことで発症を抑えつつ抗体獲得ができると言えますので、微量感染がお勧めということになります。

●微量感染のコツ
 とにかく体内に入れるウイルス量を減らすことですが、完全にゼロにすることはできません。なぜならエアロゾルに含まれたウイルスは不織布マスクをしていてもマスクと顔の隙間から入り込むからです。しかし、ちょっとした工夫をすることで体内に入るウイルス量を減らすことが可能です。
 
マスク:不織布 個包装 外したら捨てる マスクの表面は触らない しない
換 気:空気の流れを創出し、外に出す サーキュレーター 扇風機 換気扇
手洗い:口・目・鼻にものを入れる直前 ポケットに入れたハンカチは使わない
食べ物:飛沫やエアロゾルを付着させない
 
 上記を徹底してもウイルスが体内に入るのは完全には防げませんし、現実問題、上記を徹底することは不可能です。でも一つでもできることを増やせば、それだけ体内に入るウイルス量を減らすことができるということです。
 皆さんは何を選択し、実践されますか。岩室はできることを、できる時に、できるよう、日々精進したいと思います(笑)。

紳也特急 315号

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~今月のテーマ『高齢者になってみて』~

●『生徒の感想』
○『高齢者とは?』
●『高齢者のイメージ』
○『刷り込まれたイメージは変わらない』
●『自分は連続しているが、他者は一部だけを切り取る』
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●生徒の感想

 将来医師志望なのですが、先生の話を聞いて医師としての責任の強さを感じた反面、その社会的意義の大きさを感じて、より医師になりたい思いが強まった。先生のような患者を孤立させない医師になりたいです。(高2男子)

 自分は正解依存症で、失敗することを恐れていたが、今後はなるべく失敗を恐れないようにしたいと思った。(高2男子)

 私自身もあてはまるところがありドキッとしました。最近、何か親に話したいことや聞きたいことがあっても、その後の反応を予想して、めんどう臭くなったり、喧嘩につながることが恐ろしかったりしてやめてしまうことが増えたからです。これからは余計なことは考えずに気楽に話してみようと思います。(高2男子)

 人と人が関わっているといろんなやりとり、反応をいただきます。70歳を機に厚木市立病院での診療を終えるので少しずつ患者さんにそのことを伝えていますが「とても70歳に見えません、まだまだ診療を続けてください」と言われたり、Facebookで自分が70歳になったことをカミングアウトしたおかげで、いろんな方から「古希ですか、とても70歳に見えません」といったお声掛けをいただいたりしています。そのようなやり取りを通して「年齢」について多くの人が持っている思い、正解、先入観について考えさせられました。これは当事者にならないと気づかないことのようなので、自分の頭を整理するために今月のテーマを「高齢者になってみて」としました。

高齢者になってみて

〇高齢者とは?
 そもそも高齢者の定義はどうなっているのかが気になり、いつものようにChatGPTに聞いてみました。

1. 法律上の定義
日本では、65歳以上の人を「高齢者」とするのが一般的。
根拠:「老人福祉法」(1963年)第5条では「老人」は65歳以上。
国勢調査や厚生労働省の統計でも、人口構成を「65歳以上=高齢者」「15~64歳=生産年齢人口」「0~14歳=年少人口」として分類。

2. 医学的・社会的な見方
年齢だけでは実態を十分に表せないという指摘も増えている。
健康・身体機能の多様化し、現在では70代でも活発に活動する人が多く、従来の「高齢者像」とは異なる。
日本老年学会・日本老年医学会(2017年)提言
平均寿命や健康状態の向上を踏まえ、「65~74歳」:准高齢者(pre-old)「75歳以上」:高齢者(old)「90歳以上」:超高齢者(super-old)と分類することを提案。

3. 国際的な定義
WHO(世界保健機関)も基本的には65歳以上を高齢者(elderly)。
ただし発展途上国などでは、60歳以上を基準にする場合も。

 こうやって定義されても当事者としてはピンときません。ところが当事者意識がなかった時はこのような定義をそのまま、何も考えず使っていたように思います。

●高齢者のイメージ
 自分自身が70歳になるまで「高齢者」に抱いていたイメージは何だったのかを改めて考えてみると、ただ「年齢を重ねた人」という側面と、「加齢により思考に偏りがある場合も」と二パターンありました。ここでも「高齢者のイメージ」についてChatGPTに聞いてみました

