紳也特急 186号

~今月のテーマ『病は環境から』~

○『にわか税理士に』
●『ストレスが去ったらうつに』
○『ありのまま』
●『精神科医ができること』
○『うつ体験者の感想』
●『環境改善は一次予防?』
○『何のために』

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○『にわか税理士に』
 昨年4月にフリーになったと思ったら、あっという間に新年に。そして気が付けば青色申告、確定申告の時期になりました。最初は税理士に頼む方がいいのかなと思っていましたが、結局のところ書類は自分で整理しなければならないことが判明。それならパソコンソフトを使えば自分でできるかもと思いつつヨドバシカメラをうろついていたら、聞いた覚えがある「弥生」のセールスに捕まり購入していました。「このソフトも経費で落ちる」と思いながらいざ説明書を読み始めたら、「事業主貸」、「事業主借」、「勘定科目」、といった聞いたこともない言葉で頭の中がパニック状態に。そんな時、税務署から「青色申告説明会のお知らせ(指導は無料)」が来て「会計ソフト方式」、「税理士による個別指導方式」、「青色申告会による記帳方法の指導」などが選択できたので思わず「会計ソフト方式」の講習会に申し込みました。しかし、この講習会で使うパソコンソフトはこれまた押しつけのもので、「弥生」以上にわかりにくいものでした。しかも、こちらの理解力が足らないためか、結局は「税理士さんにお願い」に誘導するための講習会のように思えました。途方に暮れていたら、文字なら何でも読んでしまう家内が週刊アスキーに出ていた「freee」という無料試用期間付きクラウド型会計ソフトの記事を見つけてくれたので使ってみたら結構わかりやすく、しかも、チャットで相談ができるという優れものでした。結局、このソフトを購入し、何とか形だけは整えられそうなところまで来ました。
 会計処理に振り回されつつも、何とか落ち込まず、「うつ」にもならずにやっていたところ、「ツレがうつになりました(幻冬舎)」の著者の細川貂々さんとツレさんのお二人とトークをする機会をいただきました。私の一番の関心事は「何がツレさんを元気にしたのか?」の一点を聞き出すことでした。そこで確信した言葉、「病は環境から」を今月のテーマとしました。

『病は環境から』

●『ストレスが去ったらうつに』
 ツレさんはバリバリのサラリーマンでしたが、彼の足を引っ張る同僚や部下が会社を辞めたら(正確には辞めさせられたそうですが)、何と重荷が取れたはずのツレさんが「うつ」になったとのことでした。よく「ストレス解消」とか「ストレスを克服するために」と言われますが、ストレスがない社会なんて一つもありません。それこそ青色申告でうつになっている人もいるのではないでしょうか。自分が意識していないストレスにこころが蝕まれていても、人はなかなかそのことに気づけないものです。さらにその上に自分が意識せざるを得ない別のストレスがあり、それを一所懸命克服しようとしている間は、実は意識できていない本当のストレスを含めて何とか頑張れるものなのかもしれません。ところが、意識しているストレスが去るとそれまで何とか保っていたこころのバランスがもろくも崩れるのだとツレさんが教えてくださいました。

○『ありのまま』
 パートナーが仕事を辞めたり、家で一日中寝ていたりしていたら、あなただったらどうしますか。多くの人は医者にかからせ、早く復職してもらい、誰もが「正常」や「元気」と受け止めてくれる状態にしたいと思います。先日もある保健師さんが、「主人がうつで治療を受け、だいぶ元気になったのですが、どうすれば薬をやめられるでしょうか」という相談を受けました。「薬を一生飲んでもいいんじゃないですか。そうやって自分の思い通りの枠にはめようとすることが問題です」と話をしました。どうも日本人は「正常」、「正解」を求める傾向があります。
 ところが貂々さんはツレさんが寝ていたら、その横で同じように寝ていたそうです。医者に一緒に行ったかを聞いたら、行っていないとのこと。それもそうです。行って話を聞いたからと言って特別できることはありません。仕事をやめることはむしろ貂々さんから言い出したとか。
 貂々さんがすすめている(?)「なままけ道とは・・・」は素晴らしいので自分のランクをぜひチェックしてください。
 4級 TVをだらだら見る
 3級 お昼寝ができる
 2級 働いていないことでクヨクヨしない
 1級 赤の他人がいても気にならない
 初段 なんでも他の人にやってもらう
 ツレさんが良くなったのは貂々さんという環境のおかげだったのです。もし「なままけ道」に入門できない人だったら、そのような人がいる環境だったら、それこそ悪化の一途をたどったのではないでしょうか。ちなみに私は4級さえも取得できず、録画ビデオを早送りしてしまいます。大いに反省です。「でも結局は反省だけして何も変わらず?????」という声がどこからともなく聞こえてきます。幻聴でしょうか?

