紳也特急 17号

〜今月のテーマ『マスコミ(?)対策』〜

●『21世紀は真っ白からの出発に』
○『IT(情報技術)依存症にどっぷりつかる』
●『1月早々のマスコミ出演』
○『マスコミ(?)対策』
●『仮想マスコミインタビュー』

◆CAIより今月のコラム
「力のない若者がメディアを必要としなくなった瞬間」

———————————————————————
21世紀、明けましておめでとうございます。
皆さんはどのように新たな世紀を迎えられましたでしょうか。

●『21世紀は真っ白からの出発に』
 20世紀は私にとってはこの地球に生を受け(なんて殊勝なことを言って)思春期を過ごし、結婚し、医者になり、さらにはHIV/AIDSに関わるようになるという激動の45年間でした。1981年に医者になった私が、おなじ年に認識されたエイズとともに歩んで21世紀を迎えました。いろんな出来事の中でHIV/AIDSと出会ったことは私自身にとって、大げさではなく自分の生き方を見つめなおす良いきっかけでした。(それをどこまで実践に結び付けられているかは???という点の声も聞こえますが)。しかし、新たな世紀を迎えるに当たって、染み付いているであろう既成概念や固定観念にとらわれず、真っ白な気持ちで様々なことに向かい合えるようになりたいと思っています。

○『IT(情報技術)依存症にどっぷりつかる』
 森首相は盛んにIT、ITと叫んでいますが、私もパソコン漬けの毎日です。IT依存症も深刻と見えて、ノートパソコンにザウルス、Doccomo(携帯+PHS)、i-mode、デジカメを持ち歩き、挙句の果てはこのようなメールマガジンを出している始末です。近日中にホームページを立ち上げようと考えています。21世紀はますますITに踊らされる時代になりそうですがどうせはまるならとことんやろうというところでしょうか。亡き父の座右の銘「常にフルスイングの人生を」を私は言い訳にしているようにも思いますが。

●『1月早々のマスコミ出演』
 全国のFM局で「THINK ABOUT AIDS〜21世紀を迎えて〜」という特別番組でDJの栗原晴久さんとのトークをします。よかったら聞いてください。感想も送ってください。
放送日、放送時間、放送局です。
1月 1日21時00分〜21時55分 FM福井
1月 7日19時00分〜19時55分 TOKYO FM(80.0MHz)
1月 8日19時00分〜19時55分
FM岩手、秋田、山形、ふくしま、ぐんま、栃木、長野、三重、滋賀、山陰、
岡山、hiroshima、香川、徳島、高知、です。(FMは略)
1月14日20時00分〜20時55分 FM大分
未定 FM新潟

 このようにマスコミに出させていただき、情報発信ではお世話になっていますが、一方でマスコミに適確な情報を流すことの重要性と難しさををいつも感じています。そこで今世紀最初のテーマは「マスコミ(?)対策」にしました。

○『マスコミ(?)対策』
 昨年もマスコミの方々に大変お世話になりました。お陰様でHIV/AIDSについて少しは状況が改善したのかなと思える時があります。しかし、時として伝えたいことがそのまま受け入れられないことがあります。
 1994年、私が横浜の県立高校でエイズ教育をした際に高校生の前でコンドームを風船のように膨らませている写真が翌日の神奈川新聞社会面にでかでかと出て、浅はかにも喜んでいました。目の前に座って聞いている女子高生は楽しそうな表情で、記事のタイトルも「コンドームどうどうと登場」。ところが喜びもつかの間。コンドームを教えたことが県議会で問題になり、数年間「問題児岩室」は継続審議事項となってしまいました。最後は自然消滅だったようですが。
 時間差はあっても同じようなことは何処でも起こっているようです。先日お邪魔した福井県でも3年ほど前、ある学校で中学3年生の担任の先生が卒業生にコンドームを配ったそうです。そうしたら、そのクラスの多くの親から即座に抗議の電話が校長に入り、マスコミからは非難の嵐。校長は教育長に呼びつけられ1時間以上こんこんと説教をされました。当時、その校長先生もエイズ予防についてあまり考えたこともなく、学校に戻ってコンドームを配布した先生を厳重に叱ったそうです。ところが、なんとその校長先生がこの春の卒業生に卒業証書と一緒にコンドームを渡そうと考えているようです。この画期的、感動的な校長先生が卒業証書と一緒にコンドームを渡したら絶対全国版の新聞に載りますね。そして非難の嵐が吹き荒れるでしょうか。それとも「生徒のことを心配する勇気ある校長先生」として応援記事がでるのでしょうか。どちらにしても頑張っていただきたいと思います。理論武装をしっかりして、マスコミも、親も応援に回るようなマスコミ対策をやってほしいですよね。マスコミもちゃんと理解できるように説明し、できれば記事を想定したコメントができれば一定の理解が得られるのではないかと甘い(?)期待をしています。

