紳也特急 70号

〜今月のテーマ『若者が求める性教育』〜

●『高校生の思い』』
○『岩室からの返事』
●『まるで岩室の差し金?』
○『自民党のシンポジウムや本に岩室が写真で登場』
●『ウソはいけません』
○『自民党よ、しっかりしてください』
●『否定ではなく共生を』

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●『高校生の思い』

 先日、次のメールをいただきました。ご本人の了解を得てご紹介させていただきます。

初めましてこんにちは。
 私は今埼玉県のとある学校で高校3年生をしている17歳の女子です。岩室先生のメールマガジンを毎回逐一細かく・・・とは言えませんが拝見させて頂いてます。これは岩室先生に尋ねることでは無いと思うのですが前からずっと思っていた疑問があるので先生から見てどう思っているのか聴いてみたいと思い、先生にメールをさせてもらいました。
 お聴きしたいことというのは今の日本の性教育についてです。私は以前にも(といっても結構最近ですが)とあるサイトのBBSで訊いたことがあるのですが私は今の日本の性教育は緩いと思うんです。といっても昔よりは良くなっているのかもしれませんが。他の国では性教育の際にコンドームも配布したりなど、最近の若者の異様な性の発達(?)に合わせてしているらしいのに何故、日本の学校ではそういうことを殆ど全くと言って良いほどしないのでしょうか?確かに保健の時間等で色々言ってくれる先生達もいます。が、その先生達でさえ間違ったことを教えることもあるようです。それにそこまで深くはやってくれないのが現実です。私はもっと徹底・・・というのも変かもですがもっと、ちゃんと日本でも性について教えるべきだと思うのです。ただでさえ今の日本の若者の初SEXの時期の平均は16.5歳くらいだと聞いています。でもその年齢の時までにどれだけの性教育がされているのでしょうか?避妊の仕方やSEXをしたことによって起こる事や・・・殆どと言って良いほど私にはされていない様に感じるのです。保健で習うとしたらただただお決まりのコンドームを正しく着けましょう。とかで勿論、それは良いことなのですが正しい着け方について教えることもなく言っているだけです。そんなので性教育と言えるのでしょうか?私は疑問なのです。
 私は昔観たドラマ等の影響でAIDSについてやSTDについて等、そこまで深くはないですが個人的に調べたりもしました。だから周りの同世代の人達より多少は知ってるつもりなのですが正直、驚かされました。周りの人達がいかに知らな過ぎかということに。生理中にやるSEXが安全なワケないですし、ましてや途中からコンドームを着けることや膣外射精で避妊が出来るわけでもない。今は思い出せませんがもっと根本的なこと等も知らな過ぎていて頭がクラクラしそうだったのを覚えています。そんな人達が無知式のSEXをしていると思うと恐くて仕方ありません。そういう所も考慮して日本はもっと性教育にも力を入れるべきではないのでしょうか?と思うのです。
 岩室先生にまるで愚痴の様に言ってしまいすみません。ですが実際先生はどう思われますか?もし、気が向いたらで良いのでご返事下さると光栄です。気が向かなかったり何だ、こりゃ。と思われたら別に返事は良いので・・・ ご多忙な中、こんな長文メールを送ってしまいすみません。そしてここまで読んで下さってありがとうございます。

○『岩室からの返事』
 貴重なメールありがとうございます。
 あなたの意見はごもっともだと思います。しかし、あなたのように思っていてもそのことを社会に対して発信する人はほとんどいません。私に送っていただいたメールをぜひとも新聞、それもメジャーなのに投稿しませんか。大人たちが考えている以上に日本の若者の性の現状は悲惨な状況になっています。それは単に性体験の年齢が低くなっているだけではなく、エイズをはじめとした性感染症や望まない妊娠の蔓延にみんなが他人事意識を持ってしまっていることだと思っています。さらには逆のセックスレスの問題といった人と人との関係性障害が性生活の中に影を落としているという現実もあります。
 しかし、残念ながら危機意識を持っている人は少なく、むしろ自分たちの都合がいいように性教育批判をしている人たちが幅を利かせています。若い人の視点で「大人たちよもっと責任を持て」と声を出していただけるとありがたいですね。

 読者の方からのメールほど励まされるものはありません。どんな理由にせよ「岩室にメールを書くなんて・・・」と思っている人がいたとしたらそれはとんでもない誤解です。一番メールを、コミュニケーションを待っているのが私だと思います。特に励ましのメールはうれしいですね。
 ということで今月のタイトルは「若者が求める性教育」としました。

