紳也特急 56号

〜今月のテーマ『感性と屁理屈?』〜

●『民間人になって』
○『蛇にピアス』
●『自分の青春時代』
○『常識とは』
●『常識と病気の狭間』
○『人が選ぶとき』
●『エイズは愛では防げない?』
○『性を語る貴重な題材』

◆CAIより今月のコラム
「去年の夏に再会した元彼からの贈り物?」

———————————————————————
●『民間人になって』
 民間人になってちょうど1年経ちました。講演会だけで180回を超え、地方自治体の計画づくりの支援、病院での診療、学会活動、ボランティア活動を思う存分させてもらったおかげで本当に暇なしという1年でした。では、成果はと言われても、飯島愛さんとのトークがHPに載ったことや、講演等で使っているパワーポイントが少し充実した程度の変化しかないのが少々寂しい感じです。ただ、雑用に追われることが少ないため、自分のアンテナを通して世の中の状況を今までよりは敏感にとらえられるようになった気もします。そんな中で特にびっくりしたのが今年の芥川賞作品の「蛇にピアス」でした。正直なところ「誰が読むの」と思っていたら、何と高校生たちが読んでいる。これじゃオジサンが説教じみた話をしても意味がないと思わされてしまいました。人の「性」に関する問題は「理屈」ではなく「感性」をとらえた問題として対処しなければならないのでしょうが、どうしてもへんな理屈(屁理屈?)をつけてしまいます。ということで今月のテーマは「感性と屁理屈?」としました。

「感性と屁理屈?」

○『蛇にピアス』
 皆さんは今年の芥川賞をとった金原ひとみさんの「蛇にピアス」を読みましたか。私はいわゆる賞物をほとんど読まないのですが、何となく読んでみようかと思って本屋に行ったら文芸春秋が売り切れていました。もう手に入らないのかと思って読書好きの家内に相談したら「芥川賞をとった本は本屋に平積みよ」とバカにされてしまいました。考えてみれば当然のことですが、知らないと恥をかきますね。
 飛行機の中であっという間に読破したのですが、予期せぬ内容に頭の中が○×△○×△○×△○×△になりました。さらに悪いことに、少し性に関わる仕事をしているのでどうも評論家的に「この本の内容は医学的におかしい」と思ってしまいました。しかし、この発想自体が今の若者の感覚、感性を理解していない証拠で、発想自体が古いのかもしれません。オジサンの発想、感性のまま性を語っていては思いを伝えることはできないですよね。

●『自分の青春時代』
 「蛇にピアス」を読んでから講演会で偉そうに「蛇にピアスを読んだ人はいますか」と聞いています。大人向けの講演会では「高校生の娘が読んでいたのを読んだ」という人が何人もいました。実際に高校で聞いたところ、図書館にある本が申し込み殺到でなかなか借りられない状況だそうです。
 この本に対する個人的な感想を一言で言えば現代版の「ポルノと暴力」であまり面白くはありませんでした。しかし、私も高校生の時に「小説」という名の下で「ポルノ」というか「刺激的な性描写」をむさぶり読んでいたのを思い出しました。映画で観た方は多いと思いますが、マーロンブランドが主演した「ゴッドファーザー」の原作を読んだことはありますか。帰国子女だった私はその原書を「愛読書」にしていました。映画では単なるベッドシーンとしか表現されない部分が、中学生だった私にはあまりにもリアルで、刺激的で、友達にも読んで聞かせたものでした。英語力を上達させるには性描写が多く含まれているものを副読本として導入するといいかもしれませんね(笑)。そしていつかは自分も同じようなセックスをしたい、するのかな、と思っていたように記憶しています。このように性を題材とした小説は古今東西常に新しいものが生まれ、それを参考に性について学習している若者はいつの時代にもいるものです。