 そこで、今回はマスコミに限らず、親、訳知りな大人、一定の価値観以外を認められない人、等々が「コンドームを教えたり、配ったりすればセックスをすることを奨励しているようなものだ」という意見にどう反論するかをシュミレーションしてみました。

反論に行き詰まったら原点(●キーワード)に立ち戻りましょう。
●自己決定
●科学的な情報提供
●他人事意識
●寝た子を起こそう、健やかに!

●『仮想マスコミインタビュー』
マスコミ:コンドームを配れば「コンドームを着ければセックスをしていい」と奨励しているようなものだ。

校  長:あなたはコンドームがあれば誰とでもセックスをするのですか。

マスコミ:私はしないが、子供たちは判断能力がないから配られればセックスをするのではないか。

校  長:判断能力がないから自己決定能力を育てる必要がある。どうしてあなたはしないのですか。

マスコミ:私にとってはセックスとは結婚した人がすることと信じているからである。

校  長:では、結婚前にセックスの経験がある人を、それも結果的には結婚できなかった人をあなたは否定するのですか。

マスコミ:そのようなことを言っているのではなく、子供たちがわけがわからないうちにセックスに走らないようにするのが大人の責任だからコンドームを教えるべきではないといっている。

校  長:そんなに子供たちを信じてやれないのですか。

マスコミ:情報に踊らされるのが子供たちだ。ましてやコンドームを配られれば使いたくなる。

校  長:誰が情報を流しているのですか。「高校生の30%がセックスをしている」と報道することで「みんながしているなら自分もしなければ」と煽っているのはマスコミの方ではないか。

マスコミ:高校生がセックスをしていることは事実だからマスコミの責任として報道している。

校  長:コンドームを着ければHIVに感染しないというのも事実ではないか。コンドームを配らなくてもセックスをしているし、コンドームなしが半数いる。事実を伝えることより重要なのは科学的な情報の伝達ではないか。

マスコミ:科学的な情報だからと言って「発達段階に応じた情報」を流さないとかえって煽ることになる。

校  長:人は理屈だけでは自制できないこともある。「据え膳食わぬは・・」という日本的伝統(?)もあるではないか。「友達もしている」というニュアンスの報道はいいのか。

マスコミ:コンドームを配ればますます「据え膳食わぬは・・・」ということを助長するのではないか。

校  長:結局あなたは据え膳を食う方ではないか。

マスコミ:子供たちがそうならないようにしてやらなければならない。

校  長:そこは違う。HIV感染予防と誰とセックスをするかは別問題として議論しなければならない。

マスコミ:不特定多数とセックスをすることを容認するのか。

校  長:そのようなことをマスコミが言うからエイズに対する他人事意識や偏見が生まれている。

マスコミ:不特定とのセックスは良いのか。

校  長:不特定、不定期が良いか悪いか、認めるか認めないかは個人的価値観の問題でHIV/AIDSの問題とは関係がない。HIV感染と不特定多数とのセックスに因果関係はあるのか。科学的根拠はないはずである。日本人は欧米人よりはるかに買春をしているがHIV蔓延は少ないではないか。

マスコミ:それは日本のCSW(コマーシャルセックスワーカー)に感染者が少ないからではないか。

校  長:海外で買春しているのも多いのではないか。

マスコミ:コンドームを使っているからではないか。

校  長:だからコンドームを習慣化しなければならない。でも実態としてはコンドーム使用率が減っている。だから蔓延を予防するために「するなら着けようコンドーム」を徹底する必要がある!!!!!

