~今月の話題「再び薬害エイズが起こってしまった???」~
今回はこのことだけで書いてみました。
CAIのホームページの最新ニュースで次のようなコメントが載っています。「1999年10月10日■ ●輸血によりHIV感染発覚!あの事件?関連報道を聞いていると、輸血提供者がHIV抗体検査の為に献血したように言っているけど、純粋に献血しようとした可能性だってあるのに。。。と思うのは私だけ?献血した経験がある人はわかると思うが、問診を強化するって言っても限界があるし。輸血時のリスク説明の言及はあったのでしょうか?疑問です。」と。
○あなたの問題? 誰の問題?
あなたはこれら一連の報道をどう受けとめましたか。自分自身の問題として考えてみましたか。
10月19日の読売新聞夕刊でも「HIV、献血で発見急増」という記事が一面を飾りました。私はエイズ問題に関わる人間として、憤り(いきどおり)と感染された方への申し訳のなさで翌日投書をしましたが、取り上げられる可能性は低いのではないでしょうか。神奈川新聞は夏に「献血でのHIV抗体陽性者が増加」という記事を書いていたのですぐに取材をしてきましたので私なりに問題点をコメントしておきました。しかし、時間をかけて、論理立ててお話しないと理解されないところがあるようですので少しページを割いて書いてみました。
何が問題なのですか、どうして憤りを感じているのですか、誰に対して憤りを感じているのですか、と何人かに聞かれました。私が考え過ぎなのかもしれません(と書きながらそうは思っていません)が、今回のトピックスは「再び薬害エイズが起こってしまった???」というかなり刺激的、挑発的なものにしました。今回の「事件」を詳しく説明したいと思います。
○どこまでが不可効力?
少し前に日本赤十字社が献血で集めた血液を輸血された結果、お気の毒にも2人がHIVに感染してしまいました。私が敢えて「お気の毒にも」と言っているのはやむを得ない感染とも言える一方で、予防できたかもしれない感染だからです。ここが大切です。「やむを得なかった」か「予防できたかもしれない」では非常に大きな違いになります。地震で自宅壊れてケガをした時を例に考えてみて下さい。地震は天災で誰を恨んでも始まりませんし「やむを得なかった」としてあきらめるでしょうが、後で実は自宅の工事が手抜きであったとわかれば工事業者を訴えますよね。今回も厚生省研究班!!!!!が「保健所などの検査体制の拡充が必要だ」と見当違い、責任逃れのコメントを出しています。この研究班だけではなく、献血を実施している日本赤十字社も少々見当違いの対策を行なっていると思います。(こんなことを言っていると将来日赤に天下りできないよ、という声が聞こえてくるような気がしているのは幻聴でしょうか)。もちろん、厚生省も積極的な対策を打ち出していません。
○献血でのHIV混入予防対策
献血で確保された血液を輸血する前に、その安全性を確認するためにHIVの抗体検査や、HIV自体が混入しているかを調べています。HIVが混入している可能性がある血液は廃棄処分され使われることはありませんが、どんなに精度の高い検査方法を用いても感染してから2〜3週間の間は検査では「陰性=感染していない」という結果が出てしまいます。[献血で集めた血液を2〜3週間保存して、それから検査をしたのではだめですかという質問を受けることがあります。しかし、抗体ができたり、ウイルスが増殖(増える)のは血液が人の体内にあるときだけですのでダメです]。献血にHIVが混入していることを検査で確認できない期間をウインドウピリオドと言い、最新の技術を導入しても完全に解消することはできません。最新の検査方法にミスがないとするならば「3週間以内にコンドームを最初から最後まで正しくつけなかったセックスをした人は献血をご遠慮下さい」というのもHIVの混入を防ぐ方法の一つでしょうがそうすると献血数自体が減ってしまうでしょう。
○献血での問診
日赤は献血の場面でウインドウピリオドの期間に献血をする人をできるだけ少なくする方法として、エイズ検査目的の献血と感染している可能性が高い人達からの献血を排除するために次のような「問診」を重視して行なっています。
お願い:問診は項目ごと正確に答えてください。 輸血の安全性を高めるためにぜひご協力をお願いします。 問診は、献血される方の健康を守るために、そして輸血を受ける患者さんの安全性を高めるために実施しています。 献血の際、問診票の内容を充分にご理解していただいたうえで、項目ごと正確にご回答いただき、最後にご署名をしていただきます。問診に対するみなさまのご理解とご協力をお願いします。問診により、次に該当する方は献血をご遠慮していただいております。