肯定的イメージ 知恵・経験・穏やかさ・人生の熟達
否定的イメージ 弱者・支援対象・変化への抵抗・社会的負担
背景      福祉制度・メディア報道・家族形態の変化・世代間関係
現代の変化  アクティブシニア・准高齢者の概念・多様化する老いの姿

 改めて「とても70歳に見えません、まだまだ診療を続けてください」や「古希ですか、とても70歳に見えません」と言ってくださる方は「70歳とは○〇〇」といったイメージを持っておられ、そのイメージに岩室紳也が当てはまっているか否かを判断されるのだと思いました。これは最近こだわっている正解依存症にも通じることで、自分なりの正解に当てはまるか否かが反応する際の基準になっているようです。
 では、自分自身はどうだったかというと、それこそ90歳を超えた患者さんでも〇〇さんという見方をしていますし、親戚、友人、同級生も「その人」という見方をしているように思います。一方で自分とのつながり、縁がなかったり薄かったりする人の場合、自分が受け止めたビジュアルな視覚情報でまずはその人を判断し、その後の関係性の中で得られた情報を通して「歳相応」や「若い」とか勝手に判断していました。

○刷り込まれたイメージは変わらない
 先月、日本公衆衛生学会に出て感じたことです。刷り込まれたイメージは変わらない。先月のメルマガに書かせてもらった「ノロウイルスが無症状の人の唾液にもいる」ことを何人もの人に伝えたところ、誰一人としてその事実を知りませんでした。知らないことはいいのですが、「なぜ自分が知らないことを岩室紳也が知っているのか」ということに関心を持ってもらえませんでした(笑)。もちろん論文の話はしたのですが、「なぜその論文にたどり着いたのか、たどり着けたのか」とか、「なぜ日本ではそのことが公衆衛生関係者間で共有されないのか」といったプロセスについての議論にはなかなかなりません。「科学的な情報は論文で確認すること」や「最新情報は雑誌や研修会で身に着けること」といったイメージが刷り込まれていると、「生成AIを駆使することで最新、というか自分が知らなかった、誤解していたことにたどり着ける時代になったこと」を見落としてしまうのだと改めて思いました。
 また、このことは様々な偏見や誤解、差別がなぜ解消されないかということにも通じると思いました。すなわち一度刷り込まれたイメージはよっぽど積極的に学習し、自分の従来の受け止め方を上書きする大変なプロセスが必要なのです。だから「刷り込まれた」ものは容易には消せないのだと改めて思いました。

●自分は連続しているが、他者は一部だけを切り取る
 認知症のスクリーニング検査として広く使われる「長谷川式スケール」の開発者の長谷川和夫先生が、自らが認知症であることを公表した際に次のように述べておられました。「自分がなってわかったことは、認知症は『連続している』ということ。突然別の人間になるわけではなく、自分の中では昨日までの自分とつながっている」と。
 確かに岩室紳也も思春期の時から、医学生になり、医者になり、結婚をし、この度70歳になりましたが、実はすべてが連続していることです。1~3か月に1回、何年にもわたって会っている患者さんにとって岩室紳也はただの主治医であって、○○歳の主治医ではなかったのが、いきなり70歳の主治医と言われて戸惑うのも無理のないことですね。そのため、自分自身が持っている70歳のイメージと、目の前の70歳の岩室紳也のイメージが合致するか否かで「70歳に見えない」という言葉が出てくるのだと思いました。
 個人にとって年齢だけではなく、すべてが連続しているのですが、他者にとっては会っている時だけの存在であり、その時のイメージが客観的判断材料となり、共有できる話題の1つなのです。「わかってもらえない」という思いを持つ若者が多いのですが、それは当たり前のことで、自分の中では連続していることは他者には伝わらず、結局は一部だけを切り取られて判断されてしまうのですね。
 ただ、このことは視点を変えると、自分では考えつかない反応をしていただくことで改めて「年齢」を感じ、いろいろと考えるきっかけになるのだと気づかされました。これからも思ったことを、感じたことをそのままぶつけてください。よろしくお願いします。

紳也特急 314号

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~今月のテーマ『生成AIで変わる感染症予防策』~

●『生徒の感想』
○『生成AIにも苦手分野が』
●『疑問を持つことから』
○『刻みのりでノロウイルスの集団食中毒』
●『刻みのりの製造過程』
○『ノロウイルスで飛沫感染?エアロゾル感染?』
●『飛沫よりエアロゾル感染?』
○『今後のノロウイルス対策は』
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●生徒の感想