○『常識とは』
 わたしがアダルトビデオに描かれている映像について若者たちに、「あんなセックスをしている大人はいないよ」と話しているのを書いた時に、「わたしはしています」と教えてくださった方が何人かいました。正直なところ「そういう人もいるだろう」とは思いつつ、その人たちは主流、マジョリティではないと私自身が自分に言い聞かせていたように思います。しかし、先日、ある高校で「蛇とピアス」の話題を取り上げると特に女の子の食いつきがすごいことに驚きました。
 ある人がこの小説は「純愛」だと言っていましたが、私はとてもそうは感じられない、というかそう感じる余裕がない私としてはオジサンの領域にしっかりと足を突っ込んでいるのでしょう。「常識」とは「common sense」と英訳されるように「一般人のセンス」であり、ある意味で多数は「常識」なのでしょう。しかし、常識は時代と共に変化し、時代の常識をリードしているのはやはり若い世代です。例えその常識が気に入らなくても事実を認めざるを得ません。

●『常識と病気の狭間』
 いろんな考え方、感じ方があっていいと思いますが、「性教育」を行うという立場で「蛇にピアス」を考えてみました。以下は特に気になった部分の引用です。
**********************************************************
「イッていい?」
 アマの苦しそうな声がだらしなく中を舞う。私はうっすら目を開けて、小さく頷いた。アマは引き抜くと、私の陰部に放出した。まただ・・・・・・。
「ちょっと、お腹に出してって言ってるじゃない」
「ごめん、ちょっとタイミングが・・・・・」
 アマは申し訳なさそうに言ってティッツシュを引き寄せた。アマはいつも私の性器に射精する。何が嫌って、毛がバリバリになる事。そのまま余韻に浸って寝てしまいたいのに、アマのせいでいつもシャワーを浴びる事になる。「お腹に出せないんだったらゴム使ってよ」
 アマは俯いてもう一度ごめん、と言った。
**********************************************************
 私は思わず「お腹に出せないんだったらゴム使ってよ」という膣外射精では避妊にならないばかりか性感染症だって危ないよ、と言いたくなりました。しかし、・・・・・・・・・・・・何となくわかる?
 少なくともこの主人公は小説の中で妊娠していません。同時進行で複数の人とセックスはしていたし、刺青をしていたのでいろんな感染症の可能性はあります。でもそのような感染症にかかったという描写はどこにもありません。結果的には彼女の身の上には何も健康問題が起こらなかったことを気にしているのはもしかしたら私くらいで、多くの読者、特に若い読者は自分の経験と重ね合わせてわたしも同じように「お腹に出して欲しい」と思った?????

○『人が選ぶとき』
 避妊、性感染症予防、という点ではこの小説は問題だらけです。しかし、「お腹に出さないで最初からゴム使ってよ」と言いなさいと思いながら読んでいる人は少ないでしょうね(笑)。セックスをする時、人はほんの少しだけ病気や妊娠のことを考えるでしょうが、今回は大丈夫、この人は大丈夫と考えて膣外射精やコンドームなしのセックスをしているはずです。というかセックスや相手の人に夢中になっていて他のことが考えられないのが人間なのかもしれません。
 アダルトビデオでセックスを学び、膣外射精のセックスを重ねる。でも妊娠していない人って大勢いると思います。少なくとも膣外射精は膣内射精よりは卵子を目指す精子の数が少なく妊娠の可能性は低いのは事実でしょう。さらに女性が妊娠しやすい時期は1ヶ月のうちせいぜい数日です。100人に1人は性感染症を持っているといっても99人は持っていません。日本でHIV感染症が増えているといっても感染している人は毎年1000人程度です。交通事故死は9000人。でも他人事。