『若者が求める性教育』

●『まるで岩室の差し金?』
 『保健で習うとしたらただただお決まりのコンドームを正しく着けましょう。とかで勿論、それは良いことなのですが正しい着け方について教えることもなく言っているだけです。そんなので性教育と言えるのでしょうか?私は疑問なのです。』
 先のメールで一番気に入ったところを改めて紹介しましたが、まるで岩室が後ろで操っている、というか女子高生を語って架空のメールを紹介しているともとれる内容です。スローガンだけでは「何が正しいの」と若者たちは思うのでしょうが、多くの大人たちは「そんなのは自然と覚えるもの」と勘違いしている事実があります。そして性教育バッシングの嵐が、なんと自民党の中で吹き荒れていました。

○『自民党のシンポジウムや本に岩室が写真で登場』
 先日、自民党で開催された「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」で私の写真が映し出されたというのを聞き、そこで参考資料として写真やイラストが抜粋された『新・国民の油断』「ジェンダーフリー教育」「過激な性教育」が日本を滅ぼす(西尾幹二、八木秀次著:PHP研究所)を私自身が早速購入してみました。
 読んで、というより開いてびっくり。確かにその本の129ページに「170センチの巨大ペニス模型を用いて講演する岩室紳也氏」と紹介された私の写真が出ています。ゲッ!!!!!ですよね。
 両著者の対談形式で書かれた中の一文を紹介します。
 八木 「思春期研究会」と言う小中高の養護教諭をメンバーとする全国組織があるのですが、そこにおかしな性教育が入り込んでいます。先ほど、名前の出た北村邦夫氏らが指導にあたっています。
 養護教諭は圧倒的に女性が多いのですが、彼女たちが子どもたちに性教育をするために手作り教材の製作を指導しています。川崎の小学校には「チャンピオン」と名づけられ百七十センチの巨大ペニスの模型がありますが、これもそこの指導で作られたものです。ここには岩室紳也氏という医者が関わっています。(一二九ページ参照)
 なお、PHP研究所には無断で写真を掲載した経緯と今後の出版社としての対応について申し入れているところです。

●『ウソはいけません』
 この写真を見れば某県(敢えて伏せます。これ以上喧嘩をしても意味がないので。でもそこは最近性感染症も望まない妊娠も明らかに減少しているんですよね。)の方は「うちが呼んだ時の写真だ」とすぐわかるでしょう。そしてこの巨大ペニスの模型は私を呼んでくださった方々が作ったもので、私がつくったものではありません。さらに私の記憶ではこの模型は他にも貸し出されたとは聞きましたが、少なくとも私が触っているのは川崎で作ったものではありません。
 そもそも私がコンドームの装着法の研究をするようになったのは、日本人に多い包茎の人に正確でより科学的、かつ安全なコンドームの装着法を伝えるためです。その過程で模型を作り、友人であり、私の患者でもあるHIV(+)のパトリックが「チャンピオン」と名づけてくれました。しかし、私の模型は小さく、広い会場で後ろの方の人は見えないから見えるようにということで私を呼んでくれた人たちが講演会の時に「こんなのをつくりました」と紹介してくれました。ちなみにその本に紹介された写真時の講演会参加者は大人で、専門的な視点からコンドームの重要性を学びたいということでした。(もっとも私は学校の体育館の後ろの方で見えない人はそれでよく、興味があればネットを検索してくれるのでいいと思っています)。

○『自民党よ、しっかりしてください』
 このように、私が書かれたところだけしかコメントしませんが、その部分はまったくの創作物語ですよね。私が手作り教材の製作を指導している事実もなければ、私が触っている写真は川崎の小学校のものでもなければ、「チャンピオン」という名でもないものが、まるで私の指導で作られたという全て誤った情報がお金をとって売られています。そのような本を題材に、自民党ともあろう政党が事実関係の確認もせずシンポジウムで使ったというのはあまりにも情けないですね。しっかりしてください。

●『否定ではなく共生を』
 私の話を聞き、コンドームの装着法も見て、それでも次のような感想をくれる女の子がいます。
 『私は恋人ができても、結婚するまで相手が望んでいようが、相手に嫌われようが、性行為はしたくありません。私は「自分を大切にしろ。自分の行動に責任を持って行動しろ。」といつも言っている両親を誇りに思っているからです。』
 現代のように誤った、欲情を煽るような情報があふれている中で、自分がどう生きたいかを言えるなんてすごいですよね。親ももちろんですが、多くの大人が自分の背中をもっと見せたいものです。若者たちはすごい能力をもっています。そのことが信じられないと結局は自分の勝手な思いを押付け合う、愛のない世界になってしまうと思いませんか。