紳也特急 258号

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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース! 性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『マスクが外せる社会になるには』~

●『生徒の感想』
○『マスクなしで街中を歩く』
●『根拠のない押し付けが横行』
○『スーパーコンピューターよりリアルな実験』
●『考えることを放棄させるmonologue』
○『考えさせる「対話(dialogue)」の重要性』
●『「根拠がない=議論に値しない」という風潮』
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●生徒の感想
・私のクラスは女子は割とオープンだから楽でいいけど男子はちょっとな・・・。そういう話をすると、謎な反応するんですよ。先生の講演を聞いて、皆、岩室先生みたいになればいいなぁ!って思いました。変なプライドで話さないより、オープンにそう話してくれた方が安心する。人っぽくて。だって、そうじゃないと将来彼女と上手く行かないでしょう。(高1女子)
・先生の話は長かったです。けど、長い話に合った量の情報が入っていた。時間を忘れて聞いていました。面白い話も交えながら話してくれたので飽きることなく、深く印象に残っているものも多くあります。(中3女子)
・「絆」という字は助け合いの意味だけではないことも知りました。困った時には友だちに相談して「お互いさま」という気持ちを持てるようにしたいと思いました。(中3)

 生徒さんの感想を読んでいると、私の話を参考にしながらも、自分自身で考え、次のステップに進もうとしている事が伝わってきます。今はまっているNHKのドラマ、「ここは今から倫理です。」の第2話で高校の倫理の教師が「対話の授業」を仕掛ける場面を見ながら、いま、一人ひとりが求めているのが対話(dialogue)だと思いました。一方で、新型コロナウイルス対策で専門家たちは自分の思いや自分が信じている論文を押し付ける独り言(monologue)が横行しています。新型コロナウイルス対策で求められていることも対話(dialogue)を通した、一人ひとりが納得できる社会づくりです。私が気になっていることの一つがマスクの問題です。そこで今月のテーマを「マスクが外せる社会になるには」としました。

マスクが外せる社会になるには

○マスクなしで街中を歩く
 新型コロナウイルスが蔓延し始めた昨年の3月頃から緊急事態宣言が出ている今でも、私はオープンエアーの街中を歩く時にマスクはしていません。建物の中に入る時は「マスク装着のお願い」というステッカーが貼られているのでポリウレタンマスクをつけていますが、診療や会議、講演の際には不織布マスクです。
 今回の緊急事態宣言が出た後、街中で誰かとすれ違う時に「この人避けているな」と感じることもあります。「他の人が怖がっているのだからマスクをするべき」という意見があることも承知しています。しかし、マスクだけではないですが、新型コロナウイルス対策についてあまりにも誤解や思い込みが多い中で、どうすれば一人ひとりが考えてくれるようになるのか、個人レベルですがささやかな投げかけをしているつもりです。

●根拠のない押し付けが横行
 バイデン大統領が公共交通機関を利用する際にマスクの着用を義務化した一方でアメリカではマスクは絶対にしないという極端な人たちもいます。皆さんはどう思いますか。こう問いかけると、多くの人は公共交通機関を利用する際にマスクをするのは常識で、何バカなことを聞いているのかと思っていないでしょうか。最近「ウレタンマスク警察」なる人たちがニュースで取り上げられていますが、どの話題もそもそもマスクの目的、素材、用途等についての検証や考察がないまま、思い込みの押し付けになっています。