●『エイズは愛では防げない?』
 話が少し飛びますが、私が講演会のコーディネートをしている北山翔子さんに「エイズは愛では防げない」というテーマで講演依頼が来ました。それに対して北山さんは次のように語っていました。
 『最近「愛」っていう言葉があまりにも軽くなってきたような気がして。きっと、私が伝えようとしていることと、みんなが感じていることって違うんだろうな‥と思っています。何も期待せずに、ただひたすらその人の幸せを願うことが「愛」かな‥と思うのですが。そのためには、全てを受け入れ、全てを許せることが大切なんだと思います。まず、自分を愛することが大事ですよね。
 損だとか得だとか、価値をお金に換算したりだとか、そんな価値観が横行している社会の中で、どれだけの人が人を愛せるのかな‥と思ったりしています。せめて、子どもたちには、世の中にはかけがえのないものがあるということを知ってもらいたいと思っています。私が伝えられるのは、そんなことだと思います。』
 一人一人の伝え方があるのでしょうね。北山さんが「神様がくれたHIV」というタイトルをつけたのはまさしく彼女とHIVの関係はこういうものだということを上手に著していると思います。その彼女に「愛」と「HIV」の関係を語ってもらうという発想に彼女がついていけなかったというのも何となくわかります。人は理屈ではなく感性を尊重した行動をとる傾向があります。愛は感性では語れても理屈では語れないものではないでしょうか。

○『性を語る貴重な題材』
 人がどう生きるか、どのようなセックスをするかは結局の所、その人が、あなたが決めることです。そこに「正しい」とか「こうあるべし」という理屈を持ち込むこと自体不遜だといつも自分に言い聞かせています。しかし、感情として、感性として受け入れられないものもあります。「蛇にピアス」に感動、共感する人がいてもいいと思いますが、一方で私のように「主人公のように膣外射精を繰り返していると、いずれ妊娠や性感染症に直面する可能性もあるけどそれを彼女はどう思っているのだろう」と屁理屈を言う人間がいてもいいのかな、必要かなと思い、性を語る上で貴重な題材として講演会で使わせていただいています。皆さんの感想をお聞きしたいですね。特に過激な性教育に反発している人は学校の図書室にこの本を置くことをどう思っているのでしょうか。何と言っても芥川賞作品ですから影響力は計り知れないでしょうが、人は許されなくても文学作品は許されるのでしょうか(笑)。

追伸:飯島愛さんと岩室紳也のトークがHPから見られるようになっています。
http://homepage2.nifty.com/iwamuro/aidsseikyoiku.htm
からご覧ください。

◆CAIより今月のコラム

「去年の夏に再会した元彼からの贈り物?」

 最近流行っている性感染症の1つでクラミジアっていう病気があるのはご存知ですよね?私も本やネットではよく目にして、CAIの活動の中でももちろん勉強することの1つです。
 そのクラミジアに友達が感染しました。友達のA子は、去年の夏に嘗ての彼氏であった男と再会し、ノリでエッチをしました。その時にコンドームをつけなかったとのことなので、私の勧めで産婦人科に行き、性感染症の検査をした結果、感染が判明しました。

検査の1週間後に検査結果を聞きに行くと、もらった検査結果表には、
「クラミジア(+)」との文字が・・・。
あまりにもショックで、何がなんだかわからなくなった彼女は、かなりパニック状態でした。クラミジアは性交渉から感染する病気だとわかっていたので、まずは過去の性交渉の歴史を辿ってみることにしました。

 その結果たどり着いたのは、“去年の夏に再会した元彼”1度きりのセックスだったので、それと断定することはちょっと難しいかな・・とも思いましたが、1度のセックスでも感染するのが性感染症です。セックスでなくて、オーラルセックスでも喉から感染する恐れもあるということを知り、鳥肌が立ちました。
 クラミジアは、抗生物質の服用で治る病気ではありますが、不妊症になるということもあるそうです。また、抗体ができあがると、なかなか完治しないという話も・・・。

A子は元彼にクラミジアの話をしたら、俺は関係ないの一点張り。
体を守るのは、結局自分自身なんですよね。
自分の体は自分で守るという意識を高く持って、Safer SEXを楽しみましょうね♪

                               W.N