 全ては哲学的に考えることでより面白くなるということ。(高2男子)

 最初は斜に構えて興味が無いと感じていたが、実際に聴いて思ったより為になった上に面白かった。(高1男子)

 今までにない、新鮮で、刺激的で、最高の講和でした。(高2男子)

 人に話を、情報を伝える際に何が大事かと考えた時、一番大事なことは伝えている本人がその話について、情報について、興味、関心、感動を覚えていることではないでしょうか。先月号で「生成AIで変わる熱中症予防策」を書かせてもらった際に、実は岩室紳也自身が生成AIとの対話の中で「そうなんだ」という気づきを繰り返しもらい、その都度感動をもらっていました。生成AIが使えるようになる前は、自分でキーワードを決め、検索し、自分の疑問を解消してくれる論文やサイトを探し続けるしかありませんでした。しかし、正直なところ思うような情報にはなかなかたどり着けず「・・・・・」と思う日々でした。ところが生成AIの登場で、自分自身の仕事の仕方が、情報の探し方ががらりと変わりました。今月は久しぶりに感染症全般の話をする機会をいただき、その過程の中でこれまで気が付かなかった感染症対策の新しい視点にたどり着くことができたので、今月のテーマは「生成AIで変わる感染症予防策」としました。

生成AIで変わる感染症予防策

〇生成AIにも苦手分野が
 生成AIが優れているところは多々ありますが、一方で苦手なのが地図の作成です。ChatGPTやCopilotで「東北地方の県境と陸前高田市の位置を入れた地図を作成してください」と依頼すると、陸前高田市が宮城県南部に位置していたり、青森県に半島がなかったり、山形県が太平洋側に描かれたりします。地図のように人間が当たり前のように認識しているものだと正誤がすぐわかりますが、そうではない分野だと使い方に慎重になる必要があります。

●疑問を持つことから
 新型コロナウイルス感染症が未だに猛威を振るっています。半年に1回程度感染拡大が起きては収束することが繰り返されています。なぜこうなるのでしょうか。多くの人がやっているつもりの予防策は本当に効果があるのか、ぜひ疑問に思ってもらいたいものです。ご自身が信じる予防策について生成AIと対話をしてみると面白い学びが多々あると思います。
 例えば「うがい」の効果です。実はコロナ禍の初期の頃、信頼できる耳鼻咽喉科医に「うがいって感染予防の効果はあるのでしょうか」と聞いたところ、バッサリと「ありません」と理屈を含めて教えてくださいました。ただその頃、その話をしても「一医師の見解」で片づけられていました。しかし、今だと生成AIに「うがいでウイルスを除去できる範囲を教えてください」と聞くことができます。答えは「うがいで除去できるのは口腔や喉の入口に付着した一部のウイルスだけで、鼻腔や気管・肺の奥、細胞内に入ったウイルスには効果がありません」と教えてくれます。もちろん体内に取り込まれるウイルス量を減らしたり、粘膜を潤し、ウイルス等の侵入を阻止する力をアップさせたりする効果が完全に否定されるわけではないことは念のため申し添えておきます。

〇刻みのりでノロウイルスの集団食中毒
 2017年2月に東京都内の学校給食で提供された刻みのりによるノロウイルス食中毒が発生しました。4,209人が食べ、1,193人が発症し、ノロウイルスGⅡ.17型が原因でした。8年前の事例ですが、当時、自分の中で「?????」でした。
 当時からわかっていたことをもとに、刻みのりにノロウイルスが混入した経路を次のように考えていました。ノロウイルスに感染した人の70%程度は下痢や嘔吐の症状があり「自分は何らかの感染症かも」と思ったり、「仕事は控えよう」と思ったりするでしょう。しかし、ノロウイルスに感染している人の30%は無症状ですが、当然のことながら感染した人の便にノロウイルスは排出されています。その人が排便した際に、お尻を拭く手順が悪かったり、軽い下痢状態で便が便器に付着し、次の利用者の手についてしまったりする可能性は否定できません。もちろん手を洗うでしょうが、自動タッチレス蛇口ならいいのですが、手回し式やレバー式の蛇口の栓だとウイルスが付着した手で蛇口の栓を触り、手を洗ってウイルスを除去した後も再び蛇口の栓を触り手にノロウイルスを付着させたままという可能性があります。ノロウイルスは非常に感染力が強く、ウイルスが10個あれば感染が成立しますので、手を洗ったつもりの人がお弁当を作ったりする過程で食材にノロウイルスを付着させることはあり得ると考えてきました。しかし、今回は「刻みのり」で、1,000人を超える感染者を出した食中毒です。刻みのり1,000人分という量を想像してみてください。手に付着したノロウイルスが1,000人以上の人が口に入れる刻みのりに付着したというのは考えにくいですよね。