マスコミ:では「着けるならしたいだけできるセックスかな」でいいのか。

校  長:それは個人が自己決定することである。

マスコミ:自己決定ということを無責任に言うが、こどもたちの自己決定能力は育っているのか。

校  長:総合学習を含めて「生きる力」の育成に努力している。

マスコミ:それがコンドームを教えることか。

校  長:その通り。この世の中を生き抜くには、自分の欲求、様々な困難、そしてそれらを乗り切る手段、といった情報を自分なりに受けとめ判断処理する能力を養う必要がある。

マスコミ:それとコンドームを配ることとどう関連するのか。

校  長:私自身、コンドームということを言葉で教え、後は自分で買う所からトレーニングが始まると考えていた。しかし、今の子供たちは言葉や理屈だけで自分たちの行動結果を想像することは大変苦手である。これはコンドームや性の問題だけではない。「人を殺してみたかった」といって実行してしまう現実があるではないか。だから、実際に手にとらせて、コンドームと自分の関係についてどう考えるのかを感じさせたい。

マスコミ:確かに、実感することは自分の問題として考える第一歩ではある。コンドームの配布以外の方法があればいいのかもしれないが現実には難しいのかもしれない。マスコミとしてもこの難しい問題を当事者意識を養い、自己決定を促すよう科学的に取り上げて行きたい。

校  長:そう。キーワードは「寝た子を起こそう健やかに!」、「するなら着けようコンドーム」。

 なーんてなるでしょうか。とにかく、今年もよろしくお願いします。

◆CAI編集者より今月のコラム
「力のない若者がメディアを必要としなくなった瞬間」

 あけましておめでとうございます。今年もCAIに御注目の程、お願い申し上げます。

 『日本ではHIV/AIDSのニュースが少なくなっている!HIV感染者は増え続けている現状なのにマスコミは、なぜAIDSを報道しないのか!残念でしょうがない。』とある市民AIDSフォーラムに聞きに行った所、議論されていた事柄です。
 私は正直、「そりゃそうだ」と思いました。この意味は報道が減っている事に危機を感じるのではなく、「あたりまえではないか?」と考えます。マスコミの視点から考えればAIDSは社会の諸問題の1つです。一通り報道しつくした事柄なのかも知れません。また、一概には言えませんが数字だけ考えれば自殺や交通事故の方が重要な問題です。その辺をボランティア団体を含めHIV/AIDS業界に携わる人々が理解すればマスコミを利用する手掛かりが探せると思います。余談ですがニュースソースという意味では

岩室顧問が「女子高生がコンドームを膨らましている写真」かも知れません(笑)。

 この年末年始、ある大学生の企画団体が1000人規模で年越し記念パーティーを行うのでAIDSの事を少し取り上げたいとCAIにインターネットを通じてアクセスがありました。私達はコンドームとHIV/AIDS関連のパンフレットを、その団体に提供し、参加者に配付してもらう事にしました。CAIでは去年からコンドームをイベントの時には積極的に配付しています。私達のホームページの写真とURLを印刷したシールを貼っています。そうする事により、普通のサンプルコンドームよりは私達のメッセージが伝わると考えているからです。

 その大学生団体の書いた企画書に、こうありました。

20世紀末のインターネットの波は、やはり革命でした。
 〜(中略)〜
それは、力のない若者がメディアを必要としなくなった瞬間でありました。
 〜(中略)〜
「社会へ自分の意想を発信する」
その手段を簡単にポケットに持ち歩く時代の到来と言い換えられるでしょう。

 なかなか深いですよね。どう思われますか?

情報のベクトルが新聞、雑誌、テレビ、ラジオから離れていく気がしませんか?

                    CAIリーダー 渡部享宏