紳也特急 195号

~今月のテーマ『とことんか、急がば回れ』~

○『高校生からの質問』
●『男の「イク」は単純』
○『気持ちがいいフェラのためにはどうすればいいですか?』
●『自慰でイクけど、セックスではイケない』
○『科学的に、解剖学的にセックスを考える』
●『小さい、柔らかいがいい?』
○『掃除でトラブル防止』
●『掃除で元気なコミュニティづくり』
○『「絆」をどう読みますか?』

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○『高校生からの質問』
 彼女とのセックスで気持ちいいんですが一緒にイケないんですが、なにか原因があるのか少し心配です。もちろんコンドームは使ってます。(高1男子)

 実はこの手の質問が増えています。セックスをする=二人が一緒にオーガスムス(という言葉を知らないでしょうから「イク」という表現になっているのでしょうが)を得ることが当たり前、というか、そうなることが「正しいセックス」と思っているようです。
 先日、築地本願寺で元AV(アダルトビデオ)女優の紅音ほたるさんとご一緒させていただきましたが、彼女が訴えたことは「AVは所詮意図的につくられたファンタジーであり、AVを信じて、それを目標にしたり、まねたりすることはやめて欲しい」ということでした。「そんなこと、言わなくてもみんなわかっていますよ」と思った人に先のメール相談が来たら「あんた、バカ」と回答するのでしょうか。
 性について、セックスについて、本当は仲間で、本音で、具体的に突っ込んだ話をして欲しいのですが、残念ながらそのような仲間をもつ人はどんどん減っています。そのため、悩みを解決してあげるにはとことん突っ込んだ説明をしないと解決しなくなっています。メルマガの189号「コミュニケーションで深まる理解」でも、「セックス」という言葉一つをとっても、そこから受け取るイメージ、メッセージが一人ひとり違うため、理解を深めるには「岩室紳也が言うセックス=ペニスを膣に挿入すること」と具体的に語らないと理解されないことを紹介しました。
 その一方で性を語らなくても、性のトラブルは防止できると実際の経験から教えてくださった方がいました。そこで今月のテーマは「とことんか、急がば回れ」としました。「とことん」の部分は実際に相談時に使っている表現をそのまま使っています。

『とことんか、急がば回れ』

●『男の「イク」は単純』
 オナニー、マスターベーションを経験した男であれば、射精に伴う「イク」という感覚は言葉で語らずとも体感しています。そしてこの強烈な、他では得難い快感を男たちはオナニーという手段で容易に得ることが出来ます。もちろんセックスでも、フェラでもイクことができます。さらにこの「イク」前の「出そうで出したくない感覚」も気持ちがいいため、「早漏防止の方法を教えてください」という相談が後を絶ちません。

○『気持ちがいいフェラのためにはどうすればいいですか?』
 先日講演した男女共学の高校で、女の子が「気持ちがいいフェラをしてあげるにはどうすればいいですか?」という質問を全校生徒の前でしてくれました。「みんなの前でそんなことを聞く?!?」と思った人もいるでしょうが、彼女は正直な思いをぶつけてくれただけで、おそらく他の女子生徒の中にも「よくぞ聞いてくれた!」と思った子が何人もいたと思います。「どうしてそのようなことを聞くの?」と返したら、「だって歯が当たると痛いでしょ」とのことでした。
 はっきり言えば「してくれるだけで気持ちいい」のに、それ以上のテクニックなど必要なしです。しかし、自分にはない感覚、自分ではできない体験のため、彼のために少しでもできることをしてあげたいと思うのでしょうね。せっかくの質問だったので、彼女には、「フェラで喉(のど)のがんになる可能性があることを知っているの?」ということも伝えておきました。「フェラで自分ががん?!?」とびっくりしていたのは言うまでもありません。

●『自慰でイクけど、セックスではイケない』
 このような相談も増えています。中にはパートナーをとっかえ引き換えしながら、相性(?)がいいセックスパートナーを探している女性もいます。女性がセックスでオーガスムスを経験する率は50%と言われ、経験するもしないも、結局のところ自分自身の経験からしか学べません。昔は、結果的にオーガスムスを経験した人はその存在を知り、経験していない人はその存在を知らない、もしくはそんなもんかと思っていたはずです。しかし、昨今は女性もアダルトビデオを見るため、紅音ほたるさんが「AVはファンタジー」と言っている言葉を男子だけではなく、女子にも伝える必要があるようです。ちなみに、「自慰でイクけど、セックスではイケない」と悩んでいる彼女は、いつもネットの無料アダルト動画を見ながらオナニーをしているとのことでした。

○『科学的に、解剖学的にセックスを考える』
 男は自慰という言葉をめったに使いませんが、女性は結構使います。おそらく女性の方が自分で自分を慰めているという感覚が男よりも強いのでしょうか。「自慰でイクけど、セックスではイケない」という彼女は残念ながら自分がオーガスムスを感じるところを客観的に分析できていませんでした。セックスは完全にパートナー任せで、言われたままの、求められたままの、それこそAVで繰り広げられているセックスをしていました。そして満足しないまま、パートナーを換えても満足できず、自宅に戻ってから自慰をしているという繰り返しでした。
 自慰の際にはクリトリスを刺激することでイクという感覚を得ていたとのことでしたので、セックスの際にもクリトリスを同じように刺激すればイクという感覚が得られるはずです。しかし、彼女の中に刷り込まれている、AVのような激しいセックスをすればイクという錯覚、誤解を解くことは容易ではありません。また、仮にそれを納得してもらえたとしても、彼女が望むようなセックスを彼女がパートナーに説明し、パートナーが彼女の思いに応えてもらうには、双方にかなりのコミュニケーション能力が求められます。結局のところ、一度刷り込まれたAVの嘘に気づき、自分の体を客観的に理解し、最終的には自分自身がどこで妥協するかを確認するかを選択するというのは本当に難しいことですね。

