紳也特急 37号

〜今月のテーマ『AVに教わるセックス』〜

●『ビデオへの抗議』
○『高校生に教えられる』
●『大学生に教えられる』
○『スチール写真時代のセックス教育』
●『成人映画時代のセックス教育』
○『AV世代のセックス教育』
●『コンドーム、着ける男がチャンピオン』

◆CAIより今月のコラム
「住民参加型フォーラムについて」

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●『ビデオへの抗議』
 いろんなことが起こりますね。先日、私が不在だった自宅に夜10時頃、ビデオ「エイズ・性感染症予防」(大修館書店:16,000円(税別))に抗議する電話が2人の女性からかかってきました。「コンドームを高校生に教えるなんてとんでもない。高校生は勉強をしていればいい。16,000円は高い。」等々。名乗らない。夜の10時という非常識な(と私は思っています)時間帯に電話してくる。一方的に自分の思いだけをしゃべる。私にならいざ知らず家族にまで抗議の矛先を向ける。とんでもない人がいるんですね。自宅の電話番号はNTTでも公開していないのにどうやって調べたのでしょうか? たかがビデオだし、あんなに高いのを買う人は私以上に確信犯(笑)だ、といろいろと思うところはあります。
 ところがどっこい、抗議してこられた方々にぜひぜひ抗議していただきたいと私も思うビデオがありました。というかそのビデオに対抗するものを作らないといけないと思いしらされました。日本中の中学生、高校生はもちろんのこと、大学生、そして多くの大人が楽しんでいるアダルトビデオ(AV)です。この夏は性教育に取り組んでいる自分の認識の甘さを思い知らされました。AVが作り出す新たな性文化(?)、AVが教えるセックスに戸惑い、自分の価値観や性に対する認識を新たにした夏でした。
 そこで今月のテーマは「AVに教わるセックス」としました。(ここで言うセックスとはペニスと膣による性交を指します)

『AVに教わるセックス』

○『高校生に教えられる』
 この夏はAIDS文化フォーラム in 横浜で始まりました。今回のフォーラムではタイで感染が抑えられた理由(あまりにも増えたため他人事意識が解消された)の紹介、HIVに感染している人たちが社会に向けたメッセージを自ら発信する企画、等々、改めていろんなことを感じさせていただきました。私の患者さんたちも来てくれて「居心地のいいフォーラムでした」とうれしい感想を言ってくれました。そんなフォーラムで「こんなエイズ教育があったらな」という企画をし、現役高校生2名を迎えてディスカッションをしました。その内の一人、E子さんに岩室のエイズ教育に足らないものを教えられました。
 E子さんは中学3年生の時に私の話を聞き、その後メールをやり取りするようになりました。中学生や高校生がセックスをすることについても自分の意見をきちん言え、HIV(+)の友人を呼んでの講演会を聞きに来てくれたりということがあって、フォーラムでボランティアやらない、「こんなエイズ教育があったらな」に出て発言しないと誘いました。最初は出ることに躊躇していたものの当日の発言は堂々たるものでした。彼女の発言はフロアの人から「きちんとした自分の意見が言える高校生」と立派に映ったようです。その彼女の発言の中で一番私にとってショックだったのは「岩室先生はチャンピオン君を使ったコンドームの着け方を見せてくれたけど、実際に着ける練習をしないといざという時にちゃんとできないじゃない。コンドームの装着法を見せるだけではなく実習させて欲しい」というものでした。「その通り!もっと実践的な教育をしないと」と反省すると共に、後で聞くとその会場に彼女のお母さんが来ていたのに発言できたE子さんに拍手喝采でした。若い世代の声をきちんと聞く必要性を改めて感じました。E子さん、ありがとう。

●『大学生に教えられる』
 ショッキングだったプログラムはこのメルマガを出してくれているCAIの企画「若者をとりまく、性とHIV/AIDSの情報環境」でした。大学生の男女が若者相手のファッション雑誌にいかに多くのセックス関連の記事が掲載されているか。裏を返せば、セックス記事が販売促進になるということでしょう。さらにインターネットをテレビ画面上で紹介しながら、いかに若者が簡単にエッチサイトにアクセスできるかを紹介してくれました。しかし、それら以上にショッキングだったのはAVが若者のセックスに与えている影響でした。確かに男子中学生、高校生のほとんどがAVを見ていることは承知しています。そしてセックスをしている若者の中で膣外射精が行われているというのも知っていました。しかし、膣外射精はあくまでも少数派で、多くの女性はそのことを嫌がっていると思っていました。私にとって膣外射精のイメージは相手の女性に対する凌辱的なものでしたから当然のことながら相手の女性は嫌がるものだと思い込んでいました。しかし、今の若い女性は膣外射精でセックスが終わっても何ら抵抗感がないということをCAIのメンバーに生の声として教えられ、驚きを隠せませんでした。

○『スチール写真時代のセックス教育』
 私は中学生のときにセックス=ペニスと膣の結合ということを知ったのですが、友達が学校に持ってくるポルノ雑誌(平凡パンチやプレイボーイ)に出てくる映像情報はもっぱら裸の女性だけでした。高校生になった昭和46年頃でも動く映像としてセックスの場面を見ることは非常に難しく、セックスに関する情報と言えば町田の小さな本屋で買った奈良林祥さんの「How to SEX」でした。この本を熟読して、体位の勉強をし、セックスとはこうするものなのだという学習をしていました。一方で愛読していたのが東スポ(東京スポーツ新聞)でした。東スポと言えばプロレスですが、当事大人気のジャイアント馬場、アントニオ猪木、ラッシャー木村、サンダー杉山、豊登(よくこれだけの名前が出てくるものだと感心しつつ)、といったスターの情報を知りたくて駅の売店で買っていました。しかし、繰り返し読んでいたのがエッチ関連記事や連載小説でした。さらに活用させてもらったのは成人・ポルノ映画の写真入り広告で、それだけでオナニーができるほど想像力を書き立てられるものでした。今考えてみれば、セックスとはどのようなものなのかという「動的」な情報・映像を知らないため、東スポや雑誌にある「静的」な写真と小説等の情報を自分なりに組み立てて「岩室紳也のセックス像」を作り上げていました。

