紳也特急 146号

~今月のテーマ『関わり、学び続ける環境を』~

●『メール相談から』
○『関わりで解消する混乱』
●『手段と目的』
○『「答えを探す」という発想』
●『経験に学ぶ原発事故予防』

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●『メール相談から』
 こんにちは。はじめまして。私は先生が講演してくださった○○高校の三年生です。もうすぐ付き合って2ヶ月の彼氏がいます。今日、その彼氏と少し先までいきました。なんだか雰囲気でいってしまい、最後までするのはなんとか絶えたのですが。
 先生、私は今の彼氏が好きです。今日も彼氏のうちに遊びにいったからなんとなくそうなるんじゃないかな?とは思ってはいましたが、お互い初めてなので大丈夫だろう。そう思ってました。
 先生、もう一度言います。私は今の彼氏が好きです。好きですが、やっているとき、言いようのない不安に襲われて物凄く泣きたくなりました。けど、泣いたら彼氏が困るだろうかと思い泣きませんでした。私はただ一緒にいれれば良かったんです。
 なんだか自分の言いたいことがよくわからなくなってきました。変な文章ですいません。彼氏が好きです。好きですが次会うのが怖いです。初めてだから。という事もありますがとても怖いです。不安で不安で、怖いです。
 ねぇ、先生。私はどうしたらいいですか?
 年間100校以上で講演していますが、講演後に相談メールが来ると勉強になります。講演から何かを感じ、自分の中でどう租借したのかが見えてきます。
「女の子はセックスなんてしたいと思っていない」という私のメッセージを通して、「私はただ一緒にいれれば良かったんです」ということに気づき、でも彼が好き。この葛藤が一人ひとりを強くするのでしょうね。もちろん私に相談したからと言って、正解や答えがあるはずもありません。ただ、一人で葛藤していると気が付けば考えることを放棄するという逃げ道に迷い込むこともあるので、その問題を一緒に考え続ける人として私がいることも大事なのでしょう。インターネットというのは掲示板を含めて悩みを誰かに聞いてもらえる、カウンセリングしてもらえる素晴らしい環境だと改めて気づかされました。と同時に、私自身も「彼氏が困るから泣かない」といった新たな学びをもらい続けています。そこで今月のテーマを「関わり、学び続ける環境を」としました。

『関わり、学び続ける環境を』

○『関わりで解消する混乱』
 こんな質問もありました。
 先月21日~23日の間に何度か性交渉をしました。その直後の27日に生理が来ました。これは予定日であり、出血の量もいつもの生理と変わらず、きちんと1週間ありました。性交渉3~4日後に生理が来ても、妊娠の可能性は考えられるのでしょうか?ちなみに、先々月は27日に生理がきています。
 確かに、「不安」というのは理屈じゃない部分があります。ただ、「生理が来ても妊娠している可能性があるか」と聞かれても困りますが、相談者の方も他者とやり取りをする中で、論理の矛盾に気づき、不安を解消できるようになるものです。

●『手段と目的』
 津波で全世帯の約半数が流失してしまった陸前高田市の健康運動サークル「たかた☆ハッピー♪ウェーヴ!」の会長の松野サカエさんとお話していた時に、「私たちは確かに運動や体操をするために集まっているけど、『運動は手段、目的はつながること』です」と当たり前のように話してくださいました。AIDS文化フォーラム in 横浜で陸前高田市の状況を報告してくださった陸前高田市青年会議所の高橋勇樹理事長も避難所を「絆の丘」と名付け、避難所運営を通して地域の絆をお互いが確認し合っていると話してくださいました。目の前に大きな課題や障壁が現れると、人はついそのことに目を、関心を奪われ、気が付けばそもそも大事にしなければならないことは何なのかを見失いがちです。しかし、両名ともちゃんと大きな目標を見据えて活動をされていたことにあらためて「すごい」と感じさせてもらいました。
 何を隠そう、私もず~っと性教育は「性のトラブルの解消」が目的であり、エイズ教育は「HIV/AIDSに関わる諸問題の解消」を目的としていました。しかし、最近やっと性教育やエイズ教育を手段に、若者たちが自分自身と向き合い、悩み、そしてそれを解消する手段としての仲間や他者とのコミュニケーションにつなげる手段と思うようになりました。

○『「答えを探す」という発想』
 メルマガの読者の教育者の方が、「学生に質問をしてその答えがわからないとノートやテキストを必死でめくり、どこかに答えがないか探したり、隣の人の顔を見たりするものの、『考える』という行動にはなかなかなりません。『考える』という発想ではなく、『答えを探す』という発想です」と教えてくださいました。さらに、「『ふ~ん。○○さんはそう考えるのね』などと言うと、『否定された』。ひどい時は『全否定された』と言われてしまうことがあります。『怒られた』、『怒られる』も多いです」とのことでした。他者とのコミュニケーションの基本が出来ていないのでしょうね。
 こんな相談もありました。
 「中2の娘がいる母親です。テレビや雑誌などで性に関する言葉が出てくると、娘が、「どういうこと?」と聞いてくるので、そろそろきちんと話をしないといけないとっていたのですが、一つ困っていることがありメールしました。
 うちの娘はセックスがどういうものかよくわからず、何のこと?と聞いてきます。となれば私の性教育は、まずそこから始めなければなりません。『万引き』という言葉の意味を知らない子に「万引きはダメ」と言っても何のことかわからないように、まずその言葉がどんな行為を指すのかを教えなくてはいけないと思っています。先生のホームページでその点に触れた部分を探してみたのですが、見つけられませんでした。セックスを知らない子に話す場合の注意点、話し方、言葉の選び方などをアドバイス頂けたらと思ってメールしました。」
 皆さんだったらどう答えますか。
 確かに最近このようなアドバイスを求めてくる人が増えました。この質問をしてきたお母さんも伝える上での「正解」を探したのでしょうが、両親のセックスという行為で生まれてきた自分自身が愛されている存在だと日々感じて育つことの方がよっぽど大事だと思いませんか。逆に、それが感じられなければ、セックスという事実を知っても傷つくだけです。

●『経験に学ぶ原発事故予防』
 「本を読みなさい」とよく言われる私ですが、確かに本はいろんなことを教えてくれます。特に東日本大震災の被災地に関わっていることもあって、吉村明さんの「三陸大津波」は衝撃でした。今回、津波災害から立ち上がろうとしている被災地でどのようなことが起こったのか。被災地の人たちがいまどのようなことをこころの奥底にしまいながら復興に向かって歩んでおられるのかを思い知らされた衝撃の一冊でした。被災地の写真集も出ていますが、映像ではわからないことを教えてくれます。
 一方で、おそらく東京電力の原子力担当者でこの本を読んだ人は一人もいなかったのだとも思いました。もしかしたら何人かが読んで衝撃を受けたのかもしれませんが、そのことを上司に伝えなかったのか、あるいは伝えられた上司の方が読まれなかったのでしょうね。もし読んでいたとしたらたとえ大津波をかぶっても、電力が失われないような対策を行っていたでしょうし、行わなければとてもじゃないけど怖くて夜も眠れなかったはずです。
 結局のところ、人は他者の経験に、言葉に、関わりに学び続ける環境を失った時に、大きなトラブルに巻き込まれることを原発事故も教えてくれています。 できていたことはできるが、できていなかったことはすぐにはできない。危機管理のみならず、一人ひとりの人生でも同じことが言えるのでしょうね。