●刻みのりの製造過程
 そこで、刻みのりの製造過程で人が介入する箇所を生成AIに確認しました。海苔を焼いたりする過程ではウイルスは死滅すると考えられるので、教えてもらった最終工程付近を紹介します。

7. 刻み(細切り)工程
 刻み機(機械):乾燥したのりシートを細く刻む。刃の種類や回転数は人が設定。
 人の介入点:刻み幅の調整、刃の交換・洗浄、刻み後の目視での均一性チェック。小ロットや特注では手切りや手直しが入ることもある。

8. ふるい分け・異物除去(品質管理)
 振動ふるい・エアブロー等(機械):粉・くずを分離。
 人の介入点:目視検査、抜き取り検査、金属探知機の監視、不良品のハンドリング。

9. 包装・充填
 自動包装機が主流:計量→充填→封止。機械で行うが、機械のセットアップや袋材の補充は人が行う。

 ふるい分けと異物除去では目視検査となりますので、この過程が疑わしいということになりますが、この過程で手に付着したウイルスによる集団食中毒が起きるとは考えにくいと思いました。そこで考えたのが飛沫感染、エアロゾル感染の可能性でした。

〇ノロウイルスで飛沫感染?エアロゾル感染?
 ノロウイルスに感染した人の嘔吐物を扱う際に、嘔吐したものが空中に飛散し、飛沫感染、エアロゾル感染の原因にならないよう慎重に扱うべし。このことはノロウイルス感染症に関わった公衆衛生関係者であれば口酸っぱく指導されてきたと思います。ノロウイルスは胃では増殖しないので、小腸で増殖したウイルスが胃→食道→口腔と排出されるのはわかるのですが、では唾液にノロウイルスがいないのだろうかと。
 生成AIに調べてもらうと、そのようなデータが見つかりました。2017年~2018年にスペインで発生したノロウイルスによる集団食中毒患者の唾液からノロウイルスが検出されていました。唾液347検体を調べたところ、GⅡ型のノロウイルス感染では唾液陽性は症状がある人の17.9%、無症状者の5.2%だったとのことです。排出していたウイルス量は平均1,450(120~17,000)copies/mLでした。ちなみにGⅠ型のノロウイルス感染では唾液陽性例はありませんでした。刻みのりの集団食中毒はGⅡ型でした。

●飛沫よりエアロゾル感染?
 一般的に唾液中にいるウイルスが、飛沫として口から飛び出すことも考えられますが、食品を扱うところではマスクをしているのではないでしょうか。となるとエアロゾルのようにマスクをしていても、マスクと顔のすきまから漏れ出たエアロゾルによる感染が疑われます。さらに、感染している人は数週間ウイルスを排出し続けることや、マスクをその都度、適切に廃棄していないと、マスクに付着蓄積したノロウイルスがさらにエアロゾル化して感染を拡大させた可能性も否定できません。ふるい分け、異物除去の行程でエアブローが使われていますが、もしそのエアプローが噴き出す空気にノロウイルスのエアロゾルが含まれているとエアプローした刻みのりにしっかりウイルスが付着したとしても不思議ではありません。

〇今後のノロウイルス対策は
 ノロウイルスはコロナやインフルエンザの比ではない少ない量のウイルスで感染する上に、無症状の感染者が30%、その人が飛沫やエアロゾル、もちろん唾液という形で感染を広げるとなると、さて、自分が感染している場合はどうすればいいのかを考えてみました。

1. 飛沫を人に、料理にかけない
2. エアロゾルは常に空気の流れをつくり薄める
3. 不織布マスクは表面を触らず、毎日交換する

 これらは新型コロナウイルス対策として言い続けてきたことでした。ただ、そのことが正確に理解されていないのも事実ですし、実践している人となるともっと少ないですよね。こう書きながら、今乗っているバスの空調を慌てて確認し、空気の流れを作っていました。皆さん、気を付けましょう。

