科学的根拠という正解の盲点

 インフルエンザのように抗体保有率が流行にどのような影響を及ぼすかがある程度解明されているものもあれば、新型コロナウイルスのように抗体保有率と流行の関係性がまだよくわかっていない感染症も多々あります。ところが最近「科学的根拠という正解」を残念ながら多くの人が掲げるようになり、結果として多くの人を苦しめているように思えてなりません。
 子宮頸がんを予防する上でHPVワクチンの有用性は否定されるものではありません。敢えてこのことを最初に書かせていただいたのは、HPVワクチン推進派の人たちは「岩室先生は推進派ですか、反対派ですか」と必ず突っ込んでくるからです。一方で反対派の人はこう書くと「岩室先生は推進派なのでもはやわれわれの考え方が理解できない人」とレッテルを貼られてしまいます。
 よく考えてみてください。

 子宮頸がんを予防する上でHPVワクチンの有用性は否定されるものではありません。

 ということは見方によれば「有用」とも言えますし、見方を変えれば「有用な側面と、副反応を含めて摂取したくない人がいるならそれもOK」ということです。でも副反応は心配で摂取したくないという思いの人が、「どうせ摂取しないならHPVに感染して子宮頸がんになるのを諦めなさい」ということでもありません。さらに言うと、確かに9価ワクチンはかなり効果がありますが、その効果は100%ではありません。メーカーのHPを丁寧に読めばシルガード9は前がん病変で10.6%、浸潤性子宮頸がんで6.4%に関与していません。すなわち、ワクチンを接種すれば100%子宮頸がんにならないとも言えず、摂取しても気をつけたいことは何かを伝える必要があるのですが、そのようなメッセージを聞いたことはありますか。
 私は子宮頸がんの原因になっているHPVが男性のペニスの亀頭部(もちろん指等もありますが)から感染していることを考えると、亀頭部にHPVが残存する可能性を提言する必要があるのではと言っているだけなのですが、残念ながらそこで「科学的根拠は」「エビデンスは」と言われてしまいます。
 そもそも論文として採用されるものには確かに科学的根拠、エビデンスが求められます。しかし、論文で次のことを証明するためにはどのような枠組みが必要でしょうか。HPV感染のリスクが高い性行為の一つとして「不特定多数との相手と性交渉をしている」ことがあげられています。ということは次のような組み合わせで検証をしないと科学的根拠、エビデンスを持ってペニスをごしごし洗うことの効果を証明することはできません。

 不特定多数の、ペニスをごしごし洗っている人とコンドームなしのセックスを人
 不特定多数の、ペニスを洗わないままの人とコンドームなしのセックスを人

 この2群に分けてどちらの方が将来的にHPV感染リスクが高く、かつ前がん病変、さらに子宮頸がんになるリスクが高いかを調べる必要があります。でも、皆さん、この研究に参加しますか。しませんよね。
 何を言いたいかというと、「科学的根拠」や「エビデンス」といった言葉を安易に使う人は、そもそも「科学的根拠」や「エビデンス」の限界を知らないで、それらを正解と思っていること自体が正解依存症ではないでしょうかということです。

基本を忘れた正解

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