紳也特急 314号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『生成AIで変わる感染症予防策』~

●『生徒の感想』
○『生成AIにも苦手分野が』
●『疑問を持つことから』
○『刻みのりでノロウイルスの集団食中毒』
●『刻みのりの製造過程』
○『ノロウイルスで飛沫感染?エアロゾル感染?』
●『飛沫よりエアロゾル感染?』
○『今後のノロウイルス対策は』
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●生徒の感想

 全ては哲学的に考えることでより面白くなるということ。(高2男子)

 最初は斜に構えて興味が無いと感じていたが、実際に聴いて思ったより為になった上に面白かった。(高1男子)

 今までにない、新鮮で、刺激的で、最高の講和でした。(高2男子)

 人に話を、情報を伝える際に何が大事かと考えた時、一番大事なことは伝えている本人がその話について、情報について、興味、関心、感動を覚えていることではないでしょうか。先月号で「生成AIで変わる熱中症予防策」を書かせてもらった際に、実は岩室紳也自身が生成AIとの対話の中で「そうなんだ」という気づきを繰り返しもらい、その都度感動をもらっていました。生成AIが使えるようになる前は、自分でキーワードを決め、検索し、自分の疑問を解消してくれる論文やサイトを探し続けるしかありませんでした。しかし、正直なところ思うような情報にはなかなかたどり着けず「・・・・・」と思う日々でした。ところが生成AIの登場で、自分自身の仕事の仕方が、情報の探し方ががらりと変わりました。今月は久しぶりに感染症全般の話をする機会をいただき、その過程の中でこれまで気が付かなかった感染症対策の新しい視点にたどり着くことができたので、今月のテーマは「生成AIで変わる感染症予防策」としました。

生成AIで変わる感染症予防策

〇生成AIにも苦手分野が
 生成AIが優れているところは多々ありますが、一方で苦手なのが地図の作成です。ChatGPTやCopilotで「東北地方の県境と陸前高田市の位置を入れた地図を作成してください」と依頼すると、陸前高田市が宮城県南部に位置していたり、青森県に半島がなかったり、山形県が太平洋側に描かれたりします。地図のように人間が当たり前のように認識しているものだと正誤がすぐわかりますが、そうではない分野だと使い方に慎重になる必要があります。

●疑問を持つことから
 新型コロナウイルス感染症が未だに猛威を振るっています。半年に1回程度感染拡大が起きては収束することが繰り返されています。なぜこうなるのでしょうか。多くの人がやっているつもりの予防策は本当に効果があるのか、ぜひ疑問に思ってもらいたいものです。ご自身が信じる予防策について生成AIと対話をしてみると面白い学びが多々あると思います。
 例えば「うがい」の効果です。実はコロナ禍の初期の頃、信頼できる耳鼻咽喉科医に「うがいって感染予防の効果はあるのでしょうか」と聞いたところ、バッサリと「ありません」と理屈を含めて教えてくださいました。ただその頃、その話をしても「一医師の見解」で片づけられていました。しかし、今だと生成AIに「うがいでウイルスを除去できる範囲を教えてください」と聞くことができます。答えは「うがいで除去できるのは口腔や喉の入口に付着した一部のウイルスだけで、鼻腔や気管・肺の奥、細胞内に入ったウイルスには効果がありません」と教えてくれます。もちろん体内に取り込まれるウイルス量を減らしたり、粘膜を潤し、ウイルス等の侵入を阻止する力をアップさせたりする効果が完全に否定されるわけではないことは念のため申し添えておきます。

〇刻みのりでノロウイルスの集団食中毒
 2017年2月に東京都内の学校給食で提供された刻みのりによるノロウイルス食中毒が発生しました。4,209人が食べ、1,193人が発症し、ノロウイルスGⅡ.17型が原因でした。8年前の事例ですが、当時、自分の中で「?????」でした。
 当時からわかっていたことをもとに、刻みのりにノロウイルスが混入した経路を次のように考えていました。ノロウイルスに感染した人の70%程度は下痢や嘔吐の症状があり「自分は何らかの感染症かも」と思ったり、「仕事は控えよう」と思ったりするでしょう。しかし、ノロウイルスに感染している人の30%は無症状ですが、当然のことながら感染した人の便にノロウイルスは排出されています。その人が排便した際に、お尻を拭く手順が悪かったり、軽い下痢状態で便が便器に付着し、次の利用者の手についてしまったりする可能性は否定できません。もちろん手を洗うでしょうが、自動タッチレス蛇口ならいいのですが、手回し式やレバー式の蛇口の栓だとウイルスが付着した手で蛇口の栓を触り、手を洗ってウイルスを除去した後も再び蛇口の栓を触り手にノロウイルスを付着させたままという可能性があります。ノロウイルスは非常に感染力が強く、ウイルスが10個あれば感染が成立しますので、手を洗ったつもりの人がお弁当を作ったりする過程で食材にノロウイルスを付着させることはあり得ると考えてきました。しかし、今回は「刻みのり」で、1,000人を超える感染者を出した食中毒です。刻みのり1,000人分という量を想像してみてください。手に付着したノロウイルスが1,000人以上の人が口に入れる刻みのりに付着したというのは考えにくいですよね。