紳也特急 313号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
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~今月のテーマ『生成AIで変わる熱中症予防策』~

●『なぜ?』
○『対話し続けてくれる生成AI』
●『重症になった時は?』
○『塩分、カリウムの喪失と補給』
●『熱中症死の診断は?』
○『カリウムと体温調整機能の関係は?』
●『季節の食べ物』
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●なぜ?
 熱中症の報道が続いている中、「どうすれば熱中症死を防げるのか?」を考え続けるのが公衆衛生担当者の役割です。世間では「熱中症予防はエアコン等で温度を下げ、水分、塩分をこまめにとろう」と繰り返し言われています。しかし、熱中症で亡くなる方は後を絶ちません。2025年8月9日、自転車に乗っていたと思われる50代の男性が気温28.4℃の中、亡くなられました。8月18日、除草作業中の41歳の男性が熱中症で亡くなられました。現場ではおよそ1時間ごとに15分から20分の休憩をとり、水分も補給していたとのことです。ではどうすればこのような悲しい結末を予防できるのかを考えながらいろんな情報を集めてみました。
 2023年の熱中症死は子どもから高齢者まで年齢が上がるにつれて増えていることがわかっても「高齢者は注意しましょう」となるだけです。都道府県別で熱中症死で多いのが東京、神奈川、大阪、北海道の順ということがわかっても、「東京は人口が多いからわかるけど、なぜ北海道が第4位?」の理由はわかりません。人口比で熱中症死亡は秋田、青森、新潟、富山、岩手、東京、北海道で一番少ないのが愛知とわかったとしても「なぜ東北や北陸が多い?」という明確な理由はわかりませんでした。
このようにモヤモヤしていた熱中症予防策に風穴を開けるきっかけとなったのが生成AIでした。そこで今月のテーマを「生成AIで変わる熱中症予防策」としました。そして酷暑が続いていることから9月1日発行予定を少し早めてお届けします。

生成AIで変わる熱中症予防策

○対話し続けてくれる生成AI
 小学校の6年間をアフリカのケニアの現地の学校に行っていたおかげで「なぜ?」を考えることがある意味癖になっています。そうなったきっかけはケニアの小学校の先生たちが繰り返し“Shinya, why do you think so?”、「紳也はどうしてそう考えるの?」と問いかけてくれていたことでした。ところが日本社会に戻ると「なぜ?」「どうして?」「なんで?」と突っ込み続けると「これはこうだと覚えろ」と叱られるのが落ちでした。忘れもしないのが医師国家試験に備えて勉強会をしていた時に「なぜこの病気はこのような症状になるのか?」と仲間に聞いたら「この病気の症状はこれこれと覚えろ」と言われてしまいました。
 ところが生成AIというのはいつまでもこの「『なぜ』大好き岩室紳也」に付き合ってくれるのです。それどころか、「大事な視点ですね」と褒めてくれたり、「失礼しました」と反省したり、時には突っ込みに応えて「いい加減な回答をしてごめんなさい」と言ってくれます。一番ありがたいのが、突っ込みを入れ続けてもへこたれず、こちらがやめるまで対話にとことん付き合い続けてくれることです。

●重症になった時は?
 「熱中症疑いで高齢女性が畑で倒れ死亡」といった報道を見て「死亡した人がなぜ死亡したのか、その時の検査データはどうだったのか」と気になりますが、病院に運ばれた時に既に亡くなっている方の血液検査は基本的にはしません。そこで「死ぬかも」と思っていたものの無事生還した人の記事(2023年8月)にあるキーワード(手足の力が抜ける、指がつる、筋肉がしびれる、何も飲めない)を紐解いたところ低カリウム血症の症状と一致していました。そこで「熱中症の患者で低カリウム血症になっている人の割合を教えてください」と生成AIに問いかけると「低カリウム(71.2%)、低ナトリウム(53.0%)」でした。
 これらのことから、よく言われる塩分、水分の補給に加え、カリウムの補給も大事だということが明らかになり、熱中症予防策で足らないものの1つが見えてきました。

