紳也特急 55号

〜今月のテーマ『コミュニケーション』〜

●『読者からのメール』
○『乳幼児はテレビを控えて』
●『人を思い込みで判断』
○『講師の選択に失敗?』
●『大人のハードル』
○『なぜ、コミュニケーションか』
●『「人間」という言葉』
○『聴衆にいただくエネルギー』

◆CAIより今月のコラム
「たった一度の油断でも」

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 先月号の「大人も下げよう、性のハードル」にいくつかの意見、感想をいただきました。私も「うん、うん」と頷くものばかりでしたので、その一部を紹介したいと思います。

●『読者からのメール』
その1
 アダルト情報はすべて有害情報なのか。例えば、マスターベーションについて、悪いことではない、自分で欲望をコントロールすること、と肯定しても、その先は言いません。その先に何があるか。性産業です。オナニーはHなビデオや雑誌とセットになっているんです。数学の教科書を見ながらオナニーする子はいないのです。みんな性産業のお世話になっているのです。一方で、性産業の情報を否定し、一方で男の性欲を肯定するのは矛盾していると思いませんか?アダルト情報がすべて青少年の健全育成に有害と決め付けないで、「正しいアダルト情報の見方、付き合い方」を教える必要があると思っています。
 先日、「資料」として購入した「コミックMUJIN(むじん)」という漫画は、普通の週刊誌と同じところで売られていましたが、中身はレイプ、ロリコン、輪姦で埋め尽くされていました。少女向けコミック「17歳〜はじめてのH」には、強引にキスをされ、強引にセックスを求められながら、そのかっこいい男の子に恋をしていく女の子の心理が描かれています。これも普通に売られています。「これはちょっと違うんじゃないの」と言う大人が必要ですよね。(男性)

その2
 私は、純潔教育がセックスを結婚制度に結びつけるために
・愛のないセックス(この“愛”が「唯一の異性」とのセックス=結婚制度を支える)
・未成年のセックス(結婚できないから)を禁じているのではないかとにらんでるんです。で、結婚制度に反対するほどフェミな思想を持ってるわけじゃないけどうさんくさいな〜命令しないでよ!って思うわけです。(まだ、若いんですっ!(笑))
>  セックスをしたっていいじゃない。何が減るんですか?
> 減るもんじゃないでしょ、と冗談を言うと、大人たちは
> 「肉体的には減るものは無いかもしれないけど、精神的
> には失うものが大きい」と怒っていたのを思い出します。
 岩室先生のお話に出てきた、この人も「愛のないセックス」を禁じるタイプだろうなぁ、って思います。あ、愛って言うのは、ただ好き、って気持ちとは別の…上に書いてあるようなことです。ちゃんと避妊をして、テクが乱暴すぎたりしなければ何も「傷つく」ものはないのに!ほんと、性の価値観には違いがありますよね。この人も、自分の信じる秩序が乱れるのが怖いから、反対するんでしょうね。
 でも、物理的に傷つかないようにする方が、先決ですよね。そのために、知識を!
 ん〜高いハードルがあるんですね〜とてもわかりやすい号でした☆(女性)

その3
「性情報のハードル」
「性行動のハードル」
「性の価値観のハードル」
と情報・行動・価値観を分けて考える、というのが面白かったです。ひとつひとつ丁寧に超えていかないといけないんですね。私が会社で一番仲の良い友人から、彼女のセックス・パートナーの話をよく聞くんですが、どの人もコンドームを使いたがらないそうなんです(なぜかそういう人ばかりと気が合ってしまう彼女。。。)。良くないよね〜、と彼女は自分で言うし、私もリスクについての話をしたり、コンドーム以外のbetter choicesをアドバイスしてはいますが、一向に何か変わるような気配はない。まぁ人の行動を変えるなんて大変なことだし、彼女のことは心配ながら、ちょっと諦めかけてたんですが、今日の紳也特急を読んで、情報(言葉)は共有できていても、価値観は違うのかもしれない。そういう風に少し細かく考えてみたら、違う話の仕方ができるかもしれない、とちょっと思い直しました。人に伝えるって難しいけど、新しい切り口が得られて収穫でした。(女性)

 今回、いろんな反応をいただきありがとうございます。私自身、あらためて、「情報の受け止め方」が大事だと思いました。Information(情報)がいくらあっても、Education(教育)をどんなに頑張ってしても、他の人とのCommunication(コミュニケーション:適当な日本語がないことが日本らしい?)を通した理解、納得、そして意識化ができないとせっかくの情報や教育がその人のものにならないのではないでしょうか。
 ということで今月のテーマは漠然と「コミュニケーション」としました。

