紳也特急 217号

~今月のテーマ『女性が語る男子向けの性教育』~

●『高校生の感想』
○『女から見た男』
●『包茎』
○『陰茎がんの原因』
●『男が子宮頸がんの原因?』
○『おちんちんはどうやってむくの?』
●『むいた後が肝心』

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●『高校生の感想』
 気持ち悪いと思った。一見、性教育についてやっていて役に立つとは思うけど、完全にセクハラだなと思った。(高2男子)
 普通の講演と違って、全てトークで説明していて、しかも内容がなかなか濃かったのでいろいろな話が印象に残りました。特にダメな内容の所が頭に残りました。(高2女子)
 具体的な話が多くて授業より深い話だった。「分からない」という答えと「自分は絶対大丈夫」というのはダメだと初めて知った。(高2男子)
 これはまた変わった考え方をした先生で、性に関することは開放的で人前で堂々と言えるような人だったので、今までで初めて見た先生でした。知識よりも経験が大事だということは私も思っていたことなので、どんどん失敗してそこから学んでいくように心がけます。(高2女子)

 同じ高校生でこれだけ感想が異なるのはなぜなのでしょうか。気持ち悪い、セクハラと思う人もいれば、そう思わない人がいます。全か無か。好きか嫌いか。人間社会はいろんな人がいるので、本当はこの感想をみんなで話し合ってもらいたいものです。意見が合わなければ、何故合わないかを議論して欲しいですね。
 いろいろあるのが人間。だからいろんな視点で、いろんな人が性教育をすることが求められていると思っています。ところが、宮崎で開催された日本思春期学会でお会いした産婦人科の女医さんが「男の子の性教育は苦手」と言ったり、ワークショップで「男の子の性教育」というのが取り上げられていたりしていたのですが、どうもすっきりしませんでした。「何を語る」より大事なことは、「その人が、その人の経験を自分ごととして語る」ことだと思っています。そこで、敢えて今月のテーマを、「女性が語る男子向けの性教育」としました。

『女性が語る男子向けの性教育』

○『女から見た男』
 よく「岩室先生の得意分野は男子の性ですよね」と言われるのですが、それはとんでもない誤解です。さらに女性でもなければ、産婦人科医ではないから女性の月経は語れないと思っている人も少なからずいます。しかし、岩室は月経も語りますし、コンドームも女性の視点で語るところも少なからずあります。
 同じような視点で、「女だと男のことはわからないから語れない」と言う人が多いのですが、では女性だったらすべての女性の気持ちを語ることができるのでしょうか。そうではないですよね。でも、「こういう語りもある」と具体的に示せないと、残念ながらご理解いただけないというのも事実ですので、今月は女性が男子向けに積極的に性教育をしてくれるといいなと思って紹介します。

●『包茎』
 女は大変だと思ったけど、男も知れば知るほど大変だということがわかりました。息子が4歳のころ、ある日突然おしっこをするとすごく痛いと泣き叫び、泌尿器科に連れて行ったら「亀頭包皮炎ですね。ちゃんとむいて洗わないからこんなことになるのですよ」と母親の私が叱られてしまいました。
 ちゃんと勉強するまでは、おちんちんというのはただ体に棒が付いていて、その中をおしっこが通って出てくるだけのものと思っていましたが、結構複雑でした。おちんちんの先には亀の頭と書いて亀頭と呼ばれている部分があり、その亀頭を覆っている、「包む皮」と書いて包皮(ほうひ)と呼ぶ皮があります。握った拳を長袖のセーターの袖で覆ったような状態と思ってください。もしセーターの袖をむいて拳を洗わないと、拳だけではなく、セーターの袖の中も汚くなります。息子がなった亀頭包皮炎というのはそんな状態でした。
 おちんちんを不潔にして亀頭包皮炎をおこすだけだったら薬で治せばいいだけだけど、実は、ちゃんと包皮をむいて洗っていないとおちんちんのがん、陰茎がんになる人がいることもわかっています。逆に、ちゃんとむいて洗っている人や、手術などでいつも亀頭部が出たままになっている人は陰茎がんにほとんどならないこともわかっています。

○『陰茎がんの原因』
 おちんちんのがんの原因の一つがHPV、ヒトパピローマウイルスだということがわかっています。いま、男の子のおちんちんの話をどうして女子が聞かなければならないのと思っている女の子もいると思うけど、実は私たち女性にとってこの話は決して他人ごとではないのです。
 まだ教科書には書かれていないけど、ちょっと勉強した人なら子宮のがん、子宮頸がんの原因がさっきおちんちんのがんの原因の一つと紹介したHPVだということを知っていますよね。さらに勉強している人は女性の子宮頸がんを予防するためのワクチン、予防接種があることも知っているでしょうが、そのワクチンを男性のおちんちんのがんの予防に使う予定はありません。どうしてでしょうか。実はおちんちんのがんはおちんちんを洗っているだけで、清潔にしているだけでがんになるのを予防できるのです。だから男たちは私たち女性のようにワクチンを打つ必要はないけど、おちんちんをむいて清潔にし続ける必要があります。