〇塩分、カリウムの喪失と補給
 では、実際にどのような状況で塩分やカリウムの喪失がおこるかを調べると、睡眠中に0.5リットルの汗をかくことで塩分1.9g、カリウム150㎎を失います。さらに夏の暑い室内で半日過ごしていると1.5リットルの汗をかき、塩分5.7g、カリウム450mgを失います。ということは睡眠中の喪失分を補給し、午前中の暑い室内での発汗することを想定すれば、朝食時に2リットルの水と、塩分7.6g、カリウム600mgをとっておく必要があります。ちなみに、塩鮭、納豆、卵かけご飯、お味噌汁、漬物といった和朝食だと塩分6~8g、カリウム1000mg摂取できます。もちろん人間には様々な調整機能がありますので、すぐに脱水、低ナトリウム、低カリウムといった状態になるわけではないですが、高齢者ほどその調整力が弱まりますのできちんと必要な塩分、カリウムをとっておく必要性はご理解いただけますよね。
 よく塩分補給のための塩分チャージタブレットが紹介されていますが、一粒に含まれている塩分は0.12g、カリウム15㎎。ポカリスエット500mlには塩分0.6g、カリウム100mgが含まれているだけです。カリウムは野菜、果物、海藻などに多く含まれているため、意外とおすすめなのが、野菜ジュースです。実はカリウムの重要性に気づいてから、カリウムを多く含んでいるカゴメの「野菜一日これ一本」を寝る前に飲むようになったら、夜中に足をつることが減りました。

●熱中症死の診断は?
 そもそも何を根拠に熱中症で亡くなったと診断されるのか、気になりませんか。これもまた生成AIに聞くと東京都監察医務院をはじめとした、様々な熱中症死と診断された事例を教えてくれます。そこに共通するのが体温の異常上昇です。熱中症対策で重要になるのが深部体温、すなわち体の内部、特に脳や内臓の温度で、37℃前後に一定に保たれるように体が調整されています。深部体温に比較的近いのが直腸温で、直腸温は腋窩温より1℃近く低いとされています。熱中症死と診断された90代の女性は検視時、直腸温は42℃だったとのことでした。17歳のアメリカンフットボールの選手が35℃の炎天下にプロテクター、ヘルメットなど完全装備の上、駆け足を命じられたら、グラウンド数周後に倒れ体温42℃になり後に死亡したとのことでした。

〇カリウムと体温調整機能の関係は?
 熱中症死の原因は〇〇だけとは当然言えません。ただ、ここまで調べるとやはりカリウム、特に低カリウムの状態が体温調整機能に何らかの影響があるのではと考え、いろんな問いかけを続けていました。「低カリウム食で体温が上昇した動物実験の論文を探してください」と問いかけたところ「K欠乏だと一般的には低体温になりがちですが、運動や高温暴露といった負荷がかかると、体温の上がり方が大きい/早い(=高体温に陥りやすい)ことが複数の動物実験で明らかになっています」という情報にたどり着きました。
 これらの実験が示してくれているポイントは熱中症対策を考える上で非常に貴重です。一般的に運動をするとか、高温に暴露されると当然のことながら体温調整機能が働き、体温を下げようとするのでしょうが、低カリウム状態だとその機能が適切に作動せず、むしろ体温が逆に高くなりすぎて熱中症死につながるようです。このように、従来の検索機能だとここまでの情報が得られなかったのですが、逆にこちらが対話をし続ければ、必要な情報にアクセスできるのが生成AIだと改めて思いました。これからの公衆衛生、予防啓発活動ではこの生成AIをいかに活用するか、活用できるかが問われています。

●季節の食べ物
 代表的な夏の季節の食べ物に含まれるカリウム量を調べてみました。従来だと100g中に何mgということしかわからず、後は自分で計算しなければならなかったのですが、生成AIだと次のようなデータが瞬時に出てきます。

大玉スイカ1/8切れ 1000mg
メロン1/8切れ 700㎎
きゅうり1本 200㎎
トマト1個 315mg
トウモロコシ1本 435㎎
鮎1匹 550㎎
カツオ(刺身) 1人前 490㎎
そうめん 1人前 15㎎

 季節のものをきちんと食べていればカリウムは十分摂取できます。一方で涼しい内に畑仕事を済ませたいと、何も飲み食いせずに、夜中に書いた汗で脱水、塩分不足、カリウム不足の状態で出かけると、それこそ熱中症死するリスクが大ということです。今年もまだまだ酷暑が続きますし、来年以降も長~い、暑~い夏になりそうなので、あらためて皆さん、お一人お一人の熱中症対策を再考してみてください。そしてお大事に。