エイズ検査の目的の方
この一年間に次のいずれかに該当することがあった方
(1)不特定の異性と性的接触をもった
(2)同性と性的接触をもった
(3)エイズ検査(HIV検査)で陽性と言われた
(4)麻薬・覚せい剤を注射した
(5)上記(1)〜(4)の該当者と性的接触をもった
不特定の異性や同性とのセックスをしていてもコンドームを最初から最後まで使っていればHIVに感染しません。麻薬・覚せい剤を使用していても自分だけで使っている分にはやはり感染しません。また、問診で「同性との性的接触」を質問項目として残していることはゲイの人達に対する差別を助長することになりませんか。
○あなたがHIVに感染するリスクは何でしょう
HIV感染はもはや、セックス、静注薬物の回し打ち、出産・授乳、医療機関での針刺し事故、そして輸血でしか感染しません。帝王切開等を行なっても防げない母子感染と医療機関での針刺しを除けば輸血以外の感染(セックス、静注薬物の回し打ち)は「自己責任」で回避できます。読者の皆さんが感染する可能性があるのは何ですか。
いつもながら私個人のことに当てはめて考えてみます。既にこの世に生を受け、授乳(自己責任で子供のを盗み飲む場合、しかもそのお母さんの感染を知ってか知らずかは別として)の予定もありません。HIV陽性の人の診療もしていますが、針刺し事故をしてしまった場合は医者としてやむを得ないと思っています。今の所薬物には手を出していません。セックスは愛する女房としかしません(そのつもり、たぶん、おそらく、いや絶対?????、仮に誰かとしてもコンドームの達人が生でするはずがない、そうだこれを最初に言えば良かった???? 何を混乱しているのだ、しっかりしろ!!)。
ある高校での講演会の時の生徒と私のやり取りを紹介します。
岩室:私はHIVに感染している人の診療をしていますが針刺し事故以外では患者さんからHIVをもらうことはありません。輸血で感染する危険性がありますがこれはやむを得ないと思っています(取り敢えず建前として)。麻薬の回し打ちもしていません。セックスは愛する女房としかしません。だから、私はHIVに感染することはありません。しかし、あなた方はこれからセックスをすることでしょうからHIVに感染する可能性を考えてコンドームを使って下さい。
生徒:それは変だよ。先生だってセックスで感染する可能性はありますよ。だって奥さんが誰かとセックスしているかもしれないでしょ。
岩室:????????
返す言葉がなかったというのが正直な所です。愛しているから、信じているから、そんなはずがない、いやコンドームを使っていれば大丈夫だ????、俺の女房を侮辱するのか、と言ったところで真実は女房しか知らないことです。そんなことを言ったら奥さんがかわいそう、という意見もあるでしょうが、HIV感染の可能性があるかどうかは二人の愛情云々の問題ではありません。客観的な観点からお互いの可能性がゼロの時に初めて感染するリスクがないと言えることになります。高校生は「誰でも感染する可能性があるということですね」ということを指摘してくれたと思って感謝しています。
○どうして検査目的の献血がおこるのでしょうか
ウインドウピリオドに献血する人には2通りの場合が考えられます。1つは献血前の2〜3週間以内にセックスをしていたにもかかわらずその時にHIVに感染したことにまったく気が付いていない人です。このような人には問診は全く意味を持ちませんし、セックスの際には必ずコンドームを使うという習慣が徹底されない限り、このリスクはこれからも排除できません。もう1つは献血前の2〜3週間以内にセックスをしたことに不安を覚えてウインドウピリオドのことを知ってか知らずか、検査目的に献血をしてしまう場合です。この場合、本人は検査をしたことにはなりますが、検査結果が正確ではなく、感染の有無を確認するには再度検査を受ける必要があります。保健所でエイズ検査に関わっていますと、検査を受けようとする人達の中には抗体出現までに3ヶ月かかることを知らない人から、知っていても3ヶ月間が待てない人、あるいは、過去の感染なのか最近の感染なのかを調べるために何度も受ける人がいます。ある人は「自分はハイリスクなセックスを止められない。しかし、感染したら他の人にうつしたくないから定期的に検査を受けている」と言っていました。定期的に保健所で検査を受けている人も多くいますが、検査目的で献血を利用している人がいる事実は認めざるを得ないと思います。
