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全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!
性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を専門家の立場から鋭く解説。
Shinya Express (毎月1日発行)
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~今月のテーマ『できるひとが、できることを、できるときに、できるように』~
●『第26回AIDS文化フォーラム in 横浜』
○『なぜ薬物を使うのですか?』
●『あなたはマジョリティですか?』
○『啓発が作り出す生きづらさ』
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●第26回AIDS文化フォーラム in 横浜
8月2日(金)~4日(日)にかながわ県民センターでAIDS文化フォーラム in 横浜を開催します。
https://abf-yokohama.org/
気が付けば1994年の初回から25年、26回目、よく「どうしてこんなに長く続けられたのですか?」と聞かれます。
一方で、先日、浦安市で高齢者が住みやすいまちづくりの議論をしていた時に興味深いことに気づかされました。浦安市の高齢化率(全人口に占める65歳以上の人の割合)は17.2%と全国的に見れば非常に若い地域です。もちろん今後高齢化率が急上昇すると予測され、いろんな対策を議論し続けています。しかし、浦安市内を丁寧に見ると、既に高齢化率が40%を超えている地区もあり、そのようなところでは高齢者がお互い様の精神で支え合うまちづくりが進んでいることも明らかになりました。その議論をしていたら、「キーパーソンの〇〇さんがいるから」とある人が発言し、会議の参加者の何人かが〇〇さんを知っていたので「そうですよね」と話が打ち切りになりそうでした。確かにキーパーソンの存在は重要なのかもしれませんが、その時、ふと陸前高田市の会議での議論を思い出しました。
できるひとが、できることを、できるときに、できるように。
陸前高田市の女性の平均寿命は現在岩手県内の市町村比でNo1になっています。その要因として、いろんな活動がいろんなところで展開されていることが功を奏していると考えられています。それぞれの活動にはキーパーソンがいらっしゃるのですが、陸前高田市の会議で出たキーワードが「できるように」でした。どんなに素晴らしいアイディアを持っている人でも、その人がそのアイディアを、能力を発揮するためには、その人を取り巻く環境、いろんな人と人とのつながりが重要です。「できるひと」には必ずそのひとが「できるように」してくれた環境があることに気づかされました。
AIDS文化フォーラム in 横浜もできるひとが、それぞれができることを、それぞれができるときに行い、神奈川県が会場を提供してくださったり、様々な団体が寄付をしてくださったり、ボランティアの方々が支えてくださったり、それこそ参加者が参加してくださることで支えてくださったりしてくれているおかげで何とか成り立っています。いい意味で、「みんながキーパーソン」です。ということで今月のテーマは「できるひとが、できることを、できるときに、できるように」としました。
できるひとが、できることを、できるときに、できるように
〇なぜ薬物を使うのですか?
「ダメ絶対運動」というのを聞いたことがあると思います。違法薬物の覚せい剤、大麻、コカインなどの所謂ドラッグを使う人を減らそうという運動です。何を隠そう岩室紳也も違法薬物を使っている人はダメな、弱い、どうしようもない人と思っていましたし、その人たちと自分自身が関わる必要性を感じたこともありませんでした。そのような人に接することがあっても「ではダルクに行ってみたら」や「芹が谷病院の専門外来に紹介しましょう」という思いしかありませんでした。
ところがいろんなことを勉強してみると、何とドラッグは一度使ったら絶対抜けられないのではないことをベトナム戦争が教えてくれていたようです。兵士の20%がヘロインを与えられていたにも関わらず、兵役を終え、家族や仲間のもとに戻ると95%の人は何のリハビリを受けることなくドラッグフリーの状態になったようです。薬物依存症となった5%の人たちとの違いは依存先があったかなかったかでした。
では、実際に日本でドラッグを使う人たちはどうなのかを教えてもらうため、今年のAIDS文化フォーラム in 横浜で当事者の話を、専門家を交えて聞く機会を作ることができました。
回復を応援する共生社会とは
8月2日(金)15:30~17:30
薬物依存症の第一人者の松本俊彦先生と、元NHKアナウンサーの塚本堅一さん、薬物で医業停止2年間の処分を受けた新堂慎二さん(仮名)とのトークセッションです。「共に生きる社会を」ときれいごとはいっぱい並んでいますが、皆さんのお隣に引っ越してきた方が「実はドラッグで刑務所に入っていました。でも刑期を終え心機一転頑張りますので、よろしくお願いします」とあいさつに来られたら皆さんはどのような言葉を返しますか。罪を償った人がまだまだ排除し続けられている社会です。その人たちが再チャレンジできる社会になるために何が求められているのかを考えたいと思います。
●あなたはマジョリティですか?