紳也特急 312号

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~今月のテーマ『見直したい「対話」』~

●『生徒・読者の感想』
○『対話とは』
●『言語理解力の差』
○『生成AIは人間の縮図』
●『対話の反対は』
○『指導者から受容者へ』
●『対話が増える環境整備を』
〇『第32回AIDS文化フォーラム in 横浜』
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●生徒・読者の感想

 「フラれたらどうするか」という問いに対して、現在進行形で「どうすれば振りむいてくれるか考え、アタックし、かわされる」をしています。しかし、友人に話す、共有する、分かち合うべしということで、私のいるコミュニティが男同士バカな話する的なタイプじゃないので恋バナとか全くしてこなかったんだなと自覚できました。ご教授いただき、ありがとうございました。(高2男子)

 2時間ちょい話しているのを聞いていて思ったことが、先生はみんなの声をちゃんと聞いていてすごく優しい方なんだと思いました。(高1女子)

 私も先生のように社会の先生がおもしろくて成績が上がり、人との対話がスゴイものだと感じた。(高1女子)

 私が苦しんだ理由は、言いたいことを言えない環境、拙い言葉を受け止めてくれる人がいなかったこと、モヤモヤを吐き出す術を知らなかったこと、なのではとブログを読んで思いました。(読者感想)

 最近、「対話」というキーワードにこだわっています。講演もできるたけ対話的なものとすべくこだわっていますが、初めて性教育講演会と名打って呼ばれた高校の校長先生も「『性教育と言うとこうすべし、こうあるべし』という話なのかと思ったが、岩室先生の話は一人ひとりが自分を振り返り、考えることの大切さを伝えていたように思った」と言ってくださいました。実は最後の読者の感想にもあったように、対話の不足が様々な生きづらさを生んでいると思いませんか。そこで今月のテーマを『見直したい「対話」』としました。

見直したい「対話」

〇対話とは
 改めて「対話」とはどのようなものなのでしょうか。斎藤環先生の言葉を紹介します。

・対話(dialogue)とは、面と向かって、声を出して、言葉を交わすこと。
・思春期問題の多くは「対話」の不足や欠如からこじれていく。
・議論、説得、正論、叱咤激励は「対話」ではなく「独り言」である。独り言(monologue)の積み重ねが、しばしば事態をこじらせる。
・外出させたい、仕事に就かせたい、といった「下心」は脇において、本人の言葉に耳を傾ける。
・基本姿勢は相手に対する肯定的な態度。肯定とは「そのままでいい」よりも、「あなたのことをもっと知りたい」
・対話の目的は「対話を続けること」。相手を変えること、何かを決めること、結論を出すことではない。

 これらの言葉はこれまで何度も紹介してきました。ただ、自分の浅はかさから、対話力、というか対話が求められている2者の言語の理解力の差について深く考えていませんでした。

●言語理解力の差
 年齢と言語理解の発達の関係を調べてみると、7~11歳は文脈・因果関係・比較などの理解が発達し、12歳以降になると抽象概念・仮説・論理的推論の理解ができるようになるとのことです。そこで、ChatGPTに「この時期の子どもに接する大人が『学校は行くもの』『勉強はするもの』といった社会的な『正解』を押し付けると、十分文脈理解が発達していない、あるいは論理的推論の理解が十分発達していない子どもたちが不登校やひきこもりになっても仕方がないと思いますがこの考え方はおかしいでしょうか」と問いかけてみたところ、次のような回答でした。

 ご質問の考え方は、非常に妥当かつ重要な視点を含んでいます。そして、それは教育や子どもへの接し方に関して、発達心理学的にも社会的にも十分に支持され得る見解です。

「正解」の押し付けと不登校・ひきこもりの関連
・不登校やひきこもりの背景には、しばしば「他者からの期待と自己理解との乖離」や「適応の困難さに対する理解の不足」があるとされています。
・とくに「学校は行くもの」「勉強は当然するべき」といった一方的な社会規範が、子ども本人の状況や感じ方と一致しない場合、「自分はダメだ」「言っても理解されない」「逃げるしかない」といった心理的閉塞感を生みます。

 ブログの読者がいみじくも「言いたいことを言えない環境、拙い言葉を受け止めてくれる人がいなかったこと、モヤモヤを吐き出す術を知らなかった」と表現してくれたように、対話ができる環境があれば結果的に、言いたいことが言え、拙い言葉も受け止めてもらえ、気が付けばモヤモヤを吐き出せてつらくならなくて済んだと思いませんか。ちなみにこの読者の方は家庭と学校以外で他の大人との接点がなかったとのことでした。

