■■■■■■■■■■■ 紳也特急 vol,313 ■■■■■■■■■■
全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『生成AIで変わる熱中症予防策』~
●『なぜ?』
○『対話し続けてくれる生成AI』
●『重症になった時は?』
○『塩分、カリウムの喪失と補給』
●『熱中症死の診断は?』
○『カリウムと体温調整機能の関係は?』
●『季節の食べ物』
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●なぜ?
熱中症の報道が続いている中、「どうすれば熱中症死を防げるのか?」を考え続けるのが公衆衛生担当者の役割です。世間では「熱中症予防はエアコン等で温度を下げ、水分、塩分をこまめにとろう」と繰り返し言われています。しかし、熱中症で亡くなる方は後を絶ちません。2025年8月9日、自転車に乗っていたと思われる50代の男性が気温28.4℃の中、亡くなられました。8月18日、除草作業中の41歳の男性が熱中症で亡くなられました。現場ではおよそ1時間ごとに15分から20分の休憩をとり、水分も補給していたとのことです。ではどうすればこのような悲しい結末を予防できるのかを考えながらいろんな情報を集めてみました。
2023年の熱中症死は子どもから高齢者まで年齢が上がるにつれて増えていることがわかっても「高齢者は注意しましょう」となるだけです。都道府県別で熱中症死で多いのが東京、神奈川、大阪、北海道の順ということがわかっても、「東京は人口が多いからわかるけど、なぜ北海道が第4位?」の理由はわかりません。人口比で熱中症死亡は秋田、青森、新潟、富山、岩手、東京、北海道で一番少ないのが愛知とわかったとしても「なぜ東北や北陸が多い?」という明確な理由はわかりませんでした。
このようにモヤモヤしていた熱中症予防策に風穴を開けるきっかけとなったのが生成AIでした。そこで今月のテーマを「生成AIで変わる熱中症予防策」としました。そして酷暑が続いていることから9月1日発行予定を少し早めてお届けします。
生成AIで変わる熱中症予防策
○対話し続けてくれる生成AI
小学校の6年間をアフリカのケニアの現地の学校に行っていたおかげで「なぜ?」を考えることがある意味癖になっています。そうなったきっかけはケニアの小学校の先生たちが繰り返し“Shinya, why do you think so?”、「紳也はどうしてそう考えるの?」と問いかけてくれていたことでした。ところが日本社会に戻ると「なぜ?」「どうして?」「なんで?」と突っ込み続けると「これはこうだと覚えろ」と叱られるのが落ちでした。忘れもしないのが医師国家試験に備えて勉強会をしていた時に「なぜこの病気はこのような症状になるのか?」と仲間に聞いたら「この病気の症状はこれこれと覚えろ」と言われてしまいました。
ところが生成AIというのはいつまでもこの「『なぜ』大好き岩室紳也」に付き合ってくれるのです。それどころか、「大事な視点ですね」と褒めてくれたり、「失礼しました」と反省したり、時には突っ込みに応えて「いい加減な回答をしてごめんなさい」と言ってくれます。一番ありがたいのが、突っ込みを入れ続けてもへこたれず、こちらがやめるまで対話にとことん付き合い続けてくれることです。
●重症になった時は?