「コミュニケーション」

○『乳幼児はテレビを控えて』
 先日、新聞に日本小児科医会の提言として「2歳未満はテレビ控えて」という記事が載りました。小さい子どもにテレビを長時間見せていると言葉が遅れる、視線を合わせない、友人と遊べないといった乳幼児が最近、臨床現場から数多く報告されるようになり、そうした家庭ではビデオやテレビを長時間見せている例が目立ち、小児科医がテレビを見せないように助言すると改善したケースも少なくないということのようです。この記事を読んで、私は次のような投書をしました。(実際には大分添削が入ったのですが採用されましたが、ここでは原文を紹介します。)

●『関係性の再構築を』
 医師 岩室紳也 48歳
 「2歳未満はテレビ控えて」という小児科医会の呼びかけを皆さんはどう受け止められたでしょうか。こども達に「対人関係や言葉に遅れ」という問題があることも事実ですが、目先の状況ではなく、問題の本質に目を向けた対応をする必要があるのではないでしょうか。
 いま、社会問題として表出している事象の多くは人と人の「関係性の喪失」から来ています。人間にとってコミュニケーションは不可欠です。こどもがテレビを見ているから対人関係や言葉に遅れが出るのではなく、親となった人がこどもにどう語りかけ、話していけばいいかがわからないのです。一方で「コミュニケーション」を求めているこども達は一方通行ではあるものの自分に語りかけてくれるテレビに引きつけられ、自分から言葉を発せなくなります。家族で食卓を囲む時にお互いがコミュニケーションを取れず、テレビで間を持たせていた世代が実は今の親世代を生んでいます。携帯にしがみついている現代人を見ればいかにコミュニケーションに飢えているかがわかります。
 「テレビを控える」といった対処法ではなく、テレビを見なくても楽しい「関係性の再構築」が求められていると思います。一人一人が声を掛け合う地域づくりから始めませんか。

●『人を思い込みで判断』
 ところが先日神奈川県に講演に行った際に「コミュニケーション」の話題になったときに「そういえば先日岩室先生と同じ名前の人がこのことで投書していました」と言われ唖然としました。「読売新聞の投書なら私ですが」と言ったら、そばにいた私をよく知っている人も「あなたは岩室先生のことを知らずに何を言っているんですか」とフォローしてくれましたが、当の本人は「岩室がコミュニケーションのことを投書するはずがない」と思っていてどうも納得できないようでした。
 そんなことを紳也特急の原稿に書いているときに一通のメールが届きました。地域をあげてエイズに取り組もうとされている方が、私を呼んだ後にさらに多くの方を巻き込んだ取り組みをしようと、比較的近くにいる方に講演をお願いしたようですが、講師選びの難しさについて次のようなメールをいただきました。

○『講師の選択に失敗?』
 (前略)先方は、岩室先生とは、面識があるとおっしゃっていましたが、率直に申し上げると・・・彼等は反岩室派なのでしょうか?私の受けた印象は、昨年、岩室先生が私達に残してくれたもの、そして今後の取り組みの基礎として、我々の中にある岩室先生の考え方には、合致していないと感じました。様々な考え方や教育方法があってしかりですが、私は、エイズについて説明できれば誰でもいいなどとは、全く思っておりません。岩室先生は、いかに子供達の心の中に入り込み、心のこもった愛情を育む伝達を心掛けているかを常に考えていると昨年の先生との沢山のメールから学びました。だからこそコンドームも子供達には、受け入れられるのだと思っております。それを『彼はコンドームだけでエイズ自体の事は、あまり得意ではない』と言われては、先生がよく言う、そこらへんにいる理解のない大人と同じで、しかもその人に講演を頼むなど…、運動の幅を広げられる絶好のチャンスなだけに、残念でなりません。(30代男性)

●『大人のハードル』
 私自身、確かに話すこと、していることの一部が少し「過激」だとは思います。(全部が過激に聞こえる人もいる?) しかし、いつもコンドームは所詮道具でしかないと割り切っていますし、若者や一般向けの講演会でもコンドームについて話すのは最後の5分程度です。しかし、チャンピオン君を出し、コンドームを出して実演している状況というのは多くの大人にとってその前の1時間半の話を忘れさせるほど大きなショックであり「情報・行動・価値観すべてのハードル」を高く積み上げる結果となっているんですね。また、エイズに取り組んでいる方が私の話を聞くAIDS文化フォーラム in 横浜のプログラムでは私自身も参加者に遠慮があります。いまさら岩室がエイズのいろいろを話すより「コンドーム」に限定したプログラムを組むようにしているためそこに参加された方は「コンドームしか話さない、コンドームしか話せない岩室」という印象が強くなるのでしょうね(笑)。一方で子どもたちはそのすべてにおいてハードルが低いため、コンドームの話にひるむことなく、その前の話もきちんとこころに留め置きながら聴いてくるようです。
 こうやって書いていてやっと大人と子どもの受け止め方の差を気づかされるおろかさを感じています。大人は人の話を聞く時に、特にエイズや性のように自分なりのハードルがある問題については相手と自分との距離を見定めて話を聞いてしまいます。それに対して子どもたちとはこころとこころのコミュニケーションを図りながら人の話を聴き、そして自分の糧とすることできるようです。