●『小さい、柔らかいがいい?』
 そんな相談を受けていた時に日本性科学会が開催され、その前日のセミナーと学会のシンポジウムで話をさせていただきましたが、学会で一番盛り上がった、ピンク映画を300本以上作ってこられた浜野佐知さんという女性映画監督のお話は残念ながら聞くことが出来ませんでした。いろんな方の話を総合すると、泌尿器科の医者がED(勃起障害)も薬とかで克服してセックスを楽しもうという話をしたのに対して、浜野さんは、「固いペニスではなく、小さい、柔らかいチンチンと体の触れ合い、語り合いが大事」と一刀両断したとのことでした。ピンク映画をつくり続けた女性監督の言葉だけに説得力がありますよね。
 先の相談者も大きいペニスの人は痛いだけでいやだったとのことでした。小さい、柔らかいペニスであれば、結果的にクリトリスが刺激され、女性がイける可能性が高まります。これからは小さいもの勝ちになるのでしょうか。いやいや、「持ち物より、持ち主が大事」です。

○『掃除でトラブル防止』
 最近、大人や指導者向けの性教育の講演では「できる人ができることをできるときに」を強調しています。以前の私であれば、「最低限これだけのことを教えてください」という思いで、エイズ教育では「コンドーム教育は不可欠です」と言い続けていました。しかし、性を語ることに強い抵抗感を持っている人が性教育をするようになると、結局のところ、スローガンしか言わない、性のトラブルに巻き込まれた子たちを追い込むようなメッセージしか伝えられず、性のトラブルが解決しないどころか、ますます増長されると思うようになりました。
 その意味でも、先日、長年、児童養護施設で積極的に性教育をしている方の話を伺って、すっきり、目から鱗状態でした。「玄関がきれいな施設では性のトラブルは少ない」とのことでした。玄関をきれいにしようと思う人、掃除を日々続けられている施設のいずれも、きめ細かい目配りが出来る人が存在するだけではなく、同じような思いを持っている、同じように行動できる人が複数いらっしゃるということです。そういう人は子どもたちの状況にも細かく配慮し、気が付けば子どもたちに居場所が、関係性が、自己肯定感が生まれ、セックスにぬくもりを求める必要が無かったり、セックスをするにしても、先を読み、コンドームを使ったりすることが可能となるのではないでしょうか。

●『掃除で元気なコミュニティづくり』
 震災後の陸前高田市で最初の大きな(120世帯)の災害公営住宅が完成して1年になったのを機会に、現地に出向き、陸前高田市保健医療福祉未来図会議を開催しました。それに合わせて、その団地の健康や外出に関する調査を集計したところ、思わぬ結果でみんながびっくりでした。被災地では一般的には男が出不精で、どうやって一人暮らしの男たちを引っ張り出すかで頭を悩ますことが多いのですが、何と、この団地では男たちが積極的に出て行っていることが明らかになりました。
 当然のことながら「何故?」と考えるわけですが、この団地に何度かお邪魔している中で感じ続けてきたのが「きれい」だということでした。集会室のトイレも本当に「きれい」だったのです。実は岩室紳也は中学校の途中から男子校で寮生活をしていたのですが、その際にいつも先頭に立ってやっていたのがトイレ掃除でした。当たり前のことですが、生活するならトイレがきれいなところがいいですよね。トイレがきれいだったからかはわかりませんが、当時の寮生たちは大変仲が良かったことも事実でした。陸前高田市の団地で総じてみなさんが元気で、しかも男性たちがよく外出もしているというのは、生活環境が快適だということが要因ではないかと思いました。この話をしたら、自治会長さんが大変喜んでくださいましたし、「掃除に力を入れてくれている方にも伝えます」と言ってくださいました。

○『「絆」をどう読みますか?』
 東日本大震災後、「絆」という字が各方面でもてはやされています。私も意識し続けていますし、松尾貴臣さんの「絆」という曲をいろんなところで紹介し、活用させていただいています。ところがこの「絆」という漢字に別の読み方があることを、築地本願寺で行われたイベントの際に僧侶の方に教えてもらいました。「きずな」という読み方の他に「ほだし」とも読むとのことでした。「ほだし」は、「手かせ、足かせ、迷惑、束縛」、「きずな」は「つながり、むすびつき」といった意味です。「つながり、むすびつき」というのは何となく大事だけど、きれいごと、で、どのような効果があるの、といった受け止め方がされかねません。実際に私も「絆(きずな)が大事」と言いつつも気持ちのどこかで、「きれいごとを言っても伝わらない」という思いでした。
 健康日本21の第2次でも、人が健康になるためにはソーシャルキャピタルの醸成、すなわち「信頼」、「お互い様」、「ネットワーク」が重要で、これは日本に昔からある絆(きずな)のことですという説明をしていましたが、やはりすっきりしませんでした。しかし、絆を「きずな+ほだし」と捉えると、単につながるだけではなく、時には迷惑をかけあう関係だからこそ「お互い様」という「絆」が生まれると考えると納得できました。
セックスこそ、夫婦のどちらかが一方的に「こんなセックスがいい」と決めつけるのではなく、コミュニケーションを通して、時にはいいバランスのほだし(束縛)を伴いつつ、「ふたりだけのセックス」を作り上げるのが理想なのでしょうが、これが難しいのです。ま、ぼちぼちやりましょう。