●『男が子宮頸がんの原因?』
 女性が子宮頸がんになる原因となるHPVがどこからくるか、うすうす気づいた人もいるでしょう。子宮の入り口を子宮頸部というけど、そこにHPVを運んでくるのが男性のおちんちんです。正確に言うと亀頭部についていたHPVが性的接触、セックスをする時に子宮頸部についてしまいます。子宮頸部というのは男子の亀頭部と違って表に出ていないので洗うことができません。だから女性の子宮頸がんを予防するためにワクチンが開発されました。もちろんワクチンが効かないタイプのHPVもあるので、子宮頸がんを早期に発見する検診も忘れてはなりません。
 ちょっと考えた人は、「先生、男子がちゃんとおちんちんをきれいに洗っていたらパートナーの女性にHPVはうつらないのですか?」と思うよね。確かに洗っていない人より洗っている人の方がHPVをパートナーにうつす可能性は低くなります。でも、どんなにごしごし洗っても、HPVが残っている場合があります。だから男子がおちんちんをきれいに洗うことはもちろん大事だけど、女性の方も予防接種など、できることをし続けることが大事です。
 「先生、じゃあ、コンドームを使えばいいんじゃない?」という質問をしたいと思っている人もいるよね。確かにコンドームはある程度有効です。しかし、HPVっていろんなところにいるので、コンドームの表側を触った手についていたら、コンドームの表側にHPVを付けてしまうことになるので、やはり完璧ではありません。

○『おちんちんはどうやってむくの?』
 「おちんちんをむく」と言われても正直なところ自分にないものだから最初はよくわかりませんでした。でも息子の亀頭包皮炎が抗生物質という薬で治った後、泌尿器科の先生に「息子さんにちゃんとむくのを教えてください」と言われたので見様見真似でやっていました。
 ここにいる男子が今、一斉にパンツを脱ぐと、ほとんどの人がおちんちんの先まで皮が被った状態だと思います。この状態を包茎と言います。おちんちんの皮を根元の方に手繰り寄せると、それまで包皮に覆われていた亀頭部が出てきます。ただ、包皮の先端が非常に狭いと亀頭部がまったく出てこない人もいます。でも皮膚は伸びますよね。私も息子を妊娠する前はウェストは58センチだったのに、妊娠したら90センチまで伸びました。だから亀頭部を出そうと引っ張り続けていると少しずつ皮膚が伸び、包皮口が広がり、亀頭部が見えてきます。とにかく何回もむいて洗い続けることが大事です。
 中には亀頭部と、それを覆っている包皮が癒着、ひっついていることがあります。この癒着は剥がさなければなりませんし、強く引っ張れば癒着がはがれるのですが、少々痛いようです(私は経験はないのですが、息子が痛がっていました)。ところが、ちょっとした工夫でこの痛みをうんと和らげることができるようです。包皮と亀頭部の癒着をはがす前に亀頭部を触ったり、こすったりすることを繰り返してください。最初は触っただけで痛かったり、ヒリヒリしたり、時にはくすぐったく感じたりする亀頭部を触り続け、こすっても平気になるようにしておけば、癒着をはがした時の痛みもうんと少なくなるようです。だから焦らないでやってみてください。
 亀頭部をこすっても平気になったら包皮を少しずつ、1回に1mmずつはがしてください。最初は少し血がにじんだりすることもありますが、2~3日で元通りの皮膚の状態になります。少しずつ癒着をはがしていくと2~3ヶ月で亀頭部が全部露出できるようになります。最終的に亀頭部と包皮の癒着が全部はがれると、冠状溝という溝になったところが現れます。完全にむけたかどうかを確認するには、父親などの大人と比べたり、友達同士で見せ合うと納得できると思います。
 なお、美容外科の広告などでは亀頭部が常に出ている状態を「正常」と、医学的にも間違った広告を出していますが、「かぶれば包茎、むければOK」です。

●『むいた後が肝心』
 まわりの男友達に「お前、風呂でチンコはどうやって洗っているか」と聞いてみてください。その時の回答の選択肢は、「1.お湯をかけて手で洗う」、「2.石鹸、ボディーシャンプーを使って手で洗う」、「3.石鹸、ボディーシャンプーを使ってスポンジやタオルでごしごし洗う」の3つの中から選んでもらってください。
 この質問を大人の男性にしても答えはいろいろだそうです。でも、あらためてなぜおちんちんをむく必要があるのかを、私たち女性の立場で考えてください。もちろん男性同士で付き合うゲイの人もいるでしょうから、その人たちは自分のパートナーの立場になって。
 HPVというのはとにかくある程度こすったりしないとなかなか亀頭部から落ちてくれません。実際、子宮頸がんだけではなく、フェラでのどのがんになったり、お尻の肛門がん、直腸がんになったりします。自分のためだけではなく、大事なパートナーのためにも、おちんちんをいつも清潔にし、子どもをつくらない時はやっぱりコンドームを使うのが理想です。

 でも、もしかしたら「気持ち悪いと思った。一見、性教育についてやっていて役に立つとは思うけど、完全にセクハラだなと思った。」という男子の感想がでるのでしょうか(笑)。