●『成人映画時代のセックス教育』
 大学に入ると成人映画、ポルノ映画を見るようになりました。(余談ですが、はじめてオールナイトで見に行った時はさすがに興奮していたものの、オールナイトといっても3〜4本の映画が繰り返し放映されるだけで、途中から飽きて寝てしまい、しばらくして目覚めると同じ場面が再び映されているのにうんざりした覚えがあります。) 実際に見る男女がするセックスの場面は、高校時代に想像していたセックスの部分と、成人・ポルノ映画として創られた部分があると何となく感じていました。これはおそらく同時並行的に実生活の中でもセックスを経験していく中で自分がすること、しないことの区別が刷り込まれていた結果だと思います。確かに映画には膣外射精が出てきましたが、実際の性生活でするものではないと思っていました。誇張されて描かれている性描写は実際のセックスの場面ではできないことが多く、そのようなものを見れば見るほど東スポ、雑誌、成人映画に出てくる性描写の中には自分はしないセックスもあると教えられていたように思います。

○『AV世代のセックス教育』
 そんな私にとって、今の若い女性がパートナーに膣外射精をされても特に気にしないというのは大変なショックでした。私のセックス観が完全に否定されたわけです。いままで「AVのようなセックスをしている大人はいないよ」と話している私は全てではないにせようそをついていたことになります。その思いをある研修会で確認してみました。全員がAVを見た経験があり、参加者のほとんどが女性で保健師、助産師という専門職でした。「パートナーがセックスの最後に膣外射精をしたとしたらあなたはどう思いますか」という質問に挙手で回答を求めたところ、複数の若い女性が「別にいいんじゃないですか」という素直な、特に違和感もない感じで手を挙げてくれました。もっとも比較的年配者の反応は「どうしてOKなの」という否定的なものでした。どのようなセックスが正常で、どのようなセックスが異常かというとそんな決まりはないと思います。人間のように想像力がある生き物の場合は、想像したもの、学習したものを実現しようと思うでしょう。私はセックスとはこうあるものと刷り込まれる中で「膣外射精」を自分はしないセックスと考えるようになっていました。しかし、今のAV世代は膣外射精をセックスの一形態と教育されているんですね。 CAIによれば最近のAVは中出しものが流行っていて、中出しものがこれからのAVの主流になる可能性があるとのことでした。膣外射精ものが飽きられたから中出しものにしようとする作り手側の気持ちはわかるのですが、膣外射精が社会的認知を受けたように、中出しものが認知された暁には、避妊はどうなるのでしょうか? 性感染症予防はどうなるのでしょうか? でも中出しができない患者の治療にはいい?

●『コンドーム、着ける男がチャンピオン』
 結局人、セックスを含めた人の行動は何らかの教え、導きによって方向付けられるとすれば、「寝た子を起こそう健やかに」と大人がセックスとはこういうものだ、こうあって欲しいという情報を刷り込むようにしないといけないのでしょうね。「高校生はセックスをするな」というのもいいでしょうがあふれる性情報の中でどう健やかに起きられるのでしょうか。私はどうせならブラックコンドームをつけていることを鼓舞する男と、「コンドームを着ける男はすてき」と女性が思っているというイメージ作りをしてもらえないかと思ったのですが、AV監督様、いかがでしょうか。無理かな?

◆CAIより今月のコラム

「住民参加型フォーラムについて」
 AIDS文化フォーラム in 横浜が無事閉会しました。沢山の立場の違う市民の参加にこそAIDS文化フォーラムは意義が有るのだな。と再認識させられました。
 現在、南アフリカで開催されている環境開発サミットは現地通貨で1日150ランド(日本円で1700円程)で住民の関心は高いが実際に関係者意外の大半は参加しないと新聞に掲載されていました。南アフリカの生活水準を考えると非常に高価との事です。
 私はHIV/AIDS関連の国際会議に2回参加した事が有りますが、バックグラウンドが医療や教育の専門家では無いので、講演の内容が、正直完全に理解できているとは言いがたい状況です。しかし、学ぶ事や気がつく事の多さチャンネルの多さには国際会議ならではなのかなとも思いますし、今の活動のアイディアになっているのは言うまでもありません。
 今回の環境開発サミットの問題に1つにNGOの展示ブースまでも有料だった事が上げられていました。来年の神戸アジア環太平洋国際会議はどうなのでしょう?会議以外に、住民参加型のフォーラムはあります。今年神戸でプレイベントもあります。もちろん無料で参加できます。
 日本のHIV/AIDSに関するNGOが準備をすすめています。色んな市民向けのチャンネルが用意できると思います。専門家向けでは無いチャンネルが様々な形で御用意できるのでは無いかと思っています。それがNGOの強みでも有ります。できる限り参加してみて下さい。詳細は可能な限り情報発信をしていきたく考えています。住民中心のフォーラムを神戸にも!
成功させたいですね。
                                R.L