紳也特急 83号

〜今月のテーマ『いのち』〜

●『その場にならないと』
○『いのち』
●『老人が消えたまち』
○『召集令状』

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●『その場にならないと』
 家を放火、家族死亡。生き埋め殺人。短絡的誘拐。「どうして」と思っている方が多いと思います。そんな世の中とは一見無関係に夏休み前の今の時期、中学校や高校で講演を頼まれることが多くなります。最近は、思春期の性やエイズはもちろんのことですが、コミュニケーションの大切さ、命の大切さを伝える努力を特に意識して話すようにしています。こう書くと、すぐ声高に「コミュニケーションは大切だ」、「命を大切に」とスローガンを言う人がいますが、そのような伝え方では当然のことながら若者たちはそっぽを向きます。そこで彼らにマイクを向けながら「あなたの一番大切な人を思い浮かべて。もし、その人が亡くなったらあなたはどんな気持ちだろうね」と聞くと、ほとんどの生徒さんたちは「その場になってみなければ」、「わか〜んない」と答えます。
 講演後に学校の先生たちと「どうして先を読めないのでしょうか」とディスカッションしていたら、ある校長先生が「だって、今は『これはこう』と覚えた生徒の方が成績がよいということがわかっていますので一生懸命『覚える』ことに専念し、『考える』ことをトレーニングされていませんから」と教えてくださいました。確かにそうですね。
 そこで、今月は「いのち」をテーマにしたいと思います。

○『いのち』

あなたの大切な人がいなくなること
 あらためて皆さんにお聞きしたいと思います。
 「あなたの一番大切な人を思い浮かべてください。もし、その人が亡くなったらあなたはどんな気持ちでしょうか」
 「あなたの一番大切な人を思い浮かべてください。もし、その人が長く生きられないとしたらあなたはいま何をしたいですか」
 確かに今の若者たちがこんなことを聞かれても、すぐに答えられないでしょうね。人が死ぬことを見たことも、経験したこともなければ「その場になってみなければ」となってしまうことでしょう。しかし、これは若者たちの場合だけの問題ではありません。

●『老人が消えたまち』
 先日、自分の健康診断をある病院で受けた後、病院内のレストランで休憩していたらその病院に併設されている施設に入っているお年寄りの方の昼食会が催されていました。職員の方が車椅子のお年寄りを介助しながら、メニューを見て「これが食べたい」と選んでいる姿はそれなりに幸せなのかなとも思いましたが、「どこかへん」とも思いました。そういえばこれだけのお年寄りが地域から消えたことを私自身認識していませんでした。人が生まれ、生き、病んで、老いて、亡くなるという普通のプロセスを何度も経験して初めて人は自分の中で今、何を、どう選びたいのか、選ぶべきなのかが決められるのでしょうね。そのチャンスを奪っている介護保険制度をはじめとした国の施策は本当に国民を幸せにしているのでしょうか。

○『召集令状』
 朝のNHKのドラマで主人公の恋人に軍への召集令状、赤紙が来て、2週間で入営という場面を見ながら、戦争を体験している人は、自分の大切な人がある日突然いなくなるという事実を何度も目の当たりにしてきている。その2週間の間に何ができるのかを考え、結婚までしてしまうということが繰り返されていました。戦争ですので、様々な悲劇があったでしょうが、少なくともその時、そこにある「いのち」をどう支えるかを多くの人が考えられたようです。少なくとも、その人たちのすぐ下の世代までは繰り返しそのような話を聞かされ、限られたいのちについて考える機会があったと思います。ところが、正直なところ、私は召集令状をもらった人が入営するまでの時間的なことやその間の葛藤について考えたこともなく、高校生の頃は無責任にも「戦争に行って死ぬかもしれないのに結婚をするなんて無責任」と思っていました。
 先を考えられないのは何も今の若者たちだけではなく、私も同じなのかもしれません。ただ、そんなことも言っていられない場面はある日突然訪れます。今月は時間がないので続きは来月に。