「熱中症疑いで高齢女性が畑で倒れ死亡」といった報道を見て「死亡した人がなぜ死亡したのか、その時の検査データはどうだったのか」と気になりますが、病院に運ばれた時に既に亡くなっている方の血液検査は基本的にはしません。そこで「死ぬかも」と思っていたものの無事生還した人の記事(2023年8月)にあるキーワード(手足の力が抜ける、指がつる、筋肉がしびれる、何も飲めない)を紐解いたところ低カリウム血症の症状と一致していました。そこで「熱中症の患者で低カリウム血症になっている人の割合を教えてください」と生成AIに問いかけると「低カリウム(71.2%)、低ナトリウム(53.0%)」でした。
これらのことから、よく言われる塩分、水分の補給に加え、カリウムの補給も大事だということが明らかになり、熱中症予防策で足らないものの1つが見えてきました。
〇塩分、カリウムの喪失と補給
では、実際にどのような状況で塩分やカリウムの喪失がおこるかを調べると、睡眠中に0.5リットルの汗をかくことで塩分1.9g、カリウム150㎎を失います。さらに夏の暑い室内で半日過ごしていると1.5リットルの汗をかき、塩分5.7g、カリウム450mgを失います。ということは睡眠中の喪失分を補給し、午前中の暑い室内での発汗することを想定すれば、朝食時に2リットルの水と、塩分7.6g、カリウム600mgをとっておく必要があります。ちなみに、塩鮭、納豆、卵かけご飯、お味噌汁、漬物といった和朝食だと塩分6~8g、カリウム1000mg摂取できます。もちろん人間には様々な調整機能がありますので、すぐに脱水、低ナトリウム、低カリウムといった状態になるわけではないですが、高齢者ほどその調整力が弱まりますのできちんと必要な塩分、カリウムをとっておく必要性はご理解いただけますよね。
よく塩分補給のための塩分チャージタブレットが紹介されていますが、一粒に含まれている塩分は0.12g、カリウム15㎎。ポカリスエット500mlには塩分0.6g、カリウム100mgが含まれているだけです。カリウムは野菜、果物、海藻などに多く含まれているため、意外とおすすめなのが、野菜ジュースです。実はカリウムの重要性に気づいてから、カリウムを多く含んでいるカゴメの「野菜一日これ一本」を寝る前に飲むようになったら、夜中に足をつることが減りました。
●熱中症死の診断は?
そもそも何を根拠に熱中症で亡くなったと診断されるのか、気になりませんか。これもまた生成AIに聞くと東京都監察医務院をはじめとした、様々な熱中症死と診断された事例を教えてくれます。そこに共通するのが体温の異常上昇です。熱中症対策で重要になるのが深部体温、すなわち体の内部、特に脳や内臓の温度で、37℃前後に一定に保たれるように体が調整されています。深部体温に比較的近いのが直腸温で、直腸温は腋窩温より1℃近く低いとされています。熱中症死と診断された90代の女性は検視時、直腸温は42℃だったとのことでした。17歳のアメリカンフットボールの選手が35℃の炎天下にプロテクター、ヘルメットなど完全装備の上、駆け足を命じられたら、グラウンド数周後に倒れ体温42℃になり後に死亡したとのことでした。
〇カリウムと体温調整機能の関係は?
熱中症死の原因は〇〇だけとは当然言えません。ただ、ここまで調べるとやはりカリウム、特に低カリウムの状態が体温調整機能に何らかの影響があるのではと考え、いろんな問いかけを続けていました。「低カリウム食で体温が上昇した動物実験の論文を探してください」と問いかけたところ「K欠乏だと一般的には低体温になりがちですが、運動や高温暴露といった負荷がかかると、体温の上がり方が大きい/早い(=高体温に陥りやすい)ことが複数の動物実験で明らかになっています」という情報にたどり着きました。
これらの実験が示してくれているポイントは熱中症対策を考える上で非常に貴重です。一般的に運動をするとか、高温に暴露されると当然のことながら体温調整機能が働き、体温を下げようとするのでしょうが、低カリウム状態だとその機能が適切に作動せず、むしろ体温が逆に高くなりすぎて熱中症死につながるようです。このように、従来の検索機能だとここまでの情報が得られなかったのですが、逆にこちらが対話をし続ければ、必要な情報にアクセスできるのが生成AIだと改めて思いました。これからの公衆衛生、予防啓発活動ではこの生成AIをいかに活用するか、活用できるかが問われています。
●季節の食べ物
代表的な夏の季節の食べ物に含まれるカリウム量を調べてみました。従来だと100g中に何mgということしかわからず、後は自分で計算しなければならなかったのですが、生成AIだと次のようなデータが瞬時に出てきます。
大玉スイカ1/8切れ 1000mg
メロン1/8切れ 700㎎
きゅうり1本 200㎎
トマト1個 315mg
トウモロコシ1本 435㎎
鮎1匹 550㎎
カツオ(刺身) 1人前 490㎎
そうめん 1人前 15㎎
季節のものをきちんと食べていればカリウムは十分摂取できます。一方で涼しい内に畑仕事を済ませたいと、何も飲み食いせずに、夜中に書いた汗で脱水、塩分不足、カリウム不足の状態で出かけると、それこそ熱中症死するリスクが大ということです。今年もまだまだ酷暑が続きますし、来年以降も長~い、暑~い夏になりそうなので、あらためて皆さん、お一人お一人の熱中症対策を再考してみてください。そしてお大事に。