●刻みのりの製造過程
 そこで、刻みのりの製造過程で人が介入する箇所を生成AIに確認しました。海苔を焼いたりする過程ではウイルスは死滅すると考えられるので、教えてもらった最終工程付近を紹介します。

7. 刻み(細切り)工程
 刻み機(機械):乾燥したのりシートを細く刻む。刃の種類や回転数は人が設定。
 人の介入点:刻み幅の調整、刃の交換・洗浄、刻み後の目視での均一性チェック。小ロットや特注では手切りや手直しが入ることもある。

8. ふるい分け・異物除去(品質管理)
 振動ふるい・エアブロー等(機械):粉・くずを分離。
 人の介入点:目視検査、抜き取り検査、金属探知機の監視、不良品のハンドリング。

9. 包装・充填
 自動包装機が主流:計量→充填→封止。機械で行うが、機械のセットアップや袋材の補充は人が行う。

 ふるい分けと異物除去では目視検査となりますので、この過程が疑わしいということになりますが、この過程で手に付着したウイルスによる集団食中毒が起きるとは考えにくいと思いました。そこで考えたのが飛沫感染、エアロゾル感染の可能性でした。

〇ノロウイルスで飛沫感染?エアロゾル感染?
 ノロウイルスに感染した人の嘔吐物を扱う際に、嘔吐したものが空中に飛散し、飛沫感染、エアロゾル感染の原因にならないよう慎重に扱うべし。このことはノロウイルス感染症に関わった公衆衛生関係者であれば口酸っぱく指導されてきたと思います。ノロウイルスは胃では増殖しないので、小腸で増殖したウイルスが胃→食道→口腔と排出されるのはわかるのですが、では唾液にノロウイルスがいないのだろうかと。
 生成AIに調べてもらうと、そのようなデータが見つかりました。2017年~2018年にスペインで発生したノロウイルスによる集団食中毒患者の唾液からノロウイルスが検出されていました。唾液347検体を調べたところ、GⅡ型のノロウイルス感染では唾液陽性は症状がある人の17.9%、無症状者の5.2%だったとのことです。排出していたウイルス量は平均1,450(120~17,000)copies/mLでした。ちなみにGⅠ型のノロウイルス感染では唾液陽性例はありませんでした。刻みのりの集団食中毒はGⅡ型でした。

●飛沫よりエアロゾル感染?
 一般的に唾液中にいるウイルスが、飛沫として口から飛び出すことも考えられますが、食品を扱うところではマスクをしているのではないでしょうか。となるとエアロゾルのようにマスクをしていても、マスクと顔のすきまから漏れ出たエアロゾルによる感染が疑われます。さらに、感染している人は数週間ウイルスを排出し続けることや、マスクをその都度、適切に廃棄していないと、マスクに付着蓄積したノロウイルスがさらにエアロゾル化して感染を拡大させた可能性も否定できません。ふるい分け、異物除去の行程でエアブローが使われていますが、もしそのエアプローが噴き出す空気にノロウイルスのエアロゾルが含まれているとエアプローした刻みのりにしっかりウイルスが付着したとしても不思議ではありません。

〇今後のノロウイルス対策は
 ノロウイルスはコロナやインフルエンザの比ではない少ない量のウイルスで感染する上に、無症状の感染者が30%、その人が飛沫やエアロゾル、もちろん唾液という形で感染を広げるとなると、さて、自分が感染している場合はどうすればいいのかを考えてみました。

1. 飛沫を人に、料理にかけない
2. エアロゾルは常に空気の流れをつくり薄める
3. 不織布マスクは表面を触らず、毎日交換する

 これらは新型コロナウイルス対策として言い続けてきたことでした。ただ、そのことが正確に理解されていないのも事実ですし、実践している人となるともっと少ないですよね。こう書きながら、今乗っているバスの空調を慌てて確認し、空気の流れを作っていました。皆さん、気を付けましょう。