紳也特急 69号

〜今月のテーマ『人と関わる難しさ』〜

●『岩室先生は困る!』
○『人に聞けないプライド?』
●『保護者機能』
○『周りが感じられない怖さ』
●『いいんだよ』
○『環境整備に医者はむかない?』
●『お知らせ』

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●『岩室先生は困る!』
 新聞記者の方から次のようなメールをいただきました。
 先日、私の地元の小児科医からこんな話を聞きました。「岩室先生は困る。岩室先生の講演を聴いて、若いお母さんが子ども(0歳〜2、3歳だと思います)の包皮を剥いて、出血させて外来に来る。無理に剥かなくていいのに・・・あんな話をしてもらっては困る」というような内容の話でした。
 私も岩室先生の講演を取材させていただいて、うちの息子に指導し、息子は3歳くらいでしたけど、今でもきちんと綺麗にムキムキ体操をやっています。やっぱり剥き方が大事で、一気にずぼっと剥いてしまうと大変ですよね。岩室先生は「ちょっとずつ」という話をされていたと思いますし、男の私もその辺の痛みは理解できるので、息子にはちょっとずつ、1ミリずつ、長いスパーンでやってました。
 ところが、講演というのはしっかり耳に残っていないことが多く、若いお母さんの中には断片的に聞いただけで、「1ミリずつ」というところがミソなのに、それが抜け落ちて、一気に剥いて、出血させてしまうケースもあるのではないかと思いました。そして、小児科に駆け込んで「岩室先生の講演で聴いて・・・」と言うわけです。母親は包皮を剥くときの痛みが分からないのは困ったものです。ぜひ講演では「1ミリずつ」を強調してくださるといいのではないかと思います。できれば、あの痛みが分かる父親がやるといいのですがね。母子家庭も多いですし・・・
 私の包茎に対する信念は「手術は絶対に要らない」、「むくと清潔が保たれる」、「むかなくてもいい」、「むくなら1ミリずつ」です。しかし、人は人の話を自分流に判断し、「絶対にむかないといけない」、「どうせやるなら一気に」という話に摩り替わっているんですね(笑い)。
 そこで今月のテーマは「人と関わる難しさ」としました。

○『人に聞けないプライド?』
 私のことに文句を言っていた小児科の先生も患者さんからのまた聞きではなく私に直接クレームを寄せられたらいいと思うのですが小児科医からのクレームはないですね。「あんなやつに言ってもどうせ聞く耳を持たないから」と思っておられるのだとしたら、それは大きな勘違いだけではなく、最近の世の中の動きにも関連する困った現象ではないでしょうか。
 とかくわれわれ医者というのは他人より社会的な評価を受けているためか「お医者様」という言葉がぴったり来るような人が少なくありません(笑)。一般の人が出来ない手術等は確かに「お医者様」しか出来ないのかもしれませんが、昔のように医学の中身を知り得なかった時代から、医学情報がインターネットからいくらでも入る時代になった今、お医者様の役割は目の前にいる患者や住民の知識、最新の医学情報、ちまたに流れているいろんな情報や治療法を一緒に考えながら整理してあげる役割に替わってきていると思います。私に「岩室先生の包茎指導はおかしい」と文句を言って言い負かされたら自分のプライドが許さないと思っているのか、あんな邪道な医者は無視するに限ると思われているのかわかりませんが、患者さんのことを考えればクレームのひとつを言ってもらいたいものです。そうすれば「岩室は一気に血だらけになるようにむけとは言っていなかったのをあなたが早とちりをしてやってしまったのではないの。情報はしっかり受け止めないといけないけど、それが難しいんだよね。また、こうやって岩室先生の真意を聞き逃していたと言われるとあなたも叱られているように思うかもしれないけど、人間ってそんなもんだから出血程度でよかったじゃない。子どもと向き合っているといろいろストレスもたまるだろうけど、丁寧に向き合うことで子どもが育つんだからお母さんがんばってね」という話になるのではないでしょうか。