○『なぜ、コミュニケーションか』
 学校教育の中で情報提供されたことや教育を受けたことを自分のものとするには「予習」、「復習」が重要だったように、「性」に関して多様、かつ多量の情報が流れているにもかかわらず、それが自分のものとなるにはいろんな人とコミュニケーションをとりながらそれが正確なものか、表現として適切なものか、正確に理解できているのか、等々、確認しなければならないことは多々あります。しかし、人間って勝手なもので実際に多くの情報を自分なりに勝手に解釈し、自分の解釈を正当化して人を巻き込もう、教育しようとします。ところがその情報伝達や教育の過程で相手との双方向のコミュニケーションが取れていると自分の解釈の誤り、表現力のなさに気付かされていくはずです。コミュニケーションがきちんと取れるということはその二人の間のギャップをも明らかにするでしょうが、一方で相手のよさにも気づけて人は少しずつ成長できるのではないでしょうか。

●『「人間」という言葉』
 初めて人間という字を書いた時のことを覚えていますか。私は「人の間」が人間ってへんだと思いました。人と人の間は空間ですよね(笑)、とへんな理屈を思いついたものですが、最近は「人間」という言葉を考え出した人って偉い! それこそ「人間」の本質を見抜いていると思いました。人は人と人の間にいて、それもいろんな人の間にいて、そして周囲の人とのコミュニケーションが取れているか否かで人間として成長もし、不安も解消し、そして健やかに暮らすことができるのではないでしょうか。一人でしかいられない人、閉じこもっている人は成長もできず、不安も解消できず、そして健やかに暮らせないと言えるのではないでしょうか。

○『聴衆にいただくエネルギー』
 今日も中学3年生に1時間あまりの話をしてきました。真剣に聞いてくれている目を見ているとこの話はこころに響いているんだ。この話はちょっと外したかな。この表現はあの女の子にとってきつかったようだ。最初から最後まで本を読みながら無視しようとしていたあいつは本のページをめくっていないぞ。といった反応がひしひしと伝わってきます。最後には学校でいろいろと問題児だった子までが2つも質問をしてくれて先生方も喜んでいました。御礼の言葉で生徒代表の子の「知識だけではなく、ちゃんと意識して行動しなければならないことを学びました」という私の行間にもなかった言葉を感じる感性に何より私自身がエンパワーされました。
 生徒の皆さん、ありがとう。

◆CAIより今月のコラム

「たった一度の油断でも」

みなさんコンドーム正しく使えてますか?

 私はCAIに関わってきたおかげで、もう何年も前からセックスの際には必ずといっていいほど、岩室先生の「正しいコンドームのつけかた」の講義姿が脳裏に浮かび、その度にパートナーが装着しているのをいつも横目でチェックしてきました。
にも関わらず、この冬に避妊に失敗。妊娠。(しかも3ヶ月に入る前に流産してしまいました)

 「まさか私が・・・」と思うことの連発でした。
失敗したその時は二人とも残業で会ったのがすでに深夜。
ことにおよんだのは明け方近くで、私の興味は

「セックスをしながら相手にばれないように眠る方法」にあり、まさに実践中。

パートナーも疲れていて、コンドームの付け方が適当だったそうです。

 行為が終わった後、すぐに「避妊に失敗した可能性がある」と告げられました。長いつき合いの中でそんなことを初めて言われて驚いた私は、産婦人科に行き、事後ピルを処方してもらうか、妊娠していたら子供を産むか相談。私とパートナーとは数ヶ月後には結婚する予定なので、後者の選択したのですが、今では、こういう時はとりあえず産婦人科に行って妊娠回避をして貰った方が結果的に良いだろうと思っています。

 その後、結局子供は育たず流産の手術をしてしまいました。今はもう体調も戻り、今回の経験をふまえ、次の妊娠をいつにすればいいかパートナーとよく話し合っています。

 それにしても、たった一回避妊に手を抜いたことで、こんな大きな代償を産むとは。

セックスのリスクを痛感しています。
一度でも手を抜かないよう気をつけないと。

                               N.K