●『精神科医ができること』
 親しい精神科医の先生に、「結局『うつ』を治すには環境をどう整えるかですかね」と向けたら、「そうなんだけど、その環境を変えられない人が多いから、薬で折り合いをつけているんだ」とのことでした。そう言えば、ある個人投資家(デイトレーダー)がうつになった時、その先生が「景気が良くなればよくなります」と言っていた通り、株価が回復したら元気になっていました。こういう先生こそ本当の「名医」と言うのでしょうね。

○『うつ体験者の感想』
 中学ではトップクラスの成績。しかし、進学校では成績は最下位レベルで、とりわけ数学が全くできず、医者になることをあきらめなくてはならなかったのです。人生で初めての挫折でした。高校3年生になっても、自分がどういう道に進むべきか全くわからず、次第にふさぎがちになり、気づいたときにはうつ病になっていました。
 岩室先生の話を聞くまで、私は原因は挫折にあると思っていましたが、先生のお話を聞いて、当時、誰にも相談することができなかった自分のコミュニケーション能力の低さにあったのだなぁと思い直しました。また、私はうつ病を薬で治したのですが、最近はこのやり方が間違っていたのではと思うことがよくあるのです。というのも、未だにうつのような症状が起きることがあり、結局は何も解決しているように思えないからです。だから先生が薬での治療よりも環境を整えることが大事だとおっしゃったときはとても感動しました。分かってくれている人がいるんだと思いました。彼氏はいませんが(笑)、家族も素晴らしい友人もいます。辛いときはもっとどんどん相談していこうと思います。もちろん、会話で(笑)。本当に有難うございました。

●『環境改善は一次予防?』
 前述の大学生の彼女は素敵な環境を得て、それを大いに活用して、また、自分自身のコミュニケーション能力をもう少し鍛えていけばこれからは元気に暮らしていけることでしょう。一方で環境を変えられない人も少なからずいます。コミュニケーション能力を頑張って鍛えても、認知行動療法を一所懸命勉強して身に着けても、それだけでうつを克服するのは決して容易なことではありません。私は常々、病気の早期発見、早期治療という発想の二次予防は難しいと話していますが、うつでも同様のことが言えそうです。うつを改善するには結局のところ環境を変えるしかないのですが、環境を変えるというのは根本的なところから原因を取り除くことになるので、それこそ一次予防のようなものです。容易なことではありませんが、「急がば回れ」ですね。

○『何のために』
 青色申告をする前は、「何を経費で落とせるのか」という、けち臭い発想を持っていました。しかし、勤めている時より収入が減って気づかされたのが、税金という制度はよくできているということでした。税金を多く払う人はそれだけ収入が多いという証拠なのです。また、青色申告のためにはすべての書類を残し、きちんと記帳、記録を残し、税務調査が入ったらちゃんと説明ができるように準備しなければなりません。「家事按分」といって、事業・仕事で使った割合をちゃんと算出しなければならず、「適当」や「ごまかし」を説明する準備の方がよっぽど面倒で、時間の無駄だと気づかされました。
 貂々さんは宝塚歌劇好きが高じて宝塚市に転居され、本当にお幸せそうでした。その彼女の主夫をしているツレさんも、そんなパートナーを微笑ましく見守っておられ、パパ業、育児も大いに楽しんでおられていました。お子さんが男の子だったので思わず拙著「イマドキ男子をタフに育てる本」と「OCHINCHIN」を押し付けてしまいました。そんな彼らを見ながら、まもなく還暦を迎える自分は「何のために生かされているのかをもう少し考えないと」、と反省させられたツレうつトークでした。