●『保護者機能』
 そう考えながら自分のHPをリニューアルしなければと思ってアクセスしようとしたら自宅のデスクトップパソコンで「紳也’s HP」にアクセスできないことに気づきました。しかし、ノートパソコンだと大丈夫なので調べてみると、新しく入れたNorton Internet Securityにある「保護者機能」が働き、「性教育(上級)」というカテゴリに登録されているためにブロックされたことが判明しました。
 そこで「保護者」って何だろうと改めて考えてみました。先日、夜回り先生の水谷修さんと飲んだ時に「『失敗してもいいんだよ』と言ってくれる親も大人もいなくなってしまった」と嘆いてましたがその通りですよね。人は失敗する中からストレスを感じ、そしてそれをいろんな人に支えられながらストレスを乗り越える術を会得していきます。しかし、Norton Internet Securityにある「保護者機能」はまさしく現代版保護者の行動パターンそのものでした。親が見せたくないものを遮断するだけで、何故親が見せたくないのかをきちんと説明することはしないで「見なければいい」、「触れなければいい」、「勉強だけをしていればいい」。「コンドームを知ってセックスをしたくなったら大変」と思っているのは親だけで、「コンドームは面倒だから使わない」と望まない妊娠や性感染症のリスクを負っているのは「保護者機能」で情報を遮断された子どもたち???? 人はストレスから逃げられませんし、そのストレスとどう向き合えるかで人生の生き方が変わって来ます。本当の保護者はいずれ巣立っていく子どもに対してあらゆる場面を利用してストレスと向き合いながら、人と人との間に生きる人間としての「生きる力」をどうつけさせるかを求められているんでしょうね。それは親だけではなく、同じ空間に生きるすべての人がすべての人に対して責任を負っているはずです。

○『周りが感じられない怖さ』
 ところが最近は周りの人の存在を感じられない人がますます増えています。世の中便利になったもので、電子手帳にCDをコピーして電車で移動しながら音楽を聴いていた時にぞっとする恐怖体験をしました。イヤホンの性能もあり、自分が好きな音楽が流れる中で、周囲の喧騒がほとんどカットされた空間の中に私がいました。駅で電車を乗り換える時に、行き交う人がいることは視覚的にはとらえているのですが、その人の息遣いも、後ろから迫ってくる人の足音も何も聞こえません。若い女の子がキャアキャアいっているのを聞かずにすむ代わりに好きな音楽が流れているのでストレスを感じることがなかったかといえばそうではありませんでした。その環境がむしろすごく怖く感じました。

●『いいんだよ』
 話は飛びますが、先日起こった痛ましい尼崎の列車事故は多くの人に「命の大切さ」と「命のはかなさ」を実感させてくれました。しかし、何故このような事故が起こったのかという話になるとマスコミ報道ではJRの人事管理、過密ダイアに問題があったのではといった原因究明に走っていますが、本当の原因はわれわれが住んでいる社会そのものにあるのではないでしょうか。そう考えていたら、同じようにコメントしている犠牲者のご家族がいていたたまれないと同時にすごいメッセージだと思いました。
 HIVに感染している友人と話していて、次のような言葉が出てきました。

 往々にして、人は自分がされて嫌なことを人にしてしまい、
 自分もしそうなことを無意識のうちに「人権」といった総論で棚上げし、
 されてうれしいことは自分だけのものにしてしまうもの

 人はいろんな場面で失敗をするものですが、失敗を取り返そうとした時にそのことを誰かに責められると思うとつらくて非難される事態を避けようとしてしまいます。HIVに感染しているかもしれないと思っても、「そんなことをやっているから感染するんだ」というメッセージがあふれていると検査を受ける気にはなりません。しかし、周囲に感染している人が多くなってくると、他人事が自分事になり、誰にでもあり得ることだと思えたら、感染がわかっても「いいんだよ」とやさしく声をかけてくれ、「いま、一番大事なことはこれからをどう生きるかだ」と言ってくれる環境があると思えば検査だって受けようと思えるはずです。コンドームを使えなかったため検査を受けに来た人に、「人ってそんなもんですよ。今回の失敗はいいんだよ。でも、次は失敗しないようにどうしてそうなったのか、一人よりは二人の方が知恵も出るから一緒に考えようよ」となればいいし専門家でなくても自分の周りの環境の中に気楽に一緒に考えられる人との関係性があればいいのですがのですが、これが意外と難しい。

○『環境整備に医者はむかない?』
 では、社会が、人間が少しずつおかしくなっている今の状況、環境を誰が変えられるのでしょうか。「切れる」という言葉が流行語になっていますが、「子どもの心の診療に携わる専門の医師の養成に関する検討会」なるものができたと聞いて委員会の情報を見てみると、大学の医師をはじめとした専門家しかいないのにはがっかりさせられます。子どもの心の問題を解決するにはその子を医者にかけるのではなく、地域や家族の中でいろんなストレスにもまれる環境を整備しつつ、そこでの失敗や悔しさに押しつぶされるのではなく、それを乗り越えていく支援者がいる環境をどれだけ作れるかが課題です。しかし、公衆衛生の分野で盛んに言われているヘルスプロモーションの中で大事な環境整備を進めるには、医者や保健師といった専門職より、一般の住民のセンスの方がはるかに役立つことを多くの専門職が気づき始めています。しかし、そのことを言うと自分の立場がなくなってしまうと勘違いして黙ってはいないでしょうか。住民一人ひとりができるところから人づくり、地域づくりに関わっていかないと、明日はわが身ですよ。と言っても所詮すべての問題は「他人事」?????

●『お知らせ』
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立つ情報を入れているつもりです。まだ直すべきところ、追加しなけれならない
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