○スーパーコンピューターよりリアルな実験
 一方で昨年紹介されたスーパーコンピューターの富岳を使ったマスクの飛沫抑止効果に関する実験結果が再度ニュースとして取り上げられていますが、まずは小学生でもできる、お風呂場の鏡に息を吹きかけるだけの実験をやってみてください。マスクなし、ポリウレタンマスク、布マスク、不織布マスクを試すと不織布マスクが一番鏡を曇らせない、すなわち不織布マスクがエアロゾルの排出を抑制されることがわかります。もっともメガネが曇ることから、総排出エアロゾル量の減少に役立っているかは不明です。ポリウレタンマスクや政府から配布された布マスクだとマスクなしの場合より鏡の曇り方が増し、それらのマスクをした場合はエアロゾルの排出が増えているのがわかります。考えれば当たり前のことですが、マスクをしていると、口腔内、鼻腔内の温度が上昇するだけではなく、呼吸が苦しくなるのでより深呼吸になってエアロゾルの発生量を増やしているのです。さらにポリウレタンマスクの場合、曇った鏡を丁寧に見ると、エアロゾルの中にぽつぽつと大きな飛沫が見えます。調理をしている人がポリウレタンマスクを使えば、飛沫が料理に付着する可能性が高くなります。

●考えることを放棄させる
 スーパーコンピューターの富岳を使った実験の数々が報道される度に「こんなに税金をかけなくても」、「そもそも入力されているデータが間違っていると結果も間違っている」、「元となる論文をそのまま紹介すればいいだけ」などと思っていました。しかし、富岳の実験を紹介する本当の目的は違うところにありました。
 水戸黄門の印籠ではないですが、「この富岳の結果が眼に入らぬか」と言われたら、岩室のようなひねくれ者でなければ「はは~~」と平身低頭、信じてしまうとマスコミは思っているのです。少なくともそのニュースを取り上げたディレクターはもちろんのこと、ニュース原稿を読むアナウンサーもそう思っているのでしょう。新型コロナウイルス対策では、受け手が自ら考えなくてもいい、というか、考えることを放棄させる一方通行、monologue、独り言のような伝え方が主流になっています。

〇考えさせる「対話(dialogue)」の重要性
 一方で文部科学省は新しい学習指導要領の中で「対話的な学び」ということを盛り込んでいますが、この「対話的な学び」は大人社会にこそ必要です。
 「マスクを外した方がエアロゾル感染のリスクが下がる」と言われたらあなたはどのように反応しますか。
 1.あり得ない、バカじゃない
 2.そうなんだ
 3.どうしてですか?
 4.知っています
 概ねこの4つの反応になるのではないでしょうか。1は頭から否定。2は鵜呑み。3は否定をせず、相手に問いかける対話にする。4は既に知っている。今回、「マスクが外せる社会になるには」と投げかけた背景には、その反応として「新型コロナの収束が大前提」と結論ありきの人がいることも承知しつつ、一方で「どうすればそのような社会になるのか」と興味を持ってくれる人もいると期待してのことです。

●「根拠がない=議論に値しない」という風潮
 小学生でもできる実験はもちろんのこと、考えれば当たり前のことなのに「根拠は?」、「論文を示せ」という人が後を絶ちません。困ったものだと思っていたところ、あるメーリングリストに知り合いの公衆衛生学の教授が次のようなコメントを寄せていました。ご本人の了解を得た上で紹介します。
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 世の中の変な風潮に警鐘を鳴らさないといけないと考えています。EBM(Evidence Based Medicine)の副作用かもしれませんが、「根拠がない=議論に値しない」という風潮です。いわゆるEBMで言うところの「根拠」がなくても、たとえば理論的に考えて正しいことはいくらでもあります。例を挙げます。
 飛行機に乗った際に、非常時の説明で、酸素マスクが出てきたときには、子ども連れはまず大人が先に装着して,その後に子どもにつけるように、と言います。「共倒れ」を防ぐという意味で、正しい方法です。しかし、絶対と言って良いと思いますが、いわゆる「根拠」はありません。
(1) 自分で考えることを放棄した。
(2) EBMを逆手にとって、自分に都合の良い論調を張る。
 人災です。
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 マスクが外せる社会になるには、一人ひとりが考え、周囲との対話を重ねるしかありません。新型コロナウイルスがこの世から消えるはずがないので、どうこのウイルスと共に生きるかを、これからもいろんな人と考え続けたいと思います。

2020年11月24日に出演したBS⁻TBS 報道1930の公式YouTube。
【新型コロナ感染対策の“盲点” 間違えると逆効果も…】