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■■■■■■■■■■■ 紳也特急 vol,318 ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『正解依存症社会』~
●『生徒の感想』
○『選挙で考えたこと』
●『有権者の正解』
○『制度ファーストの社会』
●『なぜ制度が生まれたか?』
○『「正解」がない「対話」を』
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●生徒の感想
性についてこんなにデリカシーなく面と向かって聞いたのは初めてだったので、なんだか楽になったというか、もっと気楽にこういう話もできるようになれたら人との距離も縮まるのかなとかを思いました。(高1女子)
めっちゃ踏み込んでくれたから反応がしやすかった。(高1女子)
他の講演とかはこちらに質問とかをかけてくるのが少なかったから、講演している人とのコミュニケーションをとるのは珍しいし、楽しいと思った。今の世の中に遠慮している人が多いから講演していた人はとても尊敬できると思った。(高1男子)
岩室先生の話し方や生徒への積極的な質問などで、すぐ心に惹かれました。聞いてて面白かったです。機会があれば、個人的に話もしてみたいなと思います。(高1男子)
コミュニケーションを取ることがお互いについて知ることが相手の理解だけでなく、自分の心の豊かさを高めることが分かり、もっと多くの人とコミュニケーションを取っていきたいと思いました。(高1男子)
親がHPVやコロナ、インフルなどワクチンを打つなと言っていて、不安を感じていたけど、先生の話を聞いてなぜ打たないといけないのかを知ることで不安が解消された。(高1女子)
私の講演を聞いてくれた生徒さんの感想は本当に勉強になります。今回は「デリカシーなく」「反応がしやすかった」「遠慮している人が多い」「面白かった」「心の豊かさ」「なぜ」といった言葉に勇気づけられ、知的障がいをかかえている生徒さんに話をさせていただいたところ、先生方から「あんなに食い入るように聞いていたのにはびっくりした」という声をいただきました。もちろん言葉にしない、できない、したくない否定的な意見も多々あると思いますが、いろんなとらえ方があることをもっと共有したい、共有する必要があると思いました。
若者は柔軟に考え、表現してくれる一方で、それができないのが大人社会だと思い知らされています。柔軟か否かの違いは正解に依存しているか否かのように感じたので今月のテーマを「正解依存症社会」としました。
正解依存症社会
〇選挙で考えたこと
今月号のメルマガを書いている時に衆議院が解散され、来週選挙になります。支持率が高い人は解散して自分の基盤を固めたいと思い、危ないと思った人たちはそれまでの主張を捨て、相容れないはずだった人たちが合体して何とかこの選挙を勝ち抜こうとし、議員バッジを失っていた人は何とかバッジを取り戻すべくいろんな人とのつながりを利用しています。これは決して皮肉でもなく、もし自分が国会議員だったら、国会議員を目指していたら、まずは自分が当選し、しかも当選するだけではなく自分の思いを実現できる環境づくりをしようとしますよね。
マスコミはそのような政党の姿勢を問題視して取り上げていますが、選挙民のことはほとんど取り上げていません。ここ4回の衆議院議員選挙の投票率は52.7~55.9%ですが、あまりにも低いと思いませんか。年代別に見ると60代は68.0~72.0%、50代は59.2~63.3%、30代以下は50%を下回り、20代は32.6~36.5%、10代は39.4~43.2%でした。ちなみに政権交代が起きた年の投票率は2009年が67.5%、2012年は69.3%でした。
私も学生時代はあまり選挙に行かなかったので偉そうに言えませんが、社会人になってからは必ず行くようになりましたし、特定の政治家を応援するようになりました。民主主義を選んでいる以上、政治について考え、自分なりにできる事を積み上げたいと思っています。
●有権者の正解
実は今回の選挙で、誰とは言いませんが当選してもらいたい人がいます。もし皆さんにそのような人がいたら、その人の行動を皆さんの「正解」に当てはめるでしょうか。それとも「政界」はそんなもんだと、少々異論はありつつもその人を応援するでしょうか。今回の選挙で様々な現実に直面し、改めて選挙はきれいごとではないと思いました。