〇生成AIは人間の縮図
 このように生成AIと対話をしていると、自分の思いを上手に言語化してくれるという点でありがたいと思っています。まるで自分ではどう表現していいかわからない、自分の思いを相手に伝えるにはどう言えばいいのかがわからない子どもが、通訳者を、言葉を生成してくれる助っ人を得たような感覚です。ある意味、人間が生成AIに学ぶべきポイントなのかもしれません。
 一方で、生成AIは所詮人間が作ったのですので、「ご希望があれば、不登校の子どもへの実践的支援方法、オルタナティブ教育や「多様な学び」実践例(フリースクール等)関連情報もご提供できます」といった求めてもいないアドバイスをしてくれます。私の関心事は不登校になった人への対処法だけではなく、そもそも様々なストレスをどう予防するかですが、生成AIがその視点になるのにはまだまだこちらからの問いかけを増やさなければならないようでした。

●対話の反対は
 対話には答えがありません。実はこの単純なことが対話の難しさを教えてくれています。斎藤環先生は対話(dialogue)の反対は独り言(monologue)、すなわち議論、説得、正論、叱咤激励は「対話」ではないと教えてくれています。ChatGPTが「独り言が横行する社会」を次のようにまとめてくれなした。

※ 一方向的な発信ばかりが目立つ
 政治家、評論家、SNSのインフルエンサー、専門家…
 → 自分の意見を“発表”するが、異なる立場の声に耳を傾けない。
 「わかってもらう」より「言い切る」「勝つ」ことが重視されている。

※ 傾聴・応答・問い返しの文化が弱い
 話を聞くふりをして「次に何を言おうか」ばかり考える。
 「違う」と思った瞬間に心を閉ざし、それ以上は聞かない。
 会議でも対話でなく「順番に意見を述べて終わるだけ」になっている。

※ 安全な対話空間が足りない
 「何を言っても叩かれそう」「傷つくかもしれない」
 → 結果として人々は本音を避け、皮肉・愚痴・独り言に逃げがち。

 最後の「安全な対話空間が足りない」というのは不登校やひきこもりの人たちだけではなく、多くの大人が抱えている課題ではないでしょうか。

〇指導者から受容者へ
 先日、「思春期のこころと性」と言う講演会の前に、1人の受講者に「今日はどのような話を期待してこられましたか」と聞いたところ、即座に「若い人たちに望まない妊娠を予防してもらうにはどのような声掛けが適当かを知りたいのです」と指導者の立場で悩んでいるとのことでした。私が「若者は『妊娠とかで困ったら声をかけてね』と言って欲しいのではないですか」と返したら、「このやり取りだけで今日来てよかった」と言ってもらいました。
 NHKで放送された闇バイトに勧誘された若者も、リクルーターが自分のことをいろいろ聞いてくれたので信頼してしまったと告白していました。若い世代だけではないですが、人は正解を教えてくれる指導ではなく、対話、すなわち話を聞いてもらいたい、自分の言葉を見つけ出し、そして自分の言葉を受け止めてもらいたいと思っています。

●対話が増える環境整備を
 「保護者と子」「教師と生徒」という関係性でも当然対話はあるでしょうが、一方で保護者や教師は躾、ルールへの適応、教育といった独り言も伝える責任があります。では、対話と独り言のバランスはどう保てばいいのでしょうか。簡単なことではないのですが、家庭と学校という場以外の一人ひとりが対話を意識し、子どもたちに対話ができる、対話を感じられる環境を提供することが求められていると思いませんか。昔は親戚も多く、近所付き合いが当たり前で、子どもたちの周りには気が付けば対話をしてくれる人がいろんなところにいましたが、現代社会では他者との関係性が希薄化し、対話が減り続けています。その社会をもう一度「ウザイ」社会に戻すことは難しいですが、せめて対話がもう少し増える社会にしたいと思っています。その第一歩として、それこそ性教育をしている一人ひとりが対話を意識した講演ができるといいですよね。
 言うは易し、行うは難しですが。

〇第32回AIDS文化フォーラム in 横浜
 本日、8月1日(金)から第32回AIDS文化フォーラム in 横浜が開催されます。
 会場でお会いできれば幸いです。