セクマイ(セクシャルマイノリティ)、LGBTQ、SOGI(Sexual Orientation Gender Identity:性的指向・性自認)などと言った言葉がよく使われますが、人間は自分の存在を肯定するためにいろんな分類を作って、自分の居場所を確認したがるようです。HIV/AIDSに関わりだした当初、岩室は正直なところゲイの方のことがよくわかりませんでしたし、少し敬遠していました。しかし、いろんな経験を重ね続ける中で、そもそもマイノリティ、障がいの問題はマジョリティの側にいることで安心感を得ようとしている人たちのパワハラと思うようになりました。
「異性愛者とセクマイという分類であなたはどちらに入りますか?」と聞かれると多くの人は「異性愛者」と答えます。「男が好きですか、女が好きですか」と聞かれると、多くの人は異性を思い浮かべます。ところが、「異性なら誰でもいいですか」と聞かれると「とんでもない」ということになります。ということはその人は「異性の中の『このような条件を満たす』人が好き」ということになり、「えっ、そうなの。私の趣味と違う」と同じマジョリティのつもりの人とは別の存在となります。すなわち、丁寧に見ると全員がマイノリティなのに、そのことを認めたくないから、認めることが怖いから何らかの共通項を見つけてマジョリティになりたがっているだけではないでしょうか。このような話を次のセッションでします。なんとAIDS文化フォーラム in 横浜初のYou Tube LIVE配信付きです。
マイノリティとマジョリティ~生きやすい世の中とは~
8月2日(金)13:00~15:00
YouTuberでゲイのかずえちゃん、自らの、様々な体験から生じたPTSDを、ネットを上手に利用して乗り越えてきた体験を持つインターネットポリシースペシャリストの宮崎豊久さんと一緒に「生きやすさ」や「生きづらさ」とその背景について考えます。
★You Tube LIVE配信は【とよさんコミュニケーションズ】というチャンネルで。
〇啓発が作り出す生きづらさ
自分自身の反省を込めて言うと、「HIV/AIDS予防にコンドーム」というメッセージは実はとんでもない啓発方法でした。「えっ、どうして?」と思いますよね。でも、この「正しいメッセージ」を繰り返し聞いた小学生の気持ちになってください。「HIV/AIDSになった人はコンドームを正しく使えなかった人」ということになります。もちろん「HIV/AIDSになっていい」というつもりはありませんし、ならない方がいいに決まっています。しかし、なった人の立場から考えられるようになると「HIV/AIDSになって何が悪い!?!」となります。
東京都の啓発イベントで岩室が「HIV/AIDSになって何が悪い!?!」と話したら女装家のブルボンヌさんが「医者でそういう言葉を言う人に会ったことがない」と言ってくださいました。この一言が私にとってすごい応援メッセージになりました。自分で口にしながらも、「HIV/AIDSになって何が悪い!?!」というメッセージの重み、深み、難しさを自分だけだと気づくことができませんでした。「できるように」、すなわち岩室がこのメッセージの重み、深み、難しさに気づけるようにしてくれたのがブルボンヌさんでした。まだまだ深掘りをしたいと思い次のセッションを開催します。
HIV/AIDSになって何が悪い!?!
8月3日(土)13:00~15:00
ブルボンヌ(女装パフォーマー)、長谷川博史(JaNP+理事)、岩室紳也の3人で考えます。長谷川さんが「MCが3人揃ったらどこに話が広がるか全く想像がつかないよね」との感想でした。私自身が楽しみにしています。
皆さんのご来場をお待ちしています。