紳也特急 175号

~今月のテーマ『まだある未知なる世界』~

○『生徒さんからの感想』
●『ゴシゴシ洗いのススメ』
○『皮がむけました』
●『歯が痛いとどうする』
○『診断をつけたがる医者』
●『まだ正解がないことも多い』
○『予防が苦手な日本人』
●『ノロウイルスに関する追加情報』

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○『生徒さんからの感想』
 年度末はやはり卒業前の中学生向けの講演が増えます。その彼らに話していると、いま、大人が何を伝えなければならないのかが見えてきます。

僕は小学校6年生ぐらいから、前より人と話さなくなって、2次元ばっかになってきたから、「2次元」や「3次元とのコミュニケーション」ということを聞いてグキリと思いました。部活が終わったら基本なにか用事がない限り家にこもってマンガ読んでインターネットでアニメの再放送をあさってたのでもうちょっと人と話した方がいいのかなと思いました。(中学3年男子)

僕は今まで失敗するということをおそれてばかりいました。でも今日の講演会で思春期は失敗をたくさんするということを知りました。恐れずにするということは難しいかもしれないけど、そんなことを思わずに生きて行こうと思いました。恋愛とはストレスでもあるということがちょっと意外でした。それに話し相手がいない男ほど付き合わない方がいいと言われた時はやばいと思いました。少しは話す力をつけたほうがいいなと思いました。この講演で僕には足りないところがたくさんあるなと思ったので、こくふくできるようにがんばりたいです。(中学2年男子)

特に心に残っていることは、親や友達などの身近な人とはきちんと会話でコミュニケーションを取ることが大切ということです。私も人見知りする所があり、普段からは人とはほとんど会話ができません。だけど、これからはもっと積極的に話しかけてみようと思います。(中学2年女子)

一番感動したのは人と人の間で生きるから「人間」なんだという所でした。はじめて気づいたことだったので感動しました。(中学3年女子)

人という字より人間の方がカッコイイと思いました。人間は一人では生きていけないのだと思いました。これからの生活では一人でかかえこまないで誰かに相談ができる場所が学校になればいいなと思います。(中学2年女子)

 この原稿を書いている時に「岩室さんはどうしてそんなに身を粉にして頑張っているのですか?」と聞かれ「そこにやるべきことがあるから?」としか答えられませんでした。一方で自分がこの33年の医者としての人生の中で、取り組んできたことを振り返ってみると、他人がやりたがらない、やっていない分野だったと気づかされました。同じようなことをしているようで、実は目指しているところが異なることもしばしば経験しています。
 卒業した自治医科大学が使命としていたへき地医療も、最近は自治医科大学卒業生の活躍に刺激されたり、世の中の価値観が変化したりしたため、いろんな大学の卒業生が取り組むようになりました。しかし、これから求められる地域医療はもっと幅広い、予防や地域づくりを念頭に置いたものですが、そのことが理解され共通認識となるにはまだまだ時間がかかるようです。このように時代は変わりますが、未だに医療の中で多くの人がまだ取り組んでいない、あるいは十分検証していない、理解していないものがあると気づかされることが続いたので、今月のテーマを「まだある未知なる世界」としました。