実はこの2026年3月31日で長年勤めてきた厚木市立病院を退職します。公的な医療機関で70歳まで非常勤職員として勤務させていただいたことに感謝をしつつ、いろんな壁にぶち当たっています。厚木市立病院を退職した後、ある開業医の先生のご理解を得、そのクリニックでHIV(エイズウイルス)に感染している人の診療を継続することが出来そうな状況になっています。「それはよかったですね」と多くの方に言っていただいているのですが、残念ながらそこには大きな壁が立ちはだかっていました。その壁を打ち破るべく動いてくださった方を今回の選挙で応援したいと思っています。それはそれとして、なぜ厚木市立病院にかかっていた患者さんが、すんなり開業医にかかれないかを紹介したいと思います。
〇制度ファーストの社会
今回の選挙で「生活者ファースト」と言っている人たちがいますが、その人たちにこそ私は「制度ファーストの社会を変えて」と言いたいです。HIVに感染している人は今やきちんと薬を飲み続ければ天寿を全うできるだけではなく、パートナーとコンドームなしのセックスをしても相手を感染させません。しかし、医療費は年間200万円以上、3割負担でも60万円になるので、負担を減らす制度の一つが自立支援医療です。ただ患者さんがこの制度を利用するためには、かかる医療機関が、神奈川県で言えば神奈川県が指定した自立支援医療機関でなければなりません。しかも、そのような指定を受けるためのルール(5年以上のHIV診療経験がある常勤医がいること:2006年の厚生労働省通知)があります。すなわち、HIVの診療経験が30年以上もある岩室紳也であっても、非常勤職員だとこの制度を使って患者さんを診療することができません。一方でこの指定自立支援医療機関を指定するのは自治体なので、自治体の判断で診療経験がない医師しかいない医療機関が指定されているところもあります。
●なぜ制度が生まれたのか?
生成AIに「人間社会で制度が生まれた背景」を聞くと、「人が集まると、1.争いが起きる、2.不平等が固定化する、3.責任の押し付け合いが起きる」から制度が必要と言っています。すなわち、制度が必要とされる理由は、個々の状況や価値観に左右されず、誰もが公平に医療サービスを受けられる環境を整えるためです。HIV/AIDSでは、経済的な負担だけではなく、社会的な偏見に加え、医療者の中にも未だに偏見、差別が存在しています。そのため、昔は制度をつくることで、医療の質を確保し、患者さんが安心して医療機関を受診できるようにしたことは理解できます。
しかし、医療の進歩と共に制度の見直しが求められており、厚生労働省のエイズ対策推進室も地域の一般の医療機関(開業医等)での診療の必要性を昨年発表した指針の中で示しました。しかし、自立支援医療制度を管轄している部署は厚生労働省内の別の局なので制度改正まで踏み込めていません。
〇「正解」がない「対話」を
今回、制度の壁にぶち当たりながら、厚生労働省、神奈川県だけではなく、いろんな自治体と話をさせていただいています。皆さん、真摯に話を聞いてくださるのですが、結局のところ、行政機関は制度、法律を守ることが使命であり、ルールに則った正解か否か、〇か×かが判断材料でした。生成AIに「行政とは」と聞くと「国や地方自治体(市役所など)が法律やルールに基づいて、国民の生活を支え、公共の利益のために行う仕事全般のこと」と教えてくれました。すなわち「ルールに基づいて行動する」ことが求められています。
一方で柔軟な対応ができている自治体の話を伺うと、ちゃんと患者ファーストで考え、いろんな人との対話の中から、制度を柔軟な発想で解釈していました。生成AIも「行政には裁量的行為(法律の範囲内で、行政が判断を選ぶことができる)が許されている」と教えてくれましたが、逆に「選ばなくてもいい」とも読み取れます。
ふと思ったことです。対話には正解はありませんが、会話だと往々にして正解が顔を覗かせます。確かに患者ファーストの視点で交渉をしても、制度ファーストの視点にいつも押し返されています(苦笑)。まだまだ当たれるところには当たりながら、何とかあと2カ月ですが、患者ファースト、患者さんがかかりたい医者にかかれる制度運用を実現したいと思っています。皆さん、お知恵を貸してください。よろしくお願いします。