熱心に包皮翻転指導に取り組んでくださっている先生が、理解が得られず困って質問してこられました。このような先生方が少しずつ増えてくださると子どもたちのおちんちんの未来が開けると期待しています。
Q1.乳児健診や三歳児健診を担当しています。そのときにおちんちんがどこまで剥けるか診ていますが、ときどき、剥けているのにまったく剥いて洗っていなくて汚れがきっしりついているお子さんがいます。ここまで剥けるからこれからは剥いて洗って戻してあげてねというのですが、そのときに少しだけ出血してしまう子がいます。でも、その子が近くの医師にかかって、こんなこと保健センターでするなんてと言われ、びっくりして「ひどい炎症になり排尿時に痛がってしまっています」とクレームが来ていますと注意されました。どうも複数であるということのようです。出血しても大丈夫だということを言っていますが、そのあとのフォローまでは自分でできないので、後の先生にそのように言われるとなんてひどいことをするのだということになるようです。それでも、やはり、剥けているのに放置というのもよくないと思うのですが、どんなものでしょうか?確かに無理に剥くのはよくないと思いますが、汚れをためたままの方が不潔だと思いますが。
ちなみに、介助についてくださっている看護師さんに聞いてみたところ、女の先生はきちんと剥けるか見てくれる先生が多く、男の先生は精巣の位置だけ診ておちんちんには触らない人が多いと聞いて、私はさらに驚きました。この問題にどう対処するといいでしょうか?
A1:小児科の先生がおちんちんの清潔に関心を持っていただけるのは大変ありがたいことです。一方でご経験されているように、対応次第ではとんでもない逆切れに逢う可能性があります。先生がおっしゃっているように「(少々)出血しても大丈夫。そのまま剥き続けてきれいにし続けましょう」で医学的には大丈夫ですが、そのことを理解していない小児科医が少なくありません。そのため先生が理不尽な指摘を受け、結局はその子のためと思ったことが伝わらないのだと思います。
で、どうするかですが、私は健診の時は出血する一歩手前で止めておくことをお勧めしています。そして「今日は健診なのでこの程度にしているけど、中に垢が溜まって炎症を起こすことがあるので、家では『剥いて洗ってまた戻す』を繰り返しましょう。もちろん勢い余って血が出ることもあるけど(という言い方は「血が出るのはお母さんが力を入れたから」とある意味責任転嫁をするずるい言い方です)心配はありません。剥いて洗ってもどしておけばすぐ血は止まります。」と説明すればトラブルは少しは減るのではないでしょうか。
健診会場にいる保健師さんや助産師さん、看護師さんにはいろんなレベルの方がいますので、おちんちんの清潔の意味を少し大きな視点で伝える必要があるようです。最近は「陰茎がんはむけない包茎、洗えない包茎にしか起こらず、その原因の一つがHPV」ということを伝えています。剥いて洗うことでがん予防というのは結構インパクトがあるようです。さらに昨今話題になっているHPVがワクチンなしで予防できるとなると(逆に女性は洗えないので予防するならノーセックスかワクチンということになりますが)関心を持ってもらえるようです。
いずれにせよ、医療者が一番科学的に物事を考えられないというのはいつも感じていることです。前立腺がんのPSA検診がその最たるものですが・・・・・
Q2:健診会場というあわただしく流れ作業の場で、よかれとおもってやったたことが、信頼関係もきちんと作れてなかったために不安なお母さんをさらに不安にさせるということをしてしまったのですね。反省します。
同様のことを外来小児科学会のMLで言われました。包茎は剥かない方がいいという方もいらっしゃり、
「出生時には亀頭と包皮は癒着しており、双方の表皮が落屑して貯まったのが恥垢です。この恥垢が亀頭と包皮の間に介在するため、亀頭と包皮の再癒着が防止できているのだと思われます。それゆえ、恥垢を取り除いたり、包皮を無理に翻転させて出血させることで炎症後瘢痕をおこすと再癒着する可能性があります。包皮亀頭炎などの感染を繰り返す場合は別にして、恥垢を取り除くメリットはないと思います。」というのが、その先生のご意見です。恥垢は。単純に不潔だからきれいにすると思っていましたが。また、恥垢は亀頭包皮炎のリスクにはならないのでしょうか?おちんちんがきれいな方がお母さんもうれしいと思うんですけれど・・・という単純な理由です。
A2:「恥垢」というだけで不潔という発想は科学的ではありません。炎症が起こるには亀頭包皮炎のように細菌感染が必要条件となります。そのためには包皮と亀頭部の隙間に細菌の侵入と細菌の増殖が起こる必要があります。
ただ正直に言うと「この垢が溜まっているといやですよね」といった言葉で保護者に「きれいにしましょう」という動機づけをしていることは事実です。
一方で「包皮炎を繰り返す」ことを積極的対処の根拠にしている先生には反論します。
1.清潔を目標としているのであれば、予防的に包皮翻転指導をして亀頭包皮炎を予防するようにすべき。
2.小児科医の先生たちは思春期の状況について不勉強(もちろん全員ではありませんが)のため、包茎を放っておいてもいずれ(自分の経験のように)自然にむけるようになると錯覚しています。
本来はこのような議論をすべきですが、残念ながら性器の問題は個人の非科学的な判断にゆだねられているのが現実です。ぜひ先生には科学的な対処をお願いできればと思っています。
Q3:恥垢が再癒着を防いでいるというのは正しいですか?
A3:恥垢が再癒着を防いでいるというのは「正確」ではないですが「事実」です。というのもそこに恥垢が存在すれば、亀頭と包皮が癒着するのを邪魔しています。
Q4:出血すると、再癒着するからやめた方がいいということも言われましたが、いかがでしょうか?
A4:「出血すると再癒着する」は非科学的です。「剥離をしたところは再癒着する可能性がある」ので「再癒着をさせないために剥き続ける必要がある」というのが科学的な答えです。
Q5:小児科医の間でも、診察やアドバイスがこれほど変わるものはあまりないように思いました。
A5:このように「経験値」だけで持論(自論)を展開する方がいるのは本当に情けなくなります(苦笑)。
Q6:先生が監修された小冊子はどのようにしたら手に入れることができますか?
どこかの保健センターで見かけたことがあるのですが・・・
A6:「おちんちん」(家族計画協会)は以下にご連絡いただければ購入できます。
一般社団法人 日本家族計画協会
〒162-0843 東京都新宿区市谷田町1-10 保健会館新館
tel : 03-3269-4727 fax : 03-3267-2658 HP : https://www.jfpa.or.jp/
ご自身で購入して配布してくださっている小児科の先生もいますし、自治体が配っているところもあります。