『まだある未知なる世界』

●『ゴシゴシ洗いのススメ』
 岩室先生、ご無沙汰しております。1年前に洗い方のご助言を頂いた〇〇です。本日は感謝をお伝え致したく、メールさせて頂きます。
 毎日、石鹸をタオルで泡立てて、痛くならない程度の強さで亀頭をゴシゴシと洗い初めてほぼ1年です。初めは、慣れないタオルのザラザラ感が痛くて仰け反りそうになって上手く洗い切れなかったり、我慢し過ぎと強く擦り過ぎで赤剥けして一時中断せざるをえなかったりしましたが、数週間で徐々に慣れ、だんだん丁寧に洗えるようになりました。
 最初の変化は、終日石鹸の香りする様に為ったことです。それまでは午後には蒸れた臭いがしていたのですが、原因は不潔だったからなのだ、と思い知り、ゾ~ッとしている次第です。3ヶ月ほど過ぎた頃から、冠状溝のブツブツが減り始め、今では、裏筋の左右に数個残すだけになりました。長年の気掛かりが解消し、感謝しております。
 そうして、何より有難いのは、早漏が改善されたことです。50にして初めてタオル洗いを知る事になり始めたのですが、その効果は想像以上の素晴らしいものでした。長年のそぉっと洗いからタオルゴシゴシ洗いに習慣を変えて本当に良かったし、良いことばかりです。惜しむらくは、もっと若い頃から知って実践しておけば良かったと感じております。
 先生におかれましてはお忙しい日々の連続と思いますが、何卒、タオルでのゴシゴシ洗いの普及もおすすめいただきたく、お願い申し上げます。それでは、以上、一年間の効果のご報告まで

 50にして手で優しく洗うのではなく、ゴシゴシ洗いを覚えて早漏も解消。ま、早漏解消はともかく、清潔になって何よりでした。この方は自分の経験をぜひ多くの人に伝えたいと思い連絡をくださいました。確かに「ゴシゴシ洗いのススメ」を周りの人たちに話しても男はプライドの生き物なので自分の経験を楯に素直に受け入れようとはしてくれません。

○『皮がむけました』
 以前先生に講演に来ていただいた事のある高校生です。小学校の頃からいろんな人の講演を聴いてきましたが、岩室先生のお話に一番感銘を受けて、いまだに強く印象に残ってます。とてもとてもとても貴重なお話をありがとうございました! 実は先日、とうとうアソコの皮がむけました。お恥ずかしながら高校生になってもずっと包茎でして、いつかむけるだろうくらいの感じだったのですが、先生のお話を聴いたときから毎日お風呂ですこ~しずつむくようになって、とうとうむけました。友達と下ネタを話すときに包茎を隠すのがなんだか辛かったのでほんとに嬉しくて報告した次第です(笑)。しかしやっぱり文章でも恥ずかしいですね~

●『歯が痛いとどうする』
 8020運動は知っていますよね。80歳になっても20本以上の歯を保ちましょうという健康づくり運動です。そのためには虫歯(う歯)だけではなく、歯周病を予防することも重要です。しかし、単に歯磨きを徹底するだけではなく、ちゃんと磨いていても歯石がたまりますので少なくとも年に一回はかかりつけの歯医者さんに診てもらう必要があります。私は現在23本なので年に一回、かかりつけの歯医者さんで手入れをするようにしています。
 ところが今年になって左下の奥歯が一本、明け方にうずき、目が覚めてしまうことがありました。電動歯ブラシや歯間ブラシ、糸ようじで歯を丁寧に磨いたものの、痛みは一進一退でした。ぬるま湯では沁みないのに、冷たい水では沁みるなどを確認し、「この奥歯が問題」というところまで細かくチェックした後にかかりつけの歯医者さんに行きました。
 X線も撮り、過去の写真と比べ、いろんな検査をした結果、主治医の先生は「明らかに悪い歯はないです。もしかしたら目に見えないひびが入っているかもしれないけど、知覚過敏になっているだけかもしれないので知覚過敏の治療薬を塗って様子を見ましょう」ということになりました。一時的によくなったものの、ある時から左下の奥歯だけではなく左上の歯も2本ほど痛むようになりました。

○『診断をつけたがる医者』
 医者というのはつらい思いをしている患者さんの話を聞き、必要な検査をし、症状の原因を突き止め、診断をつけ、適切な治療に結びつけるのが仕事です。私の場合、自分の専門かどうかではなく、気になることがあれば、原因を探り、対処法を考えたいという探究心はどうも人一倍のようで、気が付けば最近は自殺対策にも、被災地支援にも首を突っ込んでいます。
 「左下の奥歯に加え、左上の歯も2本痛い」となると「歯が原因」という考え方では説明ができません。しかも、それらの歯がずっと痛いのであればともかく、痛みが引くときもありました。顔の左側だけに痛みがあるので神経が原因→三叉神経痛と勝手に診断をつけていました。