保健所に勤務しエイズ検査を担当しているものとして、安心できる、受けやすい検査方法を工夫してきたつもりです。検査時のカウンセリングでは万が一陽性になった時に保健所は医療機関を紹介するだけではなく、地域で生活する時の支援もしていることを説明させていただいています。受けやすくするための工夫として全国的には、夜間、休日、祭日に検査が受けられる所は数多くありますが、残念ながら保健所の検査をどんなに受けやすくしても、全国津々浦々まで移動式に周っている、献血をしていて怪しむ人もいない、といった献血のしやすさを超えることはできません。本人の良心に訴えることも大切でしょうが、全ての人に検査目的の献血をさせない方法はないと思います。「保健所で検査を」と建前を言うだけでは検査目的の献血はなくなりません。献血をしても検査結果を教えてくれなければ検査目的の献血は必然的になくなると思いますがいかがでしょうか。
○輸血での感染は自分でチェックしましょう
輸血によるHIV感染の危険性は医療機関では認識されつつあります。輸血の前にリスクについて説明はされています。しかし、輸血後のHIV抗体検査をしている医療機関はほとんどありません。輸血を受けた人こそ(本人が望めば)検査を受けて自分のこれからの治療や生活設計を考えることが重要ではないでしょうか。もちろん輸血で感染したことが明らかになれば様々な保障も受けられますが、そのためには輸血して少なくとも半年以内に感染していることが証明されたり、保存されていた血液に含まれるウイルスと一致することが大前提になります。何年か後にHIV感染が判明し、セックスでパートナーにうつしていたにもかかわらず輸血によるものと証明できずに泣き寝入りする人がでないかを心配しています。今までに、あるいはこれから輸血を受ける人は輸血を受けた3ヶ月後に抗体検査をお受けになるという選択肢もあることを承知しておいてください。
○社会防衛か自己責任か
献血でHIVに感染していると分かった人にその結果を教えないことはどのようなデメリットがあるでしょうか。告知するメリットとして以下のようなことが言われています。
1. 献血者は、より早く感染の事実を知れば早く治療に結び付けることができる
2. 献血者は、感染を知っていれば自分のパートナーへの感染を予防できる
3. 献血者のパートナーは感染の事実を知ることで感染予防ができる
どれも一見ごもっともな意見のように思われますが、大前提として「輸血の安全性」を確保するべきなのでしょうか。それとも「献血者やそのパートナーのメリット」を優先するべきなのでしょうか。私は「自己責任」で回避できることに対して他人の犠牲を払ってまで守ってあげることはおかしいと思います。検査目的の献血をなくさない限り輸血でHIVに感染するリスクを減らすことができません。検査結果を知らせなければ検査目的の献血はなくせます。私には単純明快なことであり、これを実施しない理由が理解できません。できることをしないかった結果HIVに「感染させられてしまった」人達は「第二の薬害(輸血)エイズ」被害者と言えませんか。
誰が「検査の告知をするように」と判断したのでしょうか。
今、誰が「検査の告知をしないようにしよう」と判断できる立場にあるのでしょうか。
私は「再び薬害エイズが起こってしまった」と思っています。輸血の危機管理を急がなければ被害者はさらに増えることは間違いありません。
皆さんのご意見をお待ちしています。
◆読者の方から
『vol,2で男性のオナニーの話が出ましたが女性のオナニーはどうなんでしょうか??教えてください?』
紳也
男性のオナニーを「必須科目」とすれば女性のオナニーは「選択科目」と考えています。また、男性のようにワンパターンではないようです。
◆CAI編集者より今月の一言
来月12月1日は、世界エイズデーです。この日に合わせて新コンテンツ『コンドームの正しいつけ方』を動画でアップする予定です。コンドームが外れた、破れた経験のある方は必見です。お楽しみに。
ホームページ開設より来月で1年、1日のアクセス数も50件以上、多い日には150件を越えます。『紳也特急』購読者数も700部を越え反響の大きさに驚いています。また、充実したコンテンツ作りに日々頭を悩ましています。
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