●『まだ正解がないことも多い』
 「三叉神経痛」は結構厄介な病気とされています。薬で痛みが抑えられない時は手術をすることもあります。名医と称している先生方もいるようですが、専門書やネットでいろいろ読んでも、どの治療方法も「なるほど」と思えるものではありませんでした。そのような時、皆さんだったらどうしますか。医者を次々と変えてみるというのもいいでしょうが、私の場合は自分が納得できないと気が済まないのでいろんなことを考え続けていました。「でも三叉神経痛の専門ではないでしょう」と言われそうですが、そう指摘する人って「正解がある」とか、「誰かに教えてもらえる」と思っていないでしょうか。「包茎」も実は正解があるようでなかったので、試行錯誤の結果、むきむき体操やゴシゴシ洗いにたどり着き、前述のような反応をいただいたのだと思います。
 「痛み」というのは痛んだ所に原因があるとは限りません。尿管結石の時に精巣(睾丸)が痛むことがあります。三叉神経痛が起きている時に頭部、頸部、上半身のいろんなところを触ってみると、何と左半身のいろんなところがこっていました。そこをマッサージで少しずつもみほぐすと痛みもスーッと引いて行きました。コリから来た痛みのようでした。コリの原因はパソコンのし過ぎだと思いますが、細かくチェックしてみると、最近、パソコンに、それも家での24インチ3画面の環境ではなく、13インチのノートパソコンの画面に向かう時間が増えていました。これは車で出かけることが減り、電車、飛行機、バスの悪条件の中でノートパソコンと向き合うことが増えた上に、車を運転していれば遠くを見て目を休めることもできるのですが、その機会も減っていたと反省しています。何はともあれ痛みの原因にたどり着けたので、次は予防を考えたいと思います。

○『予防が苦手な日本人』
 名古屋駅前で車で歩行者に突っ込んだ人のことを聞き、多くの人は秋葉原事件の再来と思ったのではないでしょうか。いつも言っていることですが、「原因追究」をするのであれば、「このような事件をどうすれば予防できるか」という本質論を社会全体で考えるようにしないと、次の犠牲者にあなたが、私がなるかもしれません。その際に気をつけたいのが、本人の問題ではなく、どうしてそのような人が育ってしまったのかという社会の問題です。生徒さんの感想にあったように、人は人と人との間で生きているから人間になれる、人間であり続けられるのです。人間らしい感性というのは人と人との間で暮らすなかで自然と身についていくものですが、名古屋駅前の事件といい、秋葉原事件といい、どちらも社会から孤立して生きるしかなかった環境が事件の根底にあったのではないでしょうか。
 いろんな人が孤立してしまう社会に蔓延しているリスクは一つではありません。ぜひこれからも皆さんと一緒に考え、一つひとつのリスクに丁寧に対処し続けたいと思います。

●『ノロウイルスに関する追加情報』
 先月号でノロウイルスについていろいろ書きましたが、少し追加しておきたいと思います。
 二枚貝はプランクトンを餌にしているためノロウイルスを持つのですが、加熱して食べる二枚貝のシジミ、ハマグリ、アサリのノロウイルスはまず問題にされません。しかし、シジミなどは実は砂抜きをする際に。砂抜きをした水にノロウイルスが含まれていることを意識する必要があります。砂抜きした水を捨てる際に貝が一緒に流れて行かないように手で押さえながら水を捨てるでしょうが、砂抜き後の水にノロウィルスが入っていますので、手はもちろんのこと、流し全体をきれいに洗いたいものです。

 未知の世界ってまだまだあるものですね。